舌じゅんび
少しずつ……胃に、プレッシャーを……
( ✧∀✧) ニヤリ……!
熊神:「ふむ……」
もちろん、"見返り"と言ったのは誘導だ。
おれは善にん……善熊じゃねぇ。
守る熊だという事は、たくさんの敵を、
真近で見続けてきた、って事だ。
悪意も、敵意も、
その、あしらい方も、知っている。
力はスゲェが、この二人は多分、
駆け引きとかは、苦手だと感じる。
ド直球タイプだ。
親父に似てる。
"隠してもらう"という立場だと誤認させれば。
恐らく、経験不足の頭は、
必要最低限の情報は吐くだろう。
非常に……打算的だ。
優しさってのは……心を動かすのに使う。
それは、善意と悪意の間で揺れる。
思いやりか、卑劣な詐欺師か。
おれは、熊の身で、その表裏を学んだ。
おれは、あんまり良い熊では無い。
それが、わかっていた方が、
心は腐りにくいし、善行はしやすい。
そうだろ? 親父……。
──んで、だ。
銀娘:「とりゃー!」
金娘:「いいわね、直径2メルくらい? そんだけありゃー、十分でしょ」
聖女:「ピカピカの……ピザ生地?」
幼官:「マイスナお姉ちゃん、すごい……」
熊神:「……」
……この子たち、何してんのかな?
熊神:「……なぁ。その、ぐるんぐるん回ってるピザ生地よぉ……なんかすっげぇ銀色に見えんだけどよぉ……食えんのか……?」
金娘:「えっ……これは食べませんよ?」
銀娘:「これ、液化ミスリル銀だよ?」
熊神:「は?」
おま、ミスリルがそんな……、
膜みたいになる訳、ねっだろッ……!?
銀娘:「そろそろ入れ物にするねー」
金娘:「ぉ、ん、お願ーい」
聖女:「……!」
幼官:「ぉ、おわんみたいになった!」
熊神:「……」
狂銀娘の頭上で回っていた銀色のピザ生地が、
かなりの薄さを保ったまま、
巨大な調理用のボウルのようになる。
まるで、手品じゃねぇか……。
鉄球を、胴で真横に斬り裂いたかのようだ。
マジかよ……とんでもねェぞ、コイツら。
──ぎぃぃひゅぅぅぅぅぃ──……ぃん!
銀娘:「かためた」
金娘:「いいわね」
熊神:「……なんだ、あれ」
銃侍:「ベア殿……なべ。たぶん……鍋でござるよ、アレ……」
ンなこたァ──わかっとるわィ!!!
ご指摘ザムライめぇ……クマなめんなよ!?
ぃ、いや、問題は……!
あんな真球、ぶった斬ったみたいな、
イミわからん精密度のミスリル銀の加工を、
しかも、あんな大きな物を、一瞬で、
だなぁ……!?
金娘:「ちょー、マイスナ! この鍋、フチが鋭利すぎるわ! なまら怖ぇ……ちょっとアブるわよ!」
銀娘:「んっ、よしきたー」
金娘:「クラウン、バーナー! 手のひらに突出!」
──ボッ!! ガチャン・・・!!
──ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!
ちょっ、クルルカン、おま。
絵本じゃ、おま……手ぇから炎とか、
出さねぇだろおおおがヨォォオオオ・・・!!
しかも、普通の炎魔法じゃねぇな……ッ!?
なんか……勢いがスゲッ……!!
──ゴォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
聖女:「……、……小さな炎なのに……音が、凄すぎる……」
幼官:「あ、あれ、炎なの……?」
萌殺:「うおぉー……マジ、意味わかんねぇな……。あンのクルルカン……手から噴き出した炎で、マジ、ミスリル溶かしてやがっぞ……。ヒナワ……マジなんか言ってやれよ……」
銃侍:「いや、それよりも……マイスナ殿が、ミスリルを加工した技術が圧倒的にマズいと思うのでござるが……」
萌殺:「マジ何、言ってんだ……あの発光マジ見ろよテメ……もう溶けてんぜ、天下のミスリル様がよぉ……。あのクルルカンはなぁ……マジで、あの熱に耐えながら、勇者の装備ぐらい……マジ・片手間で融解できんだぜ……?」
銃侍:「いやー味方で良かったでござるなー」
萌殺:「しかも、なんでマジ少しも魔力を感じねーんだ……!? マジどーなってんだ……!? あんな威力のマジ炎を、あんな小さく調整できんのかマジでマジでマジでわかんねマジでマジでイミフ(ブンブンブン)」
銃侍:「ははは、これこれ、マジカ殿。角付きの頭を振り回してはいかんぜよっ、うォっ、あっ、あぶなッッ!?」
白童:「わぁー……これは驚いたなァー……」
獣王:「が、ガオオオォォ……(ブルブル)」
クルルカンの嬢ちゃんの、
両手から出ている炎は、やがて止まり。
噴射口のようなパーツが、手のひらに、
ガシャリと入りやがる。
コイツのお手手は、マジックハンドだ……。
きっと魔物も料理してきたに違いねェ……。
金娘:「ぉーし、こんなもんかぁ。あ、持ち手いる? いるよね?」
銀娘:「溶接するより、フチに穴、二つ、あけちゃったほうが強度あがるよ」
金娘:「なるほどっ! アンタやっぱ頭いーわねー!」
クルルカンの指の先が……黄金に輝き出す。
──きゅいん。
──きゅぅいいいいいいいいいいいいんんん!!!
聖女:「ぇ……何あれ……回転……!!」
幼官:「ひ、火花が……!」
──ゥン──ッババババババババババババ!!!
妹乳:「あぁ……アンティの歯車の回転って……ミスリル銀、削れちゃうんですね……」
姉乳:「……王都の鍛冶屋のドワーフ共が見たら、酒でも吐くわよ……?」
聖女:「ちょ、お姉様──っ!!? ひばなっ!? 絨毯にッ引火しますから──っ!!」
幼官:「あれ、指の先……回転してるの……?」
室内で火の花を咲かせたクルルカンは、
「だいじょぶ、だいじょぶ」と言いながら。
確かに……火花は床の直前で、
まるで見えない壁に落ちたかのように、
不自然に光を失っていく。
──ィン、イン、イン……ィン……。
──キィん。
金娘:「──あいたわ。三つでよかった?」
銀娘:「──ん。私、天井から鎖で吊るから、アンティ加熱してー」
金娘:「よっしゃ。クラウン! だしのNo.2で調合して。うん、出せ出せ、ええから。空焚き・ダメ・ぜったい!」
──じょばばばどぽぉぉぉお────・・・!!!
聖女:「……ぅわ、宙の輪っかから……滝!?」
幼官:「っ!! ぃ、いいにおいがするよーっ!」
獣王:「が、ガオオオオオオオォォォ……!!?(º﹃º)」
白童:「……ははは、ゴウガさん、まだ飲んじゃダメですよ?」
金娘:「加熱するわ。マイスナ、お箸プリーズ」
銀娘:「よしきたー」
空間から剣が取り出された……。
確実に、ミスリルの剣だ。
それが……溶けてデカいお箸になった時の、
冒険者の気持ちを想像できっか?
熊神:「も……、もったいねぇぇぇ──……!!!」
姉乳:「……もしかして、このアイアン・ソードも……?」
おれが調理器具になった勇者級の武器に、
気をとらわれている間。
マジカは別の事に着目する。
どこ見てんだ。
ん……? デッかいミスリル銀の鍋の、
底────……?
萌殺:「ま、マジか、ちょっと待て……! な、なんだその鍋の底の歯車はよぉ!? 火か……!? これも、火が出てんのか!? その!! マジなんか!? 魔法じゃ……ないんか!? えぇ!? マジマジでぇぇ!?」
銃侍:「ま、マジカ殿、落ち着くでござる」
萌殺:「いや、ぉ、おお、マジ、落ち着いてられっかぁぁ……!? こ、こんなこと…………えっ、調節できんの?」
銃侍:「……からから。攻撃に転用したら、どこでもファイヤーでござるなぁ……」
魔術職から見ると、
この鍋底の炎は、マジヤバいらしい。
絵本の住人たちは、言い訳する。
金娘:「ま、マジカさん……!? そんな近くで見たら、アブないですからぁ……! ゃ、こ、これは、企業ヒミツ!! きぎょーヒミツですからっ!!」
銀娘:「なかに太陽が入ってるんだよ」
金娘:「──おぅいッッ……!!?」
……。
エコープルが、
歳相応のアホみたいな顔をしている。
聖女:「ちょっと……なんで光らないのよ……」
幼官:「わ…………、…………わかんなぃ……」
熊神:「……"太陽が入ってる"って、ナンだ?」
金娘:「ぁ、あ──知らない知らなぃ、私、何にも聞いてない……。ク、クラウン! ミソは今はやめとくわ、夏場で放置だったんでしょ……においが……え? 大丈夫なトコもある? うぅん……わかった仕分けしといて! とにかく一緒に茹でちゃダメよ! この量はゼッタイ臭い移るわ……」
熊神:「……あいつ、神様に雑用、押し付けてねぇか?」
姉乳:「この歯車から出てる炎……もしかして、食べ終わるまで持続できんの?」
あっ、これ、もしかして。
デカいカニに撃った光線と、大元いっしょか……。
そうかそうか……"切り分けて"使えんだな……。
金娘:「クラウンー。カニ脚にまぶした塩、熱湯で洗い落とすから、歯車で……そそ、床に、こぼれないようにね。絨毯、弁償すんのやーよ、高そうだし……。ん? ぅん、破棄破棄。しゃーない。臭い消しが目的だし、勿体ないけどね」
銀娘:「手伝うよー。持ち上げ────るっ!」
ほーっ。
カニさんの脚って、
こんなフワフワ、浮くんだなぁ。
白童:「……マイスナさん? その、空飛ぶ無数の銀のナイフは、どのような方法で巨大カニ脚を持ち上げているんです?」
銀娘:「磁力だよー」
金娘:「……ちょっ!? よっ、よけーな事いわないのっ!!」
妹乳:「剣を手で、わざわざ持たなくてもいいんですね……」
姉乳:「金属なら自由自在なの?」
ちょ、ちょっと待て!?
塩と熱湯でカニ洗ってんのは、
いいンだけどよ……それ、何処に入ってんだ!?
熊神:「な、なぁ……その廃棄する汁、ドバドバ歯車の輪っかに入れちまっていいのか!? その……中でベチャベチャになんじゃね!? なぁ、おい……!」
銃侍:「ベア殿……さっき言ってたでござる……仕分け、仕分け出来るんでござるよ……たぶん、中で」
熊神:「……マジか」
萌殺:「ちょっと……マジ前からチョクチョク思ってんだけど、ウチのセリフとんの、マジでやめねぇかクマてめ」
コイツら、ただの空間使いじゃねぇ……。
たぶん、伝説級のなんかだ……。
金娘:「お酒、何本ある? へ? 27本……? ……何で、そんなあんのよ。え? 私の胸に聞けって? ……ケンカ売ってる? いやいやいや……そ、そりゃ……出張所いく度に売店には寄るわよ? でも……そ、そんな……。へ? ローザのぶんと合わすと35本? いやいやいゃ……嘘ぉ」
銀娘:「んー。アンティこの前も言っても聞かなかったよ」
金娘:「だ、黙らっしゃー!」
幼官:「……リビお姉ちゃん、あれ、たぶん神様とモメてるよ……?」
聖女:「え? ちょっと待って? ヤバくない? 予想以上にヤバい、予想以上に底が見えない。隠すのキツくない?」
妹乳:「あ、アンティ! お金はもっと、計画的にですねぇ……」
姉乳:「え、お酒あんの……! んぅッ……!? そっ、それ、ナトリ酒の上物のヤツじゃない♪♪ そんなにある──え、ちょ……それ、どうすんの。まっ、え────……」
──ぶしゅぅうううううううあああ──!!!
クルルカンの取り出した6本の酒瓶から、
必殺技みたいに酒が出汁に撃たれた。
姉乳:「ぅ、うンぬ"わぁあ"あ"あ"ああああああああ──!!?」
妹乳:「あの、そんなに入れて……大丈夫ですの?」
銃侍:「……からから♪ よい香りぞ。これは期待できそうでござるなぁー♪」
萌殺:「マジ現実逃避すんなよ、カラカラ侍……」
熊神:「ヤバいぞ、もぅ、お腹いっぱいだァ……」
金娘:「ふん♪ ふん、ふふん♪ ふんふふ〜〜ん♪」
銀娘:「野菜ども、覚悟しろバラバラにしてやる」
≧[゜゜]≦ かにーっ!!