おおかみどろっぷと時の魔法
うう……まさか手紙を落としていたとは……。
失態も失態、大失態だわ。
たとえ差し出し人が、ゴリラでも、郵送配達職を目指すなら、あってはならない事ね……。
そう言えば、お相手のサルサさんって、女性だって言ってたわね。
……まさかのラブレター?
いや、そんな大事な物を、初見のクルルカンの格好した看板娘に預けないか……。
おっきなウルフの炭焼きを見る。
……うん。
毛皮とか残ってません。
ひっくり返った、黒い机に見えるわね。
……もしかして、私、すごい勿体ないことしてる?
あんま覚えてないけど……
随分綺麗な毛並みだったような……
目だけ見て、明らかに敵意まるだしだったから、
つい、火輪投げしちゃったのよね……ぺろてへ。
「これは、しまわずに置いていこう……」
『────アンティ。待って下さい。』
「え、なぁに?」
バヌヌエルの村に向かおうとすると、クラウンに止められる。
「え、まだ何か、落としてたっけ……」
『────正確には、"魔物が落とした"という表現。』
「! それって……」
炭焼き机を、よく見る。
あ……!
上を向いてる、胸のあたり!
ここだけ、何かが白く光ってる!
「ドロップ、しているの?」
『────肯。光学効果は、レアドロップの可能性:大。』
「おお! ……まだ定職にはついてないからね。もらえるモノはもらっとくわ!』
そっと、黒焦げの胸に手を伸ばす。
な、なんだ、ガッツリハマってるな……。
よっと……。
ズぽっ!
バララ……!
「わぁ……崩れちゃった」
アイテムが抜けたと思ったら、でっかウルフの身体が、パラパラになった……。
……なんかごめん。
「てか……これさぁ……」
『────分析中。』
いや、コレ……。
歯車やん。
え、何これ。
最近の魔物は、歯車おとすの?
違うよね?
明らかに、私が手ぇ出したのが原因でドロップしてるよね? コレ。
『────分析完了。
────アイテム名【 おおかみどらいぶ 】
────変格型デバイス
────使用回数:1
────使用しますか?』
「いやいやいやいや……」
ど、どらいぶって何やねん。
おおかみ、は、確か、古い言葉でウルフの事よね?
え、変格って、どゆこと。
『────外骨格変更型デバイスと予測。』
「うぉい! それって私がウルフになるってことか!!」
『────可能性:大。』
「ぜったいに使わないぃぃぃいいい!!!」
もう、すでに義賊クルルカンの格好してんのよ!!
きんぴかに拍車がかってるのよ!!
これ以上、妙な物になってたまるもんですか!!
ぴか─────!!!
「……クラウン。この白い歯車、超、光ってるんだけど」
『────起動を確認。』
「なんでじゃぁぁああああ!!!」
うわ! うわわ!
私、おおかみになっちゃうの!?
女の子なのに!?
肉食系女子に!?
いやバカ言わないで!!
まだ、恋愛に興味はありません!!
だいたい両親に何て言えばいいのよ!!
「娘はおおかみになりました」
アホかぁああああ────!!
こ、こうなれば、困った時の!!!
「────バッグ歯車あぁぁぁあああ!!!!」
────きゅるる、しゅぽん。
「…………」
『…………』
ま、間に合った、か。
「ふ────あぶないあぶない、乙女の危機だった……」
『────よろしかったのですか。』
「ん? 何が?」
『────今のデバイスは、かなりのレアリティドロップでした。』
「だからってアンタ、ウルフの仲間入りなんてしたくないわよ……」
『────……。』
「人に戻れる確証あった?」
『────否。』
「クラウン。今の、でばいす? バッグ歯車に永久に封印できる? 時間、止まるんでしょ?」
『────受諾。時限凍結維持指定。』
そう、"時間が止まる"。
私がこんな、きんきらのアホな格好をしてまでも、身を隠そうと思った、最大の理由だ。
私というか、クラウン? のバッグ歯車。
時限結晶は、
"完全時間停止"、"容量無限"の可能性が、高い。
……世界のバランスを崩してしまう。
ぶっ飛んだ機能すぎる。
"時限結晶"は、ログ父から貰った宝石辞典から読みとるに、
"時空魔法自体が結晶化したもの"
"昔、これの劣化版が原因で、国が無くなった"
"関係者、家族ぐるみ全員死亡"
と、ろくでもない争いの種である事がわかる。
……そりゃそうよ。
軍隊の食料とか、武器とか、物資とか。
喉から手が出るほど欲しい人いるわよね……。
あと、火と魔法は、普通はアイテムバッグに入らない。
……けど、私のには、入るっぽい。
学校の教科書も持っているから、調べた。
普通は、アイテムバッグに魔素は入らない。
火は、風の魔素を使って燃えている。
その他の魔法も、様々な魔素を使って発動している。
火は、魔法じゃない普通の火でも、魔素を使うって事だね。
台所用の火の魔石でも、風の魔素が無い場所では使えない。
まぁ、そんな場所、めったに無いだろうけど。
だから、魔素が枯渇するアイテムバッグ内では、すぐに、魔法や、火は消えてしまうんだろう。
燃料が無くなってしまうんだ。
でも、それは"時限石"の話。
私の"時限結晶"は、違う。
魔素ごと時間を止めて格納する。
出したら動き出す。
当然、火も然り。
お弁当も、ほっかほか。
てか、永久に腐らない。
……多分、魔法も入るから、盾にもなるかも。
父さん……母さん……。
なんつーモンを一人娘に託してんのよ……
伝説級の、レアリティアイテムじゃないのよ……。
これがわかった私がとる対策。
①正体を隠す。顔とか。あと苗字。
②バッグ歯車を、人前で使わない。
③ある程度、強いことを隠す。
……自分の保身があるけど、家族が狙われるのがイヤ、ってのが大きい。
例えば、魔物倒しまくって、山火事使いまくって、能力がバレて、貴族やら王様やらに目を付けられます。
↓
"時限結晶"は、クラウンの"心"にとって大切な部品なので、私は絶対に渡しません。
↓
家族が人質に取られます。最悪。
↓
"時限結晶"は、ある意味、私のスキルそのものと結合しちゃってるので、私自身が、貴族に囲われる可能性が……。
……なんて事に、なるかも。
うわああああ。
でも、大きなチャンスでもある。
食料の備蓄は、いつまでも、新鮮なまま。
水も、今度ためよう。
魔法や攻撃の盾にも使える。
倒した魔物も運搬できる。
……黒こげじゃなければ。
私の自由の幅が広がる。
これは、純粋に、素敵だと思う。
自分だけができる事を探す。
それは、あきらめたくない。
その、最初の一歩が、この手紙でありますように。
────ちなみに。
しまっちゃった"おおかみどらいぶ"だけど。
もちろん、入れっぱなしにして忘れる事になる。
それが、あとで、あんな事になろうとは……。
ふむぅ……。










