てのなるほうへ さーしーえー
祝! 700話!
(;´༎ຶٹ༎ຶ`).*・゜
〘#……ふぅ〙
生前、師であり、士であった。
朱の戦艦、道場をも投影し、
もはや、驚く気もせぬ。
私は袴道着に着替え、
央に、正座する。
〘#……────── 〙
剣は、傍にあり。
〘#──────────疾ッッ──……!!!〙
──── ダ ・ ド ン ッ ッ !!!
立ち前出ると共に、剣を払う。
床を打つ素足が成った。
握るは────" 時の結晶たる、剣 "。
〘#……ふむ……悪くは、ない。だが……。くくく……やはり、重いな……〙
苦笑する。
乙女の躯体の方が、上手く繰れるなど。
天空の鯨の鎧は、
この大剣とも呼べる一振りを、
紙包のように振る舞うのだ。
〘#……マイスナの体を借りた時は、新聞紙のチャンバラの如く感じたものだが……く、くっく……〙
────言うまでもなく。
" 時の結晶剣 "とは、
暴走した私が作り出した" 氷結刀 "を、
金時の" 時を止める力 "で停止した剣である。
西洋調の幻想的な意匠の大剣は、
しかし、刀の真理を孕み。
氷滴る流水の溝は、
剣撃より飛び裂く" 水斬き "を生む。
銀姫の力を借りれば。
この剣は、羽根のように舞い。
遥か遠くの敵を、氷にて斬るのである。
〘#……しかし……やはり……甘い……〙
金時の力は。
彼は怒るだろうが……素晴らしい。
問題は、銀なる我だ。
狂いし時に造りし刃は、
やはり……洗練されていない。
私は、心配なのだ。
"狂いし銀"は、これを使える。
だが、私は。
"狂わずとも、使える剣"に、したいのだ────。
〘#……く、く……。これでは、まるで……"親心"だな……〙
子も成さず。
妻には先立たれた男が、
何を血迷ったことを……。
〘#……〙
私は、悔いている。
この、永久停止した、"愚かの象徴"を。
く、く……。
雫も、あの世で笑っていよう。
こんな死に損ないが、少女のために、
より良き剣の形を、求むなど────。
〘#……まったく。袴に、似合わん剣だ……〙
幻想的な、半透明の半反りの大剣……。
" ファンタジック "という言葉が相応しい。
〘#……く〙
苦笑は消えぬまま、
袴にて帯刀する私を。
外に出て、朱の和風めいた城が、けらけらと笑った。
〘#……月、か……〙
私が剣を振りたくなった所以は、
金時の墓にて、
かの二人が祈ってくれた事に、他ならない。
この心内を説明することは、難しい。
〘#……く、場違いにも、程がある〙
箱庭の船の主艦部には、
故郷の太古の城を彷彿とする紅がそびえ。
部屋を構築する空間は歪み、
恐ろしい容量を内包している。
あのような道場までもが、
城の障子の向こうに、繋がっているのだ。
ここの住人で無ければ、
永遠に、紅の城で迷子になろう。
美しい青い月でさえ、和の基調を放っている。
私の手の中の剣だけ、違う世界の物のようだった。
〘#……くっく、くっくっくっくっく……〙
歳を取った。
死んではいるが。
妙な笑いが、込み上げる。
剣を、造り直すことはできまい。
自らの、愚かの象徴よ。
造り直した所で、
流水を生む溝が無くなるのは、惜しい。
この、刃横の独特の" 水路 "が無ければ、
あの氷の斬撃は飛ばせぬ。
ううむ。
悩ましい。
悩ましいが、" 時の力 "は、完璧だ。
〘#……高望みが、過ぎる。"絶対に折れぬ剣"というだけで、上々だろうに……〙
上を求める心を、少年のように求めている。
くくくっ……、噛み殺さねば。
いや、良い。
月でも見よう。
美しい。
巨剣を片手に、赤の提灯連なる廊下を進む。
〘#……あの月は……どうなっているのだろうか〙
月の魔力は、意識を刀から遠ざける。
この庭には、太陽も昇る。
よい陽射しだ。
あれが元は山火事の炎で、
出力を拡大しようとしたら、
燃焼が止まらなくなったというから、
驚きである。
〘#……くっくっく……! クラウン君は、いったい何をやっているのか──〙
ここが無限の空間でなければ、
星に接地した太陽が生まれていた所である。
いや……ここで無ければ、
あんな恒星のようにはなるまい。
〘#……" ソルギア "と言ったか……。では……あの" 月 "は、なんだ……?〙
太陽が、あれほどの物なら、
青い月は、なんなのだろうか。
生前の教師の性分が目立つ。
〘#……ソルギア……"太陽の歯車"……。
ならばアレは、"ルナチェイン"……、
"月の鎖"といった所か……?〙
……ふ、名付けたがるは、人の性か。
歩こう。
ここは極楽には相応しい所だ。
馴染みのBARに、道場、
庭に、風呂に、月がある。
そして……教え子と飲む猶予を得た。
かの少女たちが死ぬまで、ここがあるなら。
なんとも、有難い事だ……────。
〘#……〙
狂った不完全な剣を持ち。
私は美しい青の月を見上げ、歩いていた。
それが、いけなかった。
余所見は、厳禁である────。
とっ──。
たっ──。
〘 # ──む! 〙
【 おっ──!? 】
──────────ガキコンッ。
〘 #……ぐ 〙
【 ……ぉ、ぉわたたた……! 】
──月の魔力は、恐ろしい。
気配の察知には聡いはずだ。が、
道角にて、女性とモロにぶつかった。
今が生涯に入るかはわからぬが、
人生、初めての事である。
〘#……花殿、すまぬ。申し開きがない〙
恫喝覚悟で素直に謝罪すると、
【 ( °Д° ) 】
花殿は、驚いた顔で固まっている。
私が誤って、
氷の力を使ったのかと疑う程の硬直である。
む……?
何やら、下側を見ているようだ。
私の、手元────……?
────パキ、ころんっ。
と、何かが落ちた。
透明の────破片である。
〘#……硝子か……?〙
手前は即座に、ひれ伏した。
〘#……な……!?〙
堂に入った、美しい土下座である。
漆黒の着物に施されし金の模様は、
月明かりと相まって、洗練を成す。
簪を黒髪に鳴らしつつ、
花殿は述べた────。
【 ……せんせぇ、申し訳あらはん……。月に目を奪われておった。詫びの仕様がありんせん……。俺っちの爪が、当たってしもたぇおす…… 】
花殿の言葉に剣を見ると、
外側の一部が、欠け落ちている。
〘#……、……。花殿の力は……、………なんと、言ったかな………?〙
【 ぜ………。" 絶対断絶 "、言ぃまして……! 】
──── ほぅ……。
───── ほぅ……?
────── ほ ぅ !
【 大切な思い出の刃ァ、傷モンにしたツケは払います故……なんなりと、手前に……お申し付けおくんなましぃぃ……! 】
〘#……なるほど〙
私は、お言葉に甘えることにした。
結晶剣を、そばの床にぶっ刺し、
────ズドン。
【 ──ひっ!? 】
龍のような雅な爪を手に取り、立ち上がらせ、
────グイッ──!!
【 ──うぉほっ……!? 】
私は、懇願した。
〘 #……もっと、削ってほしい 〙
【 ── な に ゆ え に ッ ! ? 】
金時の力とか、そんなにである。
『>>>こらぁァァ──!!!』










