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しょぼんらいだー

 サルサさんがいる、病室に向かう。


 というか、個室に近い。

 ここは、病院じゃあない。

 この村でここが、一番、衛生面がいいんだろう。

 大きくない村で、生きるための努力が作った場所だ。

 シマおばさんが、先にドアをノックする。


 ココン。


「サルサ、クルルカンの嬢ちゃんだ。入るよ」 


 ガチャ。


 あ、返事は聞かないんだ……。

 ……出産後の女の人だと、返事するだけでも大変かも。


 シマおばさんは、遠慮がないように見えるけど、多分、すごく色んな事に気づく人だ。

 わかってやってるんだと思う。


 私もすぐに、中に入る。

 少し傾斜をつけたベッドにいるサルサさんと目が合う。


 あ……顔色がいい。


「ふふ……夢じゃなかったわね」


 そんなふうに、言われた。




 ベッドの側に椅子2つ。シマおばさんと、サルサさんが、親しそうに喋っている。


「まったく、あんな身重で、畑に行くからだよ!」

「……かえす言葉もないわ」

「たまたまクルルカンが来たから良かったけどね!」

「ふふふ……」


 えと、会話に入りづらい……。

 何話せば……

 接客の時とは、勝手が違うな……。


「いやぁ、しかし、今回は余裕あったね!」

「え!? ……そうなんですか?」


 あんな、てんてこ舞いだったのに!


「何言ってんだい、あんたのお陰だろ!」

「わ、わたし?」

「ああ、そうさ。この村じゃ、破水した時は、家にいる方が多いからね! いつもは、そこの家に出向くのが普通だ!」

「そ、そうなんですね……」

「ああ……ここも、ベッドが限られているからね。村人に開放すると、すぐに埋まっちまうから、出来ないんだ」

「なるほど……」

「でも、あんたはサルサを連れてきてくれただろう?

 ありゃあ助かったよ! そのちっこい身体のどこに、あんな力があるんだろうねぇ!」

「はは……」


 シマおばさん、声でかいです。


「後、あんなに湯が切れないのは、初めてだったねぇ。随分はかどったもんだ!」

「それは、よかったです」

「いや~クルルカンが火の魔法使いだとは、知らなかったよ!」

「え? いや、それはどうだろ……」

「なんだい。あんた、"クルルカンの生まれ変わり"なんだろう?」


 げッ……さっき子供達に言ったの、聞かれてたのか。


「あ、いや、あれはですね……」

「なんだい! ホラかい、はっはっは!!」

「あ──……」


 なんか空気に飲まれる……はは。


「まぁそんなこたいいさ。あんたは間違いなく、私達の英雄だよ」

「────ほんとうに、ありがとう。クルルカンさん」

「あ、はい、いえ!」

「まったく! 歯切れが急に悪くなる娘だねぇ!! 集会所で叫んだ威勢はどこいったい!!」


 はは────……勢いってこわいわね──。

 確かに色々叫んだ気がするわ──。

 普段の自分と、少し口調も違ったもんね……。


「ホラ、あんた、サルサにわたすモンがあんだろ!」

「────わたしに?」

「あ、はい。これ……ゴリルさんから」


 懐に手を突っ込み、歯車が見えないように、手紙を引き出す。


「まぁ……! ゴリルからの、手紙ですか?」

「はい。私、郵送配達職(レター・ライダー)の見習いなんです」

「れ、郵送配達職(レター・ライダー)だって!? あんたまた、すっとんきょうな事を言い出すねぇ!」


 す、すっとんきょう……

 あれ、前にも言われたような……。


「どうぞ」

「ふふ……ありがとう。読ませてもらうわね」


 パラッ……






 あ……。



 封筒に、泥が、跳ねた後がある。



 サルサさんも、気づいたはずだ。

 でも、何も、言わない。



 仮面の下で、目を見開き、音が聞こえなくなる。







 ────この時。



 私は、やっと、とても恥ずかしい失敗(・・・・・・・・・・)をしたんだと、認識した。



 ゴリルさんが、奥さんに宛てた手紙に、泥を、飛ばしたのだ。



 なにを……

 何をやってんだ、私は。



 これは、この手紙は、気持ち、そのものじゃないか……!



 これは、一番やっちゃいけない、最悪な、失敗なんじゃないのか……。






「ふふ……」


 サルサさんが、嬉しそうに手紙を読んでいる。


 だからこそ、申し訳なかった。 


 不甲斐なさに、気分が落ち込む。


 天気の良い、明るい部屋の中で。


 封筒の泥だけが、いやに目立って見える。


 この、やってしまった、っていう、苦い気持ち……。


「……ごめんなさい」


 私は、耐えきれずに、謝罪を口にした。





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