ご乱心！ と、配達職の宿命
「…………」
「…………」
「…………」
みんな、知ってる？
空気って、重さがあるんだよ？
土下座である。
黄金の土下座である。
ここが、正念場である。
「…………」
「……いや、ヒゲイド。俺が確かめたかった事って、まさにコレなんだよ」
「……なんだと？」
私は床を見てまーす。
声だけ聞こえてまーす。
「こいつさ、多分、ゼルゼウルフ、ソロで狩ってるだろ？ なのによ、さっき受付で、"ゼ"の一言も言ってないんだぜ？」
「…………」
「普通よ、あんな大物狩ったら、金や名誉欲しさに自慢しまくるぜ！ 駆け出しの頃の俺なら、絶対そうするね！」
「確かにゼルゼウルフは、毛皮も高く取引されますし……お金にはなりますね……」
「ああ。まぁ、毛の焦げ具合からしたら、毛皮が無事かどうか、わからんがよ……」
「あははは……このクルルカンさん、何者……」
「だからよ、それでも言わないって事はよ……つまりはよ！」
ゴリルさんが、パンッと膝を叩いた？
「────正体と力、隠したいって事だろ？」
……っ！！
「つーか、俺からしたらよ、故郷近くの魔物を狩ってくれて、嫁さんの出産、手伝ってくれたわけだ！ 肩持ってやりてぇんだよ！」
ご、ご、ご、ゴリルさぁぁあ〜〜ん！！！
さ、さしゅが、みんなのアニキ、ゴリルさんですぅぅぅぅうう！！
「しかしだな……」
「うーん、私の個人的なアレですが、彼女、悪人には程遠いと思いますよ？ ほら、手紙も大切そうにしてましたし……何より、カッコがすでに、清々しい程、正義の味方ですしね……」
おっ、おっ！
まさかの受付嬢さん援護魔法！
や、やれ、いけ〜〜！
「ぐ、ぐ、ぐおおおおおお！！！」
うわぁああ、ギルマスが唸っているぅうう！！
「ごわっはっはっは！ なんだそれ！ ごわっはっはっは！！」
ゴリルさん、そこで笑える神経が、私、わからないです……。
「ぐぐっ、おいっ！ そこの黄金娘！！ 立てぃ！！」
「は、ハハぁッ！」
──シュバッ！！
超、立った。
人生で、一番、速く立った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……！！
う、うっぴぃぃい……！！
うえから見ないでくださぃいい！！
「……おまぇえ、何で郵送配達職なんぞになりたいんだ……！！」
「ひ、ひぃい！ だっ、誰にもできないことをしたいからですっ！！」
「ほぉううう？ 俺のパンチをさばくのは、誰にでもできることなのかぁ……？」
「えぇええええ……何それ、何の脈絡もな……」
ぐにっぐにっ。
ガッ！
「びゃ！」
ほっぺた掴まれた。
上半分の仮面。
ほっぺたは、守ってくれません。
「びょあああああ！！」
『────力量加圧、発動中。』
うん、そうだね。
いま、ほっぺただけで、宙に浮いてるからね。
スキル無かったら、ほっぺ、千切れてるね。
「お、おい！ ヒゲイド！ 落ち着け！！」
「あわわあわわ、ギルマス！ 流石にそれは絵面的に不味すぎます！！」
止めてくれ〜〜！
誰か止めてくれ〜〜！
３メルの大男に、ほっぺただけで、15の乙女が宙吊りにされてんだぞ〜〜……。
「いいか！ お前の実力は、低く見積もっても、Cか、Bクラスだ！！ そんな実力者を、一般人に毛が生えたような強さと言われる、"配達職"なんて消滅した職にしてみろ！ "え、あそこのギルマス何考えてんの？"、"人材の有効活用なめてんじゃね？"って、なるだろうがぁああああ！！！」
「ぴゃあわわわわ！！ ひょんなこひょ、ひわれれも〜〜！！」
「だいたい貴様！ ゼルゼウルフに焼きいれるぐらいの炎魔法も使えるんだろう！ はけっ！ 貴様、何者だっ！ はけっ！！」
「ひゃ〜ひゅ〜きぇ〜ちぇ〜〜……！！」
──────ゴォンンンン！！！
……にゃあ！
……にゃに？
……あ、受付嬢ちゃん。
フライパンで、殴ってる……。
……脚立はどこからでてきたん？
「……ギルマス。女の子には、優しくゥ、だろォ？」
「…………」
受付嬢ちゃん、目え怖えぇ……。
キッティさんのお陰で、解放されました。
今、ソファの背もたれに、布団みたいに干されてます。
何が？
私がだよ。
「……はぁ」
「まったく、もぅ……」
「いやぁ、今の光景は夢に見るぜ！」
「うぇえ〜〜……」
ずずず……。
ギルマス、お茶、完飲。
「……俺が最初にしていた話に戻ろう。いや、もう簡潔に言おう」
「ひゃい……」
「今言ったように、俺のメンツ上、お前のような実力者は、高ランクの職に就けさせねばならない。お前なら、格闘職でも、魔法職でも、高ランク依頼で、充分、通用するだろう」
「う……ん」
「逆に言えば、だ。配達職なんざ、世間の認知度で言えば、ただの運び屋だ。ザコだ。だから、お前でも、ランクはザコから始めねばならん」
「……えーと？」
「お前、冒険者の最低のランクは知っているか？」
「……Fランク、ですよね？」
「その、下が、あるのだ……」
「まさか……」
「あぁ……。配達職は、最初、"Gランク"を付けるのが普通だ。しかも、ほとんど、ランクアップなどしない。……当然だ。手紙や荷物運ぶだけなんだぞ」
「G、ランク……あ」
「気づいたか。俺はな……」
ヒゲイドさんが、両膝に両肘をつけ、口に手を当てて、考え込むようなポーズで、言った。
「……もし、お前が配達職になるのなら、ギルマスとして最初に、お前に"Gランク"を付けねばならない。そして、恐らく、最初につけたランクから、お前は次のランクに上がる事ができなくなるだろう」
……────そっか。
一生、ザコ扱いなのか。
