王冠とツインテール さーしーえー
チュンチュンチュン……。
外で小鳥が鳴いているが、それどころではなかった。
ない! ない!
なんでよ!
机の上にあったのに!
まさかカラス?
いや、窓は閉めたままだ!
落ち着けそんなことありえない。
もう一度、机の下を見る。
ない! 何でないの!
引き出しにももちろんない!
そんな、そんな、そんなバカな!
時限石とアナライズカード、無くした!
ドタドタドタ……!
「うわあああん! お母さあぁああああん!!」
「あら~? おはようアンちゃん~」
「なんだ、どうしたんだ最愛の娘よ」
2階の階段から降りると、朝の食堂の下ごしらえをしている両親がいた。早朝で辺りはまだ薄暗い。開店まで少し時間はある。
「うう、あのね、昨日の今日で何言ってるのって思うかもだけどね……」
「……おいアンティ」
「昨日もらった宝物ね、机の上に出しっぱなしにしててね」
「……ね~ぇアンちゃん」
「そのまま机で寝ちゃったらね、朝起きたらね」
「「アンティ」」
「ひっ、ごめんなさい!」
「いや……その頭の上の、なんだ?」
「かわいいわね~!」
「へ?」
頭の上って、何?
2人を見ると、私の頭上に目線がいっている。
「回ってるな」
「回ってるわね~」
何が回ってるの!?
「アンティ、自分の部屋で鏡みてこい」
…………。
無くした宝物の事はちょっと保留。
自分の部屋に戻り、鏡を見てみる。
「……王冠?」
くるくるくる。
なんじゃこりゃ。
私の頭の上に、小さな王冠が浮いている。
しかも回ってる。この動き、この色、どこかで……。
「てか、歯車じゃん」
間違いない。この金属質、オレンジゴールド。
私の歯車スキルで作ったやつだ。
キラッ
「!」
回転する王冠に光が反射した。
何か宝石みたいなものがついてるような……。宝石?
「まさか」
パシッ
両手で頭上の王冠歯車? をはさむ。
とまったで。
「あ、とれた」
頭から離すことができた。王冠をまじまじと観察する。
やはり、歯車だ。歯が上に向いていて、縦に長細いために、小さな王冠に見える。こんなものが頭の上で回っていたのか……。
そして注目するは、埋め込まれた、赤い宝石。
しかもよく見ると宝石の周りに、透明のプレートで装飾がしてある。赤い宝石を中心に、放射状に広がるようなプレートの意匠がなされている。
「……」
えっと、これって、つまり。
「……分析」
『────分析完了。
名称【 クラウンギア 】
(スキル媒体/アイテム)
同期アイテム
・時限結晶
・状態分析
状態:物質統合』
しゃべったで。
アナライズしよったで。
同期って、何。
ていうか、モノにもつかえるの分析。
ど、どうしてこうなったの……。
ぽんっ
ぴたっ
王冠、飛んだ。
頭の上に、戻ったで。
くるくるくるー……
やや放心気味に階段を降りる。
「おう、見てきたか」
「ふふふ、まるでお姫様みたいね~」
頭を抱えたい。
私のスキルって一体なんなんだ。
「……くっついちゃったみたいなの」
「あん?」
「昨日もらった、時限石と、アナライズカードね、」
「うん?」
「私の歯車とくっついちゃったみたいなの……」
「お、おう」
「あら~」
その後、結局食堂を手伝うことにした。
父さんらにはいい、って言われたけど今日はお願いした。
何か色々考えたくない。現実逃避に野菜の千切りはもってこいだ。手が動いている間は無心になれる。
朝の開店前にプライス君がきた。私の頭の上を見て、「お、お嬢、ソレ……」と何かツッコミたそうだったが、眼光で黙らせた。しかしお客さんが入ってくると、やはり私の頭の上に気づく人もいる訳で……。
「おぅアンちゃん、今日もべっぴんだな!」「なんだその頭の!」「まぁかわいいお姫様ね」「くるくる回ってるぞ」「ははは、食堂にお姫様がいらぁ」「それが覚えたっていう魔法か」「おぃ姫様! 肉皿まだきてねーよ」「おかーさん私もあのかんむりほしいー」「アンティちゃんもとうとう看板娘ならぬ看板姫君か」
す、す、
好きたい放題いいやがって~~~!!!!!
怒りに任せて野菜を木っ端微塵にしていると、背中に流していた髪が肩から流れてしまう。
サラサラ サラサラ
ああっ、さっきから邪魔だなっ!
やっぱりのばしすぎ? でも切ると母さんがショボンとする。
さっき放心したまま降りてきたので、2階の自室に髪紐を置いてきてしまった。
とりに行きたいが、こんなピーク時に抜けるのは、結構いたい時間のロスになる。
サラサラ サラサラ
あ〜!! 鬱陶しい!! 何か輪っかになってるモノないの!? 何でもいいから髪を束ねられるものが近くに……
『────クラウンギアによる状態分析完了。
問題を改善します。』
「は? ……ってうわっ!」
アナライズが突然しゃべりだした!
かと思うと、私の目の前に2つ、歯車が回っていた。
なにこいつら、勝手にでてきた!?
びっくりしていると、歯車が少し大きくなりながら、私の腰あたりに移動する。
くるくると回りながら、両側から私の髪の毛を束ねて、歯車の輪っかに通しながら上がってきた。耳より高い位置で、きゅっと輪が小さくなる。
私の髪の毛はあっという間に、ツインテールになっていた。
「あらアンちゃん、その髪型可愛いわね~」
戸惑いながらも、両手で髪の毛を触ってみる。
おお、キレイに束ねられている……。
私の髪は細くて量があるので、普通のリボンや髪紐で束ねても、動いているとすぐにズレてきてしまう。食堂の手伝いなんかしてたら尚更だ。普段も首の後ろでくくっていた。
でも今は頭の上の歯車が髪の毛をしっかり抑えてくれている。触ってみたが、ズレる感じはない。頭の両サイドに歯車自体が固定されている感じだ。
『────問題の改善を確認。
────状態:ツインテール。』
た、確かに髪の毛が邪魔にならなくなった。
なったけど今の何!? 私のスキルが自分で考えて問題を改善してくれたってこと? ……私のスキル謎すぎる。ていうか、普通にしゃべってるし。
えーととりあえずお礼を言ったほうがいい?
『────クラウンギアは感謝を受理しました。』
いや、受理って。お役所じゃないんだから。
「おーい! オレの肉皿まだかーい!」
「あ! ただいまー!」
突然の髪型変更で戸惑っていたのも束の間、お客さんの催促で思考が再開する。
「おぅこれこれ。これが美味いんだよな。って嬢ちゃん、その髪なかなか似合ってるじゃねえか!」
「う、あ、ありがと」
この髪質のせいで、いつもは髪型に工夫できないから、褒められると素直に嬉しい。大分恥ずかしけど。
この日は頭の王冠やら、髪型やらをいじられまくりつつ、閉店間際までお店を手伝った。