さいよう。
今回の話は書式がカタイです(^_^;)(笑)
よかったら、ゆっくり読んでみてください。
登場するのは二人だけです♪
ちょっと書き直しました((´∀`*))ヶラヶラ
ステンドグラスは、
昼と夕の間の陽を透過し、
大空間に光のヴェールの影を成した。
ひとりの、高貴な御老体が、
聖杖を立て、座っている。
ゆらぐ光は、祝福した。
「ふぅ──…… 」
エライン・D・チョイヤック は、
齢72になる、聖教皇である。
聖教皇というと、
大司教より、ちょい偉い感じである。
たぶん。
「ちかれた……」
昔はブィブィ言わしていた彼だが、
いまや、杖が無ければ、
ずっしりとした教皇服ですら、
重く感じる御歳である。
穏やかな御老体は、
王都の大聖堂の椅子に、
でっかい聖皇帽を被ったまま、
ドッコイショしておられた。
「やれしかし──無事に、終わぅたな──……」
オルシャンティア王女殿下の誕生祭の警護。
大司教、マザー・レイズの采配を信頼はしている。
が、いかなる時も油断はならぬと、
この重い身体が、知っていた──。
「ふむぅ──」
何やら賊が飛び踊ったとの報もあったが、
どうやら先見の魔女が取り乱した事が原因らしい。
ヒヤリとはしたが、
怪我人や狼藉者は皆無、との報告を受けている。
歳には勝てぬな、と彼は思う。
「……わしも、ボケには気をつけねばのぅ」
あごを触りながら、
聖教皇エラインは、
美しいステンドグラスを見上げている。
然り──。
エラインは、見届けてきていた。
この国が、生まれ変わっていく、
その歴史を。
──かつて、この国は腐っていた。
彼がまだ、若き青年神官であった時から。
王妃エルミナイシアと共に、歩んできた、
永き、みちのり────。
王を失い、
愚かなる、名ばかりの貴族が跋扈し、
種族同士の禍根が残った、泥団子のような国を。
確かに。
磨き貫いてきた自負が、彼にはあるのだ────。
「ふ、ふ……。今や、あの方にも孫ができた。来年の御生誕祭には、ワシも生きておらぬかもしれぬのぅ──」
かつての、エルミナイシア王妃殿下が。
突如、素性の知らぬ娘を、
大司教に担ぎあげた時。
多くの反発があった。
若き日のエラインも、
なぜ、そのような事が、まかり通るのか、
気にならなかった訳では無い。
だが─────共に、戦った。
聖兵の扱いや意義を、
過去のない娘に教え、
大司教のイロハを叩き込んだのは、
他でもない、エラインである。
彼は、気づいていた。
「……ふむ」
エルミナイシア王妃殿下の連れ合わせた、
銀の髪と、夕陽の瞳を持つ少女は、
大きな神官服で隠してはいたが、
孕んでいたのである──。
「ふふ……」
彼女は、過去について、
一度も口にはしなかった。
剣を握り、惑わす技を使う。
大司教には、当てはまらぬ業であったろう。
だが、エラインは、見た。
鬼神の如く戦う、その娘を────。
過去も、顔も、腹をも隠し。
狂うように国を正す仮面の娘は、
エラインの眼には──子の未来を託す国を、
血路にて造り上げる聖母神の如く、
写ったのだ──。
恐らく、エルミナイシア王妃殿下と、
師であるエラインだけが、気づいていた。
だから、彼は導いた。
────仮面の大司教、"マザー・レイズ"を。
「……どこかに、生きておろうか……」
教え、共に戦い……ある日、気づいた。
秘密に抱え込まれていた"命の膨らみ"が。
ふ……と、目につかなくなった事に。
彼女は一度消え。
再び、舞い戻った。
エラインは、察した。
「……そうとも。必ず、生きておろう。必ず──」
聖教皇、エライン・D・チョイヤックは、祈る──。
世を統べる精霊王、ヒューガノウンに。
「 ──この世のどこかに。
かの娘の血をひく生命が。
貴方様の御加護を、どうか厚く、
承りますよう────…… 」
穏やかに死ねる国を、つくった。
後継となる者を、育てあげた。
後は、祈るだけが。
老体にできる、唯一の訓戒である────。
「── 」
──コツリ。
聖教皇エラインは祈り、
近づく足音に、ふと気づいた。
若かりし頃には有り得ぬ油断である。
だが、ふと今、殺されても満足とさえ思えた。
「あ、あの……聖教皇、エライン様……」
「ほぅ──」
エラインに近づいたのは、
戯れに見た暗殺者などではなく、
どうやら新人に近い、
歳若き少女の修道女であった。
エラインは内心、苦笑を噛み締める。
「も、申し訳、ございませぬ……何やら、祈祷を捧げていらっしゃったご様子。出直します故──」
「ふむ。ふふ……」
かつての教え子が。
何処かで産み落としたはずである、
隠し子の事を案じていたなどと、
言えるわけがない。
秘密めいた、愉快な心が湧く。
「ふふふ……良い。どうされましたかな? この老いぼれに、美しい妙齢の女性が、いかなる御用とあらば──」
「お、恐れ多くも……」
「まぁ、待ちなさい。ひざを付ける必要はない。何事ですかな?」
一応は、"聖教皇"と位のあるエラインに、
明らかな新顔の修道女が話しかけるなど、
よほどの覚悟である。
エラインは、修道女の要件が、
大事であってはならぬと、察したのだ。
歳若き修道女は恐縮し、
とある紙束を、聖教皇に差し出した。
「うむぅ……?」
エラインは受け取り、
大きな聖皇帽ごとを、傾げた。
「──これは?」
「お、" 落しもの "のようなのです」
「ほう」
エラインは、束ねられている紙束を、
ペラペラとめくる。
修道女は、続けた。
「その……アマロン・グラッセ様の書き綴られた物のようなのです」
「……!」
アマロン・グラッセといえば、
神官関係者の中でも、非常に有名な響きである。
ドニオス出生の、齢19の女性の神官である。
西だけに留まらず、多くの王凱都市を巡り。
教えを熱心に伝う姿は、
近代の聖母とまで言われるほどだ。
此度の王女殿下の生誕祭も、
王城の警備に加わっていたと聞く。
信頼の厚い、期待の娘であった。
「あのような素晴らしき神官様のお忘れになった物……私たちでは、どうすれば良いのか分からず……」
「ほっほっほ……! なるほど、なるほど──」
目の前に畏まる修道女は、
仲間内で相談の上、
ここにて暇を弄ぶ、名ばかりの聖教皇に。
助けをこうた訳だ、と、エラインは納得した。
「これは……何やら……"まつりごと"の仔細を綴った書記のようじゃな」
聖教皇エラインは、
前から読みめくった────。
────ぺらり。
───────────────────────
" クルルフェルト祭 "に関する運用について
記:アマロン・グラッセ
昨今、偉大なる先人の御活躍により、貴族・民共に愛国と慈愛の精神が育まれ、種族間の親密も溶け合い、良い国となりつつある事は、幼子の笑顔からも明白である。
此の度の企画の立案に至ったのは、平和的歴史を紡ぎ出した国家には、まだ祭日が少なく、民一同が共に祝う年に数度の催し事に、人族・獣人・亜人を含む全ての尊き民の"シンボル"となる存在が希薄であるからと具申する。
誰もが尊ぶべき王族の方々の偉業や、精霊王ヒューガノウンの祀り事などは確立した敬うべき事柄だが、民が心をひとつにする祭日の象徴としては偉大さが大きく過ぎ、また、子には理解が早い事もあり、気軽に共に祝う象徴としては尊大が過ぎることは理解が容易い。
老若男女問わず、心を合わせ、豊かな笑顔を引き出す祝いの場の"象徴"として、私は" 義賊クルルカンの冒険 "の存在の適切さを主張する。
件の絵本は子供は勿論、絵本を読み聞かす親の世代、貴族は演劇の形式で楽しみ、種族を超えて人気を博す物語である。
約200年前に出版ギルドに持ち込まれたそれは、ゴーストが持ち込んだなどという不可思議な噂もだが、その内容から、あらゆる種族に楽しまれ、親しまれている稀有な存在である。
黄金の甲冑に身を包んだ仮面の男が、とある姫と旅をし、囚われた人々を助け、街に金貨の雨を降らす。その爽快な、誰しもが愛する物語が他にあろうか。
また、最後に宿敵である狂銀と向き合い、結末は描かれず白紙のページにて結末を終える点も、読み手の想像を膨らませ無限の拡がりを魅せる物語として、他とは抜きん出た英雄伝である。
新たな皆の祭りを作る際、これほど相応しい題材は他にはないだろう。無限の拡がりや、その神秘性により、この物語の意匠を駆り出すのは真理である。
だが、黄金の義賊を象徴とするだけでは、絵本の最後のページの想像力、拡がりを魅せる事は叶わなかったと私は結論する。
あの二人が向かい合い、未来がわからぬからこそ。
種族や年齢を超え、皆が、
それぞれの未来を想像するのである。
黄金の義賊クルルカンと、
狂銀オクセンフェルトに感謝の意を表したい。
" クルルフェルト祭 "の名は、
垣根なき民の統一を助く、
英雄と怨敵にはらう、"敬意"である────。
───────────────────────
「うーむ……!」
聖教皇エラインは、うなった。
「君は……これを読んだかね」
問われた修道女は、答える
「序文だけ……読ませていただきました」
「ふむ。どう……思ったかね」
「素晴らしい、と──」
「うむ────」
この国の平和の歴史は、
まだ、数十年といった所である。
民の身を休める祭日や祝日は、
まだ年に、数えるほどしかない。
アマロン・グラッセは、
噂通りの秀逸な神官であると、納得する。
祭日は民たちの心を休めるだけではなく、
その心をひとつにする絶好の機会でもあるのだ。
だが、ひとつの種族が祭り事をしても、
他の亜人や獣人は、しらけるだけである。
──だが、その祭の"象徴"が、
誰もが知る絵本の主人公たちなら、
どうだろうか──・・・!
「……見事だ。これは他種族との交流や、親交を深める催し事の真理を成す」
「わ、私もそう思います。人族と、獣人や亜人の方もそうですが──大人や子供、御老人の方も、みんな一緒に楽しめるお祭りが出来上がりますわ──……!」
「……若き者は、しっかりと育っているものだのぅ……!」
年甲斐もなく、
エラインは、胸が熱くなるのを感じた。
これほど、国の未来を考えた、
至高の計画があろうか・・・!
「見事である。アマロン・グラッセ──」
聖教皇エラインは、
懐より大判の印を取り出し、
聖なる魔力を込めた────。
「そ、それは──・・・!!」
若き修道女は、驚く。
それは、道理。
────"聖教皇霊号印"。
聖教皇エラインが承認した書類にのみ打つ、
唯一無二の魔力印である────。
「── さ い よ う っ ! 」
──── ど む っ !
── ぺ っ か ぁ ── !
聖教皇の捺印は、キラキラと光った。
これで、この書類の企画は、
王族でしか、反対できない。
「──恐れ入るが、若き修道女よ。御名前をお教えくださいますかな──?」
「お、恐れ多くも……! 御前は、シスター・ミシオンと申します……!」
「──ふむ、シスター・ミシオン」
「はぃっ・・・!」
聖教皇エラインは、
国の輝かしい未来の詰まった企画書を、
歳若き者に──託す。
「──これを、中央議会に持ち込んでくだされ。今からでは、夏の祭りには間に合わぬだろうが──秋の収穫祭には、重ねる事ができよう」
「──!!! そっ、そのような重大なお役目を、わたくしめが・・・!!」
「ほっほっほ・・・!! 見ての通り、杖が無いと難儀してのぅ?」
聖教皇エラインの杖の、
多くの光の魔石が、煌めいていた。
シスター・ミシオンは、深く頷いた。
「か・・・必ず、届けます・・・!
命に、替えても・・・!」
「ほっほっほ……! 肩の力を抜いて。
では──頼みましたよ?」
「仕りました・・・!!」
若き修道女は、一礼し、
即座に、その場を去った。
静けさが、戻る────。
「ふ──やれやれ。
これでいつでも、のんびり、死ねよう──。
なんと、贅沢なことか。
ほっほっほっほっほっほ────・・・!」
美しい大聖堂の中。
聖なるじいちゃんは、にこやかに笑った。
王都で、ワッショイ。
(;´༎ຶٹ༎ຶ`).*・゜










