ギルマスパンチ!
「しかも、この"ゼルゼウルフ"の毛、よく見ると根元が焦げていますね……」
「ほーぅ? そいつはすげぇな。あんな速いウルフ、どうやって燃やすんだ?」
ひぃ〜〜〜〜!!!
キッティさん、ゴリルさん、
もう喋らないで〜〜〜〜!!
ギルマス見てるから!
すごい顔で見てるから〜〜〜〜!!
「たしか……"すごい勢いで火を出して"、サルサのために湯を沸かしてくれたんだよなぁ〜〜?」
うう〜〜!!
ばか〜〜!!
ゴリルさんのバカぁ〜〜!!
「あんなのに火の魔法なんて当たるんですか……」
「かっかっか、ヒゲイド、こりゃ面白くなってきたな」
「…………」
クルルカンは、手を膝に置いて、畏まるしかない。
どどどど、どうする!?
こんな娘っ子が強いってバレたら、なんか特別なアイテム持ってんじゃね? ってなるよね!?
うわぁ〜〜!!
うわぁあああ!!
どうしようおおお!!
貴族にさらわれる〜〜〜〜!!!
『────告。反射速度、発動中。』
は? え?
クラウン、なに? 突然。
え?
反射速度、ですって?
あ! ホントだ!
受付嬢のキッティさん、超、止まってる!
すごっ、口が空いたままだ。
……すごいレアショットだ。
……歯並び綺麗だな。
てか!
何でいきなり、スキルが発動したの!?
意味わかんないんですけど!?
……ん?
……んん?
ギルマスさん?
なんだ、この、腕をあげた、ポーズ?
ゆっくり動いてる。
あっ、立ってる。
……あ。
ああっ!
……これって、まさか、まさか!
(殴りかかられてるぅ〜〜〜〜!!?)
ぎゃああああああああ!!!
うひゃあああああああ!!?
何でじゃあああああああああ!!!
こっ、この人! 身長3メルあるのよ!
拳が私の顔の大きさよ!?
殴られたら首なくなるわ!!
ど、どういうつもり!?
うわっ、こっちめっちゃ見てる!
こわっ!
うわっ、拳が少し、加速したっ!
ひぃいいい!
避ける!
そりゃ避ける!
長生きしたいです!!
拳、きたぁぁあ!
ギルマスの右ストレートを
左手で外側に押しだし、
顔は右に避ける!!
うわっ、風がゼリーみたい!
なんだこれ!
うひぃぃい!
遅いと余計こわい!!
なんだこれ!!
お?
おお!?
ちょっとギルマス!
あんた体重こっちに移動してきてるでしょ!!
ぎゃあああ!!
ギルマスが飛んでくる!
顔びっくりしてる!
バカ!
止まれるようにしときなさいよ!
私の身体が潰れるでしょ!
ギュッ!!
『────力量加圧、発動。』
ギルマスの右腕を、左手でそのまま掴む!!
とまれとまれ!!
おっさんに潰されて死ぬのはごめんだわ!!
押し返ぇ──す!!!!
『────脅威消滅。スキルが解除されます。』
──────ォォォオオオオオン!!!!!!
「!? きゃあああああ!?」
「!! うおおおおおぁ!?」
時間の流れが元に戻る……。
風圧で、部屋の書類の幾ばくかが、吹き飛ぶ。
流石にキッティさんとゴリルさんも、驚きを隠せない。
「な!? ヒゲイド! またかよ! てか! やり過ぎだろ!! 今の、俺でも見えなかったぞ!!! ……って」
「……なんで、クルルカンさんが、ギルマスの腕を掴んでるんですか?」
キッティさんは、魔物には詳しいけど、今のパンチは見えないんだね……そうだよね、受付嬢さんがあんな岩石みたいなパンチ見えたら、冒険者になるもんね……。
────このぉ、ギルマスぅ!!
いったいどういうつもりよぉ!
……何よ、その表情。
……あ、座った。
……膝抱えた。
……おい。
「ヒゲイド……」
「ギルマス……」
「………………」
その巨体で、拗ねた子供みたいなポーズとんなや……
まさか、パンチ避けられて、落ち込んだ、とかじゃ……。
「あ、あの、反射的に避けてしまっただけで……」
「ギロリ」
「ひっ!」
えっ、今、"ギロリ"って口で言った?
「……なんという事だ……」
「おい、ヒゲイド……やばいのか?」
「やばい……。こいつを郵送配達職なんぞにしたのがバレたら、俺はクビだ……」
「そこまでかよ……」
「え? え?」
「……あの〜?」
受付嬢ちゃんとクルルカンは、状況がよく掴めていません……。
え、なんでクビなんのん……
どいうことすか……。
「……本来、こんな事を正体不明の不審人物の前で言うものではないが……」
「はい?」
「……こいつは自分の異常さに、まるで気づいていないのが腹立つので、あえて言ってやろう……」
「ははは……」
黄金の愛想笑いである。
「────まず、最初に俺が殴りかかった時、こいつは、よそ見をしていた。キッティの方を見ていたな」
「おお、マジか。初動見逃すとか、絶対避けられねぇじゃん」
「拳を進めてから、こいつは驚いた目をしてやっと気づいたんだ」
「……ギルマス、えげつない事しながらよく見てますね……」
まったくだ……。
「そこからが、おかしい。普通、まず間違いなく、目を閉じる。とっさに、だ。防衛本能が働くからな」
「素人なら、素人ほど、そうだろうな」
「こいつは違う。まず、俺の目を見やがった。"こいつ何のつもりだ?"とでも言いたげに」
「……ギルマス、それって、どこが変なんです?」
「俺の必殺パンチを目の前に、避けもせず、まず、表情から"意図"を探ろうとしたんだぞ……」
「おいおい……殴られてる時に、"なぜ殴られてるんだ?"って、考えてたって言うのかよ……」
「……それからだ。信じられん……こんな娘っ子に、左手一本で、拳の軌道を逸らされた……力でだ……」
「えええ……」
「…………」
ま、まずぅぅぅううい……。
「合わせて顔を動かして、最低限の動きで避けやがった……。瞬きは無し。驚愕はしていたが、見て避けた。」
「マジか……」
「しかも、極めつけに、俺の腕を掴んで、俺の体重を押し戻しやがった……」
「「…………」」
あわわ……
あばばばばばば……。
「……とっさに俺の腕を、ガッツリ掴んで押し返すとしたら、俺の腕に、確実にコイツの指が喰い込む。俺の体重を押し返す馬鹿力込みで掴むはずだからな」
「え……でも、ギルマスの手は、別に……」
はは、スーツの袖すら、破れてないね……。
「……ああ。掴む力を加減されたんだ。"こんくらいの強さで掴めば、こいつの体重も押し返して、腕もケガしないだろう"ってな」
だらだらだらだらだらだら……
ガクガクガクガクブルブルブルブル……。
「思考しながらも、速く、
力を力で、弾き返し、
しかも、それを使いこなしてんだぞ……」
「うわぁ……」
「いや〜〜ごはっはっはっは!」
おいこらゴリラ……笑い事じゃねえよ……。
「ちなみに俺は、元Aランク冒険者だ……おい、クルルカン……おまえ、俺に、なんか言いたい事あるか?」
ごっ、がっ。
ソファから床に崩れるように落ち、
その勢いで、頭と手を床につける。
「…………黙ってて、ください……」