聖女の出陣 後編 さーしーえー
前話のキリ番を忘れてたのはコイツです。
↓
(*´﹃`*).*・゜
「これ、は……この周辺の……地図?」
真偽球から浮かび上がるソレは。
まるで、青白い光で構成された、
飛び出る、仕掛け絵本のような──。
薄暗い中で輝きは際立ち、
美しく目に焼き付けられ。
神秘的……でさえあった。
こんな……。
審議局の水晶球には、
こんな、高度な術式が……?
照らし出される幼い顔が、
私の表情を読み取り、語る。
「わ……私の真偽球だけ、プレミオム・アーツの情報を投影できるんです……」
「ぁ、あなた……っ! そんな重要な秘密を、私にバラして、ぃ、いったい何の──」
──いや、違う。
……そうじゃ、ない。
今は、そんな事が大切じゃないんだわ。
「にしたって、こんな……── 」
目の前に映し出される、
恐らく今まで見た中で、
一番、正確無比であろう精巧な地図。
危険度を示すであろう、
オレンジ色に点滅する、エリア表示。
幼さと奇異の目線に抗うために、
死に物狂いで蓄えきた知識が、
この現象を看過してはいけないと、
悲鳴をあげる。
「げ……現在進行形の、マッピング情報だと言うの……!? 警戒エリア……敵残数……それに……" レイドクエスト "、ですって……!?」
──Pi・・・!
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▼▲▼▲▼ クエスト情報 ▼▲▼▲▼
残 796 / 1000
▲▼▲▼▲ ▲▼▲▼▲
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……!
いま……、799というカウンターが、
796に変化した。
私は、冷や汗を浮かべつつ、
幼い審議官の瞳を見つめる。
「──、……」
「ぅぅ……」
……。
せ……1000体、よ……?
これを……そのまま受け止めるなら。
あと800体は、いることになる。
今、この街の冒険者は、ほとんど残っていない。
うっぷん晴らしに、私が西に送ってしまった。
もし、起こって、いるのなら。
国王の申請を行う暇など、ない。
プレミオムズだけが事前に察知し、
先行して、動いている……?
「……、……、……」
「し、信じて……っ! せいじょさまっ……!」
正直な気持ちは……、
事の大きさに、頭が回らないというもの。
確実に、堅実に動かなければ、と。
小さな我が身で、いつも思ってきたんだ。
平和ボケの世界で、
ギルドマスターに仕立てられた聖なる乙女。
そんな13歳の小娘が、
ストーンブリッジを叩きまくって……何が悪い。
でも……今。
明確に重要なのは、
すぐに、行動を起こすこと。
──痺れるような感覚。
「……、……」
「せ、せいじょ、さま……!」
わかっている……頭では。
でも、確証が欲しい。
──私は!
偶然の力と、知識で押し固められた。
"聖女"という名の責任を、
打ち壊す、何か・・・!
ほんの、些細な、きっかけが────……!
「……にょきっと!」
「……!」
──ふと、ボゥルラビットを見た。
幸運の魔物。
ぶっとい耳。
何故か……あさっての方向を向いていて。
それが、たぶん──、
────" 天啓 "となった。
「「──……っ!!」」
き こ え た 。
「せいじょ様っ……! ぃ、いまの……!!」
「……、……!!」
そう、聞こえたのだ。
私"たち"には、確かに・・・!
遠く、はるか遠くの。
地響き。音……。何かが、倒れる音──。
「……? リビエステラ様……、エコープル様? どう、されたのですか……?」
優秀な従者達には、
どうやら聞こえなかったらしい。
だが、私と審議官は、見つめ合う。
奇妙なウサギの目線の先に、
意識がいっていたからかもしれない。
間違いなく。
聖女と、小さな審議官には、
確かに聞こえたのだ。
「……っ」
「!」
──……ぎゅっ、と。
私の手が、小さな手に握られる。
「──……」
「──……」
エコープルは、もう何も言わなかった。
涙で潤んだ目で、私を見上げた。
彼女は、私より幼く。
私たちの関係を、よく知っている。
だからこそ。
この小さな手に。
意味があるんだ。
まったく、
しょうがないわねぇえええ・・・!
「──モナリー! 足が要ります!! 私が乗れる馬か、スレイプニルを手配なさい! 教会の厩舎には、今、繋いでありますの──!?」
「り……!? リビエステラ様!! まさか、森に向かわれるおつもりですか!?」
モナリーが驚き、
体温がくわん、と、疼きだす。
夏の夜だけのせいじゃない。
繋いだ手が、熱くなる。
「聖女さまぁ……っ!」
「エコープル・デラ・ベリタ。悪いけれど……あなたも一緒に来てもらうわよ。その光る地図は、私が目的の場所にたどり着く、大きな助けになります」
「っ!! ──仰せのままに、聖なる乙女の君!」
「しゃちほこ張った習いの挨拶はよしなさい! あなたは……私が守ります。絶対に、私の光魔法の範囲から離れては──ならないからね!」
「──り、リビエステラ様!! 危険です! 先陣を切って夜の森に行かれるなど……!!」
「り、リビ様……お出かけするんですの……!?」
「こんな真っ暗なのに、わるいこですのー!!」
やっかましい。街にデッカイ、
6本脚の金属の塊が大家族で来るかもなのに、
悠長な事言ってられるか!
「リビエステラ様……せめて、朝まで待ち、冒険者様方や王都に遣いを出されては──」
「そ、それじゃ間に合いません!」
「全くその通りね。もし事が起きているなら……前線で戦うAランク冒険者が、一人でも倒れでもしたら……最悪中の最悪になりかねない」
「し、しかし! "三聖"の内の二人が、護衛も無しに敵陣に赴くなど……!」
「──バカにしないで、モナリー」
思わず、良き従者に言い返した──。
「こちとら、仲良しこよしの世界でギルドマスターなんかやってるけどね──もし、魔王やら勇者やらが居たら、人族の代表として命がけの旅をやってるのよ。モナリー! "聖女"としての、本来の役目は何!?」
「そ、それは……"希望守りし勇者達の癒し手"──」
「──ぅん♪ わかってるじゃない」
今、助けを他に求める時じゃない。
"聖女"として、私が助けにいかなくちゃ。
そんな気が──して、ならないのだ。
「せ、せいじょさま……カッコイイ!」
「あなた、ちょっとはビビりなさいな……今から行く所は、かなり怖い所ですよ?」
「お気持ちは──わかりました! ですが……ご自愛をば……!」
「死ぬ気はありません。癒し手が死ねば、誰が勇敢なる者達を回復するのです──! 余計な心配は捨ておきなさい! ミルル! チルル! どうでしたか!?」
「り、リビ様ー! 馬、いないですのー!!」
「冒険者さんに、ぜんぶ貸しちゃいましたですのー!!」
「──はぁ!? 全部って……12頭は居たでしょ!?」
「きょ、許可を出したのは8頭まででしたが……どうやら、冒険者様方が、勝手に持って行ってしまったらしく……」
ば、バカ野郎どもがぁぁぁぁぁ……。
「……。ギルドマスターとして、聖なる鉄槌が必要のようねぇぇぇぇぇえ…………」
「そ、そんなぁ……!」
まさかのモナリーの報告に、
エコープルが悲痛な声をあげる!
「み、みんなで、あと、800なんて、ムリだよぉお……!」
「ちっ……商人に声をかけてでも借り受けるわよ!! 回復は……絶対に必要になるわ……!」
「し、しかし、今からでは……!」
現実思考な良き従者が、難色を示す。
え、えぇい!
今は聖女としてワガママ通す時なのー!
「せ、聖女さまぁ……! 今は、クルルカンと狂銀のお姉ちゃんは、力が弱くなってるはずなの……! だ、だからぁ、はやく、しないとぉ……!」
「──!! な、泣くな、泣きなさんなってば……!」
「ぅ、うえぇ〜〜!!」
あ、あわわわ……今は、
子守りをしている場合では……!
いや、今からガッツリ子守りはしますがぁぁ……!
「にょきっとぉ……!」
「くゆぅー?」
「………………にょきっとな?」
「──くゆぅぅ!」
──ポンポン。
「──?」
うさ丸が、私の足を、前脚でトントンした。
……。
あなた……そのスケッチブック、
何処に持ってたの……。
カキカキ、キュッキュ。
「──にょきっと!」
──────────────
のせ てァ ゲル !
──────────────
「「 …… 」」
……ゲル?
何を言ってんだ、このウサギは。
「……白玉を踏んづけるシュミは、無くってよ……」
「にょきっと」
「くゆー」
と、兎に角!
街に下りて、馬を扱う人間を見つけないと!
「せ……………聖女、さま……?」
「ほら、行きますわよ、エコープル! まず、現状を現場で把握しないと……!」
「ちが、聖女さま……!!」
「えっ、なによ!?」
「──うさ丸たちが……光ってる」
「──…………は?」
きぃぃぃぃぃいいいんんん・・・!!
ぎぃぃぃぃぃいいいんんん・・・!!
『『 にょきっと、やんなぁあああ──!!! 』』
『『 かん! かん! かん!
くるぅおおおおおおおんんん──!!! 』』
((( ゜д゜)( ゜д゜)))
[[[ うさ丸 ]]]
▼ ▼ ▼
[[[ ウサマルオーブレイズ ]]]
[[[ カンクル ]]]
▼ ▼ ▼
[[[ トレニアイズカーバンクル ]]]
「う、うさ丸様と、カンクル様、が……?」
「ふくらんでいく、ですのぉぉおお……!?」
「ですのぉおおおおおお────!!!」
響く、私のメイド達の、驚く声。
そして──。
目の前に現れた、巨大な二体の獣──……!!
『『 にょきっとやんなぁー! 』』
『『 くろん、くろん、くるふぁー!! 』』
「う、う、うさ丸が! でっかく……なっちゃった!!」
「な、な、何なんですのぉぉお、あなた達はああああああああぁぁぁァ──!?!?!?」
思わず、エコープルと身を寄せ、
手を取り合います!
で…………デカいわっ!!!
私の13年の人生の中で、
一番デッカいラビットです!!!
なんか、赤い装甲まで増えてますしぃ!!!
そっちのワンちゃんも、何ですか!!
尻尾が、たくさんあるオオカミって!?
あわ、あわわわわわわ──……!?
お、お姉さま方は、
なんちゅービックリアニマルを、
護衛に連れ込んでいるんですのぉおおおおお──!!?
『『 にょきっと、なんなん! 』』
「え……、え……!? ちょ、ちょっとぉおお!?」
「う、うわぁ……! ぉ、お手手も、おおきいっ……!!」
──ガッシ、ガッシン。
私とエコープルは、
巨大なラビットの、それぞれの手に、
ソファに座るように掴まれてしまいました……!
そのまま、教会の建物の外に連れて行かれます。
ズッシン、ズッシン、ズッシン──。
『『 にょきっとやんな? 』』
『『 くろん、くろぉん♪ 』』
え、ちょと……何?
ググ……って、お、アレ?
うさ丸、なんか力溜めてません?
え…………"脚"……?
ま、まさか……。
「ぁ、あの……聖女様。も、もしかして……」
「──ちょ!! ちょっと待ちなさいラビット!! ぁぁああぁ、あなた、まさかっ、ジャンプする気じゃ……!?」
──その時。
教会の入り口から、
二足歩行のチビのチイタハが、
こちらに、ポテポテ歩いてくるのが見えました。
おい、クソネコ。
ちょ……ちょっと、このラビット止めろ。
私、高い所はチョット、ね……?
じーっと、こちらを見ているチルテト。
──シュタッ、と、前足を上げます。
「 フナッ 」
" 行ってこい " 。
そう言われた気がして、
ならないのです────。
『『 にょきっと──、、、なぁぁあああああああァァァァァ!!!!! 』』
「 いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──・・・ 」
「 きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──・・・ 」
『『 くるぉぉぉぉぉおおおおお────ンンン!!!!! 』』
大ジャンプ。
ホールエルの皆さん。
地平線って、まるい。
「い……………いってらっしゃい、まし……」
「です、のぉ……」
「あぅわぅわぅわぅわわわ……!」
「 フナー 」
たーまやー(๑´ㅂ`๑).*・゜