どこじゃい、Gランクカード
────"偽名の者など、探せばごまんといる"────
そう言って、ギルマスは、執務室を出ていった。
……それって、黙認してくれる、って事、かな?
その後を、ちょっと男同士で話してくるわ、と、ゴリルさんが、追いかけていった。
残されたのは私と、受付嬢のキッティさんだ。
「……えーっと」
「はーい、もう少しですよー!」
今、変な水晶の玉に、手を押し付けております。
グローブの上からで、大丈夫かな?
「ねぇ、アンティさん。"世界で一番すごい魔法"って、なんだと思います?」
「えっ!? ……い、いきなりですね」
「あ、そんな畏まらなくていいですよ? 歳も、そんなに離れているわけじゃありませんから」
確かに……多分、17か、18歳くらいかな?
ちょっとお姉ちゃんかな?
「そ、そうな、の? でも、魔物の毛を見ただけでわかるって、すごい熟練の技なんじゃ……」
「ぷ! 熟練って……。私がギルドの手伝いを始めたのは、10歳のころなんです」
「え……! す、すごい!」
「うーん、すごいと言うか、生活するために、仕方なくというか……」
あ、わかった……。
キッティさんのギルドは、
私にとっての、食堂だ。
「……生まれ育った環境、なんだ」
「そ! それですよ! もう、自然にここにいた感じです!」
「……てか、キッティさんは敬語なのね」
「あぁ、私はもう、これがベースですから!」
……いや。
さっき、ギルマスをフライパンでどついた時は、もっとこう、何かが違っていたように見えたよ……?
ビカゥ!
おわっ!
水晶玉が、一瞬光った!
「あ! はい! 個人データの取り込み、できました!」
「そ、そうなの?」
「はい! あ、さっき言ってた、"世界で一番すごい魔法"の話なんですけどね? ……私、ぶっちゃけ"ギルドカードを作る魔法"だと思うんです」
「へ?」
どゆこと?
「いや、ギルドカードってね? ぜっったい、他の方法で、複製できないんですよ! この水晶と、決まった素材を使ったギルドカードでないと、作る事はできません!」
「へぇ〜〜! そうなんだ!」
「しかも! 冒険者登録する前、つまり、今までの人生で倒してきた魔物も、カウントする魔法が組み込まれているんですよ!」
「えっ! そ、そんなことできるの!?」
私だと……今ギルドカードを作れば、"バーグベア討伐:1"とかも、記録されるって事!?
どうなってるの? それ!?
「それがね? できちゃうんですよ〜〜!! もう不思議で不思議で! ギルドカードシステマは、昔の術式をそのまま使っているだけですからね〜〜!! いまの宮廷魔法使いでも、魔法術式の細部までは、解析できていないんです!」
「ほぇ〜〜!!」
そんな未知の術式をギルドカード作成と管理に使ってるのかぃ……。
「あとは、この水晶に、カードプレートをかざして、必要事項を記入するだけです! ……えと、じゃあ、ちょっと待っててくださいね! 探してきます!」
あ……そか。"G"のカードプレートなんて、普段使わないから、しまってあるって言ってたね……。
「お手数かけます……」
「いえいえ〜〜少々お待ちを〜〜!」
パタタタタタ……
「明るくて、元気な人だなぁ……」
昼下がりの、ドニオスギルドの、裏っかわ。
でかい段差のある場所に、でかいスーツの男が座っている。
その隣に、ゴリラのような容姿の、焦げ茶色の革鎧を着た男が、あぐらをかいている。
2人の男は、少し、空に目を奪われている。
大男から、しゃべりだす。
「────俺は、お前のように、妻子持ちではない」
「なんだ、藪から棒に。……まぁ、自分が妻"子"持ちだとわかったのは、ついさっきだけどよ……。んで?」
目線は向けずに、先を促すそれは、友人と言えるからこそできる事である。
「……もし、娘がいたなら、ああいうのかな、と思った」
「……ははっ!」
「……やはり、おかしいか」
「いや、わりぃ……わかるぜ」
「……本当か?」
「……ああ! そしてよっ」
あぐらを組みなおし、言葉を紡ぐ。
「……俺たち、おっさんはな! そう思っちまったら、もう負けだ!」
「……! そうか、負けか……!」
「……ああ、負けだ!」
「…………」
「…………」
「くっく」
「くぐご」
「くっくっく」
「ごぅごっは」
「───はぁあッはっはっはっはっはっは!!」
「───ごあっはっはっははっはっははは!!」
昼下がりのドニオスに、野太い笑い声が、重なっていった。
「どこじゃい、"G"ランクカード……」
野太くない声で、ある意味、男らしい言葉が漏れる。
受付嬢キッティは、未だかつて、見た事のないものを探していた。
隠されし最低ランク、"G"のギルドカードプレートである。
「考えたら、色も何色か知りませんね……わぁ!」
ドンガラガッシャン!!
「ありゃりゃ、やっちゃいました……!」
台に乗り、高い所をあさっていたので、上から小さな箱がいくつか落下した。
頭には当たらなかったが、床に色々ぶちまけている。
キラッ────
「ん、おお?」
ロープやら、変なシートやらの中に、一つだけ、光を反射するものがあった。
「あの大きさは、もしかして……!」
床に降り、拾い上げたプレートには、"G"の文字がパンチングされていた。
「あった────!!! "G"のギルドカードプレート!!」
小金色の、少しくすんだ、金属質のカードプレート。
「へぇ────! こんな色なんですねぇ────! 他のギルドカードは、単色が多いですからね! こんな、金属の地肌が見えているような質感は、新鮮な感じですぅ────!!」
運良く"G"のプレートを探し出した受付嬢キッティは、黄金姫の待つ部屋に、急ぐのだった。