さいごのおさ さーしーえー
マザーのセリフを追加。
──審議局、副局長。
穏健派代表、" マー・ガーリン "は、
なかなか、パンチの効いた見た目である。
幼少期の彼女の あだ名は、
ドッスンメガネであった。
彼女は、もちろん幾度もダイエットに挑んだが、
その試みは全て、
大いなる意志によって打ち砕かれた。
大食なのではない。
ただ……体が、その形なのである。
学院時代はイジられまくり、
罵詈雑言フルボッコだった彼女なのだが、
何故か、近所の子ども達には、
超・人気であった。
理由は今も、よく分かっていない。
故に、素直な子ども達のお陰で、
なんだかんだ良心を捨てきれなかった彼女は、
神官の適性があった事もあり、
審議局に属する事となる。
そこで、彼女は。
子供達の、現実を知るのだった──。
「ここでは、子どもは、人じゃない……」
わがままで、げんきよく。
本当の子供を知る彼女こその、
カルチャーショック。
この子たちの能力で動く歴史が、
確かに……あるのだろう。
だが、彼女は分かっていた。
子どもは、キャッキャ、ケラケラ、
笑っているべきなのである。
子どもは、"道具"ではない。
くそ食らえだ。
審議局にて、彼女が唯一、
真の意味で、審議官たちを人扱いした。
彼女は、尽力した。
何とか、多くの重役を説得しようと、
待遇を……人権を、改善しようとしたのだ。
それは、ダイエットに似ていた。
ただ……生まれた時から、
そのような、カタチだったのだ。
幾度の絶望に打ちひしがれ、
彼女も、いつの間にか大人になった。
審議局長は、審議官を人と見ていなかったが、
彼女が居ると幼い道具たちの感情が和らぐため、
手元に置くこととする。
仕事など、与えられるはずも無い。
彼女は、マスコットとして添えられた。
だが、彼女は鍛錬を怠り、
堕落していた訳ではない。
類まれなる、"双連球使いの神官"として、
"お飾りの副局長"となった彼女の周りは、
まさに四面楚歌であった。
感覚の違う異常な者たち。
意識なき傲慢。毒の正義──。
絶望しながらも、彼女は尽力した。
ちょっとずつ……ちょっとずつ、
仲間を増やしたのである。
少しでも、幼き、運命の子どもたちを・・・!
この、無機質の地獄の中から、
救いだしてやろう、と──・・・!
だが、それは、
ダイエットのような、ことであった。
皆、"笑顔のお芝居"だけが、
うまく、なっていく────。
全てを、あきらめかけた時。
────あの大司教が、現れた。
「マザー……、レイズ……」
「 ❮⦿❮⦿❯ ❮⦿❯⦿❯ 」
目の前に、四ツ目の大司教が立った時。
マーは、自分が裁かれるのだ、と思った。
同志を募り、だが、惨めにも心折れて。
薬漬けの子ども達が、
からっぽの道具になるのを、
見過ごし続けた────……!
そんなドッスンメガネを、
国治しの大司教が、見逃すはずが無い。
マーは、運命を受け入れ。
うなだれるように、首を差し出す。
それを見た大司教は、こう言った──。
「 もし、子が人と見えぬ害悪が消え失せるなら。
お前は──全ての罪を背負う覚悟があるか? 」
マーは、震えるように頭を上げ、
「 ある 」と答えた。
「局長を……過激派たちを……殺す……のですか? わ……わ、たしに、できるでしょうか……」
「はやまるな。殺しはしない」
「……! では……どのように……!?」
「このジェムを使う」
「──!?」
大司教がマーに見せたのは、
紫に光る宝石の如きソレである。
「記憶を消し飛ばすジェムだ」
「バカっ、な……! メモリーロスト系の魔法は、只でさえ不可能と言われているのに……! それを、ジェムになど……!?」
「約2年前の、パートリッジの教会崩落事故を知っているか」
「……!!」
審議局は、隠蔽された事件・事故の資料を、
多数、秘密裏に保有していた。
お飾りとはいえ、副局長マーも、
当然、その内の一部には、目を通している。
「その時……多くの審議局の息のかかった研究者が、記憶を喪失して破滅している」
「なんと……!!」
「──"電撃"だ。マー・ガーリン。"電撃"系の魔法には、記憶を焼き切る力があると……その時、分かったのだ」
「──ッ!! "メンタル"系ではなく……"サンダー"系に、そのような効果が……!? 本当だとしたら、大発見だわ……っ」
「このジェムは、完全な威力で調整されている。身の程を知らぬ老害共は、これで、"老い先短い子ども"として、生まれ変わってもらう」
「い、いけません……。一部の者だけを幼児退行させても、他の者は警戒し、すぐに対策を取ります故……」
「全員にジェムを仕掛け、遠隔操作にて同時に発動させる」
「不可能だわ……」
「お前が全てに仕掛けろ、マー。発動は、私がする」
「ど、どのように……」
「この道具を使う」
マザー・レイズが、マーに見せたのは、
引き金のついた、手に収まるモノであった。
「……"銃"?」
「やはり、知っているか。おおかた、ナトリの古い勇者の文献でも保管してあるのだろうな」
「これで、起動を……? 殺傷の道具では……?」
「弾を射出する機構は無い。ある術式を介して、全てのトリップ・サンダージェムに作用する」
「ある、術式……?」
「終わりの時を……つげるモノ」
「──!! まさ、か……じ、じかん、ば──」
「──これを、お前に渡しておく」
ジャラジャラと音が鳴る、
麻の袋。
「……」
「全ての悪に、仕掛けろ」
「手段は」
「私が、お前の能力を調べないと思うか?」
「……」
そう──マー・ガーリンには。
この度の暗躍に、
相応しい、ユニーク・スキルがあったのである。
「……お願いが」
「なんだ」
「わたし自身にも、ジェムを仕掛けます。わたしも……罪を受け入れるべきだわ」
「許さん。お前には、全て終わった後に、大切な役目がある」
「!!」
「マーよ。罪を忘れぬ者だけが、次に進むことを許される。私の……持論だ」
「レイズ様……」
「恐らく。終わったとしても、子ども達の能力への需要は、すぐには収まらぬ」
「……」
「だが、愛を教える事はできる──だろう?」
「 っ、はいっ……! 」
上級審議員が持つ魔球は、
審議局のみに許される魔法の杖のようなものだ。
これは特別な魔導体であり、
これを双連で操れるのは、
マー・ガーリンだけである。
彼女のユニークスキル・マジックは、
練度は高いが、皆からは軽視された──。
"塗り付ける透明"。
彼女の魔力を塗りつけたモノは、
誰にも見えぬ、不可視のモノとなる。
ごく小さなものしか消せないが、
数は多く使え、彼女しか解除できない。
脂肪を消せなかった彼女が、
消したかったのは────、、。
「ああ、精霊王よ……。今ばかりは、わたしに御与えくださった力に、感謝と、贖罪を──」
彼女は、尽力した。
記憶を殺すジェムを、
老害共の魔球の金具の中に、
隠し続けたのである。
「これは、罪だ。わたしだけの、罪」
──その数、138。
愚かな審議員たちは、
魔球を、こぞって金属で装飾した。
マーは、あらゆる罪に踏み込みながら、
全てに、ジェムを仕掛けたのである。
「終わった……終わりました、マザー・レイズ……」
彼女の水晶球に、双連球から、
短くメッセージを送る。
「 ──"備えよ" 」
初めてマザーに会ってから、数ヶ月が経っていた。
月の綺麗な夜の手前に、
メッセージが、届く──。
「 "構えよ" 」
マーは、思う。
月に、思う。
「月よ……精霊王よ……。わたしの罪は、赦される事はないでしょう……ですが──……」
マーには、分かった。
マザーは、どこかで。
あの、銃に似た刃を。
笑顔で、構えている────。
「──どうか、その月光にて、
すべての子たちに、祝福を……!」
「
き ひ ひ ☆
ば ぁ あ あ ん ・・・ ! ♡
」
──この夜。
神の名において蔓延る害悪共が、
全て、施設送りになる事となる。
「 あぁ、精霊王……ヒューガノウン様の、名のもとに ── エイメア! 」
これが、後に審議局を解体する、
第45代目最終局長、マー・ガーリンの罪である。










