お預かりマジック
「はい、じゃあ、これ」
「……はい、お預かりします」
集会所の子供達に追いかけられたり、組み付かれたり、登られたりしていたら、随分、日が登ってしまった。
結局お昼もご馳走になり、少しおちついていたらサルサさんに呼ばれ、手紙を差し出された。
「ええと、料金はどうするの?」
「いらないです。見習いなので」
「ふふ、また遊びにいらっしゃい」
「……どうかな。これから大変だと思うから」
「気が向いたらでいいわ。パンジーも喜ぶし!」
「……それはどうでしょう……」
ガン見して、危機感を覚えるだけではなかろうか……。
「確かに、ゴリルさんに渡します」
「はい、お願いします」
うーん、ゴリルさんにはデカい口きいちゃったからな……
剣を売る理由も知らずに、バカにしちゃったし……。
まず謝らないとダメかな。
「……あら、どうしたの? 難しい顔して」
「あ……いや」
よく、仮面の上からわかるな……
「……実は、ゴリルさんには"無理だと思うが、届けてみろ"って言われて、手紙を預かったんです」
「まぁ! あの人、そんな事を言ったのね」
「いえ……いきなりギルドに、こんな金ピカが来て、"郵送配達職になりたい"なんて言ったら、そうなりますよ……」
「あら、自覚はあるんだ」
「ぐっ……私にも色々事情があるんです!」
「ほぅええぇ〜〜……」
もうっ! この人ほんとにおちゃめだわ!
「ゴリルさんは、よく、あなたみたいなチャーミングな人と結婚できましたね!」
「あら、ありがとう。ふふ、実はね……」
「はい?」
「"お嫁に行く前に、お前を傷モノにして、俺は最低だ"って言われたの」
「ほ、ほおほお……」
「だからね? "馬鹿ね、あなたが貰ってくれればいいじゃない"って言ったのよ」
うおおおぉぉぉぉ……サルサさん、ダメだ。
その話、サラッと、言っちゃダメなやつだ。
こんな通りすがりの、クルルカン娘に……。
「あの時のゴリルの顔ったら! ふふふふ!!」
ゴリルさん、何だかんだ、尻に敷かれてんのかもなぁ……。
今の事は聞かなかったことにしよう。
「じゃあ、失礼します」
「はい。子供たちに見つからないようにね」
ええ、ええ……
また登られるのは困りますからね……。
サルサさんは、部屋を出るまで、手をふっていてくれた。
村の入り口では、何故か、シマおばさんを始め、たくさんの人がいた。
「……なんなんです?」
「いやぁ、実はねぇ……こいつら、あんたに手紙を届けて欲しいんだと」
「え……!」
「ぽろっと、あんたがドニオスに手紙を届ける事を、喋っちまったんだよ……」
おぅいおい、シマおばさん……
だからって、この人数は……
いや、いけるか……。
「……1箇所に、手紙を集めてくれますか?」
「! いいのかい! おいお前達! はやくしな!」
シマさん、さすが行動がはやい……。
どっからか持ってきた敷物の上に、手紙が山盛りになっていく。
おぅい。
100はあるな……。
「……頼んどいてなんだが、大丈夫かい?」
「はは……」
本来なら、この敷物を結んで、かついで持っていくんだろうが、私はそれは、絶対しない。
ゴリルさんの手紙みたいに、汚したり、落としたりは、絶対いやだ。
この手紙たちが、バッグ歯車に行く事は決定だ。
でも、バッグ歯車を使うところを見られるわけにはいかない。
だから、私は……
「少し、離れてもらえますか?」
「? ああ……おい、さがんな」
シマおばさんが、村の人達を、少し下がらせてくれる。
「これでいいかい?」
「バッチリです」
私は、肩のマフラーマントに手をかける。
────次の瞬間!
フゥォオオ────……!!
「!!」
「わぁっ!!」
村の人達から、驚きの声が上がる。
私の右肩のマントの体積が、いきなり5倍ほどに膨れ上がったのだ。
空気を孕んだ右半身のマントは、カーテンのように、手紙を覆い隠す!
シュバッッ────!!
瞬間、大きな白金の生地は、元の大きさに戻り、何事もなかったかのように、私の肩で、そよ風になびく。
「す、すげぇ、なんだ今の?」
「マントが、おっきくなった!」
「魔法のマントだわ……」
「お! おい見ろ、手紙の山が!」
「ど、どこに行ったんだ?」
「大丈夫。────全部、確かに預かったわ」
私は、決意を持って、みんなにかえす。
「必ず、ドニオスに届けるわ」
「「「おお……」」」
……なんか、予想以上の反応ね。
バッグ歯車を見られたくなかったから、
劇場幕で隠しただけなんだけど……。
「あんた……そのマント、すごいマジックアイテムだね!」
「へ?」
……あ。そういう見方ができるのね。
な、なるほど。
ただの手品と思ってほしかったんだけど……。
「……腐っても、クルルカンだから」
適当な事を言っておいた。
────かける、かける、かける。
手紙をつれて、ドニオスに向かって!
アナライズマッピングのお陰で、道に迷う事はない。
一直線に、目的地のほうへ!
もうすでに、森は私の庭。森は私の道。
デコボコしていたほうが、加速できる足場が増える。
流れる景色は、緑と光のカーテン!
地面を蹴るのは、息継ぎのよう。
はやく、はやく、とどけたい。
もっとはやく────────
『────警告。震音感知。』
「!! どっち!?」
今は、たくさんの手紙を、持っているのに!!
敵なの!? 出来れば避けたいわ!
『────前方。多方面に展開しています。』
「なんですって! また、群れなの!?」
くそ!
多方面って事は、完全に通り道を塞がれてるじゃないの!
迂回しても、道が開くとは限らない!
突っ切るしかない!!
「クラウン! 手薄な所を進む! ドニオスの向きも表示!」
『────レディ。
────推奨進行方向マーカー:赤。』
────ドニオス方面マーカー:青。』
「たすかる!!」
視界に2つの、色違いの矢印が表示される。
右下に見える地図に、青い点から、水の波紋のように、光の輪が広がっていく。
「この青い点! ドニオス!? だいぶ近いじゃない! こんな所に魔物が!?」
『────否。音響索敵による敵、武装識別を確認。』
「な!! それって……!」
『────前方に、武装した集団を確認しました。』
──ザッ!!
男が2人、木の陰からでてきた所だった!
「なっ!!!」
人だっ!!
武装した人間の集団だっていうの!?
思わず、姿勢を制御して、速さを落とす。
双剣を持った男が、私を見る。
「……ん?」
「…………」
「……おお」
男の目が、大きく見開かれる。
「おおおおおお! いたぞ────!! クルルカンだ────!!!」
「な!!!」
────そ、そんな……まさか。
────こいつら、私の事を探していたの?
────武装した、大勢の人間が?
────え、ちょ、なんで?
ジリジリと、よってくる、武装した大人たち……。
え、や、ちょ、いや…………
「「「捕まえろ────!!!!」」」
「びゃあああああああ!!!」
────な、何故だぁぁぁぁああ!!!