黄金の謝罪と、大咆哮
「ぇぇええ!! じゃあ、みんな冒険者の人なの!?」
「お前気づけよ……」
ドニオスギルドに、帰ってきました。
まさか、私を心配して、昨日から探してくれていたとは……
「あ、ありがとうござい、ます?」
「まったく、そんな軽装で森に入るなんて、自殺行為だぜ!!」
「うっ……」
バッグ歯車に、野菜やら肉やら入っていることは、流石に話せないしな……ベッドまであるのよ……。
「しかしよぉ、ゴリル! その嬢ちゃん、大したモンだぜ!」
「? そうなのか?」
「ああ! 俺たちの追跡を、ことごとくかわしやがった!」
「!! …………」
「私達も、思わずムキになってしまいました」
「けっこう魔法も使ったんだがよ、全部避けられてよ!」
「……保護する相手に魔法を使うなよ……だから、ならず者と勘違いされたんだろぅ……」
「いやぁ、でも、それくらいしねぇと、あの速さを落とすの無理だったぜ? ゴリル、多分、そのクルルカンの嬢ちゃんは、本当にバヌヌエルまで行っているぜ?」
「ううむ……信じられん……」
「おい」
? 上から声が聞こえる。
? わぁっ!
「今の話は、本当か?」
び、びっくりした〜〜……。
改めて見ると、ギルマスでけえぇぇえ!!
「……おい、クルルカンよ。なにか、バヌヌエルに行った証拠のようなものは、あるか」
ク、クルルカンって、
いや、そうなんだけど……。
こんなえらい人にまで、そう呼ばれると、とても、違和感があるわ……。
「えっと……あ! そうだ!」
ここも人目が多いなぁ……
アノ方法で隠そう……。
シュルルルル……!!
「「「!!」」」
片側のマント、ってか劇場幕が、床まで付くほど大きくなる。
すぐに元の大きさに戻るけど、そこには……。
よいしょっと……。
「あの、受付嬢さん」
「はっ、はい!」
「これ、バヌヌエルの村の人たちから、お手紙です」
「え? えぇぇえ!? こ、これ全部ですか?」
「? はい。でも、100通くらいですよ?」
「は、はぁ……」
「あと、ゴリルさんに……」
「おぅ?」
「さっき見せた、サルサさんの手紙と、お土産のバナナチップス……」
「お、おぅ」
ちゃんと、ゴリルさんに、手渡す。
……よかった。
これで、私の預かっている届けものは、全て託した。
ギルマスが、受付嬢さんの持つ包から、手紙を引っ張りだし、見ている。
「…あ、ちょっと! 丁寧に扱ってよね!」
「…………ふぅむ」
なんだ? 封筒を、指でこねるように触っている……?
ちょっと、シワとかつけないでよ?
パリポリ……
「あ、食べてる……」
「……確かにウチの村の味だ」
「それ、美味しいですね。喉がかわくけど」
「食べたのか?」
「集会所に1泊しました。その時に」
「……お前」
「な、なんですか」
「てことは、昨日のうちに、バヌヌエルに着いたってことだよな……」
「あ、いや」
「……2日で帰ってくるってのは、マジだったわけだ……」
あ〜〜……
自分で啖呵切ったんだけど、考えたら私、自分の力、隠した方がいいんだよね……。
けっこう距離あったし、真っ直ぐ進むのなんて、ある意味反則だしなぁ……。
もしかして、かなり異常?
「……俺に、何かいいたい事はあるか?」
「……え?」
いきなり、ゴリルさんに言われて、キョトンとする。
「……俺は、お前みたいな、変な格好の娘には無理だと思って、手紙を渡したんだぜ。……でもよ、結果はどうだ。お前は見事にそれを成し遂げた。……嬢ちゃんがどれほど強いかはわからん。ただ、森での立ち回りは、多分この冒険者の中では一番速いだろう……」
「う、うん……」
まぁ、森での追いかけっこには慣れてしまってたからね……。
「バカにした俺に、何か言う事はないのかよ?」
「あ……」
言うこと、ある。
私。
「あります……私、言うこと」
「……だろうな」
「私、あやまらなきゃ……」
「やっぱ文句のひとこ……ぅん!?」
バッ! っと、頭を下げる。
「! お、おい……!」
「あなたが、剣を売る理由をきいた」
「!! お、おまえ、サルサに喋っちまったのか!」
「あ……」
そだ……。
隠してたの、バラしちゃったんだった。
そ、それは後で!
今はとにかく最初会った時の事をあやまらなきゃ!
「私、昨日、こう言った。"こんな所で、武器売ってるのが"立派な冒険者"なのか"って……」
「あ、あれか……」
少し、頭を上げて、心中を口にする。
「違った。私が間違ってた。……あなたは、あなたの信念を貫いていた。新しい冒険者の命を守るために、誰かのために、剣を売り続けてた。……そんな思いやりのある人が、理由なく私をバカになんかしないと思う」
「…………」
「あなたは、多分、とても"立派な冒険者"なんだわ。人を思いやる信念を持った冒険者。だから、サルサさんもあなたと結婚したんだと思う」
「いや……なんでそこでサルサが」
「私が間違っていました。くそなめた事言って、すみませんでした」
再び、頭を下げる。
新参者が、すげぇ先輩にバカやったのだ。
当然のことだ。
「……お、おぃ、よせ、照れるじゃねぇか」
「くく、ゴリルが慌てているぞ」
「クスクス、あんなゴリルは、初めて見るわね」
「クルルカンに謝られるなんて、なかなかない経験だよなぁ!」
「しかし、ああいう風に、ゴリルの事を言ってくれるってのは、なんつーか、とても誇らしいぜ……」
「ああ……。俺たちも、ちょいと前は、ゴリルの剣に助けられたからなぁ」
「ウチのクランの新人も、随分、世話になってる」
「ゴリルはウチらにとっては、世話焼きの家族みたいなモンだからな!」
「たまに流れの商人が、ゴリルを見てバカにしていて不快だが、あのクルルカンの嬢ちゃんは、人を見る目があるぜ!」
「ゴリルのいい所を、よくわかってやがる!!」
「「「「ちげえねぇ!!」」」」
周りの冒険者さん達が、賛同してくれる。
そか。やっぱり、ゴリルさんはすごい人なんだね。
「お、おい、やめろ! や、わかった! わかったから! 嬢ちゃんも、いい加減、頭あげな!」
「う……で、でも」
「バカヤロー、おまえみたいな目立つナリで頭下げられたら、俺も目立っちまって仕方ねぇ!!」
う……そこまで言われたら、頭を上げるしかない。
ノロノロと、姿勢を正す。
「ま、まったくよぅ……今度、娘の顔を見に行った時、サルサにする言い訳を考えねぇと……」
ピリピリ、ピリ。
手紙の封を切り、中の手紙を読み始めるゴリルさん。
しばらく読んで、顔が、驚愕に染まる。
「?」
「なんだこれ……」
「? どしたの……」
え、サルサさん。なに手紙に書いたんですか。
「おい、嬢ちゃん」
「はい?」
「……この手紙によ、倒れてるサルサを、お前が村まで運んでくれたって書いてあんだけどよ……」
「あ、はい」
そうだね。
「……後よ、湯が沸かせなかったときに、すげぇ勢いで火を出して、めっちゃ助けてくれた、って書いてあんだけどよ」
「は……はい」
やっば、サルサさんとシマさんに口止めすんの忘れた……。
「お、お前、なに俺に謝ってんだよ……これが本当なら、お前、俺の奥さんと赤ん坊の、命の恩人じゃねえか……!」
「あ、いや……それは、まぁ」
結果そうなっただけでありまして。
いやまさか、私も妊婦さんが倒れてるとは思わなかったわよ。
「……お前。運んだって……その小さな身体で」
む! 何よ! その信じてないような目は!
失礼しちゃうわ!
「あのね! 私、そんな人でなしじゃありません! 妊婦さんが倒れていたら、助けるのが普通でしょうが!」
カィン! と、両手を腰に当てて、ふんぞり返った。
困っている人を、見て見ぬ振りはしないわよ!
そんな事したら、流石に両親に顔向けできない!
看板娘の名折れだわ!
「え、いや、そうじゃなくってだな……」
ゴリルさんが、唖然と見ている。
周りの冒険者の人達は、何故かニヤニヤしている。
「…………く」
「?」
「くっくっぐご」
ぐご?
「────ごぉあっはっはっはっははは!!! な、なんなんだこの嬢ちゃんは!! 意味がわからねぇ! ご、ご、ごぁっはっははっはっはっはっはっはっははは!!!!!!」
────……!
す、すごい特徴的な笑い方ですね、ゴリルさん……。
「ごはっははは……────おい、ヒゲイド!!!」
「────なんだ、ゴリルよ」
お、なんだ何だ?
ゴリラさんと、大男が、厳しい表情で睨みあっている。
……な、何なのよ。
「────俺は、」
ガッ!
ゴリルさんが、革鎧の前で、腕を組む。
両足を、肩幅に、開く。
めっちゃ、息、吸った。
「────俺は! このッ!!
クルルカンの嬢ちゃんがッ!!!
気に入ったああああああああああああああああああああああああああああああァァァ────────────────!!!!!!!!!!!!」










