表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
843/1216

さいごのおさ さーしーえー

マザーのセリフを追加。




挿絵(By みてみん)



 ──審議局、副局長。


 穏健派(おんけんは)代表、" マー・ガーリン "は、

 なかなか、パンチの効いた見た目である。


 幼少期の彼女の あだ名は、

 ドッスンメガネであった。


 彼女は、もちろん幾度(いくたび)もダイエットに(いど)んだが、

 その試みは全て、

 大いなる意志によって打ち砕かれた。


 大食なのではない。

 ただ……体が、その形なのである。


 学院時代はイジられまくり、

 罵詈雑言(ばりぞうごん)フルボッコだった彼女なのだが、

 何故か、近所の子ども達には、

 超・人気であった。

 理由は今も、よく分かっていない。


 故に、素直な子ども達のお陰で、

 なんだかんだ良心を捨てきれなかった彼女は、

 神官の適性があった事もあり、

 審議局に属する事となる。




 そこで、彼女は。


 子供達の、現実を知るのだった──。




「ここでは、子どもは、人じゃない……」 




 わがままで、げんきよく。

 本当の子供を知る彼女こその、

 カルチャーショック。


 この子たちの能力で動く歴史が、

 確かに……あるのだろう。


 だが、彼女は分かっていた。

 子どもは、キャッキャ、ケラケラ、

 笑っているべきなのである。


 

 子どもは、"道具"ではない。


 くそ食らえだ。



 審議局にて、彼女が唯一、

 真の意味で、審議官たちを人扱いした。


 彼女は、尽力した。


 何とか、多くの重役を説得しようと、

 待遇を……人権を、改善しようとしたのだ。


 それは、ダイエットに似ていた。


 ただ……生まれた時から、

 そのような、カタチだったのだ。


 幾度の絶望に打ちひしがれ、

 彼女も、いつの間にか大人になった。


 審議局長は、審議官(こどもたち)を人と見ていなかったが、

 彼女が居ると幼い道具たちの感情が和らぐため、

 手元に置くこととする。


 仕事など、与えられるはずも無い。

 彼女は、マスコットとして添えられた。

 だが、彼女は鍛錬を怠り、

 堕落していた訳ではない。


 類まれなる、"双連球使いの神官"として、

 "お飾りの副局長"となった彼女の周りは、

 まさに四面楚歌であった。


 感覚の違う異常な者たち。

 意識なき傲慢(ごうまん)。毒の正義──。


 絶望しながらも、彼女は尽力した。

 ちょっとずつ……ちょっとずつ、

 仲間を増やしたのである。


 少しでも、幼き、運命の子どもたちを・・・!

 この、無機質の地獄の中から、

 救いだしてやろう、と──・・・!




 だが、それは、


 ダイエットのような、ことであった。


 皆、"笑顔のお芝居"だけが、


 うまく、なっていく────。








 全てを、あきらめかけた時。


 ────あの大司教が、現れた。










「マザー……、レイズ……」



「   ❮⦿❮⦿❯ ❮⦿❯⦿❯   」







 目の前に、四ツ目の大司教が立った時。

 

 マーは、自分が(さば)かれるのだ、と思った。


 同志を(つの)り、だが、(みじ)めにも心折れて。


 薬漬けの子ども達が、


 からっぽの道具になるのを、


 見過ごし続けた────……!




 そんなドッスンメガネを、


 国治しの大司教が、見逃すはずが無い。




 マーは、運命を受け入れ。


 うなだれるように、首を差し出す。




 それを見た大司教は、こう言った──。







「 もし、子が人と見えぬ害悪が消え失せるなら。

  お前は──全ての罪を背負う覚悟があるか? 」




 マーは、震えるように頭を上げ、

 「 ある 」と答えた。







「局長を……過激派たちを……殺す……のですか? わ……わ、たしに、できるでしょうか……」


「はやまるな。殺しはしない」


「……! では……どのように……!?」


「このジェムを使う」


「──!?」




 大司教がマーに見せたのは、


 紫に光る宝石の(ごと)きソレである。





「記憶を消し飛ばすジェムだ」


「バカっ、な……! メモリーロスト系の魔法は、只でさえ不可能と言われているのに……! それを、ジェムになど……!?」


「約2年前の、パートリッジの教会崩落事故を知っているか」


「……!!」




 審議局は、隠蔽された事件・事故の資料を、

 多数、秘密裏に保有していた。

 お飾りとはいえ、副局長マーも、

 当然、その内の一部には、目を通している。




「その時……多くの審議局の息のかかった研究者が、記憶を喪失して破滅している」


「なんと……!!」


「──"電撃"だ。マー・ガーリン。"電撃"系の魔法には、記憶を焼き切る力があると……その時、分かったのだ」


「──ッ!! "メンタル"系ではなく……"サンダー"系に、そのような効果が……!? 本当だとしたら、大発見だわ……っ」


「このジェムは、完全な威力で調整されている。身の程を知らぬ老害共は、これで、"老い先短い子ども"として、生まれ変わってもらう」


「い、いけません……。一部の者だけを幼児退行させても、他の者は警戒し、すぐに対策を取ります故……」


「全員にジェムを仕掛け、遠隔操作にて同時に発動させる」


「不可能だわ……」


「お前が全てに仕掛けろ、マー。発動は、私がする」


「ど、どのように……」


「この道具を使う」




 マザー・レイズが、マーに見せたのは、


 引き金のついた、手に収まるモノであった。




「……"銃"?」


「やはり、知っているか。おおかた、ナトリの古い勇者の文献でも保管してあるのだろうな」


「これで、起動を……? 殺傷の道具では……?」


「弾を射出する機構は無い。ある術式を介して、全てのトリップ・サンダージェムに作用する」


「ある、術式……?」


「終わりの時を……つげるモノ」


「──!! まさ、か……じ、じかん、ば──」


「──これを、お前に渡しておく」




 ジャラジャラと音が鳴る、

 麻の袋。




「……」


「全ての悪に、仕掛けろ」


「手段は」


「私が、お前の能力を調べないと思うか?」


「……」





 そう──マー・ガーリンには。


 この度の暗躍に、

 相応しい、ユニーク・スキルがあったのである。





「……お願いが」


「なんだ」


「わたし自身にも、ジェムを仕掛けます。わたしも……罪を受け入れるべきだわ」


「許さん。お前には、全て終わった後に、大切な役目がある」


「!!」


「マーよ。罪を忘れぬ者だけが、次に進むことを許される。私の……持論だ」


「レイズ様……」


「恐らく。終わったとしても、子ども達の能力への需要は、すぐには収まらぬ」


「……」


「だが、愛を教える事はできる──だろう?」


「 っ、はいっ……! 」





 上級審議員が持つ魔球は、

 審議局のみに許される魔法の杖のようなものだ。


 これは特別な魔導体であり、

 これを双連で操れるのは、

 マー・ガーリンだけである。


 彼女のユニークスキル・マジックは、

 練度は高いが、皆からは軽視された──。




 "塗り付ける透明(マーガリン・クリア)"。




 彼女の魔力を塗りつけたモノは、

 誰にも見えぬ、不可視のモノとなる。


 ごく小さなものしか消せないが、

 数は多く使え、彼女しか解除できない。


 脂肪を消せなかった彼女が、

 消したかったのは────、、。




「ああ、精霊王よ……。今ばかりは、わたしに御与えくださった力に、感謝と、贖罪を──」




 彼女は、尽力した。


 記憶を殺すジェムを、


 老害共の魔球の金具の中に、


 隠し続けたのである。




「これは、罪だ。わたしだけの、罪」




 ──その数、138。


 愚かな審議員たちは、

 魔球を、こぞって金属で装飾した。


 マーは、あらゆる罪に踏み込みながら、

 全てに、ジェムを仕掛けたのである。




「終わった……終わりました、マザー・レイズ……」




 彼女の水晶球に、双連球から、

 短くメッセージを送る。




「   ──"備えよ"    」




 初めてマザーに会ってから、数ヶ月が経っていた。








 月の綺麗な夜の手前に、


 メッセージが、届く──。





「   "構えよ"   」





 マーは、思う。

 月に、思う。





「月よ……精霊王よ……。わたしの罪は、赦される事はないでしょう……ですが──……」





 マーには、分かった。


 マザーは、どこかで。


 あの、銃に似た(やいば)を。


 笑顔で、構えている────。






「──どうか、その月光にて、

   すべての子たちに、祝福を……!」











   き ひ ひ ☆

 

   ば ぁ あ あ ん ・・・ ! ♡

                      」











 ──この夜。


 神の名において蔓延(はびこ)害悪(がいあく)共が、


 全て、施設送りになる事となる。








「 あぁ、精霊王……ヒューガノウン様の、名のもとに ── エイメア! 」











 これが、(のち)に審議局を解体する、


 第45代目最終局長、マー・ガーリンの罪である。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
優しさだけでは救えない 甘いだけでは優しさ足りえない 苦味を嫌うのと、拒絶するのとではまた別ってヤツですww大人ってタァイヘェン!!www(ノ´∀`*)酸いも甘いもがぶ飲みだぜぇぇぇぇ!!!✨
[良い点] 害悪を根絶! [気になる点] これってマザーがリビエコと会った晩の数カ月前からマーさん動かしてこの晩に実行したって事ですか? エコちゃんがアンマイの秘密に辿り着くことを想定していたなら、マ…
[一言] 「パンチの効いた見た目」に思わず笑いましたが••• ••••••マーさん、アンタ立派だよ••• 心の底からそう思います。むしろ、マーさんが居たからこそマザー•レイズもこれだけ大胆な手を打…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ