アルコルの盾 さーしーえー
今日もノリで描いてます(*´﹃`*)笑
「うわっははははははっは!」
──" あなたは、天才ですね "。
異世界から来た少年に、そう言われ。
私は乗っていた脚立から、
転げ落ちそうなほど笑った。
その時に描いた天使は、
実に小気味よく、
世界を小馬鹿にする笑みとなる。
私は少し息を吐き、
見上げる彼の顔を覗く。
「……──?」
この子も……ずいぶん、やつれたものだ。
無理もない、あの王だ。
今日も何人、殺めたのだろう。
あの王は……やめられない。
やめられないのだ。
私と……一緒だ。
私は、そっと答えた。
「──あなたはすごい勘違いをしておられる」
「──え?」
「私は、やめなかった」
私のマネゴトを見た王は、
燃える絵を見て、「ほぅ」とにやけた。
あの王は、私に慈悲を与えた事を、
まるで、美談のように話すらしい。
私に復讐するほどの、
度胸も、力もなく。
故郷で使った顔料よりも、
この城の画具の質は、素晴らしい。
憎しみより、恐怖が勝ち、
誇りより、欲が勝つ。
「ただ、やめられなかった」
「…………」
私は、しなかった。
ただ、これしか。
「だから、絵の具が、積み重なった」
君は……そうはなるな。
「それだけですよ」
王女は、日に日に塞ぎこんでいた。
王は、彼女の呼んだ三人を、
既に……見放し始めている。
「拍子抜けだ……あの程度とは」
「さようにございますか」
帝王は、自らをよく描かせ、
愚かな私に話しかけた。
「ラヨチよ。あの口元を布で隠した娘……何か知らぬか? 髪が汚いブタのように染まりつつある、あの娘だ」
「……。さて、私めは何も。ただ、カオコ殿は、ロザリア王女殿下と仲がよろしいようにございます」
「何とも嘆かわしいことだ……、あんな小汚い無口な女と……」
帝王と、私は似ていた。
それが、私が生きている理由だろう。
彼は、興味を求めていた。
唯一、よく分からない未知に、
心を惹かれるようだった。
残念な事に、王の知識は広く。
結果、彼は退屈した。
「最近思うのだ。私が退屈する世界に、なんの価値があろうかと」
「……」
彼は、まずい事に、努力した。
そして、彼は天才であった。
「光栄に思うがよい! ラヨチ!!」
「なんと……」
招かれた王の部屋には、
あらゆる禁書魔法が保管されていた。
「……"闇雲"……"転生"……"乗換"!……」
「ははは! そうだ!! 見よ!! この美しく身震いすらある、可憐な魔法陣たちを……!!」
その魔法陣からは、
身体を蝕むような光が漏れ出ている。
どれも……魂の形を作り替える、
違法な魔法ばかりだ……!
そうだ……彼も、やめられなかった!
帝王は、探し、調べ、求め……、
到達したのだ……!
「──誇れ!! 雑種の絵描きごときが、この芸術的な術式を目にできるのだぞ!? あはは!! あはははははははは!!」
「……この老体に、何をさせるおつもりか」
何故、私に見せた。
自慢し、殺すためか?
そうではあるまい。
この男は──。
「なぁ、ラヨチ……私たちは、トモダチだろう?」
彼が依頼したのは、
とある"本の文章"を、"描く"という事だった。
ただし、特殊な術式で、
私の体を、"改造"してだ──。
「獣人で、その歳だ。もう、長くないだろう。老衰で死ぬ前に……私の知識欲を満たして欲しい」
「……、……」
王は道徳が欠落していたが、
彼が、乞食同然であった私に、
得難い画具を与え続けたのは、
事実である。
老いた私は考え──……、
命で借りを返すのも、
よいと思えてしまったのだ。
「ひとつ……頼みたい事があるのです」
「言うが良い」
「私の死後は……獣人を友として欲しい」
「ははは! なんと容易い願いなのだ!! 殺さなければ、よいのだろう?」
「……、……」
私は……王の意図を理解した訳では無かった。
"本のページ"を……"描く"、とは……?
何故、私の身体を変える必要がある?
だが、もう描きたい絵は残っていない。
いや……描きたい物を見つける前に、
私は殺して欲しかった。
だが、数奇なことか。
私の老体は、幾度の実験に、耐えきった。
足元の魔法陣は消滅し。
私は内臓が痙攣しながら、
またもや、生き残った。
「ぐお、ぉ、お、ぉ」
「おぉ……! なんという事だ! 今度のステータスは、凄いぞ、ラヨチよ!! "全属性無効"と、"物理耐性"だと!? ──ははは!! 何というステータスなのだ! お前が内臓の腐った獣人でなければ、レイドボスにも成れたやもしれん!! あっはは、ははははは──ッッ!!」
「……、……、ふ、ふで、を……わたしに──」
"この時の身体"で描いた"本"が、
帝王の蛮行の切っ掛けとなった。
キャンバスを見ながら、
王は震えた。
「やった……、やったぞ!! ラヨチよ!!!」
「……、……?」
「見ろ、ここだ──!! この一節だ──……!」
私が描いた本の頁は、
"ドラゴンの襲撃"について書かれた箇所であった。
私は壊れかけの身体を椅子に預けながら、
己が描いた" 文章の絵 "の一説を読む。
「……、" ──襲来したレッドドラゴンは "……、" ──まず、3フヌほど "……、" 移動王都の試作魔導炉を破壊し "……、" 僅か数ビョヌで、辺りを焼け野…… "、……」
誤字がある。
「──" ビョヌ "?」
モチーフの本を見ると、
確かに……" ビョウ "とある。
私は……間違えたのだ。
「……お役、御免ですかな?」
「違うぞ。お前はやったのだ、ラヨチよ……!」
帝王は、ボロボロの私の肩に両の手を乗せ、
まるで勇者を労るかのような錯覚を見せた。
「これは……80年ほど前の書物だ。お前は……最高だ!! 今のお前のステータスは、世界の理を超えているのだ……!!」
「……、な……?」
「お前は……この世界の" 概念 "を、超越したのだ……!」
帝王は、無邪気であった。
宝物を見つけた、子供のように。
「やった……! 証明、したのだ……!! この世界の"概念"は──文章として、"描き変える"ことができる……!! "光の手紙"どころではない……。もはや、私の思い通りにだって……! ……ははは……あはは……。あははははははは──……ッ!!」
「……あなた、は、なにを……?」
虚ろに成り行く視界で、
彼は天を仰いで、笑っていた。
私は倒れ、昏睡する事になる。
──起きた時には、全てが遅かった。
「なにをしたのだ、王よ」
「おお! ラヨチ! 起きたか! 聞くが良い! あの娘……あの娘は、"コトバ"を操る能力を持っていたのだ!!」
「──いやああああああ──っ!!! カオコおぉぉぉぉ──!!!」
泣き叫ぶロザリア王女の駆け寄ったモノは、
顔の無い……少女の身体であった。
白の王女は血に塗れ、
顔ナシの勇者は、膨れ上がる。
「何処だ……!? 私の……私の"コトバのチカラ"は、何処へ行った……!?」
「王よ……何を言っている?」
「あぁ、ああ……カオコ、そんな──」
人だったはずの彼女は、
木になろうとしていた。
甘い香りを撒き散らし、
王女は、ソレを呆然と見ていた。
バキバキと鳴る、その巨木は、
ドス黒く染まり、先ほどの彼女のように、
黒と赤の血を流し始める。
それは、女の形をしていた。
その怪異が産声をあげた時。
近くにいたロザリア王女は、
積み木の城のように崩れた。
『 ₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪ 』
「──おお! " シ "よ!! " シ "の概念よ!! " カオ "など、どうでもよい! ──" コトバ "! 私の" コトバ "を──何処へやった!? 世界を描き変える、" コトバのチカラ "を──……!!」
「王よ、王女が……あなたの娘が、死んでいるぞ……」
『 ₪₪₪₪-₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪ 』
死にかけの豚を集めたような声。
その死神に、顔は無く。
その断面から噴き出た瘴気は、
瞬時に空を覆い、
帝国に死をもたらすだろう。
「王、よ……」
「私を……裏切るのか。真理説に背くような事をするな……。あの男の鎖を外せ。見ろ……" カオ "だ、ヒヒヒ……! アレから生まれたのなら、同じ概念力を持つだろう。なぁに、自分の生徒が殺し続けるのを、黙って見ているのか、とでも言えば良い。人は、情で動くのだろう? あヒヒ、ヒヒヒハハ──……!」
王は潰れ。
私は死に。
彼は狂い。
──そして。
「……ごめんな、戸橋」
『 ₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪₪ |
「ごめんな」
金神:『>>>──考えろ、考えろ、考えるんだ。大丈夫なハズ……だ!! ダイさんの盾で、かなりの確率で……!』
彼は、戦っている。
死して尚、戦っている。
水神:〘#……カネトキ! もう時間がないぞ! 盾を転送しろ!!〙
猫一:『C1:空間デバイスとバッグ歯車も組み合わせたよ、父さん』
彼らは戦っている。
決して、あきらめる事はない。
大朱:< わ、わっちで止められるか、わからんけど……精一杯、やりますえ!! >
熊神:「お、おいっ!? 配置には着いたぞ!? 盾はまだかよ!?」
猫亖:『C4:にゃー、パパうえー、そろそろヤバいにゃー』
大きなダンゴムシのような怪異は、
ハラに抱えた巨大な砲門を、
神の怒りのように輝かせている。
金神:『>>>くそっ……! 限界までアナライズ積層は施した! やるしかない……!!』
猫一:『C1:転送しますにゃ!』
歯車と黄金のガラスで装飾された、
神秘のフライパンが、
空間を超え、獣人の騎士の元へと、
届けられる。
熊神:「これ、は……!?」
猫亖:『C4:──かまえるにゃ!!』
熊神:「──! クソッタレぇぇぇ……!!」
砲身は蒸発音を上げ、
光は、まっすぐに衝突する。
熊神:「 ──、お、お」
大朱:< ぐ、ぎぎ、ぎぎぃ〜〜!!? >
極光は防げているが、
フライパンの底にある向日葵の花弁の意匠は、
一枚、また一枚と、暗転していく。
金神:『>>>ゲージの減りが、はやいッッ……!!』
水神:〘#……このままでは、20秒も持たんぞ──!?〙
熊神:「 あ 、 あ ち ぃ …… !!!」
猫亖:『C4:熱伝導が、防げてないにゃー!』
歯車で強化された盾。
飲み込もうとする光。
勇敢な熊の姿の騎士。
考える、勇者の魂たち。
金神:『>>>── 空間、接続を──』
水神:〘#……冷却が、間に合わん……!〙
後ろにあるのは、街であった。
彼らは、守っている。
死して尚、彼らは勇者。
だが、私は────。
金神:『>>>……こんどは、あきらめるもんか』
──王よ。
貴様の遺した体、今こそ、ぞ──。
画幽:『 私モ、描カレル者トナロウ── 』
金神:『>>>──……!?』
この歯車の輪は、
やはり、太陽に似ている──。
私は──くぐり抜けた。
大朱:< ──・・・えっ!! >
熊神:「おぉっ──!?」
盾の、ご婦人よ。
ちょいと──失礼しますぞ?
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" 魔盾ダイオルノシュオン " に
" ゴーストシールド " が
追加装備 されました!▼
" 死兆星の盾 " が 構成 されました!▼
" 全属性無効 "が発動──!▼
属性魔法は 全て 無効化 されます!▼
いい シゴト してますね〜〜●▼●.*・゜
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私を持つ熊の騎士は、驚いている。
熊神:「ふっ……、フライパンと、ゴーストぉお……!?」
大朱:< あれ、まぁ……! >
猫亖:『C4:すごいにゃー』
焦げた大地は、
我が目の前で、
止まっていた。
当然だろう。
私の持つ魂は、
ステータスだけなら、
レイドボスの、それなのだから──。
金神:『>>>ははは……。やっぱりアンタ、天才だよ──』
ともに旅をした勇者が、
私に懐かしい事を言う。
画幽:『 ニョロリンガ──……! 』
さて、それでは。
女湯を覗きまくった分の、
働きをするとしようか。










