宝の力とはぐるま
時限石と、アナライズカード?
「時限石って、アイテムバッグとかに使われる宝石だよね?」
「そうよ~。見ててね~」
お母さんが手のひらに赤い宝石をのせる。もう片方の手を上からかぶせるようにして……、手、手首が消えた!
「な! 大丈夫なのそれ!」
「大丈夫よ~。こんなふうに、空間に物を入れたり出したりできるわ~。生き物はしまえないんだけどね~」
すごい! 学校で習って知識はあったし、サンプルで見たことはあるけど、我が家にそんな物があったなんて!
「どれくらいの物が入るの?」
「良くわからんが、ソーラの弁当15個は入ったぞ」
「……何でそんなお弁当入れたのよ」
「いやぁーこれのおかげて仕事がはかどったもんよ!」
「結局どれだけ物が入るかは試さずじまいなのよね~」
いや、試そうよ。そこ大事な所だよ。よく分からないけどアイテムバッグってけっこう高いよね? 冒険者なら重宝すること間違いなしだ。それを恋人のお弁当貯蓄に使うとは……。15個お弁当を作った当時のお母さんもすごいよ……。まぁ今でも食堂してるけど。
「そんでこっちはショボいが、アナライズカード」
アナライズって言葉は聞いたことがなかった。
「アナライズって何なの? 宝だから、特別なものなんだよね?」
「分析。まぁ特別っちゃ特別だが、変な道具でな。アンティ、このカードをオレにかざして、アナライズ! って叫んでみろ」
「? わかった」
手に取るととても薄いカードだ。水色に見えたが、光にかざすと透明に近いかもしれない。
「分析!」
『──分析完了。
デレク・キティラ
人間(♂)38歳
状態:健康』
しゃ、しゃべった!!
「な、何これ!」
「はっはっは、きこえたか。持ってるヤツには声も聞こえるんだよな。ほれ、カード見てみろ」
手元のアナライズカードの表面には、さっき読み上げられた言葉と同じ文字が浮かんでいた。
「これって……?」
「どうやら分析ってのは、鑑定の魔法の劣化版らしくてな。このカードで対象の健康状態がわかる!」
「健康状態……」
なるほど時限石に比べるとたしかにショボいな。
「でもよ、自分の健康状態がわかるってのはありがてぇ事だぜ? 風邪の時はちゃんと、状態:風邪って言ってくれるんだ。しんどそうな仕事仲間に使ったり、妊娠中のソーラに使ったりしたもんだ。お前も身体に違和感があれば、自分に使ってほしい。無茶せずに。病気の時は休むんだぞ」
「お父さん……」
ちょっとウルっと、きちゃったじゃないか。
「その2つ、アンちゃんにあげるわね~」
「い、いいの!?」
「その宝箱はな、お前が魔法使いになった時にやろう、って前から決めてたのよ」
「荷物を持ち歩く手間も省けるし、身体にも気を使えるから、助けになるはずだからね~」
「お母さん……」
「まぁ予想以上におもしろい魔法覚えてきやがったが、一人娘の門出だ。好きに使いな!」
「……ありがとう。大事に使います」
思わずかしこまってしまった。この宝には両親の思いやりがこもっている。
「へへっ……。まぁいつ出発するか知らんが、準備に少し必要だろう。しっかり用意してからいきな。そんでもってたまにゃメシを食いにこい。何時でも帰ってきていいからな」
「ふふっ、あなたったらカッコつけちゃって~」
「な、なんだよ」
どうなるかわからないけど、一生懸命やってみよう。
精一杯やらないと、多分美味しくご飯は食べられない。
この人達の作るご飯を、堂々と食べれるように努力してみないとな。
……はぐるましかだせないけど。
2階にある自分の部屋で、今日の事について振り返る。
昨日の事が少し遠く感じる。すっきりした気分だ。
机の上には、赤い宝石と透明のカード。
これを無駄にしないためにも、何か出来ないか考えないと……。
はぐるまを一つ出してみる。
にゅ。
にょきにょき。
きゅいいいいいいん。
……よぅまわる子や。
うーん、わからん。
これで何が出来るのか。
父さんは「回るって事は何かの力になる」と言っていた。
……確かに卵は混ぜれそうだが。
「はぁ~色々試してみますかね~」
こんころろん。
はぐるまが止まって、机におちる。
はぐるまの輪の中には、時限石と、アナライズカード。
ふふ、輪投げみたいだ。
はぐるま、
時限石、
アナライズカード。
今の私にはこの3つだけだ。
とにかく自分の力を試してみる必要があるかな。
はぐるま何個だせるかとかも、わかってないしな……。
ふわぁ……。ちょっと疲れたな……。
いっぱい泣いちゃったしな……。
……
………
…………
すー……、すー……。
きゅいいいいいいん……
『──────────』
『──────────』
『──────状態分析、オン』
『────スキルからの干渉を受けています』
『────スキルからの干渉を受けています』
『────スキルからの干渉を受けています』
『────状態異常からの問題解決の模索を開始』
『────分析中』
『────分析中』
『────近接アイテム、2』
『────状態共有を試みます』
『────状態共有の開始』
『────分析中』
『────分析中』
『────アイテムリンクしました』
『────状態に対応できません』
『────スキルより同期申請を受け付けました』
『────同期後の状態障害:不明』
『────分析できません』
『────分析できません』
『────分析できません』
『────分析できません』
『────分析できません』
『──────────────────同期しますか?』
「うーん……うるさいなぁ……かってにやってよ……」
『状態:─────同期を開始しました』