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とある宴の視点より。ゲッ

(*´ω`*)今日も元気に思いつき.*・゜






 " 飛翔連石(ひしょうれんせき) "────。



 Aランク以上の強大な魔物の魔石核には、

 本体より抽出した後、飛翔体が発生する場合がある。

 中央核に内包しきれない魔素の奔流が結晶となり、

 魔石核の周囲の流路に沿って飛翔するのである。


 この飛翔結晶体の特筆すべきは、

 魔石核を中心に回る魔素の流れに沿って結晶化するため、

 流路の向きが非常に整っているという点である。


 言うまでもなく、

 美しい魔術流路を持つ魔石結晶体は、

 短杖や宝剣の優れた魔術触媒となる。


 この稀有な魔石結晶体は、

 強大な魔物であればあるほど、

 連石が発生する可能性が高いと言われている。


 同じ魔石核から発生した飛翔連石は、

 魔力を通した際、互いに共鳴し合い、

 魔術効果を増幅する作用がある事がわかっている。


 だが、それらを武具や宝具に加工した際、

 その飛翔現象は、ほぼ例外なく消滅してしまう。


 巨大な中央核から離れた飛翔連石は、

 美しい武具に生まれ変わる事と引き換えに、

 鍛冶職や、魔術師職人の魔力に汚染され、

 本来の澄んだ輝きを曇らせるのだ。


 飛翔連石は、手に触れるだけで、

 その神秘を散らす、至高の奇跡である──。


 ──そのはずだ。





 そのはずだ。


 そのはずだ。


 そのはずだ。



 そのはず、なのだ────……!








  わぁ──……っ! お父さま、お母さま!

  見てくださいっ!

  空飛ぶ、カトラリーセットですっ!

                     」


「「  」」





      フォン・・・──!


  フォン・・・──!

 

       フォン・・・──!





 オルシャンティア王女の右腕を軸として、


 三つの奇跡が、くるくると回っている。


 なる、ほど。


 フォークと、ナイフと、スプーン。


 見えよう。


 確かに、カトラリーセットに、だ。


 だが──。




 ──三連の、エメラルドグリーンの輝き……!






「ひ……飛翔、連石の、

 トライアングル・ショートスタッフ……!」





 これは、私の声だった。


 有り得ぬ。


 有り得ぬのだ。


 本体は……ミスリル、だろうか。


 だが、あのような陶磁器の(ごと)く乳白色の銀は、


 あまり、お目にかかった事がない。


 いや、少々……金も混じっているか?


 純金は熱や衝撃に弱い分、


 優れた魔法触媒のひとつでもある。


 やはり……あれは魔具として設計されている!


 そ、それよりも、だ。


 あの、大粒の、三つのエメラルド……!!!




 何故──……!


 あの三つの杖はっ、


 飛翔し続けているのだろうか──ッッ!?





「すごぉーい……! 見て! 自由に動かせますっ!」


「おぉー、すごいわねー」

「空飛ぶスプーンだ」




 王女殿下が触れ、


 小さな宝箱から舞う、


 エメラルド輝く、姉妹杖──。




「 アンティ、クルルと、狂銀(きょうぎん)(ひめ)よ…… 」




 王が、問うた。




「 これは、なんだ 」




「あっ、と……百光銀(ぴゃっこうぎん)純金(じゅんきん)を使った、カトラリーセットです。三つのエメラルドも使っています」

「がんばりましたっ♪」




「  」




 ──とんでもないことを言う。






 " 百光銀(ぴゃっこうぎん) "。



 この世で一番加工が難しいミスリルである。


 熱錬成直後から硬化が始まり、

 その粘り気のある性質は、

 恐ろしい強度を生む反面、

 柔軟な形成は難しい。


 百光(ぴゃっこう)の鎧を作るには、

 上級の炎の魔術師が、300はいると言う。


 また、この銀は硬化が早く、

 他の金属との合金は、非常に難しい。


 城壁のレンガに混ぜるならまだしも。


 彫刻や細工など、(もっ)ての(ほか)だ──。





「こ、これっ、とってもすごいですっ!!

 王冠とか、綺麗な模様とか彫ってあります……!

 ねぇ、なんで飛ぶんですかっ!?」


「やぁー……なーんで飛ぶんでしょーねぇ……」

「さいしょっからピュンピュン飛んでたよ」


「そうなんですね……!

 すっ、すごい……! ホントにきれぃ……!」


「きひひひ……、王女様的にはさ。

 このプレゼント、おっけーだと思う??」


「……!! ま、満点だと思いますっ!!」


「きひひっ♪ そりゃ楽しみね♪」

「どやー!」





 オルシャンティア王女殿下は、

 御身の腕の周りを飛ぶ三種の神具を、

 そっ……と、手にとり、眺められた。




「うわぁー☆」


「「あっ……」」


「えっ?」


「……アンティ、どーする?」

「ま、まぁーしょうがないんじゃない? 宝石の質なんてのは、この際どうでもいいモン。コイツをさ……? 長く使ってくれることに、とっても意味があるんだわ」

「……うん。そのとおりだね」




 ほ、宝石の質は、どうでもいい……?


 わ、ワケが、わからない……。


 明らかに、最高の状態の飛翔連石だぞ……?


 周囲の人間は、まだ、


 目の前で起きている現象を理解していない。




「見てくださいっ、お父さま!

 ほらっ、このフォーク、

 私が触ると、お空を飛ぶんですよっ!」


「う、む……?」




 バルドアックス国王陛下が、

 思わず、オルシャンティア王女殿下が差し出した、

 白銀と翠玉のフォークを手に取る。


 ──飛ばない。




「……、しまった……!」




 王の焦りが、我らにも伝わる。


 王の魔力によって、エメラルドの飛翔連石が、


 汚染されたのやもしれないからである。




「?? お父さまには……飛ばせないのですか?」


「……、……」




 王の、冷や汗が湧くような表情を、

 私は初めて見たやもしれぬ。




「えへへっ♪ 貸してくださいっ!

 ほら────っ!」




 ──ふわっ──・・・!


 ──フォン──・・・!




「──っ!!」




 な、……。


 なぜ、だ……!?


 あれは、飛翔連石の、はず……?


 オルシャンティア王女殿下が触ると、

 三つの食器あらざる神具は、

 何事もなかったように宙へと浮き、

 ダンスを再開する……!


 まるで、王女殿下を、

 主と認めているようである──……!




「えへへ、お母さま、いーでしょう♪」


「え……、えぇ! ……あなた」

「う、む……」




 コオミナ王妃殿下は、一瞬、

 国王陛下と目を合わせた後、恐る恐る、

 (みやび)な意匠のスプーンをお持ちになった。



 ──ふわっ──・・・!


 ──フフォン──・・・!




「──……!!」


「あっ! お母さまも、飛ばせるのですねっ!」





 コオミナ王妃殿下の手の上で、

 スプーンがふわふわと浮遊する──……!



 わ、わからない……!!


 一度でも触った飛翔連石は、飛ばないはずだ……!


 ましてや、親となる魔石核無しに……、


 いや待て。


 まさか。


 ──まさ、か…………ッッ!!!?!?




「──!! ……あな、た!! これはもしや──!?」

「……あぁ。コオミナよ、これは──」




 コオミナ王妃殿下は、

 普段より落ち着いた表情を絶やさぬ、

 美しい御方である。


 そのコオミナ王妃殿下が今、

 信じられぬ、という驚愕の表情を浮かべている。

 バルドアックス国王陛下は、一筋の汗をかく。




「わぁーい! えーいっ!」


「にょきっとな?」

「くゆくゆ♪」


「こ、こらぁーっ! あんまり食器で遊んじゃダメよー!」

「遠くのハンバーグ、刺せるかなぁ」




 汚染されているなら、飛ばない。


 なら、簡単ではないかっ……!


 微塵も(・・・)汚染されていない(・・・・・・・・)!!


 原理は、わからぬッッ!!


 だがッッ!!


 あの飛翔連石はッッ───、




 百光銀と純金(・・・・・・)の合金(・・・)を使い(・・・)ッッ!


 全く魔力に触れずに(・・・・・・・・・)加工されたが故に(・・・・・・・・)ッッ!!



 ──オルシャンティア(・・・・・・・・)王女御自身の魔力を(・・・・・・・・・)

 中心核として(・・・・・・)認識したのだ(・・・・・・)ッッ──!!!





「みっ、見てっ! 遠くのケーキ、とれたよーっ♪♪」


「ちょちょ!? ちょっとシャンティちゃん!? お行儀ワルイわよっ!」

「ごはんハンティングできるね」




 ……飛翔連石の、魔法増幅威力は……ええと。


 みっつ、か……。


 三乗になるはずだから……。


 3✕3✕3……。


 27倍だ……。


 目が、回る……。


 そんなもの、神の創造物(アーティファクト)級ではないか……。


 王女殿下が中級魔法のいずれかを習得すれば……、


 あっという間に、殲滅魔法、足り得るぞ……!?




「遠くのステーキも切れます!」


「こるあああ! ちゃんと後で洗いなさいよぉおお!!?」

「驚きの遠距離攻撃。その皿の肉は私のです」




 なんという、ことだろう……。


 魔法の威力を27倍にもする神具が──。


 オルシャンティア王女殿下の、


 専用の魔術連装と、なったのだ・・・!





「……ふたりの(ひめ)よ」


「「 っ! 」」


「……至極(しごく)が、()ぎる」


「「 えっ……?? 」」





 王の御言葉は、尤もである。


 これは間違いなく、国宝級の品であった。





「……褒美(ほうび)を、とらせたい」


「は、はいっ??」

「なんでか、わかりません」




 義賊と狂銀は、首を傾げる。




「そ、それは誕生日プレゼントですから……っ。

 お返しを貰うのは変ですよぅ」

「そんなルールは、ないと思う」


「……」




 このような宝具を王に納めたのだ。

 褒美を頂戴するのが人の世である。

 土地を貰える程の功績であろうに。

 二人は、あっけらかんと固辞する。




「それよりも──お願いが」


「む、()こう」


「そのカトラリーセットには……。

 私達の"友"が遺した石を使っています」


「……っ!! (とも)、だと……?」


「はい……。"大いなる諦めぬ者"が持つ、

 気高き……"鼓動のエメラルド"です」


「……"(おお)いなる、(あきら)めぬ(もの)"……!

 ……、気高(けだか)き、鼓動(こどう)……? ふむ……」





 黄金と白銀の姫は、姿勢を正す。




「──私達の願いは、ただ一つ──」

「──その、三つの存在が──」


「「──永く、後世へと紡がれていく事を、望みます」」




 この時の姫君たちの言葉には、

 言い知れぬ、心中の想いのような物が溢れていた。




「「 、…… 」」




 王と王妃の感極まる様を、

 目の当たりにする事となる。




「シャンティちゃん……かならず、ちゃんと渡してね?」

「え……?」




 オルシャンティア王女殿下は、

 キョトンとしている。

 いや、我らは、理解した。



 渡すとは、"次の世代へ(・・・・・)"、という事──!!


 この三種の神器は、


 王女殿下の血を引く者しか、


 その真価を発揮できぬ……!


 そ、そうか──!!


 獣人の血を引きながら、王室に入られた御身……!


 それを、後世まで肯定する神具が、


 ここに、存在するのだ──……!!


 これほど……殿下を支え行く存在が、


 他に、あるであろうか──……!


 かの血筋は、この宝具に保証され続ける。


 未来永劫、彼女たちの血を、認め続ける。



 これは────"激励(げきれい)"なのだ……!





 ────ふわりと、人影が近づいていた。





「あっ……!」



 オルシャンティア王女殿下が、

 騒ぎを聞きつけて近づいてきたであろう、

 その御仁に気づく。


 その方こそは────。






「──おばあちゃま!」


「 ……シャンティ。その……杖は──── 」 






 ──王太妃様は、静かに参られる。

 ──孫姫の杖を見て、絶句する。




「えへへっ☆

 おばあちゃま! ほらっ、見てくださいっ♪」


「……母上(ははうえ)──」

「お、御母様(おかあさま)──」



「 ……──── 」



「あっ……!! お、お久しぶりですっ!」

「……! ぺ、ぺこり……」



「あなたは──」




 この国を創りし、国の母たる王太妃様。

 我らは至高の御方の登場に、戦慄する。

 よもや本日、お目にかかれようとは……!



「見てくださいっ。ほらっ☆

 クルルカンさん達が持ってきてくれたのですよっ♪」


「──、──……、なんと、いう──」





 恐らく聡明なる王太妃様は、


 一瞬で、全ての事を悟った。


 この宙に浮く三つの神器は、


 獣人の血流るる王家の未来、


 その全てを祝福し、尚且つ、


 見守り続ける至高であると。




「……──」


「あ、えっと……?」

「……??」




 とても厳しい顔をして。


 王太妃様は、

 黄金と白銀の姫の元へと、向かわれた。


 ──立ち止まる。




「……」


「あ、の……。おばあちゃ、ま?」

「?? ???」




 ──────スッ……。




 ──信じ難い。

 王太妃様が、床に膝をついたのである。




「ちょ……?」

「?????」


「──我が国の未来を祝福する心に、今の私には……まともな御礼の言葉さえ思いつきません。心優しき義賊よ。一度目は魂を……二度目は誇りを救われました。この大恩、我ら国家は……忘れる事はないでしょう」


「──ぉ! 大袈裟ですよぅ、おばあちゃま……! ただのスプーンとかですからぁ! あ、でもキッチリ銀で作ってますから、そこは安心ですよっ♪」

「すごく、がんばりましたっ」


「……なんと、まぁ。あなたは……ほんとに……」




 この国の母たる王太妃様が(かしず)くなど、


 国の歴史において、有り得ない事象である。


 会場は、静まりかえっていた。


 


「……黄金の姫よ。その白銀の君は──……」


「え、あっ。その、一緒に来ました」

「っ、ご、ごきげんよう──です」




 何度目かになる礼を、

 白銀の姫は優雅にこなす。

 うむ……? やはり黄金の姫は、

 王太妃様とも、お親しい間柄なのだろうか……?


 国家の母たる御身は問われた。




「……その方は、敵ですか? 味方ですか?」


「「──っ!!」」




 黄金と白銀は驚き、

 その義賊と狂銀の意匠が際立つ。


 少々、言葉に詰まったが、

 黄金の姫が、凛と答える。




「……大きな、敵でした」

「っ……」

「でも今は……この世で。私の一番、大切な人です」

「──っ! ぁっ、アンティぃい……///」


「そう、ですか──。ならば、義賊の君、狂銀の君よ。困った事があれば、私を訪ねなさい。この身が滅ぶまで、私は貴女方の盾となりましょう」


「「──えっ!?」」


「ふふ……覚えておきなさい。この国は、恩を与えられるばかりでは、ないのですよ」


「「……?? あ、有難う、ございます……???」」




 王太妃様は、黄金姫と白銀姫の手を取り、

 御自身の額にそっ……と、当てられた。

 まるで、真の王に謁見するかのようである。


 ここで……やっと、気づいた事がある。




 (かんむり)だ──。


 このクルルカンは、(かんむり)をつけている──……!






( 他国の、豪族──? いや、ちがう……!

  三連の飛翔連石を手に入れ、尚且つ、

  それを完全な状態で加工する技術など……!

  ただの、一貴族などでは、ないっ……!


  "黄金の冠"と……"白銀のティアラ"……!

  "王"と、"妃"──っ!!


   よ、よもや────?         )

 




 思わず周囲の表情を見るに、

 私を含め、何人かが気づき始めている。

 冷静に考えれば、当たり前の事である。


 王家の宴に、(かんむり)(たずさ)えるなど、

 無礼千万……!


 そう──。


 それが許されるのは、

 その冠が、相応しい、


 " とうとき御身なる者 "だけのはずである──……!




「お、おばあちゃま……っ! いいですから、そろそろ立って立って! み、みんな見てますし!」

「からだ、大事にしなきゃダメだよ」


「おや……ふふ。義賊さん? あなたのそばにいる狂銀さんは、あなたに似て、とても優しいのですね?」


「えへへっ……やぁね、何言ってるんですかぁ///」

「て、照れます……///」




 あの、親しげな御様子。


 よもや……本当に──?


 我らが知覚せぬ、



 ────" 彼方からの王族 "──……?




「お、おばあちゃま……? えぇと……?」

「……シャンティ。必ずや、未来へ引き継ぐのですよ?」

「……! ──はいっ!!」

「ふふっ、よろしい──!」



「きひひ……よかったっ♪」

「なんとか、なりそうだねっ」



「ぐすっ……!」

「む、コオミナよ。感極(かんきわ)まったか……!

 無理(むり)もない──」




 ちらりとそばを見ると、

 コオミナ王妃殿下が、

 涙を浮かべていらっしゃった。

 バルドアックス国王陛下が、

 優しい笑みを浮かべ、寄り添っている。




「──して、母上(ははうえ)よ。この黄金(おうごん)(ひめ)(こと)御存知(ごぞんじ)であったか?」


「……バルドよ。この者たちを、出来る限り助けておあげなさい。彼女は我が国の大恩人でもあるのです」


()われるまでもなき(こと)()(つま)()(ほこ)れと、()()していただいた──。この感謝(かんしゃ)、とても()()けはせぬ……!」


「ぐす……なんと、()(がた)き……!」


「お、お母さまが、泣いてる!? な、なんでっ──!?」




「な、なんか大事(おおごと)ねぇ……」

「いつ、渡すのかな??」



 王妃殿下が感激している最中、

 我らは認識外の偉人の存在に、

 心を奪われていた。


 仮面で顔を隠せし、一対の姫君──。

 我らの王女殿下を、祝福していただいた事は、

 間違いないだろう。


 ……が、仮に身分をあかせぬ方だとして、

 何故、御二方ともレディなのであろうか?


 黄金の義賊と、花の狂銀。

 同性の、王と、王妃。


 敵であり、子は成せぬ。


 未来を……紡ぐ。

 その道を、絶たれたかのような。

 道化と、成り下がったかのような。


 そのような(はかな)さを、

 感じずには、いられない────。




「にょきっとにょきっと!」

「くゆくゆーっ!」



 ラビット殿とウルフ殿は、

 義賊と、狂銀の姫に登る。

 ふたりの謎めいた方々は、

 ニコニコと微笑んでいた。



 まだ、陽は射し込んでいる。



 うむ────。



 まるで、絵本から飛び出した、

 幻の、王と王妃のようである──────。






 ────ガチャ・・・!





 劇中のような場面に酔っていた我らに、

 ──再び、祝いの門が開く音がした。

 随分と、遅いご到着の者がいたものだ。


 しかし……なんと、勿体ない御仁であろうか!

 今、ここで繰り広げられた歴史の1ページを、

 肌で感じる事ができぬとは……!






 ────が、


 我らは、甘かった。


 これで、終わりでは、ない。



 まだ────序章でしか、ないのだ────。






「──ひゅっ、ひぁっ、ひぇっ。

 これは、遅くなってしもうたなァー……!」


「──仕方ありませぬぞ。あの混雑では……」




 恥ずかしそうに入場する老婆と、

 ラクーン族の老いた紳士。


 その風貌に、我らは聞き覚えがあった。




(あれは……! "占い館"の長、ヨゲンナ・アタッタール殿では?)


(おお……! 先見(さきみ)の魔術を使う、あの大予言師の……?)


(うむ……隣のラクーン族の御方も、随分なご老体であるな。村の長であろうか……?)




 老婆は濃い茶色のローブをスッポリと纏い、

 ラクーン族の御老人は民族色は強いが、

 丁寧に正装しているのがわかる。


 よく見ると、御二方とも、

 清潔に保たれた上質の布地を使っていて、

 好感が持てるというものだ。




「いやぁ、いやぁ。すまん!

 すみませぬな。我のようなババァが、

 最後にくるものではないのゥ……!」


「ほっほ! 隣にジジィがおりますぞ!

 ほれ、胸を張って!」


「ひゃっ、ひゅっ、ひょっ! 

 張る胸など、とうに、しぼんだわっ!」




 あれが噂通りの御仁であるなら──。

 あの老婆は、"占い館"というクランのマスター、

 通称"予言ババア"、

 ヨゲンナ・アタッタール殿のはずである。


 あの少々あやしいフード姿とは裏腹に、 

 そのお力は、上位神官のソレに近く、

 特にヨゲンナ殿は「先見」……つまり、

 "未来視"に特化した能力をお持ちと聞く。


 若かりし頃は、

 この国の行く末を幾度も占ったという、

 国創りし偉人のひとり。

 王室御用達の御仁である──。

 



「ふ……む? 何やら静かなようじゃが、

 このババァが水をさしてしもうたかのゥ……?」


「そういえば、何やら静かにございますな?」




 噂よりも、ひょうきんな老婆と、

 ラクーンの老紳士。


 何も知らずに、宴の会場の中心へと歩む。

 



「──お……! ひょっひょ! これは、これは!

 皆様、勢揃いしていらして────」




「……にょきっと?」

「くゆーっ?」




「 ────  な ・ ・ ・ ッ ッ !? 」





 ────とスン・・・っ!!




 ──!?


 予言ババア、ヨゲンナ殿は、突然と尻もちをし、

 濃い茶色のフードが、パラリとひるがえった……!!



「お・お・お……!?」



 その表情は、「驚愕」の一言に尽きる……!

 ラクーンの老紳士が、すぐさま駆け寄る!





「なっ……!? よ、ヨゲンナ殿!?

 ど、どうなされたのかっ!?」


「な、あわ……あわわわわ……っっ!

 バ……バカ、なぁァ……ッッ!!」




 ヨゲンナ殿が、

 フラフラと手をあげ、指をさす……!


 その先にいたのは────……。





「ゲッ……!」「にょきっと?」

「……ぅゅ?」「くゆぅー??」




「お、や……!?」



 予言ババアの指さす先。

 ラクーン族の老紳士が、

 黄金姫と白銀姫の方に、

 ピタリ、と顔を止める。





「お……"黄金の髪"……!

 そして! そっ、そのマントの金の刺繍はっ……!

 ─────もしやッッ!?」


「ななな、なんということじゃあああァァァ〜〜〜〜!!!」





 予言ババアと、ラクーンの老紳士は、


 黄金と白銀の対姫に向かい、


 同時に、叫んだのだ────!!!!!










「──" 尊主様(そんしゅさま) "──っっ!?

 ──" 反逆(はんぎゃく)(はな) "──ッッ!!?

 ──な、何故ッッ、このような場所にィィイ〜〜っ!?!?」



「──" アンティラ様(・・・・・・) "ッっ!?

 ──" アンティラ様(・・・・・・) "では、

 ──ございませぬかっ……!?

 ──な、何故、このような所にっ……!!」





「じ、ジジアラ、殿……!」「にょき!」

「反逆の花って、私……?」「くゆぅ?」









 大きな運命の歯車を、


 我らは目撃する────・・・!






(*´ω`*)はい、入らなーい(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 実に感動的なアンジャッシュw
[一言] 読み返し四回目くらい、白光銀の説明見てて思ったこと… 熱に弱くてすぐ固まる… ハンダじゃね? 白光っていう名前のハンダがあった気がする( ˙-˙ )
2021/08/28 00:44 ジョニーデブ
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