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とある宴の視点より。上

<(_ _*)>お楽しみください。





 私が──。



 どこの誰であるかは、


 どうでも、良いことだろう。



 ただ……私は。


 あのパーティで起こった事を、


 あなたたちに、伝えたいのだ────。








 その一対が、祝いの門をくぐった時。


 そちらを見た誰もが、瞳を奪われた。


 いや……あれは、心を盗まれたのだ。




 不思議で、不可解で、美しい、一対。


 手を繋ぎ、静かに一礼した。




「まぁ──……」


「あれは──……」






 ────気づく。



 ああ、黄金の義賊と、


 その怨敵だ、と……!






 ここに招かれるは、


 真に、王が気を許す者のみとなる。


 祝いの門を通った事実は、信用に値する。


 が、この時ばかりは……自らの目を疑った。




 よく見ると、共に姫である。


 銀の姫は、金の姫に寄り、腕を絡ます。


 彼女たちは絵本の意匠だが、


 演劇にて、根強い人気を誇る題目でもある。




「す、すごいな……」


「何者であろうか」




 義賊と狂銀が、


 少女に身を変え、


 王の宴に馳せ参じる──。



 実に興が乗る、と、言わざるを得ぬ──……!




「お父様……お母様!

 たいへんよ、義賊と狂銀が来たわ……!」


「ふふふっ、ほんとうね」

「あぁ、そのようだな……!」




 この宴は、王の意向ゆえに、


 格式高いだけの、堅苦しいものではない。


 今宵、十の歳となる王女殿下のご学友、


 その弟君や妹君たちもが招かれている。


 着飾った小さな騎士や姫君たちは、


 突然の"絵本の住人たち"の訪問に、


 興奮を隠せないでいた──。




「うぅむ、あのような者たちが?」

「仮面とは、実に酔狂な──」




 何人かは、もしや本当の賊やもと思い、


 訝しげに見ていたのだが、


 毎日、手入れをされているであろう、


 あの美しい黄金と白銀の髪を見ては、


 確かに貴族の一であろうな……という結論に、


 容易に、たどり着いてしまう。




「ほぅ……! 是非とも、お顔を拝見したいものだな」

「ほほほ♪ 義賊殿と狂銀様です。それは難しいのではなくて?」



 

 大多数の者たちが落ち着きを取り戻し、


 純粋な興味が、彼女たちに向けられる。 




 ────キン──……、ギン……!




「……わ、わぁ……!」

「こ、こっちにきた……!」



 …………トトトト……!



 


 狂銀の姫が、腕を解き。


 カット・ステーキが並んだテーブルに近づくと、


 そばにいた子供たちがビックリし、


 慌てて親たちの膝後ろに隠れる。


 だが、銀の姫は非常に美しいドレスを召していたので、


 顔を覗かせた子たちを含め、


 皆は、優雅な歩行に釘づけとなる。




「す、すごい……」

「すきとおってる……」




 カチャ……。




 透き通った銀の布は風を孕ませ、


 持ち上げた器は、まるで神への供物だ。


 劇中の一場面のようなそれに、


 大きなマントをたわませ、


 義賊の姫は近づく────。




 銀の姫が、銀のフォークで、


 肉のひとかけらを、差し出した。




「はい──」


「……──」




 これには義賊の姫も困ったようで、


 周囲からは、ハハハッ、クスクスと、


 愉快な笑いが起きる。




「……っ」




 黄金姫は、仮面の上からわかるほど、


 眉を寄せて困っていたが──……、



 ────ぱくっ!



 っと、フォークに食いついた!




「まぁっ! はしたないったら♪」

「狂銀のステーキを、義賊が食べたぞ!」

「ふふふふふ。劇とは違い、仲が良いこと♪」



 義賊はモグモグと食べていたが、

 ハッ! として、

 テーブルの向こうにウェイターと立っていた、

 大柄のシェフに声をかける。




「こちらのお料理にも、

 お醤油が使われているのですね。

 驚きました──」


「──なッッッッ──……っっ!?!?!?」




 黄金姫の言葉に、もっと驚いたのは、

 シェフの方であった。




「な、なんとッッ……!

 お、お見逸れいたしましたっ、義賊様──……っ!

 これを看破されたのは……、

 貴女様が、初めてでございます……ッ!!」


「い、いえいえ。

 その……慣れ親しんでいますので」




「ち、父上。しょうゆ、とはなんですか……?」

「う、うむ……? わからぬ……」




 隣の男爵と、そのご子息が首を傾げた。


 後で知ることになるのだが、

 この、"しょうゆ"という調味料は、

 ナトリの街を主流とするものである。


 なんにせよ、この黄金姫は、

 王城にて出されるほどの料理の隠し味を、

 ピタリと言い当てたのであった。

 

 このレベルの食事には、

 普段から慣れ親しんでいると、

 周囲の者に思い知らせる事となる。

 


 

「こちらのリゾットを頂いても?」


「ぜ、ぜひに……! おとりわけいたしますっ!」




 がたいの良いシェフは、

 明らかな上客に、冷や汗と笑みを浮かべながら、

 何とか手を震わさず、取り分け終えた。



「ぱくっ……! んっ……!」


「──……っ!?」


「す……素晴らしいですね!

 とても……美味しいです!

 味はもちろんですが、この最高の温度……!

 チーズリゾットですのに、

 しかしジンワリと舌触りはよく──。

 保温するための火の魔石の位置は、

 さぞ、苦心されているのでしょうね……!」



 これを聞いたシェフは、

 一筋の涙を流した。



「な、泣いているのですか……?」


「も、申し訳ありませんっ、ぎ、義賊様っ……!!

 くっ、詳しくは語りませんがっ……、

 わ……私めは、このリゾットに、

 人生をかけた研鑽を費やしてきたのでございますっ……!

 それを……うっ、うぅ……!

 そ、そこまで、見抜いていただけるとはっ……!

 こ、この料理長、感激を隠しきれませんっ……!」


「は、はい。これ、すんごい美味しいです」



 このチーズリゾットは、

 後世に「黄金姫のリゾット」と呼ばれる、

 伝説のメニューとなるのだが、

 今、ここにいる者たちが知る由もない。


 ただ、この場のリゾットは、

 即座に無くなるだろうという予感だけがあった──。



「たべたーい」

「あぃあーぃ」



 銀の姫に器を渡し、

 怨敵の口にスプーンを突っ込む黄金の姫の元へ、

 ひとりの小さな紳士が駆け寄った。



「ご、ごきげんよう、ぎぞくのおかた!」


「……!? これは──。

 ふふ。御丁寧に、紳士殿──」




 小さな紳士は精一杯がんばっていたが、

 黄金姫の優美な礼に対しては、

 かなり見劣るものとなる。

 随分と……美しく礼をすることに、

 慣れているように見える──。


 黄金姫は最初は声をかけられた時、

 緊張の色が走ったが、

 相手が、とても小さな御子息だと知ると、

 急に顔がほころんだ。


 どうやら義賊の心は、子供には弱いようである──。




「と、とても、きれいなよろいですね!」


「まぁっ。有難うございます、騎士殿──」


「あの……なぜ、ぎぞくさまは、おんなのこなのですか!」


「あら。私は生まれた時から、女でございますよ?」


「そ、そうではなく……」




  "ハハハハハ──……"


   "ホホホホホ──……"




 近くを囲む者達からは、

 隠さない笑みが零れる。




「ぁ、あと! さきほどから、きになっているのですが!」


「はい。なんでございましょう」


「か、かたにのっている、

 ラビットのぬいぐるみは、なんでございましょう!

 おうじょでんかへの、プレゼントでしょうか──!」


「──! あぁ、この子ですか──」




 黄金姫は、肩からラビットの意匠を降ろし、

 しゃがみ、両手で御子息の前に、かかげてみせた。




「──これは、プレゼントではございません。

 私の大切な──友なのです」


「と、とも……?」


「ええ。近くでご覧なさい」


「……??」




 疑問を浮かべ、丸いラビットに近づく少年……、


 ────と。




「 にょきっと──な☆ 」


「──ほあぁッッ!?」




 ──とすん!




「う……うごいた……ッッ!!」




 小さな紳士は、絨毯の上に座り込む。




「ふふふっ。大丈夫ですか、紳士殿」

「にょっきぃ?」



「まぁ……っ! あのぬいぐるみ、動いているわ!」

「まさか、生きているのか!?」

「なんと可愛らしいのでしょう!」

「あのような……丸い従獣が存在しようとは……!」

「か、かあさま〜〜! あれほしぃ〜〜!」



「にょきっとぉ〜〜!」

「す、すごい……ふわふわだ……!」



 小さな御子息は、

 既に丸いラビットに夢中である。


 この時、銀の姫は隣で肉料理を食べていたが、

 ちょうど見た時に、

 ソースが襟元に垂れそうであった。


 気づいた所で、時すでに遅し。

 美しい銀の襟巻きに、茶色いソースが────、




 ──べちゃ。



「 あっ 」


「く、くゆ────っ!!?!?」



 

 しゅるり……!!


 くるくるくるくるくる────……!


 ──────しゅたっ。






 …………。






「「「「「 襟巻きがっ──……!? 」」」」」

「「「「「 生きてるっ──……!! 」」」」」




「く、くゆ──っ!!!

 くゆくゆっ、くっくゆ──!!!

 くゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆッッ、

 くゆくゆくゆっくゆぅぅぅう"う"──っ!!!」


「ご、ごめん……」




 ──べし、べし!



 小さなドッグのような襟巻きは、

 絨毯を前足でタップしながら、

 ソースを垂らした事を、銀の姫に抗議している。


 なんと……。

 自身の襟巻きに怒られるなど、

 前代未聞の事態であろうな。


 さて、忘れてはならないのは……。

 本来の貴族の宴とは違い、ここには──、



 ──大勢の子供たちが、招待されているという事である。





 だだだだだだだだだだ──!!!!!





「げっ……!」

「わわ……!」



 銀の姫が、動く襟巻きを拾い上げ、

 ソースを拭う頃には。


 我慢できなくなった小さな紳士と姫君たちは、

 黄金と白銀の姫に、駆け寄る事となった。




「──ねぇっ!! そのラビット、生きてるの!?」

「こいつ、生きたまま襟巻きになったのか?」

「仮面っキレイっ、よく見せて!」

「すごぉい……♪ このドレス、私も欲しいなぁぁ……!」

「マント、カッコイイですね……!」

「お姫様と、王子様みたい!」

「フサフサしてるーっ♪ うわっ、くすぐったい!!」

「絵本の続きはどうなるのですか!?」

「ここの所、穴が空いてるぞっ」

「まるーい!」



「ははは、こ、こらっ、あんま、ひっぱんないでねー」

「にょきっとなぁー……」

「つ、角、つかんじゃ、ダメー」

「かんかぁーん♪」




 あの対応を見るに、

 彼女たちは、このような状況に慣れているようだ。

 ふふ……デザートだけしか楽しみのない彼らには、

 最高のプレゼントと言えるだろう。




「なんか……あんまりいつもと変わんないよーな……?」

「い、いまお尻さわったの、だれっ……!?」



 何人かのメイドや、

 御子息たちの両親はアタフタしているが、

 愉快な雰囲気が、辺りには漂う。


 義賊と狂銀の姫君たちは、

 すでにこのパーティの中心になりつつある。




 しかし。



 これは。



 まだ、ほんの序章に過ぎない────。








 たたた、たたたたたたたたた────……!








 ────近づく、小さな、その御身。








 わかるのだ。




 この場にて────、




 エメラルドのドレスは────、




 その御方にしか、着れない────。








「あっ、みんな、場所をあけてっ──!」

「こ、こっちに、いらっしゃるわ──っ!」








 小さな彼らでも、

 すぐさま、対応は取られる────。



 さっ──……!!!







「「 ──えっ? 」」








 急に視界が晴れた、黄金姫と白銀姫。


 近づく、可愛らしい、足音。








 たたたたた、たたたたたた──……!









「……! あっ!」

「……??」













 この次の場面で。


   我らは、大いに、


     驚くこととなる──────!








 ──ぴょん!










「──わあっ! クルルカンさまっ!!!

 ──どうしてここにっっ──!?」




「────しゃ……シャンティちゃんっ!?

 ────うっわぁぁ! 見違えたわねぇ──!!」






 黄金の義賊の少女は、


 オルシャンティア王女殿下を抱きかかえ、







「わぁ────い!!」


「ははは! おてんばさんねぇ──!!」






 クルクルとっ、


 ぶん回しはじめたのである────!!!!!!!









ブンブンブンブンブンブ──ン!(旋回音)


挿し絵は今度♪((´∀`*))ノ

お楽しみに♪

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