それでも、私は。そして、名は。
よく、わかった。
ギルマスの、ヒゲイドさん。
とっても、いい人だ。
私、なぁんにも、知らなかった。
配達職になるだけで、
ずっと、ランクは、最下位の"G"。
ずっと、ザコあつかい。
────ギルマスは、それを防ごうとしてくれたんだね。
「聞こう」
「…………」
「それでも、なりたいか?」
「やる」
「!」
ギルマスが、ギュッと、拳を握ったのが、わかった。
「……理由を言え」
「……私、別に、高ランクの冒険者になりたいワケじゃない」
「「…………」」
キッティさんと、ゴリルさんは、黙って聞いてくれている。
「……私、自分だけが出来る事を探して、ここにきた。途中で、とても大切な手紙を届けた事がある。ずっと、ずっと配達されなかった、手紙を」
仮面が、少しだけ、温かくなる。
「いくつかの幸運が重なって、この力を手に入れたけど、それを使って、高ランクになって、お金を稼いで、何になるの?」
「……お前」
「名誉とか、お金持ちとか、そんなの、なった時の事を、想像できる! やった後の事が! ……そりゃ、お金がない人からしたら、凄くナメた事言ってるって、思うよ?」
「…………」
「でも、お金を稼いだり、褒められる事を目的にしたら、私は自分を見失うと思う。私だから出来る、という事が、無い。……それは、私の人生じゃなくなるわ」
「ふっ……」
「ゴリルさん……!」
あの、真っ白な花畑を、思い出す。
「……手紙を届けた時、ハーフエルフのおばあちゃんが言ったのよ。"あんたは、最高の郵送配達職だ"って」
「……殺し文句だな」
「こらっ、ゴリルさん、茶々いれない!」
「…………」
真っ直ぐ、ギルマスを見て、伝えなければ。
これから、お世話になるのだから。
私の、正直な、気持ちを。
「……私は、人の心を届ける仕事がしたい。それ以外に、ない」
「…………」
────ドォオン!!!
ガチャン!!
びっ、くりした。
ギルマスが、テーブルに、拳を叩きつけた。
「────このっ! せっかくの才能を潰すッ! バカな、クソ愚か者めがッ──!!!」
「────っ!」
ううっ……
何だかんだ言って、ギルマスの厚意を無碍にしちゃったからな……。
ギルドからしたら、少しでも強い冒険者は、欲しいだろうし……
怒られて、当然かな……。
「…………」
「おい、ヒゲイド……」
「ギルマス……」
ギシッ……
ギルマスが、大きな一人がけのソファから、立ち上がり、大きな木の扉に向かっていく。
「…………」
だめ、かな。
「────キッティ。倉庫から、"G"ランクのギルドカードを探してきてやれ」
「!! ギルマスぅ────!!!」
「へへっ! そうこなくっちゃな!!!」
「…………」
うそ。
ほんと。
ほんとに。
「……まったく。"義賊クルルカン"には、かなわんな……」
ゆっくり、ギルマスが歩きだした。
どうしよう。
実感ない。
私の事、ちゃんと聞いてくれた。
何を、なんて恩返しすれば。
その気持ちに、どう答えれば────!
「待って」
「……!」
彼が、この部屋から出る前に、言っておきたい事ができた。
「……なんだ」
後ろから、背中ごしの、声がする。
「……私が、正体を隠しているのは」
「「「!」」」
「私の"ある力"が、どんな人間でも、欲しいモノだから」
「…………」
「ほぅ…………」
「えっと…………」
気配で、ヒゲイドさんが、少し振り返ったのが、わかる。
「……"誰もが欲しいチカラ"」
「……そう。多分、私の家族を使って、脅してでも」
「「!」」
「…………」
「だから、名も、顔も、隠したい」
でも、それでも、今だけは。
「────だけど、今、ここにいる貴方達の誠意に、誠意を持って、答えたい」
「「?」」
「誠意、だと?」
そこに、迷いなど、ない。
「────私の名前は"アンティ・キティラ"」
「「「!!」」」
そう、自分の名を伝える事は、最初の、誠意だ。
「でも、貴方達に名乗るのは、これで、最後にする。」
「おまえ……」
「──私は今日から"アンティ・クルル"。そう、名乗ることにするわ」
「わぁ……」
「はっは……」
「ここまできたら、とことんいかなきゃ、ね?」
「……くっくっく……それは、"ギルドカードを、偽名で作っていいですか?"という、俺へのお願いか?」
「あ……」
さーせん。
そこ、まったく考えてませんでした……。










