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② ЯヨHTOM なーべーえー




 やばぃぃ。


 あの人……、ぜったい……、


 "マザー・レイズ"だ……。




『────対策を考えます。

 ────マントをこのままローブ状にしてください。』


『>>>中に防壁を作成する。高密度でやるから、不可視は無理だよ。隠し通しな──』




 上半身を隠していた劇場幕が、

 足首までを覆い、

 布地の内側に黄金のアナライズカードが装甲を成す。


 目の前に広がるのは、結晶体に支えられた通路。

 私なんかが、知ってはいけない場所だ。



〘#……ローザ。カネトキ達にならうぞ〙


〘------ぁ……、あ……!-☪︎.*・゜〙


〘#……ローザ……?〙



 マイスナの身体も、聖流の衣で覆われ、

 白銀のアナライズカードが展開するが、

 ローザの様子がおかしい。



〘------"さいごの、かめん"……!-☪︎〙


〘#……なんと、言った?〙



 いやな驚愕が、私たちに伝わる。



〘------あの;女が付けているのは──;

 ------" さいごのかめん "です……☪︎

 ------こちらに;ある、なんて……☪︎〙


『>>> ……簡潔に、話せ 』



 先輩の声は、静かな威圧がある。



〘------わ……、私たちの造ったゲームの……;

 ------"ラストダンジョン"の攻略に必要な;

 ------"勇者のアイテム"……!☪︎〙


『>>>……なんだと?』


〘------アンティの……"さいしょのむねあて"と;

 ------対極の存在……っ!-☪︎〙



 やべぇ、仮面なの……っ?



『>>>……能力は』


〘------あ;あんなもの、まで……☪︎〙


『>>>──ロザリアッッ!!!!!』


〘------;──っ!!!-☪︎.*・゜

 ------わ;わかりません……☪︎

 ------アレを;さいごまでイジっていたのは;

 ------ジュンヤと;クラウンで…………☪︎〙


『────……っ!。』


〘------でも……あれは……;

 ------"空間系"最強の装備で……;

 ------さいごの……"四聖の迷宮"の攻略には;

 ------欠かせない;ファクター……!〙


『>>>……なんだってんだ、全く……!』


〘#……どういう事だ。私には読めぬ……!〙


『>>>……後輩ちゃんの"さいしょのむねあて"の能力と……対極? シゼツのチカラみたいな、"神様のスキル"を使えるのか……?』


〘------わから、ないんです……!-☪︎

 ------さいごのさいごまで;ジュンヤたちは;

 ------アレの機能をイジっていて……☪︎〙



 ……。

 ……"さいしょのむねあて"みたいなチカラを使われたら、超怖いんだけど……。




『────……私には:わかりません。』


『>>>……!』


『────今の私は……:何も、覚えていません……。』




 クラウンが、張り詰めているのがわかった。

 混乱する私たちを、マザーは待ってくれない。



 カツーン……、カツーン……。



 マザー・レイズは、


 私たちに背を向けて歩き続ける。


 すっぽりと被ったローブ。


 縦長の帽子。


 奇しくも、仮面とローブの女が三人、


 不思議な隠された通路を、歩いている。




〘------何故……アレが、あるの……?-☪︎

 ------あれは……ストーリーの終盤でしか……☪︎

 ------地球は;開始まもなく;ああなったのに……;

 ------なのに……なぜ──☪︎.*・゜〙


〘#……ローザ……。ヒューガ・モーント……! 落ち着け、今はマイスナのローブの下に、防壁を……〙


〘------ぇ……、は;はい……☪︎〙



 この鏡の中の通路は、

 結晶やガラスが組み合わさったような構造だけど、

 所々に木の板が打ち込んであって、

 奇妙な生活感が溢れている。


 クリスタルの吊り橋を渡ると、

 木で出来た壁や、古くに作られた構造が、

 僅かな光の魔石で照らされ始める。



『────魔術流路が展開しています。』


『>>>空間系の魔術だろう、こんな大規模の物は初めて見るよ……』



 水晶の隠し通路は、

 徐々に、小さな木造の部屋へと近づいていた。


 ドアの前。


 マザー・レイズがこちらを向く。



「さぁ、はいり────」


「にょきっとなぁ──☆☆☆」



 ぴょ──ん☆


 ────べぼっ。




「    」

「    」


『────ぇぇ……。』

『>>>──うわっ!』




 この時、私とマイスナの口からは、

 魂が半分出ていたに違いない……。



 うさ丸……………、


 あんた……………、


 誰の顔に跳びついたか………、


 わかってんの…………。





「…………」


「にょっきにょきぃ☆」




 あぁ、あほぉー……。


 あほ、うさぎぃ…………。




「……」



 ──ガッ。



「──にょっ!?」



 両耳、掴まれよった。



 ──ぼむんっ☆



 ひっぺがされた。




「にょきっと」


「……」




 四つ目の大司教サマが、


 うさぎさんに、ガン飛ばしてらっしゃる……。




「……にょきっとな☆」


「……、……。……入りなさい」




 きぃ────。




「あああぁぁぁ……」

「つれ、つれこまれちゃ……」

「く、くゆっ……」




 ちっこい部屋の中に、

 お供のうさぎが、さらわれてもうた……。

 どしよ……。

 見捨てて逃げるワケにも……。



「……」

「……」




 " にょ、にょわぁぁああああああ───ッッ!?!? "




「「……ッ!?」」




 うさぎの勇者の悲鳴が聞こえた!

 は、入るしかないっ!!




 キンキンキン──!!


  ギンギンギン──!!




 ご、ごくっ……。



 キィィ────。






挿絵(By みてみん)


  机の上に 大きなナベが 置かれている ▼

  フタには 石が置いて あるようだ ▼


  中から 奇妙な 声がきこえる…… ▼




(( に"ょ、に"ょきっとな"ぁぁァァ……っ! ))



「「……」」




 とうとう、食われる日が来たか……。




「──レモンティ、飲む?」


「「──!?」」



 さらりと、聞かれた。



「ぇ、……と」

「ぅ、う……?」



「シュガーはあるけど、ミルクはないの。

 そこら辺の椅子を持ってきなさい」



 な……、んか……。

 返事をする前に、言葉を継がれてしまった……。


 うさ丸をナベに封印したマザー・レイズは、

 台所っぽい所で、

 火の魔石にオイルを垂らしている。



(( にょ、にょきっとなぁ──…… ))



 な、ナベからくぐもった声が……。

 うさ丸を助けてやりたいけど、

 勝手にアソコから出したら、

 怒られるかもしんない……。


 だ、大司教の顔なんかに跳びつくからじゃ……!

 ちっと反省してなっ……!



(( にょわぁ──……! ))


「くゆっくゆー?」



 改めて、この部屋の中を見ると。

 なんてことはない、やっぱり木で組まれた部屋だ。

 今、歩いてきた神秘的なクリスタルの道を思うと、

 ずいぶんと平凡な印象すら受ける。


 庶民的な木のテーブルと、

 ちょいと向こうに、椅子が四つほど、

 突っ立っている。


 ここの光の魔石はセピア色に近くて、

 古い宿屋さんの一室みたいだった。



「……」



「「……!」」



 マザー・レイズが、

 おぼんにのったティーセットを持って、

 じっと、こちらを見つめていた。

 仮面で目は見えないけれど、

 なんか……無言で、うったえられる。



 え……なに!?

 あ、椅子!?

 も……持ってこいって!?

 は、はぃ……!



 ──きんきんきんギンギンギン!



 ワケもわからず椅子をテーブルにかき集めると、良い香りのするティーセットはテーブルに下ろされ、マザーは椅子のひとつにどっかりと座った。



「ふぅ」



 ど、どうしよう……。




 ①うさぎを見捨てて逃げる。

 ②実はコーヒー派ですと嘘をつく。

▼③私がお茶をいれましょうか、と聞いてみる。




「わ……私が、お茶……入れましょうか……」

「!」



 切り出したのは、マイスナだった。



「あら。じゃあ、お願いしようかしら」



 そっけなく言う、マザー・レイズ。

 お、お願いしちゃうの!?


 まさか、マイスナが言い出すとは……。

 恐る恐る、白銀のローブの彼女が、

 ティーセットに手を伸ばす。


 ……なぜに、こげな場所で、大司教サマとお茶を……。

 いや……。

 マイスナにとっては、この人は恩人だ。

 名付け親でもある……。

 ……!

 この人は……この子が、あの子だって、

 知ってるのかな……?


 それに、なぜ……、

 私の、"歯車法(はぐるまほう)"を────。




 ス……──、と。



 マザー・レイズが、手を出していた。


 椅子の方に手をかざし、私を見ている。


 座れ、ということ、よね……?



「……、……」



 お茶の用意をマイスナに任せ、

 静かに……座った。



『────ローブ状にした"白金(しろがね)劇場幕(げきじょうまく)"の下には:

 ────高圧縮アナライズカードの防壁が:

 ────完成しています。』


『>>>昨日、アマロンという神官が言ってた事が真実なら、コイツは剣が得意らしい。未知のアイテムも顔面に携えてらっしゃるし……警戒は怠るな。この装甲なら、ドラゴンのヨロイを含めて、そう簡単には貫かれやしない。マントは取るなよ。下の装甲がバレる』



 不可視化したアナライズカードより、

 高密度の金ピカアナライズカードのほうが、

 強度が上がるらしい。

 このローブの下がピカピカバリアまみれなら、

 今は……これを脱ぐわけにはいかない。



 よく、マザー・レイズを見ると、

 何やら、椅子に座って(うつむ)いている……?

 なんか、落ち込んでるみたいな……?

 ん?

 何か、ブツブツ言ってるような……??



(……ナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ、) (ヨゲンナのボォケ) (──……)



 マザー・レイズさん……、めっちゃ、口悪い……。



(「あぅわわ……」)



 それ見て、マイスナがビビってる……。



(( にょ、にょやぁぁ〜〜〜〜!! ))



 ──ごおんッッ──!!



「「──ひっ!?」」



 ま……マザー・レイズ、

 うさ丸の入ったナベを殴る。



(( にょ…… ))




 勇者、静かになった。




「ど、どど、ど……どうぞ」


「──ふぅ。ありがとう、マイスナ」


「「──ッッ!!!」」



 こ、……この人……っ!?


 マイスナの、名前(・・)、を──……!?



「な、ぁ……」



 マイスナも驚愕で、

 動きが、おかしくなっている。

 ……くそっ! 確定だわ……。


 マイスナが、"紫電(しでん)"だって──……!



『>>>バレて、いるのかぃ……!?』

『────そうとしか……:判断できません。』



 挙動不審になる私たちの前で、

 マザーは優雅にお茶を飲んだ。



「あら、ずいぶんと入れるのが上手ね。アンティから習ったの?」


「「……」」



 ふたりとも、名前が割れている……。

 やな汗が、ヨロイの肉の下で噴き出る。

 


「マイスナ、答えなさい」


「は、ぃ……」


「体に、不調はないの?」



 頭が回る前に、しゃべりかけられている。



「そ、それは……」


「髪と目の色が変わった以外は、とても健康に見えます。どうなの?」



 どこまで、バレてんだ……。


 ふと、マイスナとマザーの髪の色が気になる。



(似て、る……?)



 白銀の頭髪に、白銀の仮面……。


 マイスナは、

 マザーが、あの地下の研究所に、

 連れ込んだ子で……?


 まさか……、親戚、とか……!?

 ──! い、いや、違う、

 だって昔のマイスナの髪は、薄紫だったし……?



「痛いところは、ないの?」


「うっ、え、あの……だいじょうぶ」


「ほんとうに?」


「ほ、ほんとう。2年前からは、ひどかったけど……アンティが、助けてくれた」


「…………そう……」




 マイスナと、チラリと目があった。

 し、しょうがない。

 今の情報は、いい。



「……おおきく、なったわね」


「……っ!」



 なでなで。


 マザー・レイズが、マイスナをなでていた。



「……」


「今の髪と瞳も、きれいだわ」



 ……この人……。



『────:……。』

『>>>どこで、バレたんだ……。まさか、北の街のギルマス……?』


〘#……思いやりのある、ご婦人なのではないか……?〙

〘------;……☪︎〙



「……///」



 頭をよしよしされてるマイスナは、

 ちょっと嬉しそうだ。


 天涯孤独の身で、名付け親であるマザーは、

 マイスナにとっては特別な人なはずだ。



「……アンティ」


「っ! は、い!」



 私の名を呼んたマザーは、

 椅子の上で、向き直る。



「ありがとう。この子を救ってくれた事、感謝します」


「ぇ……」



 頭を下げられて、私は混乱する。

 この人は、私たちにとって、

 どういう立ち位置の人なんだろうか……。

 まとまらない頭で、ほぼ条件反射で答える。



「い、え……」


「さぁ、マイスナも座りなさい。お茶がさめます」


「は、はぃ……」



 ……今の時点で。

 明確な敵、という感じはしなかった。

 視界には、レモンティーの"毒物:無"の分析結果。

 ……。

 カップを手に取り、口をつける。

 あまずっぱい。

 とても、いい香りだ。



「しかし……まさか、あそこから飛び降りるとは。こちらは肝が冷えましたよ」


「「!」」


「お陰で、この部屋にご招待するハメになったわ?」



 カンクルが、うさ丸の入ったナベを、

 心配そうにコショコショしている。



「こ、この部屋は……」


「ん? ……ここはエルミナイシア、……王太妃の術式で組んである空間でね。昔から、バカな貴族をこらしめるのに使った場所よ」



 王太妃様を、呼び捨て……。

 この鏡の中の部屋を、そんな偉い人が作ったのか……。

 貴族を、こらしめる……。

 そ、そいえばコノ人!

 "貴族殺し"って、あだ名があったような……。



「あの、会場にいたんですか……?」


「私が駆けつけたのと、あなた達が飛び降りるのは、ほぼ同時だったわ。せっかくコレを使ったのにね──」

 


 コロン、とテーブルに転がる。

 クラウンが即座に答えた。



『────"隠蔽のジェム"です。』



 ……ド畜生。



「あの後、会場にいた者には箝口令(かんこうれい)()かれたわ。ヨゲンナというババアがいたでしょう。アレがオーディエンスに謝って、それから王が声をあげてね……」


「……!! お、王様……?」

「王様が、みんなに言ったんですか……?」


「──ええ。でも、限界があるでしょうね。こんな面白いオハナシだもの──。ウワサ話に戸は建てられないわ」


「「……」」



 王様が、私たちの騒ぎを、隠した……?

 なんでだろう。

 王女様のパーティに、

 変な噂がついてほしくないのかな……。



「まったく、あのプレゼントといい、大ジャンプといい──。そのローブの下は、義賊と狂銀のヨロイなのでしょう? こちらの気も知らず──よくもまぁ、あんな目立つ事をポンポンやってのけるものです」


「「っ……」」



 ちょっとカチンときて、

 言い返す。



「あなたは……」


「ん?」


「なんで……私たちの事を隠すの?」



 切り込んだった。



「……、……ふふ」



 マザーはカップを両膝に置き、

 不敵な笑みを浮かべる。


 この人は、椅子で背筋を伸ばすと、

 なぜか、恐ろしい────。




「──わかりませんか? アンティ・キティラ」


「っ──……」




 四つ目の銀の仮面が、ギラりと光った。






うさ丸 in 鍋。( •̀ω•́ )✧

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