〆 ЯヨHTOM さーしーえー
風でマンションゆれたん……(((;゜Д゜)))
それは、騒がしくもなろう。
オルシャンティア王女殿下の誕生祝賀会の夜に、
王城の領空術式が反応したのだ。
警備にあたっていた我ら騎士と神官、
それに聖女リビエステラも、
眠れぬまま朝となった。
城と城門を繋ぐ、その中間の石造りの内門。
そこにある詰め所で冷えた果物水を飲み、
気だるい目を覚まさせる。
「……誤報では、済まされぬのだがな」
「はぁ……でも、なぁぁぁんにも、出てきやしませんよ?」
「……」
隣で聞いている若い神官の少女も、
神妙な、疲れを隠した表情で聞いている。
「ほら、聞きましたか。例の噂──」
「……! ……クルルカンと狂銀が飛び降りた、というやつか?」
「パーティに参加した方々のご子息が、ちらほら話しているそうですよ」
「……お戯れだろう」
「それが……ひとつ気になることが」
「?」
「最近復活したっていう"至高の配達職"は……例の、カフェで子供たちを助けたヒーローと同一人物だとか」
「……!」
「そ、その噂は、私も聞きました! あの、カフェ・ド・ランドエルシエに建つ予定の像のモデルですよね……?」
「……」
確かに、パーティの会場となった部屋は、
件の術式の上方に位置してはいるが──……。
「……黄金の義賊は、空を飛べると? それに、だ。街の恩人が、宿敵と共に宴より逃げ出す意図がわからぬ」
「それは……そうなのでしょうが」
「何にせよ、そろそろ仮眠を交代して欲しいっすねぇー」
「む……ぅ」
若い騎士の言葉に内心、私も同意する。
実に平和な朝だった。
夜雨に濡れた夏の芝は、美しく城内を輝かせ魅せる。
「「「 ……! 」」」
──清らかな、鈴の音。
響いた方を、見る。
城からこちらへと向かい来る、
幾人かの人影。
若い騎士と神官は、そちらを向く。
私も、何事か、と注意を向ける。
リィ──ン……!
我らと同じく、三人、歩いて来ている。
……! 神官のようだ……。
見回りだろうか?
「あわわ……!」
「やべぇぜ、やっさん」
「……!」
神官の少女と若い騎士が狼狽し、
私も、ハッとして、
向かい来る者たちの中央に位置どる、
輝き光る仮面の存在に気づく。
────四つ目の、ミスリル銀の仮面──・・・!
誰もが知る大司教は、
左右に鈴持ちの神官を引き連れ、
あっという間に、こちらに近づいて来られたのだ。
「……」
「……きたぁ」
「……」
まるで、こちらの時が止まったかのようである。
目の前まできた大司教殿に、
神官の少女は、恐る恐る礼を尽くす。
「ま、マザー・レイズ様……! お疲れ様でありますっ!」
「ちゃ、ちゃっす……!」
「──ええ、あなた達も」
ここまで近くでは、私も初めて見る……。
若い騎士の軽率な挨拶にも、顔色は変わりはしない。
いや……そのミスリルの仮面に、
全ては隠されている。
声こそ、穏やかな女性のものに聞こえるが──しかし、この御方の前に散った貴族は、数多の星ほどとも言う。
"貴族殺し"──……。
愚かな権力者たちが、震え上がる"二つ名"だ……。
「──術式の件、やはり誤報のようです」
「「「……!?」」」
異な事を言う。
この方は、今回の警備最高責任者でもあるのだ。
こちらの問いかけがまとまる前に、
大司教殿は、言葉を紡いだ。
「いえ……誤報、というのも違いますか。実際に術式は反応しています」
「そ、それは……どういう?」
「……。これは、他言無用ですが──"先見の魔女ヨゲンナ"が、どうも悪い酔い方をしたようです。とあるゲストが気分を害し、窓からお帰りになりました──」
「「「──ッッ!!」」」
そ、それは、つまり──!?
ほ、本当に、"義賊と狂銀"が──……?
「……他言無用とは言いましたが、警備関係者には教えて差し上げなさい。ヨゲンナの方は私が一言そえましたが、それなりに反省はしているようです。王が箝口令を敷いています。外部には、絶対に漏らさないように──」
「ま、マジっすか……」
「わ、わかりました……」
そのような……事が……?
ヨゲンナ様と言えば──。
エルミナイシア王太妃殿下、
大司教マザー・レイズ殿と共に、
この国の基礎を創られた御方だ。
三大賢人の一人ともあろう御方が、
王の客人を怒らす、などと──……?
何に対して、
そのように取り乱されたのであろうか。
「私は内部の関係者に然るべき情報を与えます。あなた達も、事態を収束させる者と、休養をとる者とを分けなさい」
「──かしこまりました」
ハキハキと物を言う女性だ。そう思う。
やはり、顔の下半分からは、その感情を感じさせない。
私の隣の神官の少女が、
ビクつきながら、しゃべりかけた。
「そ、その……」
「──何か?」
「っ、ァ、あの……。そちらの、お二人、は……?」
「……──」
マザー・レイズの右と左にいる神官は、
話しかけた神官の少女よりも、
さらに小柄な者たちだった。
少し変わった形の神官服を着ており、
にぎり式の聖鈴を両手で装備している。
絵に描いたような……左右対称となっていた。
まるで、マザー・レイズが鏡の化身のようである。
聖帽と深いフードは、
小柄なふたりの神官の顔上半分をスッポリと隠し、
わずかに仮面のような物が見え隠れする。
「「 ── 」」
マザーと同じように、
そこだけが露出している唇。
それが妙に色気を艶めかせ、
これにより、二人ともが女性であると判別できた。
「──これらには、外への伝令を頼みます。
"私の手の者"……と言えばよろしいか?」
「っ! じゃあ、やっぱり……! し、失礼しました……!」
「……」
この四つ目の仮面から、わずかに漏れる威圧。
この若い神官の女は……気づいていないのか?
内心ヒヤリとするが、
マザー・レイズは咎めなかった。
大司教は一歩、歩幅をずらし、
自ら引き連れてきた二人の神官に向き直り、
穏やかに声を掛ける。
「では……頼みましたよ」
「「……(こくり)」」
「……気をつけて」
「「……、(こくり)」」
顔を隠した、ふたりの小柄な神官。
聖鈴を鳴らしながら、
城の出口の方へと、歩いていく。
「……── 」
マザー・レイズは、
どこか心配そうに、そちらを見ていた。
リィ──……ン……。
「「「……」」」
大きく膨れたフードの、後ろ姿を見送る。
不思議な印象を受ける神官たちだった……。
姿が見えなくなると、じっと見ていたマザーは、
すぐさま、城の方へと踵を返した。
「……私も城へと戻ります。城壁周りの伝達、頼みましたよ」
「──ハッ、かしこまりました」
「……よろしい」
コツ……
コツ……
四つ目の仮面の大司教殿は、
ゆっくりと、城の方へと去っていく。
若い騎士が大きく息を吸い、
言葉を乗せて、おちゃらけた。
「ふっひぇ〜〜……! あんな近くで、"貴族殺し"を拝むとは思わなかったなぁー……!」
「バカもの! まだ聞こえるぞ……」
「じゅ、寿命が縮まりましたね……」
神官の少女も"胸を撫で下ろす"を、
自身で体現していた。
……君は神官の端くれだろう。
大司教に、そのような表現は……。
「しかも、ですよ……!?
あの付き従えていた二人……!
ぜったい、" 聖兵 "ですよ……!
私、初めて見ました……!」
「……! あれが、か……!?」
「?? くれ、りあ……って?」
若い騎士が首をひねり、
少々お転婆な神官の少女が答える。
「大司教クラスの、"お抱えの神官さん"の事ですよ……! ほら、ちょっと変わった形の神官服だったでしょう?」
「ぁ、ああ……そうだったなぁ……。あんな顔半分と髪まで隠すような神官服は、あの大司教サマのウワサでしか聞いたことがなかったぜ! はは、意外と中身は可愛かったりしてなっ!?」
「そっ……! そそそ、そんなコト冗談でも言っちゃダメですよ……!!」
「……へっ? なんでだ……?」
察しが悪い若い騎士に、
神官の少女が忠告する。
「マザー・レイズ様は、ですね……。貴族に相応しくない愚かな行いをした者たちを、数名の"聖兵"と共に行動し、歴史の闇に葬ってきたと言われています……」
「げ……。そ、それって……」
「……ああ。つまり、"厄介事専門の神官"……だということだ。"アレ"の中身は凄腕の暗殺者か……特殊なスキルを持った"異端児"の可能性さえある。しかも、あれはどうやらマザー・レイズのお気に入りのようだ……」
「"隠れんぼ"や"料理"、"大掃除"なんかも得意な方たちかもしれません……。近づかない方が、身のためですよ……?」
「こ、こわぁ……」
城の警備に、"聖兵"まで投入されていたとはな……。
身体が小柄だったところが、逆に恐ろしい。
そこらの階級の騎士や神官は、
絶対に近づきたくないだろう。
だが、この状況でわかる事もある。
「……アレが城の外に行くという事は、どうやら本当に城の中に脅威はないのだろうな……」
「外に、消しにいったのかもしれませんケドね……?」
「き、きみ! 神官のくせに、なかなか物騒な事を言うねぇ! だ、だいたいあんな小さな女の子たちが、本当にそんなヤバいやつなのか!? 可愛い唇してたし、そんな風にはとてもとても……!」
「な、なんなんです、その判断基準は!」
「気持ちはわかるが……かつて、マザー・レイズの"聖兵"をしていたであろう恐ろしい人物を、お前も知っているはずなのだぞ?」
「……へ?」
強さとは、体の大きさや性別で、
判断すべき事ではない。
王都で剣を使う騎士なら、
よく、知っている────。
「──"至高の剣技職"のオシハ・シナインズと、その妹のヒキハ・シナインズは、数年前まで"聖兵"だったと言われている……」
「……っ!? ツ、"羊雲姉妹"が……!?」
「ほらぁ……。おっかないでしょう?」
「その通り名はやめろ。まぁ……有名な噂だ」
「ま、マジっすかぁ……!? 神官でも、何でもないじゃん!! 剣の、ナンバーワンと、ナンバーツーじゃん……」
幼い少女の剣士二人が、あの大神官と共に。
街に蔓延る悪を斬り伏せていたのかと思うと、
何とも言えぬ気持ちにもなる。
「あのお二人って、ホントに昔、そんな事してたんすか……ッ!?」
「あ、あくまでも噂ですけどね……。けっこう信憑性が高いっていうか……だから、先ほどの"聖兵"さんも、もしかしたらあの御二方みたいに、かなりのバケモノさんかもと────」
「 おんやぁー? 誰が、バケモノだってぇー? 」
「「 」」
「む……!」
……噂をすれば、羊。
睡魔は吹き飛ぶがな。
「いやさぁー、交代要員がこないからさぁー。総隊長みずから、来ちゃったじゃないのよー」
「……こほん、姉さま。喋り方に気をつけてくださいまし。些か、フランクさが過ぎますわよ……?」
「「……、……」」
噂好きの神官少女と若い騎士は、
御本人たちの登場に言葉を失う。
……。
私が取り繕う他ないか……。
「……お疲れ様です。オシハ総隊長殿」
「にしても、気になる話だこと」
……どうやら、斬り込まれるようだ。
「──"先ほどの聖兵"。そう、言ってたわね?」
「「……、……」」
隣の二人からは、完全に血の気が引いている。
……私が伝える他なかろう。
つい先刻、大司教マザー・レイズ殿からの情報を、
漏れなく総隊長と副隊長に伝える。
一応言っておくが、
私はこの二人の剣士を、とても尊敬している。
「……──とのことです。つい先ほど、二名の"聖兵"と思われる方々が、王城の外に向かわれました」
「……」
「……」
剣の姉妹は、真剣な表情で聞いていた。
姉が問いかける。
「……すぐそばに、マザーはいたのね?」
「……? はい。付き従えているように見受けられました」
「……」
……?
「……ヒキハ、どう思う」
「……初耳ですね」
「だよねぇ……背はどのくらいだった?」
「……これくらい、かと。小さな少女たちに思えました」
手を使い、だいたいの高さを表す。
「……何か、持ってた?」
「にぎり式の聖鈴を持っておられました」
「……2人とも? 鈴の数はわかる?」
「お二人とも持っておられましたが……鈴の数までは」
「──あ、ひとりにつき、七つ、付いてましたよ!」
若い騎士が答える。
「すげぇー珍しい形の鈴だなーって思って、何となく数えてて……。へへへ……」
「「……、……」」
総隊長たちのご様子は、どこか神妙であった。
「……わかったわ、ありがと。交代まわる?」
「……はい、こちらは大丈夫です。すぐに人員を。こいつと神官殿は休ませてやりたいのですが」
「許可します。じゃ、私たちは、ちょっと──ね?」
「……失礼いたしますわ」
プラプラと手を振る総隊長に、
会釈を忘れない副隊長が続く。
「……ひぇ──……」
「ば……バケモノって、言っちゃった……」
……お前たちは、反省して休め。
おしゃべりは、ほどほどに。
コツコツコツ……。
カツカツカツ……。
「……まさか、孤児院から?」
「──それは! ないでしょう……。私たちに相談なしで、マザーがやるとは……とても」
「私も……それは思う。てことは……」
「背丈は、合っていますが……」
「……かぁー! 警備責任者が、揉み消しに走んじゃないわよぉー!!」
「本当に、そうなの、でしょうか……」
「……あの話じゃ、礼装服も聖鈴も、モノホンっぽいわよ?」
「逃がす、ためだけに……?」
「あれは見る人がちゃんと見れば、マザー専用だってわかるデザインだからね……。そんじょそこらの魔除けより、素晴らしい"御守り"にはなるわ。よっぽどのバカじゃなきゃ、近寄りすらしないもの……」
「……信じられない」
「まったくよ……! アレをホントに貸し与えたんだとしたら、どうかしてるわ……」
「……」
「ヒキハちゃんもね……気になった事は、ちゃんと聞かなきゃダメよっ! だって、有り得ないからね……? マザーが、礼装服をあげるなんてさぁ……」
「そ、それはそうだけど……お姉ちゃんだって、聞けないじゃない……」
「う……だ、だってあの人、いっつも、はぐらかすじゃーん!! それにあんたも何か隠してるしぃー!」
「ぐ……! そ、それは……」
「あー! もー! 家族がわからなーい! うわぁー!」
「ご……、ごめんなさい……」
「びぇー! 気にしてないもーん! めあー!」
「……うぅ」
「……」
「……。本当に、アンティと……"もう一人"なのでしょうか……」
「……さぁねぇ……。ちっくそぉぉぉ! こんな時に、私たちがお城の外に探しに行くわけにはいかないしなぁー。めぁー……総隊長、ツラたん……」
「お、お姉ちゃん、言葉づかいを──」
「あっ、そだ。ヒキハちゃん、一人二役してよ!」
「──むちゃ言いますわねぇぇ!!?」
「や、いけるでしょ! 見よ! 残像だ!」
「お姉ちゃんが増えた!?」
「ふぁ〜〜〜〜…………」
緋花色に包まれし少女が、
詰め所の二階の窓際より、
眠そうに見下ろしていた。
「へぇ……。まさか、私の知らない"聖兵"がいるとはねぇー」
「ふんに"ゃー」
「チルテト、おすわり」
聖女リビエステラは、
バリボリとビスケットをかじった。
──アンティは
"聖兵"の礼装服を手にいれた!▼
──マイスナは
"聖兵"の礼装服を手に入れた!▼
──"レイズクレリア"への
変装が可能になりました!▼
オートセーブしています・・・●▼●.*・゜










