世界で一つだけのカード さーしーえー
「え! これですか?」
「はい、これです!」
思ってたより、ちっちゃい。
ずいぶん、細長い。
いっぱい、穴、空いてる。
「これが、ギルドカード?」
「だから、そうですってば」
思わず、キッティさんに確認しちゃいました。
「あ、ユニークモチーフでてますね! レアですよ〜〜」
「え、ユニーク、もちーふ?」
キッティさんが、私のギルドカードの穴の、太陽みたいな模様の所を指さして、言う。
「ギルドカード作成時には、カード自身に、個々の能力を象徴するマークが出る事があります。アンティさんの場合は、これですね」
「……なるほど」
ぜっったい、歯車だね。
こんな所にも現れたよ。
「まぁ、その……ランクはその、ですけど」
「いや、そんな気を使わないで。わかっててやったから」
「はぃ……」
くすんだ、ちょっと古くさい金属の、打ちっぱなしのギルドカード。
これから、長い付き合いになる、世界で一つだけの、私のカードだ。
"アンティ・クルル" "郵送配達職"
"G"と刻まれた、金属のカードに、私の"これからの名前"と、"職業"が、パンチングされている。
穴を空けて作るとは知らなかったな……。
「"郵送配達職"は、配達職の中で、中分類クラスになります。ホントは後の職種変更が面倒なので、職は大分類クラスを入れるのが普通ですが、アンティさんは、"お手紙"に愛着があるようなので、中分類で抜いちゃいました!」
「……ありがとう、キッティさん」
「いえいえ!」
ギルドの受付嬢となると、気づかいが流石ね!
相手の気持ちになって考えてくれてるわ!
これ……いいじゃない。
"郵送配達職"。
もう、ブチ抜いてあるんだもの!
"決意"が鈍らないわ!!
それに、ちょっとアンティークだけど、このカード、綺麗よ。
光を反射したら、鈍い金色にも見えるわ。
おあつらえ向きじゃない!
まったく、私にピッタリのカードだわ!
「気に入ったみたいで、よかったです!」
「ええ、とても!」
キッティさんと、微笑みあう。
「あ、そう言えば、アンティさんは、アイテムバッグは持っていますか?」
ギ、ギクリ。
「あ、えっーと、近いものを持っている、というか……」
時間が止まって、無限に入るものを……。
「あー! そう言えば、さっき、バヌヌエルからの手紙を、マントから出してましたね! へー! 変わったアイテムバッグですねーっ!」
「あ、あはははは……」
そ、そういう事にしておこう……。
「えと、それが、何か?」
「あ、はい! ギルドカードなんですけど、アイテムバッグには入れないでくださいね!」
「え! なんで?」
「あー! やっぱり入れる気でしたね?」
「な、なくしそうだし」
普段から、飛んだり跳ねたりするからなぁ……私。
「でもオススメはしません! というのは、例えば、街から街に移動した時に、ギルドカードを持っていれば、門を素通りできるんです」
「え! それって、どういう?」
「門には、ギルドにあるものとよく似た、水晶球があります。それで、冒険者を管理しているんです。肌身離さず持っていれば、門を通ると、自動的に、ランク以外の情報が開示されるんです。」
そ、そんなものがあったのか!
カーディフにもあったんだろうか……。
「ランクはバレないんですか?」
「はい! あー……でも、アンティさんの場合、職種を見れば、1発でランクはバレます。」
「ははは……」
なんだ、あんまり隠せる意味無いね……。
「どこの街に、何ランクの冒険者が何人いるかがバレると、"そいつらがいない間に、悪いことしようぜ!" という、良からぬ事を考える人もいます。その防衛策、と言えますね。……まぁ、調べようと思えば、その街のギルマスだと調べられると思います!」
な、なるほど……
色々、考えられているのね……。
「とにかく、街側にも、冒険者側にも、時間の節約を含め、利点があります。アンティさんの装備には、ギルドカード用の内ポケットは、ありませんか?」
「えっ! ……と、どうだろ」
「普通は、装甲が厚いとされる、左胸の裏にありますよ!」
作り直された、乳装甲の裏を、確認してみると……
「……あ! あった!」
「そうでしょうそうでしょう!」
おお。
アブノさん印のキワモノ装備にも、標準仕様であるとは……。
これ、ポケットのフタがちゃんと閉まるやつだわ。
飛んでも跳ねても大丈夫だね。
シュキッ、カチン。
……きれいに入った。
うーん、でも、こんな所に入れておいて壊れないかな?
「アンティさん? ここに入れて、壊れないかな? と思いましたね?」
「……なんでわかるの」
「ふっふっふ〜〜!!」
キッティさん、侮りがたし……。
「心配ご無用です! 登録後のギルドカードは、マジでめっちゃ丈夫です! 穴だらけで心配でしょうが、私、この7年間で、ギルドカードが破損した所を、見たことがありません!!」
「そんなに……」
「世界で一番すごい魔法と言いたい気持ちがわかるでしょう!? ちなみに、装甲の内側に入れておけば、なお壊れる心配はないです!」
ふーむ、そういうものなんだ……。
いざと言う時は、心臓を守る最後の装甲になるのかも。
ちなみに、この乳装甲は、この装備の中で一番硬いらしい。
……大丈夫か。
ガチャ────
「ギルドカードの登録は、終わったか」
のっそりと、ギルマスのヒゲイドさんが、執務室に戻ってくる。
ゴリルさんはいないみたいだ。
「あ、ギルマス! はい! おっけーです!」
「そうか……書類をまわしておけ。すぐに受理させる」
「あの……ありがとう、ギルマス」
もう、恐怖心はない。
純粋な気持ちで、お礼を言う。
「ふん……構わん。……あとな」
「はい?」
「ほらっ」
チャリッ!
「!」
───わっと!
ギルマスが投げてきたモノを、両手で受け止める。
これ……"鍵"?
「えっと、これは?」
ニヤリと笑いながら、こう言われた。
「それはな────お前の部屋の、鍵だ」










