ドニオス直帰と特製ケーキ(ッティ)
小分けだとはやいんだコレが(´꒳`)ホッコリ
俺、ヒゲイド・ザッパーには、
似つかわしくない趣味がある。
「む、こんなものか……」
シュポあぁ────ジュ──。
今、作っているのは、
フライパンで作るケーキである。
あの金ピカ娘からレシピを教えてもらったものだ。
良い香りだ。
もういいだろう。
「ふむ、外見はマシに見えるな……?」
────ポンっ。
皿にひっくり返した焼き生地は、
どうやら失敗はしていないようである。
「ふ……街の冒険者どもにバレたら、笑われてしまうな……」
昔は"ドニオスの荒くれ巨人"などと呼ばれ、
恐れられていた身長三メルトルテの大男が──。
今は、ギルドマスター専用の執務室で、
フライパンケーキなんぞ焼いているのである。
「……くっくっく。さて、ええと? 次は生クリームと苺、か……」
クルルカン印のメモを見ながら、
先ほど用意した甘い白と赤を、飾りつける。
「──"お皿の方を回しながら、ホイップクリームを塗るとやりやすいです"……? ……! なるほど、こうか──」
──この巨体だ。
結婚できるとは思っていない。
巨人系を勧めてくるジィさんなどもいるが……、
女性に気遣いができるようなスキルなど無い。
は……。昔、さんざん暴れたのだ。
あまり、自分に好かれるような要素が、
ないという事も解っている。
「苺はどれだけ乗せればよいのだ……? ええぃ、全部いってしまえ!」
幸い、ギルドマスターという仕事は、
それなりに、性に合っていたようだ。
今、冒険者たちとは上手くやれていると思う。
出来る限りは続け、
のんびり、料理の腕でも磨こう。
執務室を改築した際、キッチンを増設したのは、
そのためである──。
「むっ……少々、盛り付けを張り切り過ぎたか」
出来上がったケーキは、
中々、気合いの入った仕上がりだった。
(綺麗に円状に盛り付けたのが、いけなかったか……。パッと見なら店売りにも見えるが、中身が俺の焼いたモノではなぁ……。ううむ)
見た目がいい分、
何だか恥ずかしくなってしまった。
一応、クルルカンの言う通りには、
作っているはずだが……。
「冒険者連中に食わすワケにはいかんし……キッティにでも処理させるか」
──ズシン・・・。
自作ケーキを持ち上げ、受付へと向かう。
「アイツとの付き合いも、今年で10年目になるんだな……」
丸9年も経つと、もう妹のようなモンである。
本人には言わんが────。
ズシン・・・。
ズシン・・・。
ガチャ・・・。
「おい、キッティ────」
「くっかぁ────……」
……まぁた、寝てやがる……。
「……。やれやれ……。コイツが王都を含む、全てのギルドの共通書類形式を、イチから作り直したとは、信じ難いな……」
全てのギルドで、
円滑なクエスト運用が出来る書式。
通称──"キッティ式"を数年前に考案したのは、
今、受付カウンタで、
肘ついて寝ている、このアホである。
「くみゃ────……!」
「……あのあたりまでは、秀才児だったのだがなぁ……。まぁ、魔災孤児として見れば……明るく育って良かったのだろうが……やれやれ」
──カタン。
とりあえず、アホ面で寝ている、
キッティの顔の真下にケーキを置いておく。
ちょっとしたサプライズにはなるだろう。
「ふん……」
少し離れ、カットした葉巻を、
指から出した炎で、炙っていく。
ケーキ生地とは、また違った、
豊かな香り────。
フゥ──、ホワァ──…………。
「──……ふぅ。アンティ達は、上手くやっているだろうか……」
「くっかぁぁ────……」
「……む?」
「──……空耳か?」
いや、しかし──……。
キンギンキンギンキンギンキンギン────!!
「……。……すはぁぁぁ────」
思ったより、はやかったな。
キン ギン キン ギン
キン ギン キン ギン !!!!
──────ザッ!!
「ヒゲイドさぁぁああああいんんん──!!!」
「ただいまぁああああ────!!!」
「おう」
「──ひゃわっ、ぶぁっ……!? (カクンッ)」
──べちゃぷ……!
あっ、キッティ、おまっ……。
「ただい、……うわぁ……」
「わぁー」
「にょおぉ……」
「くゆっ!」
「ぁ、あまいですぅぅ……!?」
「……かお、洗ってこい。バカたれ」
顔面ホイップ(*´ω`)。*・゜










