マザーブレイン・クッキング さーしーえー
あっ、連投です(・ω・ )。
「……」
「……にょん」
大司教と、ウサギであった。
教会の中の、夜遅くの客室で。
テーブルについた大司教の前に、
まんまるウサギがポツンと置かれている。
仮面ごしの表情は、まっこと無表情である。
勇者は、毛皮に冷や汗が通る感覚を得た。
1人と1匹。
タイマンである。
「じ────っ……」
「…………にょ、…………にょきっとぉぅ……」
うさ丸は、かしこいウサギさんである。
彼の記憶力は良く、
知能は成人男性並みであろう。
いや、何が言いたいかというと。
うさ丸は、この前マザーに、
"ぜったいに顔に飛びつくな"
と言われたのを、
しっかりと記憶していらっさる……、
と、いう点である。
「じ〜〜〜〜〜〜〜〜……」
「 に ょ き っ と 、 な…… 」
勇者は思う──これは、責められているのか?
そもそも、顔に飛びつくことは、
そんなに悪いことなのか……?
ううむ……。
他のヒトに飛びついた時は、
そんなに……嫌がられなかったけどな……??
そう、思っている、今も。
四ツ目のミスリルの瞳が、
勇者に惜しみないメンチを送っている。
怒って、いるのだろうか……。
うさ丸のクリクリお目目と、
恐るべき聴力を持つ肉厚おミミが、
可能な限りの情報を集めようと、
フル稼働で反応する。
「……………、……………ふむ……」
「にょ、にょんやぁいー……!」
──いや、謝ろう・・・!
うさ丸は、思った!
なんで顔に飛びついちゃいけないのか、
イマイチ、分かんないトコはあるけども!
イヤがってることをしたのは事実だし……、
何より、ちゃんと前に注意を受けている!
こ、ここは、ちゃんと謝って、
許してもらおう──!
「にょ、にょや!」
「ん?」
カクゴを決めたうさ丸は、
キッティのマネをすることにした!
赤いグローブを、お腹の前で重ね……、
小気味よい、お辞儀を実行する!
「にょ……。にょにょにょにょや、
にょんにょん、にょきっとなぁぁ……!(ぺこり)」
「……」
もし、"にょきっとマスター"が起動していたなら。
"この度は、誠に申し訳ございませんでした!"、と、
空中に表示されていたであろう!
てかオメー、字ィ書けんだから、
それ使えよ……!!
と、思わなくもない状況である!
「にょ、………にょきっとぅ……?」
「………………………」
うさ丸は、チラっ。
と、覗き見た。
マザー・レイズは、相も変わらず、ガン見である。
ずぅっと、頬杖をついている。
たれたウサ耳が、顔に近い。
うさ丸は、久しぶりにどうしていいか、
分からなくなった。。。
あれ、そういやカンクルとか何処いった。
頼むから、誰か助けてくれ。
「じ〜〜〜〜〜〜〜〜……」
「……にょ、にょんやぁ……」
うさ丸は誠心誠意を込めて謝ったつもりだが、
当のマザー・レイズは、かったるそうに、
机の上のうさ丸を観察しているだけである。
夜は、まだ深い。
月明かりの下で、
仮面の女性にガン見され続ける。
たとえ聖樹の勇者・うさ丸とて、
不安になると言うものである。
「にょ、にょきっと……?」
「………………」
──やがて。
マザー・レイズは腕を動かす。
うさ丸は、ビクっとしたが、
その場から動かないことにする。
「にょ、にょ……」
「 ── 」
す──……っ、と。
マザー・レイズは、手を流す。
言うならば──それは、"手刀"である。
うさ丸は、チョップされるのかと、
ドキドキしたが、何とか動かず、
プルプルと耐え──。
マザーの手は、トン、と。
うさ丸の、ぶっとい耳に接触した。
────次の瞬間。
「──ぶしゅううううううううう!!(声)」
「 ( ゜д゜) 」
案ずることなかれ。
声だけである。
マザーは、うさ丸の耳を斬るジェスチャーをし、
謎の効果音を口から発声する。
手刀は、撫でるように、うさ丸の耳を通り抜け、
その白く輝くお耳さんが、傷つくはずがない。
──だが、しかし。
「──ぶしゅぅうううううううう・・・!!(声)」
「 に ょ ・・・( ゜д゜) 」
二回目である。
マザーは、名状しがたい効果音を口ずさみながら、
うさ丸の耳を、スラッシュするジェスチャーを、
もう一回やった。
教会関係者が見たら、
「何やってんですか、マザーさん……」
と突っ込みたくなる現場である。
そんな命知らずは中々、少ないが。
謎のスラッシュ音を出すマザーの口は、
何ともいえないトンガリようである。
誰かにチューする瞬間に似ている。
ホントに何やってんだ、この人。
もう分かるように、悪ふざけである。
だが、妄想の中では──。
うさ丸のお耳は、
もっくそ、小気味よい輪切りにされていた──!!
「ズッパーン!!
きゅいー……! ペリリリリリリ……!!」
「 ( ゜д゜) 」
今夜のマザーは、止まらない・・・!
さらに、ジェスチャーを継続する・・・!
うさ丸は、妄想の中の世界を、
全ての感覚器官を以て、垣間見る……!
こ、こいつ……!
毛皮を剥いでやがる……!
耳の輪切りから、ペリペリと、
毛が生えた所を、剥がしていやがるのか……!?
何故か、マザーの熟練されたジェスチャーは、
そのシーンを、ウサギの勇者にすら理解させた。
「ぐーりぐり、ぐーりぐり!
ガンガンガンガンガンガン・・・!!
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・!!」
「 ( ゜д゜) 」
あっ、肉叩きである。
アンティ・クルルの調理を、
よく観察していたうさ丸は、
今、自分の耳肉が金属の器具でぶっ叩かれ、
胡椒がブッかけられた場面を、
想像することができた。
もちろん、これは現実ではない。
ウサギさんの目の前には、
パントマイムぶっこく仮面の女がいるだけである。
ああ、月の魔力か。
ヤンチャぶっこき続けるお茶目なマザーを、
いったい、誰が止めることができようか・・・!
「じゅーぅうううう〜〜〜〜!!
じゅばぁぁぁああああ〜〜〜〜ぶぶぶ!!
──カァーン! ぶっひゅ──っ・・・!!」
「 ( ゜д゜) 」
──うさ丸の想像力が、正しいのならば。
今、バターがとけたフライパンに、
自分の耳の輪切りが、
もっくそブチ込まれた。
「じゅぅぁううううう〜〜〜〜!!
じゃばぁあああああ〜〜〜〜!!
ひゅうびゃあああああああ・・・!!」
「 ( ゜д゜) 」
マザー・レイズの行う、
フライパンを振る左腕のジェスチャーは、
妙に様になっていて、想像力を掻き立てられる。
右手の形からして、
たぶん、透明のフライ返しも持っているのだろう……。
うさ丸は、口は半開きで、無言である。
高いウサ知能で、
何をやっているのかは……想像できるのだが。
何故、それをやられているかは……理解しがたい。
行動が、すべて理論だったものとは限らない。
なるほど──真理である。
「──ゴロンゴロン、ぶっひゅぷ──っ!!
たぴゅあぁお────っ!」
「 ( ゜д゜) 」
たぶん、野菜かなんかと合わせられた。
マザーは、脳汁ドバドバである。
おそらく、肉野菜炒めかなんかに違いない。
水分でフライパンの温度が下がる音と、
分厚いお肉が破裂する音まで、
我らが大司教は、聖なるお声で再現なされた──。
「じゅぅぅううわああああ──
──きゅ、ぶっしゅ──わわわ──!」
「 ( ゜д゜) 」
赤ワインですね。
「きゅっ、きゅっ! カポッ!」
「 ( ゜д゜) 」
岩塩ふって、フタした。
「──かパッ! じゅぅぅううわああああ……!!!」
「 ( ゜д゜) 」
嗚呼……!
フライパンのフタを開けた瞬間に……!
蒸発したバターの成分と共に舞う……!
塩胡椒とワインに引き立てられた……!
肉の旨みを含んだ、芳ばしい香り……!
もう一度……言っておくが。
これは、妄想の中での話である。
「ぎゅぅぁうう、じゅぅぅううわああああ……!!
こんこん、カンカンカン!」
「 ( ゜д゜) 」
マザーは、フライパンの横から、
余分な水分を飛ばす音まで再現している。
おちゃめな大司教さんである。
うさ丸は、
皿に盛り付けられる自分のステーキを想像した。
マザー・レイズは、
やってはならない一線を超えまくっている。
「へぃぉまち。今日のオススメ定食よ」
「 ( ゜д゜) 」
これほど声にならない、おママごとがあろうか。
うさ丸は、悲しくなった。
「にょんにょんやぁ……」
「……ごめんって。ちょっとした悪ふざけじゃない」
勇者は、大司教のひざの上で。
丸くなって、ふて寝することにした。
(●´ω`●)うん。