とある宴の視点より。ゲゲッ!
もう一度、言いたいんだ。
すべては、噛み合っている────。
─────────────────────
──私が10歳の誕生日を迎えた時。
あの方たちは、初めて公の場に、
姿を現したのだと思います。
どれだけ素晴らしい物をいただいたかを、
まだ、真の意味では、
私は、理解しきれていませんでした。
浮かれる気持ちの中、
招かれた獣人の長と、予言者が、
あの方達を見て、驚愕したのです。
その時の私は、
あのふたつの仮面の下に隠された素顔を、
知る由もありませんでした。
──太陽の尊主、アンティラ。
──月の反逆花、マイス。
この両傑の名が、
初めて轟いた時でも、ございました──。
─────────────────────
(オルシャンティア女王・手記/『とある宴の視点』より)
どんな些細な事も、
聞き逃す訳にはいかぬ。
そのような雰囲気が、場を支配していた。
「 尊主様……!!
そして……反逆の花よ……!!
おお、おおおぉぉお……!!
よもや、並んで、今、
このババの目の前に、
いようとはァァァッッ──……!! 」
「 アンティラ、様ッッ……!!
まさか、このような場所で、
お目にかかろうとはっ……!? 」
「 っ……!! 」「にょわー」
「 、……!? 」「くゆっくゆ」
大きく驚き宣う、
多くの知識を溜め込んでいよう御老体たち。
我らの知らない事を、彼らは知っている……!
ラクーンの老長は語り続ける。
「 あ、アンティラ様……!?
お忘れでございますか……!!
ジジアラですじゃ……!
あの、ラクーンの里で、
お世話になった……! 」
「 ──な、」
「 ……え!? 」
「 ── な り ま せ ん ッ ッ !!! 」
「 ……ハッ!! 」
黄金の姫が、凛とした声で、窘めを発す。
遅い……!
すでに、真名は解き放たれている。
「 ここでは……なり、ません……! 」
「 ぁ……し、まっ……!
わ、ワシは……!
なんという事を……! 」
狼狽するラクーンの長。
隣では、未だ興奮の収まらぬ予言の老婆。
尋常ではないその様子を、
我らは食い入るように眺めていた。
「 しょ……、正気のッ、沙汰では、ないゾッッ!!
あわわ、あわワワワワ──っっ!! 」
「 ……!? よ、ヨゲンナ殿……!?
何を、そのように怯えて……!?」
何を恐れ、何に慄くのか。
その場にいた王でさえ、
それは、わからない。
「 お、お父さ、ま……!? これはいったい……」
「 ……シャンティよ、さがっているのだ 」
緊迫した空気が張り詰める中、
黄金の姫が、一歩、前へ出る。
義賊クルルカンの鎧より、
清め払うような、高貴な音が響いた。
──キィん……!
「 あ、あの……お気を確かに…… 」
「 ──にょっきにょき!
にょっきにょっきにょき、
にょきっとにょきっとなぁ──!! 」
「 ──ひ、ひィィ……!!
や、やめてくだされ、おおお……!
そ、尊主ッ、様……!
御身の輝き、御言葉はッッ、
この老体には、こたえまするぅううう……! 」
「 ──なんっ!? 」
「 にょっきぃー? 」
先見の魔女は、
曲がった背中をさらに丸め、
黄金の姫に、ひれ伏している……!
ガタガタと震える、丸まった老婆……!
隣にて、ラクーンの老長が察す。
「 よ、ヨゲンナ殿……!?
そ……尊主様、とは……!?
よ……よもや。アンティラ様は……、
ワシなどが計り知れぬほどの、
御身分の方であらせられたかッ……!? 」
それを肯定するかのように、
金の装甲が、唸る──!!
──キィィィイん・・・!
「 お、お顔をおあげください! なぜ…… 」
「 にょきっとなー? 」
「 お・お・お!?
なんと、神々しい……っっ!
その御身……まさしく星のようじゃッッ……!
こ、こ、このような形で、
お目にかかれるとはァァア……!
このヨゲンナっ、
きょ、恐縮にございますぅぅう……!! 」
「 ぃ、ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃ 」
「 にょにょやぁー…… 」
( み、見よ……!
あの、ヨゲンナ殿が、装甲虫のように、
ひれ伏しておられるぞ!! )
( 尊主様、と仰ったか……!?
それに、アンティラ様、とは……?
かの黄金姫は、いったい……!! )
( この国を支えてこられた方が、
あのように、へりくだるとは……!
あの義賊のお姿……仮初であろうて。
うぅむ……只者では、あるまいっ──!! )
我ら貴族は、少ない情報より、
真理を勘繰る能力に明るい。
しかし、貴族社会にて揉まれていなくとも、
察するに余りある事柄であった。
ラクーンの老長は、体を丸め続ける老婆に、
これはいかぬ、と駆け寄った──……!
「 よ、ヨゲンナ殿っ……!
お気を、確かになさるのじゃ……!
こ、このような場で、床に突っ伏しては……! 」
「 ──ば、バカな、ジジアラよっ……!!
きっ、貴公は、わかっておらぬッッ……!!
ここに居る両極はっっ!!
この国を……!! 大きく……!!
二分する者たちなのじゃぞッッ──……!!?」
「 ──な、なんと、申されたかッッ……!? 」
──!?
ヨゲンナ殿の言葉に、耳を疑う……!
" 国を二分する者たち "など……、
間違っても、王の前で言う言葉ではない。
なれば……本当に……?
「 そ、そっ、そのっ……両極に座する双牙が!!
隣り合いッッ、共に居ようとは──……ッッ!!!
おおッッ……、なんと、恐ろしいッッ……!!
有り得ては、ならぬことよおォォ……!!」
「 両、極……!? この御二方が……! 」
「 そうともォォヨォ……!!
" 尊主様 "に! 唯一!
対抗しうる者ォォオ……!
それこそがっ……!!
あの後ろにいる銀狼っ!!
──" 反逆花 "なのじゃあああああ!!!」
「 ──ッッ!! 」
──わずかに前へと出た黄金姫の後ろ。
反逆花と呼ばれた、
狂い銀の姫が、
目を丸くする。
「 わ、私は……! 」
「 く、くゆーぅ? 」
「 ジジアラよォ……!!
アレは……" 対となる者 "なのじゃあぁ……!!
この世を真っ二つにする、
恐るべき存在ナリィィイッッ……!! 」
「 アンティラ様と……、"対となる者"……。
──……ッッ!!
あ白銀の君は、まさか……?
────" 月の……巫女 "……? 」
年老いたラクーンの言葉は、
即座に周囲の貴族たちに思考され、
あらゆる推論を導き出す──……!
( "月の巫女"……だと!?
それに、反逆花、とは……!? )
( 対となる者が、"月の巫女"……?
であるならば……あの尊主と呼ばれる御方は、
"太陽の巫女"……とでもいうのだろうか……? )
( " 両星の巫女 "が、国を分ける、だと……? )
「 戦いが……起こるのじゃ……っ!
この世を隔てる、未曾有の戦いが……っっ! 」
視線が銀へと集まり、
敵役とされる姫に、
僅かな動揺が見え隠れする。
「 な、にを……言うの! あなたは…… 」
「 ──くゆっくゆー!
くゆくゆくゆくゆくゆくゆ、
くゆくゆ、かんかーぁん! 」
「 の、のゥオオオおおぉ……!!
尊主様を脅かす、不届きな花の者よ……!!
こ、この、恐れ知らずめぇ……!!
なぜ、図々しくも、おそばに居ようかっ……!! 」
「 ── ナ、ん ダ …… ト ? 」
「 く、くゆっ……!? 」
────ビキッ。
────パチパチッ。
────ギギギッッン……!
────ヒュォオオ、オオぉお──……!
( ……な、なんだ!?
妙に、肌寒くはないか……!? )
( す、少し氷の魔石が、効きすぎでは……!? )
( お、おい……!!
グラスに、霜がおりているぞ……! )
──それは、異質な光景であった。
──ギ……ッ!
──バリンッッ!!
──ゴトン……コロン。
「 ──な!? そのテーブル!
グラスが、突如として割れたぞ!?
どうしたというのだッッ……!? 」
「 み、見て…… 」
「 なに……? 」
「 中身のワインが……凍っている!! 」
「 ば……!? 」
「 ……おとうさま、おかあさま 」
「 さ、さむい。なぜ、急に……! 」
「 ──!! あなた、アレは……! 」
「 とおさま、みて── 」
ドレスで着飾った、小さな姫のひとりが。
銀の姫を指さした────。
「 きょうぎんが、おこってる── 」
ギ・ギ・ギ……。
ベキ、バキィ……!
バチ、バチチッッ……!!
「
ナ ゼ ワ タ シ が
ソ バ に イ テ ハ
ダ メ ナ ノ ダ
」
「 くゆっ……ッッ!? 」
──バリン、バリンバリン!!
──パリッッ……バチチ!!
──ギィィ、ィイン……!!
「 あの、ドレスの花……?
こ………凍って、いる? 」
「 ……仮面の、角が…… 」
「 …………" 銀の、鬼 "……! 」
──可憐な銀姫は、変貌を遂げている。
いや……今も、変わり行く────。
狂銀の姫君から伝わる、おぞましき程の冷気。
パチン、パチンと弾けるような光。
絨毯や料理、飾られた花などが、
またたく間に凍りついていく──……!!
禍々しい銀の鎧に呼応し、
氷の華が、花開く────。
「 に"ょわ"ー!!? 」
「 ──マイスッ……!? やめなッッ!! 」
黄金の義賊が制止し、
しかし、" マイス "と呼ばれた狂いの姫は、
もう、止まらない────……。
「
ナ ゼ 、 ソ バ に
イ タ ラ ッ ……ァ ア ! !
」
「 くゆゆくゆゆくゆゆ──!?!? 」
──バキバキバキバキバキバキィィ……ッッ!!
「 きょ……狂銀……オクセンフェルト──……!! 」
誰かが、言う。
皆が知る、その敵役の名を。
氷の花を咲かす、狂いの鬼だ。
絨毯を流れる冷気から、
花が、咲き始めている。
世界を白く染めながら、
我らの足元へと、迫っていた──。
「 おかあさま、氷の、はなー 」
「──危ない!! 下がりなさいっ!!」
何人かのご子息に、
もうすぐ、薄氷の花が、届く────。
──バキバキバキバキッッ……!!
「
ナ 、 ゼ ダ ・ ・ ・ !
」
「くゆくゆくゆくゆくゆくゆ──っ!!!?」
「「「 ひっ……! 」」」
──会場の皆が、恐怖に飲まれそうな時。
「 にょきにょきッッ! にょんやぁー……! 」
「──ッッ!! マイスッ……!!
──────チッ……!」
──何かが、唸り散らす音がした。
──きゅぅぅうういいいいいんんん……!!!
────ボボォオオおおぉ──ッッ!!!
──────キ ィ ィ イ イ ン・・・!
「
て め ぇ 、
や め ろ っ つ っ て ん
だ ろ が ッ ッ ・ ・ ・ ! !
」
「
ガ ッ ・ ・ ・ !?
」
──ボボォオオおおおおォォォ──ッ!!!!!
「 ……!! アンティラ様の、炎……!! 」
──突然、照りつけるような熱量・・・!!
黄金の姫を見るッッ!!
あれは──っ!?!?
「 な、なんだ、あのクルルカンはっ!?
全身から……炎が吹き出ているぞっ……!! 」
「 あ、熱いっ……!! なんとっ!?
魔力は、全く感じぬというのにっ……!! 」
「 む……無詠唱、魔術なのか……ッ!? 」
「 空中で……何かが、回転しているぞっ……! 」
「 見て……氷が溶けていきますわ…… 」
──ジュぅぅう、ううううぅぅ──……!
「 落ち着き、やがれ──ッ! 」
「 ダッテ……、ダッテ……! 」
「 にょきっとぉー!! 」
「 くゆぅ…… 」
────バサァァあああ────!!
「「「 ──ッッ!!? 」」」
クルルカンの姫の、マントが・・・!?
大きく、波のように拡がり、
我らと氷の花との間にて、防壁と化す──!!!
「 何だっ!? あの大きなマントはっ……!! 」
「 すごい…… 」
──きゅぅういいいいんんんんん・・・!!
──ひゅん・・・! ひゅん・・・!!
──ぼぉおおおおおおおおおおお・・・!!
「 っ! 何かが……炎が! 飛んでいる……? 」
大きく壁のように拡がったマントの中で、
回転する、いくつもの円盤のような飛翔体が、
炎を放っているのが、わかった。
凍りついたテーブル、絨毯、料理──……。
それらを喰らおうとしていた氷を、
ただの水へと、溶かし尽くしていく────。
マントの隙間から覗く飛行体を、
私はひとつ、観察することができた。
──きゅういいいんん・・・!!
( ……!! 黄金の、太陽の意匠……!?
金のリングから……炎が出ている……! )
飛び交う黄金の太陽のリングは、
恐らく20ほどはあるだろう。
見えているのは、私だけではない。
その証拠に、誰かが言った──。
「 炎と……氷の、巫女── 」
冷気と熱量が互いを殺し合い、
宴の席は、常温を取り戻しつつあった。
割れたグラスだけが、
キラキラと陽光を反射している。
シュルル、と黄金のマントが収縮しだし、
黄金の姫の声が聞こえた。
「 ……チッ!
うさ丸! カンクル、
ずらかるよっ!! 」
「 にょやっ! 」
「 くるーっ! 」
「 ア、アン、──ワタシッ…… 」
「 ──ったく、このバカタレぇぇ……!! 」
ぐいっ──!!
キィん、ぎィン──!!
「 あー! 」
「 おひめさま、だっこだー! 」
義賊の姫は、
まだ狂おしさが残る白銀姫を腕に抱え、
────!
大窓の、方へ行く──・・・!?
何人かのメイドや兵が止めようとしたが、
────間に合うはずが、なかった。
「 ────ごめんっ!」
「 ッッ……! 」
「にょやっー!」
「くゆくゆっ♪」
ガッ────きぃん……!
「「「 あっ……! 」」」
まだ、元の大きさに戻っていない、白金のマント。
まだ、冷気を孕む、光が透過する、白銀のドレス。
それらが、窓の外に、吸い込まれ────。
──ひゅ、おぉぉぉおぉ──────…………!
────…………。
───……。
──。
「 ……窓から、飛び降りちゃった…… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
「 ………………… 」
シ────────ん……。
夢を、見たのではないか。
ポツリ、とラクーンの老長が、言う。
「 アンティラ様と……対を成す……、
氷月の巫女様が、おられるとは──…… 」
正反対の性を持つ、
同じ、性の対星……。
「 すご、いね…… 」
「 たた、かってたね…… 」
「 ぎぞくと、きょうぎんだったね……! 」
まだ無邪気さが残る貴族の卵たちが、
まるで演劇を観終わったあとのように、
笑顔を浮かべている。
……。
王が……魔女に近づいていた。
ズシッ……、ズシッ……、ズシリ。
「 ……先見の魔女、ヨゲンナよ……」
「 ぉ、お……バルドの坊ちゃま……!
い、いや……バルドアックス国王陛下よ…… 」
「 ……我が娘の祝いの場、
随分と余興が過ぎたものだ…… 」
「 ……! これは……。
……ふ。このヨゲンナ……、取り乱し申した……。
どのような罰でも、受けましょうゾ…… 」
「 ……貴殿には、国の大恩がある。
……それにて、不問としても良い 」
「 ぉ、お……なん、と…… 」
「 だが、貴殿は余が知らぬ事を、
多く、知っているようだ── 」
「 ……! ……、…… 」
情報を、聞き出そうとなされる、
バルドアックス国王陛下。
その後ろに、王の母たる御身が、歩みを寄せる。
────エルミナイシア、王太妃殿下である。
──ザッ。
「 ……お教えなさい。ヨゲンナよ 」
「 ……! 母上…… 」
「 っ、エルミナイシアよ……すまヌ。
おヌシの孫姫の祝いの席、どうやら……、
このババアが台無しにしたようじゃて…… 」
「 ……貴女にそう呼ばれるのは、
ずいぶんと久しいものです……。
ヨゲンナよ。申し訳なく思うのなら、
お答えなさい──…… 」
「 む…… 」
「 "尊主"と、"反逆花"と言いましたね……。
あの方たちは……何者であるというの? 」
「 見て……わかったであろう……。
対を成し、互いを滅ぼし合う……
そういう星に、生まれた御方たちじゃ…… 」
「 ……、どういう意味ですか 」
「 エルミナイシアよ……。
あの両聖を信仰する組織は、
そなたが思うより、遥かに強大なのじゃ…… 」
「 ──!! その……そのような、ことが……っ! 」
「 ──事実じゃ。つい先日も、
尊主様を謀った虫ケラの一族が、
西の街より全て、一掃されたと聞く 」
「 ……ッ!!?
それ、は……! 思想に歯向かった者たちが、
自らの同族ごと……、
滅ぼされたと、いうことですか……!? 」
「 …然り。
ほぼ数日で、虫一匹も逃さぬ有り様と聞く 」
ば、バカな……、……。
ひとつの種族が、
根絶やしにされるほどの勢力だというのか……!?
そ、そのような規模の……組織力。
恐らく、民の中に、
隠れるようにだが……浸透しきっている…………!
「 ……、……。
それは、あの方の意志なのですか 」
「 ──……!
そっ、それは違うぞよ、エルミナイシアよ!
あの御方は……膨大な数の同士たちの、
全てを感知してはおらぬじゃろう……。
信仰者たちが、勝手に動いたのじゃ……! 」
「 そこまで……、狂信的な思想が、
民に……根付いているのですか…… 」
「 わかるじゃろう……エルミナイシアよ。
数とは、怖いぞよ。
大いなる……"うねり"を生む。
この国をつくりし時、
痛感したものじゃろう……?
このババアと、エルミナイシア、
そして、レイズ殿と、共に、な…… 」
「 ……、えぇ……そうですね 」
「 反逆花の勢力は、
いまや、尊主様のソレと、
拮抗すると聞く 」
「 ッ……、止めるすべは 」
「 ──ない。大きく、なり過ぎておろう 」
「 …… 」
「 両雄が争えば、
この国は、ふたつに裂けるじゃろう…… 」
( な、なんと、いうことか……! )
( 予言ババア殿の、神秘の予言だぞ……!? )
( 国が、裂けるとまで言わしめるか……!! )
ざわ……、
ざわ……。
ざわ……!
「 ……ヨゲンナよ。
しかし、あの両名は、共にいました。
そうでしょう? 」
「 それは……! じゃが、、、じゃな……!? 」
「 ──諦めては、ならぬ 」
「 っ! お、王よ……! 」
へたり込む先見の魔女。
絶望に染まる老婆を諭すは、
我らが斧の王である。
「 ……ヨゲンナよ。この灼眼には、
仲の良い、互いを支え合う者に写った 」
「 ……、…… 」
「 我らが信じてやらねば、
真の大平など無い。
そうであろう──? 」
「 ……! っ、……! 」
「 ──我らが、未来を疑い、決めてはならぬ。
昔、そなたが、
教えてくれたのではないか── 」
「 ……──── 」
王の表情は、明るき未来を信じるという、
希望に満ち溢れている──。
それでこそ、我らが王である。
「 ……ふ、ふ。そうか。
そうじゃったな…… 」
ヨゲンナ殿は、憑き物がとれたように、笑った。
「 ……バルドアックス国王陛下よ……。
あの一対が争えば、間違いなく、
この国は割れよう。 」
「 ……! 」
「
……が、しかし!
もし……かの御二方が、
手を取り合い、互いを慈しみ合う。
そのような奇跡が起こったなら──……。
この王国は、
"千年の太平"を得るじゃろう──!
」
「 ほぅ……! 」
予言ババアは、高らかに、そう言い切った──……!
我らからも、希望に満ちた声が、溢れ出す……!
" ぉ、おお……! "
" まぁ……!! "
" なんと、素晴らしき予言か……っ! "
「 ふ……。大きく、出たものですね。ヨゲンナ……? 」
「 ふ……素晴らしき王を産んだものじゃ、
エルミナイシアよ──。
──皆! 聞いておくれ! 」
予言ババア殿が手を挙げ、
皆の注意を惹き付ける!
「 此度の騒ぎ、全て、このババアのせいじゃ!
あの方たちに、なんの責務も無しッッ──!!
ふ、この身も、老いたものよノ……。
心が弱り、輝かしい未来への道を、
見限ってしまっておったわ……ッ! 」
「 ……ヨゲンナ 」
「 これより、このババアは……余生をかけ、
両極が手を取り合う未来を模索しよう。
死に損ないのババアの、さいごの仕事じゃ! 」
「 よ、ヨゲンナ殿……!
このジジアラも、微力ながら、
お手伝いいたしますぞ……! 」
「 ……の! ひゃっひゅっ、ひょっ!
おヌシはたまに、
茶に付きおうてくれればよいっ! 」
先ほどまでとは打って変わって、
穏やかな雰囲気が、流れている。
ババアは、宴の主役たる御身に、語りかける──。
「 オルシャンティア王女殿下様や…… 」
「 は、はいっ……! 」
「 此度の一件、誠に、済まなんだ……!
このババア、一生の不覚ナリ……! 」
「 い、いえ……っ 」
「 ふ、ふ……、
この失礼なババアは退室し、
本日は、この国の未来のため、
祈祷を捧げようと思いまする。
よろしいでしょうかな……? 」
ほう……!
あの、先見の魔女殿が、
輝かしい未来を、祈り賜うか……!
「 お、お願いします……! 」
「 ひゃっ、ひゅっ、ひょっ……!
おそれ多くも、拝命いたしまする。
おお……! その杖は……! 素晴らしい……。
ご自身の魔装具を、見つけられたか……! 」
「 ま、そう、ぐ……? 」
「 うむ……!
素晴らしき……、素晴らしきかな……。
未来は……まだ、決まってはおらぬ……!!
ううむ──!
では、これにて────・・・! 」
さささささささささ────。
嵐のような時が過ぎ去り、
まるで劇を観たあとのような、
奇妙な充実感が、我らにはあった。
確かに、不安を募る事柄も、世にはあるのだろう。
しかし、そうではない。
そうでは、ないのだ──。
オルシャンティア王女殿下の周りを、
三振りの美しい杖が、回っている────。
「 あ──……! よいしょっ!
にょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっとにょきっと、にょきっとなぁぁあああああああああぁぁぁ!!!!! 」
「く、クランマスター様は、部屋に篭って……さっきから何を唱えていらっしゃるんだ……!?」
「わかんねぇ……。なんか、祈ってるっぽいんだよ……」
「……冗談だろ?」
「今日ってさぁ……、王女さまのお誕生日パーティでしたよね??」
「……とうとう、ボケたか?」
「……クラン、かえよっかな……」
「 ひゃっ、ひゅっ、ひょっ……♪♪♪
にょきっとナンバー、98番……!
ヨゲンナ・アタッタールが、
このモフモフマスコット大戦争を、
終わらせますぞぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」
マイちゃんをカナシマセトイテ……
ナニャ、ワラッテヤガルァァ……?
( º言º)▄︻┻┳═一 +
すチャ……










