ねぐらはかたいなおおきいな?
「私の……部屋?」
「ギルマス、どういう事です……?」
私とキッティさんが、首を傾げる。
ヒゲイドさんが真っ直ぐこちらを見て、宣言した!
「はっきり言おう。お前の仕事は稼ぎにならんッ!」
「────ぐっふぅッ!」
「ギ、ギルマス……」
い、いきなり収入の心配をさせないでくださぃな……
盗賊のカッコしてるのに、稼ぎの事で落ち込むとは……
しくしく……。
「……だが、俺の管理している場所で、家賃を払わなくてもいい部屋に、一つ、心当たりがある」
「「えっ」」
そ、そんな、貧乏義賊に、ありがたい場所がッ!?
「!! ギ、ギルマス! まさか! あそこですか!」
「え、キッティさん、知ってる場所なの?」
「いや知ってというか、昔っから放置というか……いやあそこは不便ですよぉ……」
キッティさんが、明らかな難色を浮かべながら語る。
「女の子が1人で住めるような所じゃないです……」
「いや、ダメじゃないの……」
一応、女の子には分類してください?
「……アンティ。このギルドに入る時、目立つ"塔"のようなものが見えただろう」
え、急に話、飛んだわね……。
「"塔"ですか? あ! はい、見えたって言うか、このギルドの建物の真ん中に、だーん! と、建ってるやつですよね?」
昨日、このギルドに初めて来た時。
初めての盗賊仮装大賞で、とてもドキドキしていたが、それでも、その"塔"は、よく印象に残っている。
天を突くような、たかい、たかい、"塔"。
レンガで作られたような、四角い煙突みたいな。
周りに、高い建物はそれだけだから、余計に目立って見える。
砂色の外壁は、日の光で、白っぽく見えていた。
そう言えば、ギルドの受付の天窓から、よく見えていたわ。
「そうだ。すぐそこにある、あの塔の事だ。あれが何かわかるか?」
「いえ……すみません」
「謝る事ではない。あれはな、"龍見台"だったんだ」
「龍見台?」
聞いたことのない言葉だ。
"龍"って、伝説の魔物よね?
確か、ドラゴンの1種と考えられている……。
はぁ〜〜。
と、キッティさんがため息をつき、説明を引き継いでくれた。
「"龍見台"は、街を作っている最中に、魔物を警戒して、接近をいち早く観測するために作られた塔の事です」
「へぇ〜〜!」
「主に、街の外壁や、門が形成されるまでに用いられ、遠くから魔物が迫ってきたら、警鐘を鳴らしたり、避難を誘導する役割がありました」
「なるほど! とても大事な役目がある塔なのね!」
「"役目があった"が正しい。今のドニオスの街門と外壁は、サイクロプスが突っ込んでも壊れんよ……」
「"役たたずみ台"……今は、そう呼ばれているんです」
ひ、ひどすぎる……。
昔は人々を守るために建てられたのに……
それって、"ただ、役に立たずに、たたずんでいるだけ"ってイミでしょ……。
「塔ながら、哀れすぎる顛末に同情するわ……ていうか、何で壊されなかったんです?」
「あはは……」
「硬すぎて、壊せんのだ……」
「はぁ?」
どゆことやねん。
「……あの塔のレンガはな、もちろん土壌の粘土から焼き出して作ったそうだ。だがな、その土壌は、粉状のレアメタルが、めちゃんこ含まれていたそうでな……」
ヒゲイドさん……。
めちゃんこ、って言葉、使うんだ……。
「勿体ないにも程がある話なんだが、あのレンガ、ミスリルの剣でも、傷ひとつ入らん……」
「うわぁ……」
「焼く時の温度で気づくだろって、当時の人に言いたいですよね……」
ミスリルより硬いレンガって、そりゃアホみたいに頑丈な塔ができるわけね……。
あの白い塔、ドラゴンが乗っても大丈夫なんじゃ……。
「壊そうと思った時には、どーしようもなかったらしくてな……。この街の中心にあったし、ある意味シンボルだったワケだ」
「そこに、当時のギルマスが、ドニオスギルドを立ち上げたんですよ。昔のようで、結構、最近の話です」
「いや、でも私やキッティさんは生まれてないでしょう……。ふーん、じゃあ、塔は街を見守ってきたんじゃないの」
「ああ。なんだかんだ愛着を持っている者は多いな。でだ。当然、その塔のてっぺんには、当直用の部屋があるわけで……」
「あああ!!!」
その、塔のてっぺんの部屋が、まさか!
「あんな用済みの部屋は、義賊クルルカンの隠れ家にはもってこいだろう?」
「あんな……家具も何も運び込めない高い場所、どおぉしようもないと思いますけどねぇ……」
ちょっと。
人がワクワクしてんのに、
ケチつけないで下さいよ……。










