絶許覗き魔 さーしーえー
おまたんたん(●´ω`●).*・゜
※挿し絵を一枚追加。
──むかぁし、むかし、ある、所に。
──金と、銀の、化け物が、おりました。
──それはそれは、恐ろしいバケモノで。
──ふたりは、互いを呪っておりました。
──自分の大切な人を、奪い去ったのが。
──そいつだと、思い込んでいたのです。
──でも、本当は、その、化け物こそが。
──お互いが愛した人、そのモノでした。
『 ──ギ・ギ・ギ・ギ・ギ・ギ ☼ 』
〘 ----- イ" リ" イ" ィィィイ ア" …… ☽ 〙
──ああ、会ってしまったね。
──けけけけけ。
「 ── 」
「 ……──えちゃん。お姉ちゃん。
────リビお姉ちゃんッッ!!! 」
「 ───はっ!!? 」
ジャバ──・・・!!
「リビお姉ちゃん……大丈夫?」
「……ぅわっ、え……?」
目覚めると、お湯の中にいた。
どうやら……夢を見ていたようだ。
小さな審議官が、
心配そうに、私を下から覗き込んでいる。
「……ん」
「もーぅ……ダメだよぅ? お風呂で寝ちゃあ!」
お湯に浸かっていない所の肌が、
ずいぶんと涼しく感じる。
温度差で……、一気に目が覚めた。
つい、この前まで敵だった歳下の女の子が、
そばで、キョトンと触れている。
ずいぶんと、安心する。
「……はぁ。お風呂で寝るなんて、初めてだわ」
「……、……こ、わい、夢だった……?」
「……えぇ。とても、ね」
「……」
──チポ、ちゃぽ──。
エコープルは、何か思う所があったのか、
私のそばで、じっとしていてくれた。
聖女だの審議官だの……、
服やら何やら脱いでしまえば、
実に、どうでもいいことだ。
む……。
少し……冷静になってきた。
自分より、ちっこい女の子で、
なーに、安心してんのよ……。
「──もぅ。なんで、あんな──」
お湯の中で、まだ、
ちょっと自信喪失ぎみの私に、
腕の中の彼女は、問いかける。
「……どんな、夢だったの?」
「えっ?」
「悪い夢はね? 人に言ったほうが、起こらなくなるんだって!」
「ん──…… 」
ん……ふふ。やれやれ。
どっちが、お姉さんか、
わからなくなるわね。
ずいぶんと可愛らしい事を言う彼女に、
少しだけ苦笑し。
私は、ポロッと、言ってしまう。
「金と、銀の、怪物が……世界を壊すまで殺し合う夢」
「……!」
──、いけない。
歳下に、なんつー事を、バカ正直に……。
お湯は、ほんの少し、ぬるくなっているようだ。
ずっと、浸かってられる温度の中。
エコープルは答える。
「……すっごい、うなされてた」
「そ、う……バカみたいね」
「……ううん。きっと、あなたが思ってるより、疲れていたんだよ」
「……」
この子……思ったより、
人を慰めるのが、上手いわ。
酸いも甘いも、経験しているからかも?
「ふふ、おませさんね……?」
「わ、わたしも、あなたも、まだ、子供だもん! それに──」
「それに?」
「わたしたちは……実物を、見てる」
「……、……」
──そう。
何が、恐ろしいって。
夢の中のカイブツは。
本当に……実在するのだ。
背にベッタリとつく、
濡れた自分の髪の感触を感じながら、
思い出す。
あの日。
あの姿になった、お姉様たちは。
こう言ったのだ。
互いを、見て────、
『『 テ キ ? 』』
────と。
「……ドニオスが、隠しているのは……利用されることを恐れているだけじゃないわ」
「……!」
エコープルは、
私から離れず、聞いた。
「たぶん、だけれど……暴走する危険性も含めて、ヒゲイド・ザッパーは、隠蔽してる……」
「……あのような事が、前にも……あったと?」
「……! それは……わからない。でも、最近に起こった出来事の中で、不可解な事は多い」
「……! 南の、火の玉や……北の、光の柱……」
「やっぱり、貴女……」
この子は、やはり相当、頭がいい。
まるで、大人みたいになる時がある。
私も……人並みには血反吐を吐いて勉強した。
……、……10歳で、これなら……、
かなり、無理な教育を施されてる。
でも、幸か不幸か……私の話を、
同じレベルで理解できるという事実。
つまり、それは……この子に、
"相談事"できるという事。
「……離れただけで理性が飛ぶなんて……呪術ギルド送りにされる事案よ。隷属紋章の副作用だとしても……ヘタしたら、使い捨ての人間兵器にだってできる」
「……。アンティお姉ちゃん達は、ヒゲイドさんは、いい人だって……」
「……んぅ。私も"荒くれ巨人"の時の噂だけしか、調べられなかったし……。ただ、今回、ヒゲイド・ザッパーが、お姉様たちを派遣してくれなかったら、本当に、ヤバかった……」
「誰も……あんなカニさんが来るなんて、想像、つかないよ……」
「はは、まったくだわ……。いま……今、思い返しても、夢みたい……」
「ほんとう、だね……」
ギガンティック級が、7……いや、8体、か。
ありえない……本当に、街の危機だった。
いや、ホールエルが陥落したら、次は……。
それを、足止めするプレミオムズたち。
そして……それを単騎討伐できる、お姉様たち……。
そんなチカラを持ったまま、
暴走、してしまうかもしれない事実。
本当の、脅威は──……。
……チャポ、たぷ、タプん。
「……ちゃんと、眠れてないの?」
「えっ?」
「だって……お風呂で寝ちゃうんだもん」
「ん、ぃや、たまたま、っていうか……」
「メイドさんがね? 遅くまで、調べ物してるって言ってた」
「も、モナリーのやつ……余計なことを……」
「なにを……調べてるの? せっかく、カニさんを倒したのに……そんなに、無理して急がなきゃいけないの?」
「ぁ……それは、その……」
どう、言ったものか。
できれば、隠した方が──。
「……秘密にしたいなら、聞かない」
「──…… 」
──────────────────────
▼ アミ・ミュステル について相談する
アミ・ミュステル について相談しない
──────────────────────
「……」
「……?」
お湯の中で、少しキツめに抱き寄せた。
「……!」
「ひみつ、守れる?」
「……いまさら」
エコープルは、そっと答えた。
「……数日前に、北東の森で魔人型が目撃された」
「──!!」
「お姉様たちが……討伐してる」
「王様、には……」
首を、小さく横に振る。
もう……こうなったら、報告できない。
「……わるい、聖女さまだね」
「貴女が、罰をくれる?」
「そんなこと、できないよ……」
これで……私たちは共犯者だ。
未曾有の危機を、国に、隠している。
「そいつがね……"アミ・ミュステル様"、と言ったの」
「言葉、まで……!」
「わかる?」
「……、……」
受け継がれてきた聖女の知識と、
審議局に秘められた資料。
そのふたつの間を埋めるような問い。
「……」
「……エコ?」
一度、揺れる水面を見て、
もう一度、私の目を見る。
「──"ミュステル"は、"共鳴術式"のこと」
「──!! 術式……!?」
「審議局は……古い術式を紐解いて、思考を無理やり共鳴させる術式を開発してた」
「思考を、共鳴……?」
「うん。洗脳のこと」
「……」
「でも、計画は28回目の実験で頓挫してる。局長は……その術式を再現する事に、失敗した。ぁ……元・局長……」
「……"再現"と言ったわね」
「うん。元になる古代魔法は、確かに存在する。私たちの初期の計画は、まず、要人の弱みを握る。それから、真偽を問う交渉の場を作る。その場で洗脳する、の三段階だった」
「……ターゲットは、もちろん」
「あなたと……マザー」
「……わるい、審議官だわ……」
「今は……あなたとマザーが、誰よりも味方のように感じてる」
「そうじゃなきゃ……困るわ。私たち三聖全員が……国家反逆者みたいなモンよ」
「そうだね。本当に」
「元になった術式の起源は?」
「だれも知らない。知ってる人は、みんな……」
「マザーが、悪意ごと吹っ飛ばした……。ああっ、くそ! あの女っ……!!」
「あそこまでとは、私も思わなかった……こわい」
「あぁ……やめて、また、思い出しそう」
「あの、その……」
「わかったわかった。ベッドに潜り込む許可を与えます」
「怖いことを、認めるって、大事なんだね……」
ヘタしてたら、今頃……この子と、
記憶喪失の姉と妹になってたかもしれない。
マザー、恐るべしったら……。
「で、でも、魔人は"様"付けで呼んでいたのよ? 本当に……"古代の共鳴術式"のことなの?」
「わ、わからない……。"ミュステル"は、私の知る限りは、そぅ。でも……"アミ"は全然、検討がつかない。それが、人の名前なのかも……?」
「いや、そりゃ……ナトリにはよく居そうな名前だけど……ううん……」
「……」
「フナッフナぁ〜〜♪♪」
「「……」」
チルテトが、プカプカ浮く洗面器の上で、
ずいぶんと、くつろいでいる。
「フナアアン……♡」
「……チイタハって、お水、平気なんだね……」
「今日は……大人しいわね。たまに湯船に飛び込んで、クロールするのよ」
「泳げるんだね……」
少し、気が抜けてしまった。
自動で火の魔石が動いたようで、
お湯の温度が、適温になってきている。
ずいぶん、ふたりで汗をかいてしまった。
「これ、飲みなさい」
「──!? お、お酒は、ちょっと……!」
「おバカ。ガス入りのアップルジュースよ!」
「が、ガス入り……??」
このチビッ子は、
古代術式の呼び方は知ってるのに、
炭酸飲料の呼び方は知らないみたいだ。
何とも、片寄った天才児だこと……!!
私も、透明のグラスを、かっこむ。
甘酸っぱさと共に、
氷の魔石で冷やされたシュワシュワが、
温まった身体を、通っていく。
ん、うまい・・・!!
「んーっ!? ん"ぅーッ!!」
「あはっは……♪」
おもしろい、顔だった。
ベチョヌレのネコモドキと共に、
女三人、お風呂から出る。
さて、もう一度、資料を見直さねば。
「からーい! ひどーい!!」
「からい? なにが……??」
「フナッ!」
──。
聖女専用の湯処の天井は高く──。
大理石の柱は、枝分かれする支えと共に、
大きな教会の屋根を支えている。
聖女たちが出ていった、その柱の一つに。
あってはならない、影が──ひとつ、ある。
(思ったより、仲良く、なれそうですねぇ……♪♪♪)
──男。
──エルフ。
──淡い色の髪。
──白いコート。
──大きなバッグ。
──黄緑のジグザグ模様。
──左手の、プレミオム・アーツ。
──飴のようなものを、舐めて──。
(しかし、参ったなァ……)
絶許、覗き魔。
許されざる、観察者。
今、盗み聞いた内容を、
心で、反芻する──。
(──"アミ・ミュステル"、だと……???)
そのエルフは、潜んでいる。
湯気の中、汗ひとつかかず。
騒音を、噛み殺しながら──。
( はぁ……アオカちゃんに、相談しないとなぁ )
「──よっと……!!!」
ユユユ・ミラーエイドは、
術式の切れた天窓から、外へと飛び出す。
教会の高い壁を、音もなく駆け下りる中。
その顔に浮かぶは──"憂鬱"であった。
((((((º言º))))))
G U I L T Y