おさそいスパ
チラホラと。
アマロンさんがギルドに出没するようになった。
よく、お菓子の入ったバスケットを持ってくる。
どうやら、ごめんなさいしたいらしい。
今日も来てるわね……。
あんまりにも出入口でコソコソしていたので、
気配を消して背後から襲撃したった。
(わき腹? わき腹?)
(うん……爪は立てちゃダメよ)
(あぃ)
──ずきゅぅん!
「──にぅわぁ──っ!!」
──ぴゅーん。
おぅっと……!
飛んできた、お菓子のカゴ、キャ──ッチ。
どれどれ。ほーぅほぅ、
これはこれは──……あんむ。
「むごむご、とにかくかふしまふかぁらいじょうぶでふよ」
「あんふぃ、いヴぃめはらゆるはなぃ」
「たっ、食べ終わってからしゃべりなさい!」
……何コレ、超うまいじゃん……。
ハニーバターパン? イーストハニーの?
90イェル? 一個で? うせやろ……?
こんど買い占めよう。
焼きたての時に襲撃決定!
まぁ……アマロンさんも、
私たちの秘密を隠してくれる側の人のようだし……。
いざとなったら最大限、協力してもらいましょう!
「もっとほしい」
「ふかふかー」
「ふとりますよ……?」
「寝るまえ運動するから大丈夫」
「やめなさい」
「……?? とにかく、機嫌を直してくださったのなら、よかったです……──あ、ところで!」
げっ。イヤな予感……。
尚、アマロンさんは、うさ丸が大好きらしい。
ややこしい時は、兎に角うさ丸を目の前に出せば、
話題を破壊できると推察。
「あなた達、せっかく二人そろっているんですから! 今月の夏祭りのチャリティーでクルルカンショーを「ほれ」「にょきっと」いやぁあああ! うさ丸さまぁああああ!! 可愛いいいいいい!!」
我は証明せり。
「まぁあああッ! なんでこんな小汚いギルドの金バケツに入っていらっしゃるのです!? よよよ……おいたわしやぁぁ……!」
少し離れた所にいる受付カウンタのキッティが、
少々笑顔でムカついているご様子……。
こんだけ騒いでたらねぇ。
ちなみに、うさ丸が in していたバケツの水は抜いたった。
「風邪ひくでしよ」と言ったら「にょん……」と怪訝そうな顔をされた。
なぜだ。
「えふふふふふ……♪ 私が必ず奥方様を見つけてさしあげますからねぇぇ……!」
「にょ、にょきっとなぁ~~……!」
ちゃーんす……!
「逃げるよマイスナ」
「ドンと恋」
「──あっ!? ちょ!! ま、待ちなさいっ!! 」
──ガっ!!
「「ぐえっ」」
アマロンさんが、
神官らしからぬタックルをかましてくる。
負けん。
首に絡みついた慈悲なき神職者を引きずり歩く。
──ズリズリズリズリ……!
「はなせぇー」
「ぐやー」
「にょきっとな☆」
うさ丸、助けんかい。
アンタ本気だしたらワンパンでしょや。
「にょきっとにょんにょん♪」
ええぃ、優しいうさぎさんめ……。
「は、話だけでも聞きなさい! あなた達が観客の前でひと芝居うてば、皆さん大喜びですっ! 野外ステージ、もう押さえちゃいましたし!! ほらっ、人助けだと思って……!!?」
「ふ、ふざけんなぁぁあ~~!! 色々ヒミツ抱えてんのに、なしてそんな大勢の前で歌舞かにゃならんのじゃ~~~~い!!」
「ややこしいの、ヤダ」
「そこを何とかぁぁ~~~~!!」
アマロンさんは、
本ッッ当にややこしい神官ねぇちゃんである。
つか、はなせ。
なに人の了承も得ずにステージ予約しとんねや。
はったおすわよ──!!
──ズシン・・・!
──ズシン・・・!
おっ。
「……ギルドの入り口で、なぁにをしとるのだ……」
ヒゲイドさん、へるーぷ。
「ひ、ヒゲイド・ザッパー……!」
「……その様子だと、仲直りはできたのだろう」
いや、無理やり劇に出されそうです。
「神官がいつまでもチョロチョロするな。さっさと帰れ」
「な、なんですってぇ──……!!!」
よぅ言うた。
さすヒゲ……!
「くゆぅー」
んっ?
カンクル……。
なぜにヒゲイドさんの肩の上に──……?
「──くゆっ!」
跳んだ。
──びたーん!
「あぅぱぁ──!?」
神官さんの顔面に着地。
さすくゆ……!
「くゆっ……かぷ……くゆ──っ!!!」
「あ──っ!! 私の帽子があ──っ!?」
──ぴゅ──ん。
カンクル、アマロンさんの神官帽を、
咥えて、吹っ飛ばす。
よい首のスナップ。
キッティが拍手。
「こ、この泥棒おおかみめぇぇ──!」
「くゆくゆくゆくゆくゅ」
「こっ、こしょばいっっ──!!」
カンクルはアマロンさんに捕まったけど、
持ち方は優しくしっかりしているので、
基本的にはモフモフ全般が好きなんだろうと予想。
囚われのカンクルは好き放題である。
そのこしょこしょを耐えれると思うなよ。
「ぷわっ……! わ……わたしはあきらめませんよ……! アンティさん! マイスナさん……! 必ず" クルルフェルト祭 "には出てもらいますからね──っ!!」
「ちょとまて今なんつった」
「お祭り?」
「くゆくゆくゆくゆくゅ」
「なぁぁぁ──!?」
「いいから出ていかんか……」
本日の脅威は去った────。
「ヒゲイドさぁん……!! ギルマスの権力でお祭り無くしてくださぁいい!!」
「バカ者……そんなに巻き込まれたくなければ、そのカッコやめんか……」
「にょきっと☆」
わ、私はぜったいに劇なんてしないぞぉお……。
決意を胸に、受付カウンタへと向かう。
「キッティ、今日の配達物は?」
「ふふー、アンティさん? あなた方が帰ってきてから、何日経ちましたか? ──はいっ! もうスッカラカンですよぅー!!」
仕事が無くなった。
空っぽの集荷箱の底を見せつけてくる、
キッティの笑顔がまぶしい。
「やることが……ない、だ、と……」
「おひまだー」
「あんなスピードで配達するからですよぅ。いつも仕事があるようにするには、もっとゆったりとですねぇー」
こっ、この受付嬢ぇ……。
恐らく、キッティが本気だしたら、
このギルドで一番仕事がはやい気がする。
本気だしたらだけど。
サボっティ。
「こまった……」
「むしょくだ」
「無職では無いだろう……なんだ、集荷が無くなったのか」
「くゆー」
「「 うわっ 」」
後ろからヒゲイドさんが覗き込んでいた。
「いくつか他の街宛ての物もあっただろうに……相変わらず速い事だ」
「ど、どもです……」
「ぴゅー、って行ったよ!」
「?」
私は足に車輪ついてるし、
マイスナはスケート靴とクッションジャンプあるしなぁ。
最近になって自覚したんだけど、
ドニオスの街にずっといると、
すーぐにお手紙、無くなっちゃうのよねー……。
私がここに初めて来た時は、
メっっっチャクチャ滞納してたけど、
アレにカタつけてからは、
あんまり集荷が溜まらない週もあるし……。
「ヤバい……おまんまの食いっぱぐれか……?」
「えっ……郵送配達職、無くなっちゃう……?」
「なぁにを言っとるのだ……。先日、虫網を1000本も配達した所だろう……。ああいう突発的な物資配送に、積荷の規模に関係なく即時対応してくれる存在は、有難い。何のために給料まで払ってると思っている。人の役に立っているという自覚を持て」
「「──///」」
ちょっと照れるやんね。
「しかし、ふむ……そうか……。お前たち、午後はヒマなのか」
……?
まぁ、そうよね。
「……お給料までいただいてるのが、申し訳なくなるくらいにはヒマですね」
「何もなかったら、イーストハニーにパン買いにいくよ」
「……ふん。それはまたの機会にしろ。アンティ、マイスナ。午後は、俺に付き合え」
「「……??」」
なんだろう……"悪い子を呼び出し"って感じじゃないわ?
「飯の後、ホワイトキューブに集合だ」
「「──!」」
" ホワイトキューブ "……!
って、私たちの塔の家の地下にある、
ヒールスライムの部屋のコトだよね……?
マイスナと顔を見合わす。
……なんだろ?
「ああ……そうだ」
「「?」」
「昼メシは……少なめにしておけよ?」
……ん?
それって……──。
一応、聞いてみた。
「……何するんすか」
ニヤリ、ヒゲイド。
「 ふ……" スパーリング "だ 」
まじかぁ……。