表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
862/1216

金のウロコ さーしーえー

前話に挿し絵を追加(●´ω`●)





   / 

     /   /

      /      /

          /

  /     /      /

     /   /  /

   /   / /  /  /

         /

    /   /  /

     /

  /      /  /

     /





 ──雨が、降っている。



 夏の雷雲が、最後の抵抗をし。

 (おごそ)かな装飾の馬車は、

 ぬかるみへと(かたむ)いていた。


 その様子を、

 要人御用達(ごようたし)の中継所の窓から、

 銀の四ツ目の仮面の神官が、

 そっと──……、うかがっていた。



「……」



 ──ザァァァァァ────。


 ──キィ──……、バタンッ……!



 タンタン、タンと、足音がし。

 御者(ぎょしゃ)と護衛を()ねる神官ふたりが、

 彼女の部屋へとする、4回のノック。


 大司教は、入室の許可を与える。

 水の魔素の、においがした──。



「──も、申し訳ありません、マザー・レイズ様……。やはり、私達だけでは、あの車輪は持ち上がらなく……」

「あちら側の簡易詰所の冒険者たちに、助力を頼みます。もうしばらくの間だけ……しばし、お待ちを──」



 深々と礼をつくす、戦々恐々(せんせんきょうきょう)とする神官たちに。

 大司教は、穏やかに返礼する。

 



「頭を……下げずとも良い。私が無理に、馬車を出していただいたのだ。手数を……かける」


「もっ!」

「勿体なき、お言葉!」


「冒険者たちに、決して高圧的には頼むな」


「「 ──はっ! 」」



 すぐさま部屋を出ていった神官たちは、

 隣の廊下で、雨避(あまよ)けでも着なおしているのだろう。



「……恐ろしい噂を、よく耳にするお方だが……なんだ、お優しい方ではないか」

「しっ! 聞こえるぞ……何にせよ、お待たせするわけにはいかん。行こう──」



 ドアが開く音がし、雨の音が大きくなる。

 神官たちは、土砂降りの中を行く。


 それを、マザー・レイズは、

 動かず……見つめていた。


 窓の外は、灰色の世界。



 ──ザァァァァァ────。




「……」




 ──大きな使命が、終わった。


 唯一の、懸念材料が。

 ついに……滅んだのだ。


 全てを調べあげ、

 やっと……潰した。


 憎悪のひとつが、

 燃え尽きていた。



「……、……」




 ──ザァァァァァ────。




 もう、70年が経った。

 人の道を、外れてから。


 刹那に生まれた、ひと息に。

 彼女は染まる事ができない。


 仮面越しの世界は、

 どこまでも、灰色。


 雨音は、思考のみを動かす──。




「……」




 たったふたつだけ。

 持ち出す事のできた、

 タカラモノ。


 ひとつは、家族を持ち。

 あきらめていた、もうひとつも……、

 共に、生きていた。


 感無量、だ。

 当たり前の幸せが、息をしていた。



「……。後は……冒険者など、やめてくれれば──」



 ──わかる。

 あの子たちの目は、キラキラしていた。

 私には、まぶしい……不思議な目だ。


 あれを、壊してはいけない気がする。

 壊れかけた心でも、そう、思う。




「は……タチが悪いわ。どんな、邪悪よりも──」




 かつて、あの人と過ごした私も。

 あのような目を、したのだろうか。


 仮面で隠した、自分の色を。

 もう鮮明に、思い出せない。


 

「きひひ、まったく……。人の気も、知らないで──」



 彼女は、隠した。隠し続けた。

 壊れたように。憎悪をもって。


 だが……今、あの子たちは。

 誰もが欲する、タカラモノに、

 成ろうとしている。


 私だけの、タカラモノが。

 キラキラと、ケラケラと。

 世界を、ザワザワさせる。


 ────そんな、予感。



「──ふふ……! なんで、こーなるかなぁ……」



 葛藤(かっとう)と、嘲笑(ちょうしょう)が、あった。

 少し湧き上がる、神への殺意が。

 雨の鮮やかな音で、少しだけ……流されていく。


 窓に、ギィン、と。

 四ツ目の、ミスリルの仮面が、

 触れる。




「……怖さを。私の怖さを……誰か……ぬぐって……」




 ──ザァァァァァ────。



 悪を震え上がらせる、憎悪の大司教の。

 誰にも見せられぬ、弱さ。



「……この世に、神などいない。いて、たまるものか……!」



 呪いの言葉とは裏腹に、

 彼女の脳裏に浮かぶのは、

 最初に希望を教えた、彼の笑顔である。



「……」



 希望が(つい)えぬ事の、恐ろしさ。

 まだ、燃えている。

 消させは、せぬ。



「ははは……ははは。どこまでも、灰色だ……」



 よたよたと、あやつり人形のように、

 マザー・レイズは、後ろへと下がり、

 粗野な椅子に座った。


 思い出と、今だけが。

 彼女を、傀儡(くぐつ)のように、動かす。




「……大丈夫。まだ、私は……思い出せる。

 時は、止まっているんだもの」




 もう、一人娘よりも、

 若くなってしまっただろう。


 ゆっくりとは……進んでいる?

 だが……決定的に、止まっている。



 髪は遅く、爪は伸びず。

 肌は、凍りついたように艶やかである。



 彼女は、世界に、取り残されている──。




「……──」




 大司教は、(ふところ)から、

 ひとつの袋を、取り出した。


 それは、彼女が戦い続けるための、

 心の御守りのようなモノだ。


 かつて、取れてしまってから、

 あの子と共に、大きくなった。


 だが、もう……ずっと、このままだ。

 あの子も、死んでしまったのだろう。


 これが、取れてしまって。

 あの子は、怒れなくなってしまった。


 あの子の代わりに、彼女が、

 怒りを、使った──。




「ふふ、滑稽だわ……バカみたい」




 無地の袋から出した、

 手のひらより、少しだけ大きいソレは。


 ────"金色"。


 灰色の中、目を覚まさせるような、

 黄金である。




「いつ見ても──ほんとうに、綺麗ね……」





 思い出す。


 かつての、希望に浸かった日々を。


 彼と、自分と、この子がいた。


 まだ……笑顔に、なれる。





 もう、あなたには、会えないけれど。


 私は生きて────ここにいる。





「私、まだ……頑張れるわ」





 大司教は、金のウロコに、語りかける。


 いつも、幸せを願って。







挿絵(By みてみん)



「──そうでしょう? カンタ ──…… 」







 黄金龍の逆鱗は、


 守り続けている。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
ナユタとカンタ!2人(つ?)で......変態服屋直送しまーす!✨www( ゜∀゜)
[一言] 逆鱗が、ラ○ダーベルトに見えてしまったぞ。
[一言] 判らないことはまだ多いけど、黄金龍の鎧がアンティを害する事なく守っている理由が判った気がする。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ