会って、にゃい
「────ヒゲイドよ。この嬢ちゃんを、冒険者にしてやってはくれねぇか?」
「────正気か、ゴリル……」
……いや、あんた達、シリアスに喋ってるけどさ……。
周りの人、見なさいよ。
みんな耳塞いでんだろ。
受付嬢さん、また間に合わなかったじゃない……。
2人とも、どんな肺活量してんのよ……。
「郵送配達職だぞ……ゴリル」
「ははっ、いいじゃねぇか! こいつの速さなら、おっそろしく速く手紙を届けてくれるぜ! お前さんも、その封筒を見て、この嬢ちゃんを疑ったりしないだろう?」
「…………むぅ」
封筒?
さっきギルマスが、指でいじってたやつ?
「その封筒の独特な色合いは、バナナの葉を使わなきゃあ、でないぜ! この嬢ちゃんが、半日でバヌヌエルまでたどり着ける実力があるのは、もう確定だ!」
そ、そんな所を確かめられていたのか……!
「それによ! 俺は、こういうヤツに、自分の手紙を届けてほしいぜ! なんだかんだ、人の心を大事にするヤツによ!」
「…………」
おお、て、照れます……。
不思議な感じだ。
昨日はゴリルさんと仲が悪かったのに、
今は、私の肩を持ってくれている。
「しかしな……郵送配達職なんて、稼ぎにならんぞ……」
「それは助けてやれよ。ギルドマスターだろ?」
「……おまえな」
でっかいスーツの上から、じろりと見られる。
うぅ……流石に、この身長差は威圧感があるわ……。
「はぁ……おい、クルルカンの娘よ」
「ひゃい」
「……おまえに、ある程度の実力がある事はわかった。……だが、おまえは、本当に、自分のなりたいものについて、よく知っているのか?」
「えっ……えぇと、"不遇職"って、事ですか?」
この人でかいけど、喋り方は、落ち着いているわ。
初対面の時は、絶叫されたけど。
少し、恐怖が薄れる。
「……やれやれ、ざっくりとした認識すぎる。こっちに来い。中で、配達職について、簡単に話してやる。」
「え! は、はい!」
や、やった!
まだ、認められた訳じゃないけど。
話をしてくれるって事は、望みがあるって事だ!
「よかったな! 嬢ちゃん!」
「は、はい!」
ゴリルさんが、肩をポンッと、叩いてくれる。
ん……? ゴリルさんの表情が、おかしい?
「…………こりゃあ」
「?」
「……」
? どうしたんだろ?
あ、ギルマスが行っちゃう!
ついていかなきゃ……
え? あれ?
……ゴリルさんも、来るんですか?
ガチャ、ギィ────……
「おっきなドア……!」
ドアっていうか、もう"門"よ、"門"。
木で作られた、シンプルなデザイン。
その上には"ギルドマスター"の文字。
あ、ヒゲイドさんの執務室だ……ここ。
「適当に座ってくれ」
「うわぁ……」
いくつかの、家具の大きさの比率が、おかしい。
なんだ、この1人がけソファ……魔王が座るの?
あ、小さなテーブル……じゃないわ、これ普通の大きさよ!
向かい側のソファは人間サイズだ。
ここに座ろう……。
「キッティ、すまん、お茶を頼む」
「はいは〜い」
受付嬢さんが、壁際に備え付けの火の魔石をつける。
わぁ……執務室にキッチンがあるのね。
まさかギルマス、料理好きなのかしら?
しばらくしたら、書類をいじっていたギルマスが来て、魔王ソファに座る。左にゴリルさん。右にお茶を持った受付嬢さん。
テーブルを、4人で囲む形になる。
「さて……郵送配達職のことを話す前に、確認したい事がある」
「えと、何でしょう?」
「ざっくり言うと、お前の強さだ」
「!?」
……強さって!?
郵送配達職なんだから、何かを届けるだけでしょ!?
出来れば力は隠したいわ。
色々、バレる可能性がある……
"時限結晶"と、"家族"の情報は守らなきゃ……。
「えと、何で、そんな事を……」
「他の職の試験では、最初にある程度、実力を試すような手合わせがあるのだ。……だが、配達職にそんなものはない」
「だったら!」
「仮にだ。お前が強い場合、配達職という職は、お前の枷になってしまうのだ……」
「? どういう事ですか?」
なんで、配達職が私の枷になるの……?
届けるお仕事でしょ……?
私の強さとか、関係ないじゃない。
「あ──……。その事なんだがよ」
ゴリルさんが口を挟む。
「そこらへんを話す前に、どーしても確認したい事があんのよ」
「なんだゴリル、確認したい事とは」
「……おい、嬢ちゃん、ちょっと」
「? はい?」
ゴリルさんが、私の左のマントに手を伸ばす?
な、なに?
それはただの、燃えにくい劇場の垂れ幕ですよ?
────ピッ、ピッ!
え、何!? 何か、引き抜かれた?
糸でも出てたのかな?
ゴリルさんが、ゴミをキッティさんに渡してる?
「おい、キッティ、これは何の魔物の毛だ?」
────────!!!!!
────白い、針のような毛!!
やばい!!!
「えっと……そんな、これ……」
「やっぱ、あれか?」
「……"ゼルゼウルフ"です。間違いありません。しかも長い……これ絶対、体長7メルトルテは超えてますよ……?」
「────"ゼルゼウルフ"だと!?」
ギルマスが、大きな体をソファから幾分か浮かす。
どうしよう。
冷や汗が止まらない。
「バカな! Cランク相当の魔物ではないか!」
「嬢ちゃん……デカい白いウルフに会ったか?」
だらだらだら……
「あ……会って、にゃい……」
「「「…………」」」
会ってない。
黒焦げになんかしてない。
ドロップもしてないよ。
「……てことだ、ヒゲイド」
「…………」
「でも、流石にそれは、無くないですか?」
3人が、私そっちのけで、私の話をしている。
な、な、な、何この疎外感。
ん? あ、ギルマス見てる。
めっちゃこっち見てる
ひぃ〜〜〜〜!!