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ホールエルのまちじかん



 ホールエルの街に、

 いったん帰ることにした。


 うさ丸たちを聖女ちゃんに預けて、

 外泊しちゃったのよね。

 もしかしたら……、

 心配されてるかもしんない?


 それに、報告しなきゃいけないコトもあるし……。

 いつも通り、縮小マップを表示する。


 森はもう、たくさんの足場の生えた、

 公園の遊具みたいなもんに感じる。


 ハシゴを登るように木を蹴るのも、

 随分と慣れちゃったもんだわ。



 重力の方向を、少しだけ無視しながら。


 街へと、急ぐ────。




  キ────ン・・・!


   ギ────ン・・・!




 移動中に聞こえてきたのは、

 有難ーい精霊王の、お言葉。



〘------しーらないのんっ☆ 知らないのんっ☆

 ------あれ;けっこうな濃縮液だったのんよ?☪︎.*・゜〙


「な、なによ、いきなり……」



 銅のお姉さんらに、あげた(アレ)のこと?

 だって、アンタねぇ……。

 なんかワケありっぽそうだったしさぁ?



〘#……くっくっく。知らず知らずのうちに自らの境遇と重ね、同情していたのではないのかね?〙


「そっ、そーいぅワケじゃ……!」

「アンティ、優しいからなー」



 も、もぅ! アンタまでぇ。

 ただ、なんかアソコで渡さなかったら、

 かなり後味がワルかったっていうか──……。



『────ふふ。

 ────それが:アンティの良い所ですから。』

『>>>ははっ! ま、転売されない事を祈っときなよ!』



 ──て、転売て!!


 言うても、

 酒とヒールスライムのブレンドだかんね!

 ヒールスライムって、あの白い格闘部屋(ホワイト・ボックス)にも使われているんでしょう……?

 そんな高額には──なんないと思いたい!



「──い、いーもーん! 何処で誰が(もう)けようが、どーでもいーもーん!!!」

「どんな人に使うんだろねー」



 ぬあーっ!

 横向きにジャンプしながら、

 私は頭を抱えた!

 


「ああもぅ! やっちゃった事はいーの! 問題はっ! まだ、なーんにも解決してないってことじゃないのよーっ!!」

「そだねー。仕切り直しだねー」



 ウンウン、と。

 マイスナも、森を横向きに吹っ飛びながら、

 同意する。


 そうなのだ……。


 "薬草不足の原因"が、

 まぁるで、わかってな──いっ!!


 怪しい盗賊団の事も、サッパリだし……。

 うむむ、あのアサシンお姉さんズは、

 冒険者襲撃とは関係ない感じだったしなぁー。



『>>>ぼくらが探している盗賊団は、武器として長物(ナガモノ)を使ってたって話なんだろぅ? 彼女たちのメインウェポンは、どう見てもナイフや短剣だった。まぁ……違うだろうね』



 ちぇ……あのお姉さんたちと、

 同じような戦闘スタイルの先輩が言うもんだから、

 妙に説得力があるぅ……。


 ナガモノっつーと、

 長剣やら槍やらを使う盗賊団ってコトになる?



「あぁ……さっぱり、わかんないわね。ただ……あの"目ん玉の集合体"のことは、一応……聖女ちゃんに報告しといた方がいいのかなーって」


『────同意します。』

『>>>ああ。あのチビっ子ギルマスちゃんは、何だか北東を調べてほしそうだったし、それは賛成』



 そうよねぇ……。

 出来れば、ややこしそーな案件なので、

 何も報告したくはないんだけど……。


 ドニオスの街では、ぶっ飛ばした魔物の数を報告しなかった事を、キッティに注意されちゃった事があるのよね。


 ある地域の魔物がゴッソリ居なくなると、

 縄張りとかが変化して、

 思わぬ危険が発生する事があるとか何とか……?


 よーするに、まぁまぁ強い魔物を倒した場合、

 ギルドに報告することによって、

 他の冒険者さんの安全性が上がる、

 ……って解釈でいっかな?


 たまにオーク豚とかは……多少、

 チョロまかしてはいるんだけども。



「お姉さん達、ボコった事も言う?」

「う"っ……、そ、それは……」



 言 い た く ね ぇ ぇ ぇ …… !!


 他のクランとモめちったってのは、

 出来ればヒミツにしときたい……!


 ヒゲイドさんのジト目が、目に浮かぶゥぅ……!



「胃がキリキリする気がするわね……」


『────気のせいです「おいコラ」。

 ────こちらは首を容赦なく狙われたのです。

 ────木に叩きつけるくらいの抵抗は:

 ────当然の対応だと進言します。』


「あら、言うようになったじゃない!」


『────ふふ。

 ────いまや:肝っ玉母ちゃんですので。』



 みんなと、おしゃべりしながらだと、

 ホールエルには直ぐに到着した。


 街門の憲兵さんが、仰々(ぎょうぎょう)しく会釈(えしゃく)してきた……。

 話しかけてみようか。



「──すみません。近辺の薬草ですが、あまり集められませんでした。これ以上、採取してしまうと次が育たなくなっちゃいそうで……」


「そのような謝罪は必要ありません。貴女方が、この数日どれだけの量の薬草を届けてくれたか、もう街の皆には広まっています。どうぞお通りください」



 ──うえぇっ!

 むちゃくちゃ丁寧に対応されたので、

 えらいビックリする!

 こ、こんな小娘に、

 そこまで(かしこ)まらくてもいいのよ……?



「アンティ、そゆとこあるから」

「?」



 マイスナの発言に首を(かし)げながら、

 街の中に入った。


 しかし……マジっすか。

 薬草配達がウワサになってる、ですって……?


 はぁ……。

 もう、マントでヨロイを隠す必要は無さそうね……。



「とは、言ったものの……」

「いっぱい見られてるねー」



 金ピカの"黄金の義賊クルルカン"と、

 銀ピカの"狂銀オクセンフェルト"が、

 仲良く歩いていると、やっぱ、こうなるわなぁ。


 昨日の夜は少しだけ雨が降ったけど、

 今日は良く晴れていた。


 水溜まりに波紋を作りながら、

 ちっこい女の子が、近づいてきて──。



 ──ぱしゃぱしゃ、たたたたたた!



「──ねぇ! なんで女の子なの?」

「……」



 チンコが無いからじゃ。


 とは言えないので、

「あはは……神様が知ってるかもね?」

 とか答えておく。



「かみ、さわらせて!」

「……」



 迷ったが、しゃがんであげた。

 楽しそうに私の髪をサラサラしている。

 何が楽しいんだか。



「わぁー!」

「ずるいぞ!」

「ぼくもやる!」



 ……やれやれ。

 どこの街でも、だいたい子供は変わらんなぁ。

 マイスナは、横の男の子のほっぺを揉みしだいている。

 中々の攻撃だ。


 しばらくすると、

 お母さん方も恐る恐る近づいてきた。



「あ、あの……ウチの子がすみません……?」


「あ、いえいえ! 慣れてますんで、だいじょぶですよ!」

「きょうぎんだぞー、こわいんだぞー♪」


「きゃっきゃっ♪」

「おんなのきょうぎんなんて、こわくないぞ!」



 マイスナが、ガキンチョ達と遊んでる間に、

 何やらお母さまチームと話すことができた。



「あらぁ! じゃあ、やっぱり薬草を届けてくれたのは、あなた達だったのね!」

「運び屋専門の冒険者さんがいるとは、知らなかったわぁ……」

「ねぇ。なんで、そんな格好をしてるの?」


「あっははは……」



 久しぶりの、黄金の愛想笑いである。



「ポーションが不足気味なのは、ただただ不安よねぇ……。薬が減ると、水も不足しがちになるのよ。よく使うようになるから」

「お肉も少しずつ高くなってきているわ……野菜はまだ大丈夫だけど……」


「……そうなんですね」



 主婦さん目線の意見が聞けたのは、

 けっこう貴重かもしんない。

 ホールエルの街の、ナマの声ってやつ?


 薬草が不足する事で、

 色々な生活の不具合が起き始めてるんだわ……。

 おっと、あまりゆっくりもしてられない。


 子供にバイバイしたマイスナに、

 髪のひと束を接続し、

 ママさん達に聞いた情報を伝達する。



「リビっち、薬草の畑を作るって言ってたね」

「でも、育つのに時間はかかるはずだわ……」



 東の住人さん達の、好奇の目をスルーしながら、

 聖女ちゃん御在宅の、デッカイ教会に着く。



「おかえりなさいませ。アンティ様。マイスナ様」



 ──ガ、チャ・・・ゴ、ゴ、ゴ……。



 お辞儀をしたモナリーさんが、

 直ぐに門を開けてくれた。


 うん、母さんと同じ黒髪なので、

 ちょぴっと羨ましい。

 メイド服の黒とも、とってもマッチしてること。 



「うさ丸様とカンクル様を、どうぞ手厚く褒め称えてさしあげてくださいまし……」


「ぇ。あ、は、はいっ」

「んゅー?」



 ……どうやらウチのアニマルチームは、

 台所掃除に多大な貢献をしたようね。


 教会の廊下で、目付きのワッリい、

 ピンクの猫が足に抱きついてきよったので、

 ソーセージを旋回させながら投げたら、

 良いジャンプでキャッチした。

 やるやないの。

 つーかなんでコイツ二足歩行なの?



「フナ"ナ"ァァァア"────!!!

 ガブガブガブガブガブガブガブウゥゥ──ッッ!!!」


「申し訳ありません……チルテトがあそこまでメスをかなぐり捨てるとは……」


「あ、女の子なんすね」

「女の子はねー、ごはんに弱いんだよー」



 桃聖女の部屋に着くと。

 リビエステラが、先生の真似事をしていやがった。


 何やら聖なるスティックのようなもんで、

 黒板を刺している。

 おまえ、それ矢ァやないか。



 ──ぺしっ!



「──はいっ! これは!?」


「にょ、にょきっと……」

「くゆー?」


「読めませんか……。では──はいっ! こっちは?」


「にょにょや……」

「くゆくゆ」



 ママ事は他所でやれ。



「──はっ!!? お、お、お姉さまァァァァァァ──!!!!!」


「ラリアットやめぃ」



 突進してきたジャリピンクを、

 ヘッドクローにて捕獲する。

 ビクンビクン動くんじゃねぇ。

 静まれ聖女、こえーわ。



「お待ちしておりましたわぁぁあ──♡♡ 昨晩はお帰りにならなかったので、何度、ふと……枕を濡らしたことか……! あ! ちゃんとお姉様方の従獣のお世話はさせていただきましたわっ♡」


「リビ。あの黒板は何なの……。うさ丸たちに何してんの……?」


「あっ、いや。このラビットちゃん、何やら、やたら知能が高そうでしたので! 文字を読めるか試そうとしておりましたの♡」



 あのさぁ……。

 うさぎが跳びこえる必要のない壁つくんの、

 やめてあげてくんなぃ……?



「にょきっとなぁー……!」



 明らかに困った顔のうさ丸が、

 肩に登ってきよった。


 ──ぴょんぴょん、ぽむっ。



「にょにょー。にょにょやーぃ……!」

「よしよし……安心しな。アンタはウサギだ。それがフツウだ」



 字が読めなくたってなんだ。

 にょきにょき、のびのび生きな。



「にょんにょ? ……にょんにょん??」

「なんや?」



 黒板の文字を指さす、うさ丸。

 文字が何か、あんまりわかってなさそうだ。



「あれはね? 声の種類を、絵にしたものなのよ?」

「にょにょお?」

「"文字"って言うの。あの絵を並べて紙に書くと、声の代わりになるのよ」

「っ! にょおぉ〜〜♪」



 うさ丸が、「そういうことか〜〜!!」と、

 私の肩で納得している。

 聖女教室は、ウサギさんには難しいようだ。



「まぁ、アンタは言葉わかってるっぽいから、文字を覚えたら簡単な会話はできるかもね?」

「……にょい?」

「アンタが筆談……あー、えーっと、紙に文字を書けば、私がいなくても皆と話せるじゃない? ほら、文字書いた紙とか見せたらさ?」

「にょ……!」



 うさ丸は、何かに気づいたみたいだ。



「ま、無理でしょーけど。たいへんよー。文字って、種類が多いから……」

「にょきっとな?」

「ん? あそこには" こんにちは "って書いてあるわね。その下には……" ライバル百合 "……って……」



 グギギギギ。



「あら、お姉さま? いたいっ、顔が、いたいですわっ♡♡」



 聖女の顔をクルミ割りにする訳にもいかんので、

 顔で持ち上げたまま、そっとソファに叩きつけた。

 よくバウンドしている。



「くゆぅー♪」

「食われなかったかー」



 マイスナはカンクルを、なでなでしている。

 さっそく報告することにした。


 壁に貼ってある普通の地図を、親指で指さす。



「右上の……北東の森から調査してきたわよ」


「……! どうでしたでしょうか」


「厄介なのがいたわ」


「モナリー、しばらく部屋から離れていなさい。後で私から伝達します」



 モナリーさんの、お茶の用意が加速し、

 (ただ)ちに、鮮やかに、部屋から去る。

 正直、(ひと)(ばら)いは有難かった。



「それで、何が……?」


「黒い、目玉まみれの魔物がいた」


「  …… 」



 私が机の上のメモ用紙に絵を描く間、

 幼い聖女は、血の気が引いているように見えた。


 ……あの魔物の絵なら、

 さっき会ったガキンチョたちでも描けるわ。

 目玉をいっぱい描き、

 筆墨で、ぐちゃぐちゃに塗り潰せばいい。


 ──ペラッ……。



「……こんなヤツだったわ」


「ヘカトンケイルタイプです……。間違いありません」



 リビエステラは、

 13歳とは思えない表情になっている。

 さっきまでの、ふざけた雰囲気は消し飛んでいた。



「自分で厄介とは言ったけど……そんなに厄介なの?」


「ヘカトンケイルタイプは、大きく二種類に分類できます。受肉している魔獣のタイプ、そして……闇の属性を持つ眷属タイプ──」


「後者、だったわ」


「……泣いてしまいそうです。単体でも……上級の冒険者クランを壊滅させるような存在です。薬草不足の街には荷が重いわ」


「……」


「形を教えてください。どれくらいの大きさでしたか?」


「さいしょはモヤモヤした3、4メルくらいの塊だったけど、途中で人型になって縮んだよ」

「ええ。普通の大人の男性のようなシルエットになったわ」


「最悪です。それは魔人化しています。すぐに王都に報告せねばなりません。今から王に手紙を書きます。お姉様方に配達を依頼します」



 聖なるギルドマスターは、立ち上がって、

 ペンと紙を取ろうとした。

 私は、小さな肩を押さえて、座らせる。


 ──ギシッ……。



「……!? 緊急事態なのです……お姉様?」


「待ちなさい」


「お姉様!? すぐに、動かなければ──……!」


「──落ち着きなさい! いいから、待って……」


「──、……?」



 聖女ちゃんは、戸惑いながらもソファに落ち着く。

 くそ……だから言うのはイヤだったのよ。



「たいへんな、魔物なのです……。すぐに……対処しなければ」



 でも、報告した事は正解だったみたいだ。

 説明するしかない。



「その必要は無いの……。ぁー、ぅーんと……」

「もういないから、問題ない」



 マイスナが、スパッと言った。

 ちくせぅ。あまり隠すことは出来なさそうだ。



「……、……。……いない……?」


「……。ええ。もう、いないわ」


「……」



 しばらくリビエステラは考えていたけど、

 やがて、大きく。

 丸い桃色の瞳が開かれた。

 

 誰が倒したのか……察したんだろう。

 信じられないような、そんな目だ。



「──まさか……」


「……」

「だいじょうぶ」



 しばらく、動かない聖女。



「そん、な……! そんなはずは……ないんです! 先代の聖女たちの記述は、それらの系譜に特化しているんです! 私は……経験は浅いですが……それらの記録だけは、誰よりも──」


「リビ……」

「いないよ」


「だ、だ、って……?」



 この子との親密度は、

 いまや、ゼロってワケじゃない。

 頼み込むしか、ない。



「リビ。私たちは……()()()()()()()。バレてはいけないの。これは……お願いよ」


「な……」



 あまり強いことがバレると、

 厄介なことになる。

 秘密が……多すぎるんだ。


 それに……。

 私たちは、勇者になりたいワケじゃない。

 そんなのは、代わりの誰かがやればいいんだ。

 私はもう、幸せだ。



「ぉ…………。お姉様方は……" 郵送配達職(レターライダー) "なの、です……よ、ね……?」


「「……」」



 じっと、小さなギルドマスターの目を見つめる。



「ほ……」


「いないわ」


「 ……、…… 」



 リビエステラは目と目の間を、

 指で摘んで、考え込んでいる……。

 徹夜明けのキッティみたいだわ。


 そーいや私達も徹夜明けだ……。

 全く、どうしてこうなるのか……。



「……ヒゲイド氏は、知っていますの?」



 私たちの、本当の戦力のことだろう。



「……ええ。さわりだけは。隠してくれてるのよ」


「あきれた……。どう低く見積もっても、B+ランクの……不定型の闇属性の知性魔人ですのよ! それを、たった、二騎で……?」


「人型になったら、ちょっと強くなったよ」

「……ええ。頬を傷つけられたわ」


「死刑にすべきですね。どうしましたか?」


「アンティを傷つけたモノを、私はこの世に遺しはしない」

「……チリも残っていないと思うわ」


「信じられない……」



 まーた、難しい顔してる。



「……ヒゲイド・ザッパーは、独占しているの?」


「違うわ。あの人は……心労の絶えない優しい魔王よ」

「ドニオスのお父さんなんだよ」


「なる、ほど……。人情派、ってヤツですのね……」



 あ、なんか困った時の、

 ヒゲイドさんの顔みたいになってる。

 や、あんなヒゲまみれじゃないけど、

 なんというか……雰囲気そっくり。



「……とある冒険者が魔人と接触し、秘密裏に討伐した」


「「 ! 」」


「そういう事で、よろしくて……?」



 ここは、素直に感謝するべきでしょうね。



「そうよ。"郵送配達職(レターライダー)"が強いはずなんかない」

「誰かが、ヤツを無に還した」


「……、(おおやけ)に出来ない分、街から正当な報酬は支払われませんわよ……?」


「アンタが話のわかるギルマスで良かったわ、リビ」

「リビっち、いい子」


「……何処かに白紙の絵本は落ちていないかしら」



 私は食堂生まれじゃい。



「他に……厄介そうな魔物はいませんでしたか?」


「頭がパックリ開いた犬コロが襲ってきたわ」

「ぜんぶ、まずそうだった」


「……」


「安心なさい。もういないわ、ぜんぶ」

「食べられない肉はいらない」


「国の……損失だわ……」



 ……?

 どういう意味?



「リビ……」


「か、隠します! 隠しますが……王都へ登城する必要はあるでしょう。報告はせねば……。眷属系なら、無いとは思いますが……その魔人を使役する存在がいるやも知れません」


「「 ……! 」」



 あの、スミダコ野郎を……"使役"する?

 ──! そういえば……。



「──リビ。" アミ・ミュステル "って聞いたことある?」


「──? あみ、みゅすてる、ですか……?」


「目玉オバケが言ってたのよ。人の名前のような印象を受けたわ」


「っ!! ……。王都に行くのは、しばし延期ですわね……」


「え?」


「先代の聖女たちの膨大な記述は、この教会の書庫にあるんです。"アミ・ミュステル"……でしたわね?」


「え、ええ……」


「調べなければいけませんね……。報告共々、街の代表の一人として感謝致します。どうか……お休みになって」


「ええ。少し休んだら、また薬草不足と盗賊団のウワサを追うわ。ごめん。実は、まだそっちは手付かずなの」

「怪しいやついたら、言うね」


「……」



 なんやぃ、その変な顔。



「……やっぱり、国の損失です!」


「「??」」



 そういって、チビッ子聖女は、

 お部屋の外へと、歩いていった。

 なんなん。



「……ちっと寝てから、リベンジする?」

「そうだね!」


「にょきっと!」

「くゆーっ♪」







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『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[一言] 損失じゃないでしょ。レターライダーなんて街同士の間を安全確実に手紙届けるにはどんな状況でも対処出来ないとだし当然の武力だろう、ちょっとやり過ぎな気もするが… 先代クルルカンは理想かな?
[良い点] アンティが聖女様を「リビ」と呼んだのは、心の中の声を含めても今回が初めての事。 アンちゃんの姉貴肌が出てて好き。 [一言] 流石に聖女様が土下座して見せたこともあってか、ホールエルではクル…
2020/03/13 23:59 琉球ガラスの箸置き
[一言] リビたん…毎晩濡らしてたのは本当に枕なのですかな?
2020/03/13 23:23 謎の百合ケモ耳アンマイ好き
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