ヒゲイドチェンジ
「……むむむ」
「おそいねー」
……や、コレ、私らが早すぎた。
お昼ごはん、すぐに切り上げたかんなー……。
待っています。
視界が全て、白いお部屋で────。
"ホワイトキューブに、憂い無し"。
これは、クラウンが"スキャン"した、
とある書籍の一冊に書かれていた項目で。
ちなみに……"王室図書館・分館"の本だったりする。
複製、ダメ、ゼッタイ……。
「これ、ローザでも作れるかな」
「……神様で作ったらもったいないでしょ」
それぞれのヒールスライムの壁が、
丁度よく光り……部屋全体を照らし出してる。
クラウンが視界に表示してくれた情報によると、
怪我をしたら瞬時に治療が行われるらしい。
まさに……"憂い無し"ってワケ。
ちなみにその方法って、まさかとは思うけれど……?
「……ちょっと、ヤなこと思い出したわ」
「そうなの?」
「初めてレエン湖に行った時、えらい目にあってね……」
「あー」
巨大スライムに食われるとか、トラウマですわ。
「後でローザ、踏んどくね」
「いや、いいわよ……あん時たぶんあの子、意識なかったし……」
「じゃあ身体にお醤油混ぜる」
「醤油がもったいない」
神いじりに使っていいものじゃありません。
なんで醤油やねん。
……え? モチ?
「うまそう」
「……今度こさえますから」
……。
ふたりっきりだ。
まだ、ヒゲイドさんの姿はない。
「ごはんの後、慌てて"ブシュー"したから、ビックリした」
「あ、あれは……ご、ごめん……」
マイスナが言ってる"ブシュー"は、
バッグ歯車を使った"熱はみがき"のことですね。
最近は……"普通の歯みがき"はチョーット、疎遠気味。
ソルギア由来の水蒸気と、歯車の格納能力で。
口内洗浄、即・完了。
「あっついけど、ラクで綺麗になんのよねー……アレ」
「私、あれ好きだよ。すぐにチューできるもん」
この街で恐らく、イッチバンおクチんナカが綺麗な、
ピッカピカ金銀ペアーでございます。
「唾液ソムリエ」
「あっふぉ」
「アンティ専門」
「……ま、まだかなぁ」
スッキリとしたおクチの中とは裏腹に、
妙な緊張があって、ソワソワする。
マイスナの銀のお手手を握りながら、
ふーるふると──前後に振る。
キュィンキュィン、ギィーンギィーン。
「えへへ」
「……スパーリングってさぁ、やっぱ……殴り合うよね?」
「アンティ殴られたら怒る」
「や……だから、殴られるかもって」
「えー」
ヒゲイドさんは、
どういうつもりで、こげな事をば──……。
────そして、それは聞こえだす。
──・・・ズシン。
「おっ」
「きた!」
私たちの甲高い足音も大概だけんども──、
ヒゲイドさんの体重移動も、中々の……存在感!
身長3メートルの巨体が、近づいてくる──・・・!
──・・・ズシン。
──・・・ズシン。
──・・・ズシン!
「……なんだ、ずいぶんと早いな」
「「 な っ …… !? 」」
ヒ ゲ イ ド さ ん が ッ 、
ス ー ツ じ ゃ な い ・・・ ッ !?
──ズシン・・・。
「ふむ……。一時間くらいは、ゆっくりしても良かったのだぞ? いやスマン、待たせたな」
「「 い、いぇ…… 」」
ふっ……、服だけで。
人の印象って、変わるモンだわぁぁぁぁぁああ。
ヒゲイドさんが着ているのは、濃い紺色の道着だ……!
おおぅ……袖が、どっかにオサラバしてる……。
肩から下、丸見えじゃないのよぉぉおぉお。
なんだか……まさに、
"格闘職"って感じするわっ……!
「「……」」
「……なんだ?」
帯だけは、いつものネクタイと一緒で黒いな……。
首元とかは、いつものシャツとは違って、
めっちゃ風通しが良さそう!
首の付け根の筋肉が、
こっからでも良く見えまっす……!
肩からは、丸太みたいな、でっかい腕……!
両手にリストバンド付きのグローブみたいなのをしてる。
グローブの先からは、ふっとい指が露出してるわね!
うさ丸のヤツとはデザインが違うな……!
つか……ヒゲイドさんの素足、でっかッッ……!!
もちろん……いつもの魔王サイズの革靴は履いていない。
でっかい、武闘家ヒゲイドさん。
マイスナと、びっくらこいて見まくった。
「「 ~~……ふぉぉ…… 」」
「……そんなに似合わんか?」
「ぃ……いや、逆……、ですね」
「にっ、似合い過ぎてて、びっくりした……!」
「む……? ふ、ふんっ。久しく着たのだ。道着に着られているな……。むぅ……サイズがズレている。少々、小さいな……」
いまだに成長期ッッ……!?
ど、どんだけデカくなんのよ……!?
グローブを、ギュッ、ぎゅっ、として、
感触を確かめるヒゲイドさん。
い……いかついでぇす。
「……──さて。最初に一番大切な事を言っておこう── 」
「「 ……っ!! 」」
そ、そうだわ……!
これは、格闘訓練だと、
ヒゲイドさんは言っていた……!
や、やべぇぞ!
き、気を引き締めなくっちゃ!
何か、教訓的な物を言ってくんのかな────!?
……すぅ────……、
────くわっ!!!
「 手 加 減 し ろ っ っ !!
オ レ が 死 ぬ っ っ !! 」
────……、……。
「 ──かっこわるぅぅぅうううううう──!!! 」
「 ……そんなこと、初めて言われました…… 」
マイスナの初めてを奪われた。
──いやいやいや違う違う。
奪ったの私やぃやいやいやいやいやぃゃそじゃなくてなぁぁぇぇぇ──。
『────潔い宣言ですね……。』
〘------自分から誘っといてのん☆
------あと;お醤油はかんべんなのん☆〙
『>>>せっ、先生が……ツボってる!?』
〘#……はっはっはっはっはっはっはっは・・・!!!〙
クールな初代狂銀ティーチャーも、
即・破顔するインパントである。
道着姿で腕組んでるヒゲイドさんっ、
けっこー、カッコ良かったのにぃィィ────・・・!!
「──いいかッッ!! 常に俺を五体満足で帰還させる事を念頭に行動しろ! ギルマスは偉いんだぞ!!」
「こ、こいつ……ッ!?」
「ギルマス偉くないな」
「バカもん……少々こちらに合わせてもらわんと、教えるにも、教えられん……」
「……!」
「……?」
……。
なるほど、オーケー。
これは……" 体育の授業 "だ。
とりあえず、
センセの言うことを一度聞く……ってのは、大事。
ぅーむぅ……。
ヒゲイドさんには、
マイスナの事を含め、
世話になりまくってる。
──義賊は、『義』は通すもんだわ。
「……アンティ」
「……ん」
マイスナも、こっちを見て頷いた。
箱庭ファミリーに指示を出す。
(……クラウン、鎧の内蔵筋肉の補助を最小限に抑えて)
(……ローザ、こっちもそうする。この人の意図を探ってく)
『────READY。』
『>>>おっけ。ドラゴンの筋力を、一般女性の基準を目安に調整するよ』
〘-----NON-problem──☆〙
〘#……良し。こんなものだろう。だが……これでも通常のレディよりは筋力があるように設定している──構わんな?〙
ま……、"ドニオスの魔王"を相手にすんだ。
街娘レベルの筋力まで下げるワケにはいかんわなぁ。
"力量加圧"の能力の調節は、
信用の置けるメンバーに任すとしましょう。
「……出力は、ヒゲイドさんに合わせます。で? 私たちは何をやればいーんです?」
「パンチしていい?」
「あほぅ……まぁ、そんな物騒な事はせん。今からやるのはだな──」
「「……?」」
「今からやるのは────"まもりおにごっこ"だ」
……モトム、説明。
道着ヒゲイドさんを描こうと思った。
スケッチブックのページが無い。
(((((((;゜Д゜)))))))










