お姫さまだっことバヌヌエル
妊娠さんが、ぶっ倒れている。
すぐそこ村。
やる事は、見た瞬間に、決まっている!!
「クラウン! 補助!」
『────レディ。予測変換:最大。』
「よっ……と!」
────このヨロイを着ていてよかった!!
私は小柄だ。
女の人を持ち上げるなんて、普段なら絶対ムリ!
────でも、今は!!
「よしっ、行ける!」
人生初の、お姫さまだっこ。
私がするほう。
『────移動時に、反重力機構を発動。』
「まかせた!」
『────隠匿レベルは?』
「二の次!」
『────受諾。』
妊婦さんのピンチの時に、
出し惜しみしちゃあ、いかんでしょ!
きゅいいいいいん……!
キン、キン、
キンキンキン、
キキキキキキキキ────!
キ──────────────────ン!!
「うぁ、あっ!? ……あ、なた、は?」
妊娠さんが、走りだした瞬間、少し目を開ける。
最初、揺れちゃったかな。
──ん? 目が、かっぴらいた。
……あぁ、私の格好、忘れてた。
「……見た目がアレなのはごめん。でも安心して。必ず、バヌヌエルまで届けるから」
「あ……」
キンキンキンキンキン──!!
「必ず、助けるから」
「────あ、りがとう……」
再び、目を閉じる妊婦さん。
装備のお陰で、あまり揺れてはいないはず。
でも、一刻の猶予もない。
──みえた!
バヌヌエル村の入り口だッ!
槍を持った門番が2人、驚いた顔でこっちを見てる。
構えやがった。
「と、止まれっ!」
「な、なんだ、お前、クルルカン……?」
くそっ、急いでいるのに!!
仕方なく、一度、速さを殺す。
余計な事を言われる前に、こちらから叫ぶ。
「私の格好の事は後だ! 畑で、この妊婦が倒れていた!!」
「な!? その人!……ゴンゴラさんとこの、嫁さんか!?」
「時間が惜しい! 医者のいる所を案内して!!」
「お、おい! どうする、ラカタン……!」
「! ……! わ、わかった! こっちだ!!」
! 判断がはやい!
もっと警戒されて、時間をくうと思ってたけど。
良かった、必死さが伝わったかな?
ドダドダドダドタ……
キンキンキンキンキン────!!
「ハァ、ハァ……!」
「ここを左、だ……!」
……くっ!
門番2人は、一所懸命に走ってくれてはいるが、私の今の装備では────!
「────悪いが、遅い! 場所か建物の特徴を!!」
「!! ……ま、ま、っすぐ、左、大きな白い、丸い!」
「わかった!」
きゅおおおおおん!!
キ─────────ン!!!
うなる、歯車たち。
なびく、マフラー。
景色は、加速する。
「ハァ、ハァ。────なんだろな、アレ」
「ハァ……何って、クルルカンだろ……」
「いや、それはわかるけどな?」
「キャベン、門番をほってきちまった。すまん、一度、戻ってくれ」
「おまえは?」
「義賊サマを追いかけるぜ! よくわかんねぇが────あれは、いいやつだった!」
「ちげえねぇ!」
「助けてくれるヤツは、助けてやんなきゃなんねぇ!」
「はっ! こんな小さな村に、英雄サマがくるとはな!!」
「ゴンゴラんとこの……サルサちゃんが心配だ! 門番まかせたぞ!」
「おう! いってこい! クルルカン様によろしくな!!」
「おりゃあああああ!!」
丸い……白い建物! 大きい! アレだ!
ドアは、アレか!
……両手が塞がっている!
……悪く思わないでよ、緊急事態だから!
キキキキ────どごおおおおん!!!
蹴破った。
踊り入る。
「な、何事だい!」
「わー! なにー?」
「ドアが吹っ飛んだぞ!」
「な、なんだい、あの娘は!」
「く、クルルカン……!?」
「だ、誰か抱えているぞ?」
けっこう人がいた!
えぇい!
「私の格好があやしいのはわかる! だが、話をきけ!! 外の畑に、妊婦が倒れていた! 医者か、手当のできる者はいないか!」
半球状の建物が幸いし、私の声は非常に中で響いた。
「妊婦だって!? まさか、サルサ! サルサかぃ!?」
え……サルサ? ……えぇ!?
こっこの人、ゴリラの手紙の送り先なのっ!?
マジか!
「サルサ! な、これは……!」
「? ……あっ!」
服の、下のほうが、水で濡れてる!
これって……!
「産気づきよったか! 予定より早い!」
「えっえっ」
マジですか。産まれますか。
えっえっ、どうすんの。
「おい、アンタ! クルルカンの!」
「は、はい!」
「こっちにベッドがある! サルサを連れてきてくれるかい!」
太っちょのおばさんが、前のドアを開ける。
「はい!」
「大丈夫、これなら、まだ間に合うよ!」
「シマ! 私も手伝うよ!」
「よしっ! 湯ぅ沸かしてきな!!」
「よしきた!」
元気な女の人達だ!
部屋に入る。
そっと、ベッドに下ろす。
すごい汗だ。
……この人が、サルサさんだったとは……。
「ベッドに掴みを縛りな! プラン! 噛み結いもってこい!!」
「サルサさん!! お産ですか!?」
「見たらわかるだろう、馬鹿だねぇ早くおし!!」
「はっはい!!」
おお、シマ、おばさん?
超、頼りになる!
助産になれてる感じだ!
よかった……何とかなりそう。
どたたた……
「シマ、やばいよ! 湯の薪が!」
「なにぃ!? 薪が……あ!」
「前の炊き出しで、やっちまってる!」
「なんてこったい! 今から乾かしても、間に合わないよ!」
え……なんかやばい?
やばいの?
「おい! 水もってきたぜ!!」
あ! さっきの門番の片割れが、大きな金属鍋をたくさん持ってきた!!
水が入ってる! やるう!
「ラカタン、まずい! 薪がない!」
「なんだって!?」
「片っ端から家をまわってくれるかい?」
「それはいいが……」
「待って」
それでは、時間がかかりすぎる。
食堂で、どのくらいの鍋で、水が沸騰するか、時間には馴染みがある。
この鍋はけっこうかかるわ。
「私がする。お鍋を」
「嬢ちゃん?」
台車から、水が入った鍋を掴む。
重そう。
でも……!
ガッ!! ……ぽちゃん!
「な……!」
「すごい力だねぇ!」
片手で持てた……!
……変態やるぅ!!
お鍋の下に、見えないように歯車を出す。
────クラウン、お願い。
ボッ!!
ボボボォォぉぉ!!!
「火だ!!」
「おお! アンタ、火の魔法使いなのかい!!」
いえ、山火事使いです……。
ゴォオオオオオオオオ────!!!
「すごい火力だ!!」
「いいよ! もっとやんな!!」
「よっと!」
もうひとつ!
ゴォオオオオオオオオ────!!!
ぷくぷくぷく……!
ジュワわわわわ……!!
ポコポコポコポコ……!!!
「すげぇ」
「もう沸いてる!」
周りから歓声が、あがる。
「驚いてる場合じゃないよ! プラン! 湯をこっちの水桶に移しな! 乾いた布で持つんだよ!」
「はい!!」
「ラカタン! 水を片っ端から持ってきな!」
「まかせろ!」
「わっ私はどうしたらいい?」
「クルルカンの嬢ちゃんは、狂ったように湯を沸かしてくれるかい? ここは医者の道具が少ない! 消毒や、洗いにいくらでも使うんだ!」
「わかったわ!」
────山火事歯車娘の本気、見せてあげるわ!!
…………アレ?