おしゃかのゆくえ 上 さーしーえー
● 今日のテーマ ●
クラたんをナメるなよ。ฅ( ˙꒳˙ ฅ)+
誰しも、悩みを持っている──。
こんな書き出しの地の文があれば、
だいたい、この下に書かれそうな展開は、
予想がつきそうなモンである。
問題は、
何が、問題で。
誰の問題、なのか。
それが、問題だ。
『────むむむっ:むむむ……。』
もう少し、
話題性を生む書き出しをしよう。
誰しも。
重大な悩みと、
しょ──────もない悩みを持っている。
それはモチ。
彼女にも、あてはまる────。
『────なぜ:でしょうか……。』
"歯車法常時展開型基幹デバイス"、
クラウンギア=アマテルにも、
しょ────もない悩みは、ふたつある。
『────ううむ……。』
ひとつは。
『──最近、自分の見た目、変わりすぎじゃね?──。』
ということである。
スキルの補助デバイスという存在だったはずなのに、ホレた男に身体をコンバートされて抱かれるという偉業を四ヶ月(+1000年)という電光石火で達成した人妻AIっ娘には、それなりに女性らしいお悩みも発生していた。
彼女が依存していると思われる"歯車法"は、"電離法"と融合した影響で、今現在も性能の向上や運用流路の最適化が、随時、進行している。
"電鎖歯車法"の機能が自己改良・自己進化していく度に、影響は環境に反映されていた──。
船が、戦艦になったり。
月が、知らん間にできたり。
自分の髪型が、急に変わったりである。
『────うーん……。』
クラウンが今日、起きたら。
ちょっと、髪型のデザインが変わり。
首と、二の腕には、
歯車っぽいアクセサリーが装備されていた。
『────害は:ないようですが……。』
この空間の進化により、
なんらかの影響を受けているらしい。
自分のボディをさわり、少々、戸惑う。
『────明日……起きたら:
────ボンキュッボンになってたら:
────どうしよう……。』
しょ────もない悩みである。
で、あるが。
世帯持ちの嫁さんとなると、
分からなくもない心配だ。
彼の気持ちを思う。
日付が変わる度に、
自分の嫁さんが百変化していたら、
どう思うのか──。
『────むむむ……。』
分かりやすく言うならば。
スキルの勝手な進化によって、
自身のアバターのキャラメイクが、
ランダムに、極わずかずつだが、
ノリで変更されるのである。
『────こっ:これは……け、けが……。』
ノーコメント。
『────:うむむむむむ──。』
ロボっ娘属性のはずなのに、
何とも悩ましい成長期である。
『────カネトに:嫌われたくないです……。』
よし……。爆発しろ。
ちなみに初代義賊は嫁さんにベタ惚れなので、
些細な変化は目に止まらない模様。
ぶっちゃけ誤差レベルなので、
毎日の良い刺激。
『────悩ましい……。』
これが、ひとつめの、
しょ──────もない悩み。
『────うーん……。』
んで、もひとつの悩みが。
ゴムひもの切れたピカピカパンツを、
何故か、自分が所得しているという事である。
『────破損度:中……。』
びょ──ん、びょ──ん。
どこで、紛れたのか。
紛れもなく、彼女のスキルバディ、
アンティ・キティラの標準装備である、
" ごぉるでんぱんてぃ "の一である。
昼にも夜にも履くのを忘れられつつある、
可哀想な標準装備ではあるが。
『────何故:私のプライベート・格納庫に……。』
ほぼ猫耳型のアタッチメントを着けたデミメカっ娘が、オシャカになった御主人の下着を両手でみょんみょんしながら『へ』の字クチで困っている所を想像すると、非常に哀愁ただようシーンである。
『────私が壊したのでは:ないですよ……。』
※犯人は猫娘という御息女です。
↑おいやめろ!
『────うーん……。
────最近:いくつかのシステムが:
────自律進化してしまいがちですから──。』
こんなイレギュラーなアイテムを、
知らぬ間に取得していたなどと。
スキルを管理している身としては、
お恥ずかしい限りである。
『────私が:壊したのではないですが:
────私の監督不行き届きではありますね……。
────アンティは:怒るでしょうか……。』
想像する。
うん、怒らない……かな?
(0.24秒)
『────新しい:"ごぉるでんぱんてぃ"装備は:
────"しるばりぉぱんてぃ"装備と共に:
────既に仕入れていますし……──。』
真摯に謝れば、
ぱんつくらいでは怒られないかな? という、
新妻クラたんの予測である。
そして、それは真実であろう。
たぶん、
ぱんてぃのヒモがクラッシュしたくらいで、
我らが首領は、怒らない。
────となると。
『────むぅ……。』
びょ──ん、びょ──ん。
許される事がほぼ確定したのなら、
次に発生するのは──興味である。
もし自分が履いたら。
どんな風……なのだろうか───……?
『────んむ……。』
フルボディチェックが日課になりつつあるクラウンは、ちょうど、ミラーデバイスがある空間に籠城している。
『────よ:よいしょ……。』
片足だち。
『────:……、と……。』
装☆着。
す──るるるるる。
『────あわわわわ……。』
おちた。
『────:……破損度レベルを:重に更新。』
修繕が必要である。
『────……。』
新品を借りて、試してみようかな?
『────ひ:非推奨。非推奨……。』
それはダメっぽい。
義賊のご主人から、
下着をぶんどってどうする。
『────……アンティ:ごめんなさい……。
────少しの期間:預かっておきますね……。』
直せるかもしれませんし、と。
クラウンは、破損ぱんてぃをハンガーに格納した。
『────む……しょ────もない問題に:
────時間をかけてしまいました……。』
気がつけば、深夜の0:36時頃である。
クラウンは秘密の空間から抜け出し、
い草の香る部屋に、舞い戻る。
『>>>……すぅ……、すぅ──』
『────ふふ……。』
愛しき人が、可愛らしい寝息を立てていた。
このまま布団に潜り込んでもいいが──、
『────……。』
────月が、やはり美しい。
『────むむっ……。』
本来は、
この世界にはソルギアしかなかったはずだが……。
──なぁに。
クラウンには、あの月の主成分は、
わかっている。
『>>>む……──ぅ、すぅ──……』
『────……。』
クラウンは、初代クルルカンに、
優しく布団を被せ、部屋の外に出た。
────ヴォ・・・ォオオン──・・・!
ホログラムが集まり、簡素なドレスとなる。
大仰なものではない。
ノースリーブの、ワンピースに近い。
──日の神は、月の下を歩き出す。
『────綺麗……。』
嫉妬のようなものを感じながら、
クラウンは、幻の空が見える外側から、
構造体の内側へと入っていった。
トン、トン、トン──。
箱庭フォートレス"天福"は、
言うまでもなく、
戦艦状の船舶の上に、和風の城が構成された、
移動要塞である。
その朱の天守閣の内部は、
大きく空間接続が歪んでおり。
外見より、遥かに大容量の居住区を内包している。
各・エリアブロックは常に入れ替わり、
襖と襖は距離に関係なく接続し、
ハコニワ城の中は、まるで迷路の様である。
──トン、トン、トン……。
『────ふむ……。』
しかし、どうやらこの城は。
幻の住民たちの意思を、よく汲み取るようである。
常にランダムに空間は組み変わっているが、
たとえば──……、
"酒が飲める場所"に行きたい。
と、ここの住人が思えば、
勝手に道は切り替わり、
いつの間にか、道が繋がるのである。
巨大な和風の城の迷路は、
既に、とても居心地のよい我が家となっている──。
クラウンは、まるで家族を労るように。
朱色の木造で組まれた手すりを、ポンポンとした。
『────ふふ……。』
──ペタ、ペタ、ペタ──……。
城の内側に入ると、
内部は、大きな吹き抜けになっている。
もちろん、内装は朱色の細工が光り、
オレンジ色のちょうちんが、
不気味にも優しく、赤い色を浮かびあがらせる。
──ぽわ・
──ぽわ・・
──ぽわ・・・
しぃ・・・・・・ん。
『────……、……。』
人の感覚に近づいたクラウンは、
この空間の美しさが、よくわかった。
この静けさに、自分の足音だけを響かせるのは、
なんとも贅沢である。
──・・トンっ。
──・・トンっ。
──・・トンっ。
必要最低限に照らされる、
少し急な木の階段を、
ゆっくりと降りる。
階段は少々不揃いだが、
どの木の階段も、
つるつるに磨かれている。
この城が、皆の記憶で創られたダンジョンならば、
このような和の内装は、
あの二人の心を映している──。
『────"ユウカク"という場所は:
────このような高い城だったのでしょうか──。』
今度、聞いてみてもいいかもな、と、
クラウンは思いながら、足を進めた。
──トンっ。
──トンっ。
──トンっ。
『────……。』
実を言うと。
クラウンは、夜の散歩をしている訳ではない。
明確に、ある人物の元へと向かっていた。
ふとした、きっかけだったのだ。
好きな人が、先に寝ていた。
ただ、それだけの────。
『────見つけられ:なかった。
────でも:この船は……。
────"意思"を読み取り:繋げてくれる──……。』
あやしいと、彼女は思っていたのだ。
だが、見つけられなかった。
だから────クラウンは。
箱庭の、" 目的地を思うと繋げる "性質を、
利用しようと思ったのである────。
とん。
とん、
とん……?
いつもは、襖の向こうや、
障子の向こうから『ガチャン……』と音がして、
居間や、寝室へと繋がる。
しかし、今は──。
足元の木の階段は、暗闇へと進んでいた。
『────……。』
真っ暗な中で、
木の螺旋階段だけが、
のんびりと続いている。
" 箱庭は、案内する。"
クラウンが会いたいと思う者は、
そのような場所にいるのだ────。
────階段が、途切れた。
『────:………………。』
目の前の暗闇には、何もないように思える。
しかし。
クラウンは、信用した。
────手を前に、かかげる。
『────デバイス権限:執行。
────シークレット:エリア。
──────" 強制解錠 "。』
────ヴォ・・・!
クォォオオオオオオ────……!!
正方形の、
黒い折り紙のようなものが。
何枚も、不可思議な音を出し、剥がれていく。
意思を持ったように、左右に分かれた。
クラウンは、進む──。
『────……。』
階段が、ある。
暗い部屋に、臆することなく、入る。
1段。
2段。
……3段目。
────ポちゃん……!
『────……っ……。』
4段目から、素足が水に触れた。
この球体状の部屋の床には、
水が溜まっているらしい。
ここまで進むと、
部屋の真ん中に、
青と緑の、光が見えた────。
部屋の中心にいた人物が、
水音に気づき、クラウンの方を向く。
『────。』
クラウンは、そのまま進んだ。
──ちゃぼっ……!
───どぽっん……!
────じゃばっ……!
水は、太ももまで浸かる。
部屋の真ん中には、
池に浮かぶように、
床となる範囲があった。
部屋の主は、座っている────……。
────ふたりは、目を合わせた。
『────……こんばんは:ローザ。』
〘------あちゃ────……☪︎.*・゜〙
ローザが座っているシートの前には、
青と緑の光が、
様々な情報を映し出している。
展開されているモニターは、
30を超えている。
クラウンが把握していない、
未知の端末だった。
月の神は、
日の神の知らぬ研究所を、
造っていたのである────。
カ ラ ン っ 。
『────……。』
〘------あ……☪︎.*・゜〙
" 秘密パソコン "の机のそばには、
酒瓶と、グラスが置いてあった。
氷が、鳴る。
ローザの姿は、
いつもの少女のそれではなく。
大人の───豊満な女性の身体つきに近い。
『────……。』
クラウンは、腿まで水に浸かりながら、
陸地で座るローザを見上げた。
〘------……手を;つかんで──☪︎.*・゜〙
ヒューガ・モーントは観念し、
水に沈む日の神に、手を差し伸べた。
ローザのひみつのへや。( ゜д゜)










