聖女たちの夜
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「はぁ……何なのよ、あのカニは……」
「聖女さま、待って……」
長ったらしい、教会の廊下を歩く。
激動の一日が、やっと終わった気がする……。
──神と魔王が消えてから。
皆は、それぞれ解散となった。
今は……もう夜だ。
ああ、変な時間に寝たから、
時間の感覚が変になってる。
「……" あなたは、老衰で死ぬことになるわ "、か……」
「っ! ……夕方の……魔王様の言葉、だね?」
「ふふ、笑えるわよね? 私に言ったのよ? ふふふ……」
魔王と名乗った、紫色の魔族の女性。
服の間から見えた身体中のタトゥーには、
実は少し、気圧されたが。
対応は……実に淑女的だったと言えた。
彼女は叱られていた、おっぱい姉妹達を庇い、
私に……敵意は無いと伝えてきたのだ。
そして、お願いをされた。
"秘密を守ってほしい"と──。
「……"勇者"。……"巫女"。……そして、まるで"聖女"だわ……。あの御二人は……私なんかより……ずっと──」
「……──」
印象的な言葉を、私は、頭で反芻する──。
{{ ふつーの女の子なのよ、この子たちは……。運命に、片足ずつ、突っ込んじゃった、ね── }}
『────彼女たちの平穏を守るために☼
────私たちは……:
────この子たちを英雄にはしたくない☼』
目的は、ひとつだけだった。
「──"だから、お願いします"、か──」
「……うん。そう、言ってた、ね……」
──"秘密を守れ"。
初めて会った神が、私につげた願い。
正直……悩んでいる。
神としゃべれる存在。
魔王とお友達の存在。
英霊を召喚する存在。
無敵の力を持つ二人。
あんな、あんな力を……。
私は……王に黙っていて、よいのか?
「……」
「……聖女、さま?」
夕方の会合から、夜になるまで。
私はギルドマスターとして、
少しだけ公務をするために、
教会にある執務室に行っていた。
しまった……そういえば、
お風呂に入るのを、すっかり忘れている。
「……あんたも、なんで付いてくるのよ」
「え!? だ、だって……」
「あ、いや……。べつに、煙たがって言ってるんじゃないのよ……? ただ、ちゃんと休んだほうがいいわ……そうでしょう?」
「うん……」
幼い審議官は、なんでだろうか、
私が少しだけ公務をする間も、
ずっと、そばにいた。
モナリーの出した紅茶とクッキーを、
モサモサと食べていたわ。
この子も、お風呂に入りそびれているはずだ。
まぁ、公務と言っても、
何故か、教会の前に山積みになっていた、
黒魔術の儀式みたいなカニの残骸を集めさせて、
「氷の魔石と一緒に、ぶち込んどきなさいっっ!!」
と、叫んできただけだが。
一応、寝たは寝たのだが、
身体は……ギシギシと言っている。
あぁ……これ、多分筋肉痛よね。
子供の身体って、これだからイヤ。
この子は、大丈夫なんだろうか。
「……あなた、やっぱりプレミオムズの誰かと一緒に宿にいた方がいいわ。これさ、イヤミで言ってるんじゃ、ないからね……?」
「うん……」
「……なによぅ」
ぱっとしない、暗い返事。
エコープル・デラ・べリタは、
とても、元気がない様に見える。
つい、一日前までは。
こいつを生涯の敵の一人だと思っていた。
でも……同郷だと確信を得て。
私は、どうも……情を捨て去る事が、できない。
「……。故郷の話は必ず、するわ。これは……絶対の、約束よ。だから、今は……」
「うん……」
なぜ、この子は私のそばを離れないのだろうか?
だって、プレミオムズのほうが仲、
いいはずでしょう?
なのに────……。
「──審議局に……」
「……ぇ?」
「審議局に、帰りたくない……」
「 ─… 」
この言葉は、私の最大の同情を引き起こした。
「 ……、ぅ…… 」
「……、……」
言葉がでないってのは、久しぶりだった。
私は……、歩くのを止めて……、
暗い、月明かりの廊下に、しゃがみ込み、
何か……励ますような言葉を……、
言葉は──何も出てこない。
「……、、……っ、……」
「……」
「……、……。審議局って、ひどい……所なの……?」
「!」
少し、優しく質問をして。
私には、そうする事しか、できなかった。
「……穏健派の人たちは……本当に、いい人なの。その、別に……審議官という制度を無くしてもいいと思ってる」
「……! それは……凄いわね。簡単に言えるもんじゃないわ……」
「うん……でも、だから、過激派の人たちとは、本当に仲が悪くて、とってもギスギスしてる……。その、ほら……私たちの村を壊したのは、多分……」
「……」
私と、この子の故郷を焼いたのは、
恐らく……審議局の過激派だ。
聖女の出身の地で、似た血脈の子供をさらい、
優秀な審議官として育てあげ、
聖女の権力を揺るがす駒へと仕立てあげる。
優秀な人材を全て集めた後で、
村は、証拠隠滅のために……消された。
この子の話通りなら、
多分……穏健派は、それを調べあげている。
「……私の、せいだと思う」
「……! それは……違うわよ」
「……?」
「あなたと……私のせいよ」
「……っ! ……ぅん……」
この子は……昨日、起こった全てを。
局に……隠し通すつもりだ。
よく──それがわかった。
今、この子は、自分の意思で動いている。
つい先日までは、この子も、
私を生涯の敵だと思っていたのだ。
でも──今は。
私に……助けを求めている・・・!
「……あなたを、ここへ匿えば──審議局の一部のアホ共は、" 局随一の審議官を拘留するなど、聖女はとうとう強硬策にでた! "とかなんとか、ほざきたてるでしょうね──」
「ぅん……」
「……。……ねぇ、教えて? どういう所が、あそこは……怖いの?」
「……!」
私は、とうとう格好の良い言葉をあきらめ、
ただ、聞いてやる事にした。
エコープルは、そっと、話し出す。
「……ずっと、ケンカしてるのも、イヤだけど……局長の周りの人たちは、私たちを……心から、モノだと思ってる」
「……」
「暴力は……ないの。大切な、モノとして扱われる。それが……とても、どこまでも、嘘がないの。心から……大切な、"モノ"なの。私たちは、"財産"なの。愛の形が違うのに……全てが真実なの。だから、とっても……歪んでる」
「……、……」
「褒める時は全て、" いい出来だね "と言われる。そして……手段は選ばれない。私たちは、"何をしてもいい"、と教えられる……」
「……」
「あれは、心が、間違ってる……」
嘘と、真実を見抜く、
審議官だからこその、恐怖。
道具を慈しむ歪みを、
嘘だと願えない場所。
素直に……むごいと思った。
「……」
「あそこ、に……もう、居たくない」
気づけば、私は廊下に、
ぺたん、とお尻を付けて、座っていた。
素直な言葉しか、しゃべれなかった。
「……少しだけ、時間はある」
「……?」
「あなたは今……"夏休み中"、なんでしょう?」
「っ!」
幼い審議官と、目線が合う。
「その間は……この教会に居るといいわ。何か……何か、考えましょう。難クセでも何でも、あなたが……局に居なくていい理由を」
「……!! で、でも、いいの……?」
「自分で頼んどいて……いいもへったくれも、ないでしょう?」
「で、でも……」
「聖女は、頼られた者を見捨てないわ」
「!」
「覚えておきなさい」
「……っ、うんっ……!」
真偽球は、一度も光ることは無い。
ここには……真実しか無かった。
笑顔が戻り、私はまた、悩むことになる。
優しい魔王よりも、
厄介な事が、この世には、たくさんあるのだ──。
「ほら、きなさい。クッキーだけだと、身体に悪いわ?」
「むっ……聖女さまだって、あんまり、ご飯食べてないよぅ?」
「それはぁ──……そうだけど」
「私と聖女さま、みっつしか、歳、変わらないんだよぅ!」
「わ、わかったわかった。ちゃんと食べますから──あ、その前に、お風呂、入りたいわね……」
「あ、え、エコも……」
「……今なら、まだ湯は温かい、か……」
「エコも、入っていい?」
「あなた、自分のこと、エコって言うの?」
「む──っ!」
やれやれ。
奇妙なことに、なってしまった。
どうも、私たちは仲良くなれるらしい。
味気ない教会の廊下を、ふたりで進む。
さて……色々と。
考えねば、いけなくなった。
でも……そうね。
頭を、フル回転する前に、
わずかばかりの、息抜きを────。
「……ねぇ、ちょっとだけ、さっきのソファだらけの部屋に寄っていい?」
「うん?」
「お姉様たちの様子を……見ておきたいの」
「! そうだね……まだ、眠ってたもんね……」
神さまの言う通りなら、
お姉様方が目を覚ますまで、
そんなには、かからないとの事だ。
でも……もう、丸一日以上、
あの御二方は眠っている。
まだだとは思うが、姿は見たかった。
その……重なって眠る御二人は、
超、美しい……。
「えへへ……」
「聖女さま、笑ってる……」
「え!? いや、何でもないわよ!」
「んー?」
「も、もしかしたら、起きてるかもしれないでしょう?」
「! うんっ!」
ふ、お子ちゃまには、
まだ理解できない領域でしょうね……!
とまあ、ぶっちゃけ趣味も無きにしも非ずだが、
お姉様方のことは、普通に心配である。
「お目覚めになってれば、いいのだけれど……」
「あのふたり、凄い美人さんだったね!」
「あら……あなたも、そう思う?」
「うん! 仮面がないと、凄い男の人が寄ってきそう!」
「うへぇ……確かにそうかも」
そんな事を話しながら、
主人公の御二人が休む部屋に、
私たちは行く。
夜は、とても優しく。
今だけは、私たちの心を、穏やかにする。
「あの」
「……? なによ」
「手、繋いでも、いい?」
「? あ、暗いものね」
「こ、こわくないよ!」
「いや、それ自爆だから。ふふふ……」
「ぅ、うぅーっ」
やれやれ、本当に、おかしい事になった。
部屋には、すぐに、ついた。
ノックを、しようか迷う。
手をあげて──やめた。
「……いっか」
「いいの……?」
女ばかりだし、
それに……ゆっくり、休んでほしいのだ。
眠っていたら、
少しだけ見とれて、
すぐに、出ていけばいい。
「しずかにね」
「うんっ」
そっと、ドアを開ける。
「──」
「──」
……。
「「 ・・・ !? 」」
── だ れ だ 、こ い つ は ッッ !!?
──即座に恐怖が満ちる。
──有り得ない。
ベッドで眠る、ふたりの少女。
そばに、立ち。
だれかが、見下ろしている。
背を、丸めて。
「 あ……ぁ 」
「 ひ……ッ 」
これほど、心臓に悪いことなど、ない。
まずい。
杖が、ない。
なにも、ない。
ふるえ、が……。
「 だ…… 」
「 れ…… 」
「……」
月光は、侵入者の姿を、照らす。
あ。
気づいた。
気づいて、しまう。
ざけんな。
なんで、居るんだ。
「そんな、はずッ……なぃ……ッ、どうやって……!? どこっ、から……!? 教会の夜の防壁は、完璧なのに……!」
「ぁ、ぁあ……っ!?」
エコープルも、気づく。
いや……気づかない、はずがない。
だって、私たちが。
いちばん、よく、知っている。
この人を──。
" 四ツ目の、銀の仮面 "を────。
「 ひ、ひぃぃ……! 」
「 何故、ここに……! いる……の……っ!! 」
震えは、おさまってはくれない。
私は、声を張り上げる──。
「
大司教……!!
マザー・レイズ っっ・・・!!
」
「 ──…… 」
"貴族殺し"の神官は、
私たちを無視するように。
眠る乙女たちを、見続けていた────。
((((;゜Д゜))))き、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!