クノ・ワンの定時報告
(^_^;)連投? 連投かな?
↑前話を投稿した時間の
記憶が無いたれ
王都隠密軽業職警護隊、
三番隊隊員、クノ・ワンが報告する。
現在、王都は王女殿下誕生祭前日という事もあり、
メインストリートを初め、人でごった返している。
どのような者でも酒場で一杯目が無料になるのだ。
ケモノビトの血を引く殿下の成長に、
私個人も、心より祝福を申し上げる。
さて私の任務は、この人混みに紛れ、
良からぬ企てをする間者などを発見、
場合によっては排除することである。
現在、私は"隠密のジェム"を使い、
建築物の屋根の上を移動している。
(しかし……賑わっているな)
私のようなコボルト派生系の獣人は魔法に疎い分、
耳だけでなく、目、鼻も効くので、
このような偵察任務には向いている。
"察知能力特化型"というのだろうか。
オオカミのような遠吠えをあげ、
中距離の仲間とコンタクトが取れるのも利点である。
この任務はとても大事なので、
昨日の三番隊は、壮絶な耳かき合戦であった。
感度は良好である。
(妙な動きは……ないな)
この混雑の中、違和感を見つける事は容易くはない。
最後に活きるのは、経験と感覚である。
私の大きく上に伸びる耳を、信じるしかないのだ。
(残りの隠蔽のジェムは、13か……)
誕生祭前の警備に先立ち、
ジェムとしては高価な部類の"隠蔽"が、
大量に支給されている。
(警報の遠吠えも、今まで発せられていない。
このまま何事もなければよいが……)
比較的高い屋根のひとつに降り立ち、
賑わう人々を見下ろしていた。
────その時である。
───────キラん……!
(──ッッ!?)
屋根にいるはずの私の頭上をさらに高く、
強烈な光の反射が視界に入った。
────きぃぃぃぃぃぃぃんんん!!!
────ぎぃぃいいいいいんんん!!!
──強烈な着地音が、すぐ側にて響く。
( ……な…… )
立ち上がったのは、
金と銀の仮面をかぶった、
マントのふたり組であった。
「……参ったわね。この人の多さは、カンッゼンに誤算だったわ……!」
「す、すごいねー……建物も高いね……!」
(……)
突然の事に、放心に近い状態で、目前を見つめる。
隠密部隊としては失格かもしれない……。
──でも、屋根の上にいる私のすぐ後ろに、
いきなり飛び降りてくるなんて、誰が思うのか!!?
「にょっきにょき!」
「まずはグルテンさんのトコだな……ふぅ」
「このまま屋根をいく?」
「その方が良さそうね」
「くゆ」
────ギキィィィイインンン!!!
(──あっ──……!?)
仮面の全身マントの二人組は、
物凄い勢いで走りだした!
や、やはり"賊"かっ……!?
まっ、まずい! 遠吠えをするタイミングを逃した!
はやい!! すぐに追わなければ!!
「──らぁ」
「──しっ」
──ギキィィィイイオオオオオンンン!!!
(なっ、なんだ!? あのジャンプ力はっ……!?)
突風に煽られたようにマントは舞い、
向こうの屋根の上に、甲高い足音を響かせて降り立つ!
た、只者ではない……!!
本気を出さなくては──……ッッ!!
(くっ──!!)
私は両手両足を使い、ウルフのように屋根を飛び移る!!
──!! は、はやい!
1、2、3、4、5……!!
ほぼ秒数と同じ速さで、屋根を飛び移っている!
追いつく事が……、できない!?
(──!! 止まっている……!? しめた!
ふ、ふぅ……ふぅ……)
隠蔽のジェムは、音を殺す事はできない。
なんとか荒ぶる息を整え、近くまで接近する。
……! この二人……あれだけの連続跳躍の後で、
全く……息が切れていない。
この炎天下の中、あんなマントを着て、
汗ひとつかかないとは……。
私のように、奥歯に水の魔石でも込めているのだろうか……?
「うわぁ……やっぱり超忙しそう……」
「宿屋さん?」
やはり、女性のふたり組のようだ……。
洗練された金と銀の仮面をつけている。
……!
見下ろしている宿屋は、
確か……" コムギ亭 "と言ったはずだ。
私も作戦資料で暗記しているに過ぎないが──。
「バジルパンが美味いのよ。うーん、ちょっと行ってみよう」
「泊まれるかなー……」
ギキィィィイインンン・・・!
(あっ……!)
とっ、飛び降りた!
下はメインストリートから一本外れた道だ。
いつもは空いているのだが、今は中々の混雑だ。
あのふたり組は、上手く路地裏に降り立ったようだ。
私は混乱した。
(賊が……王都の宿屋を利用するのか……? 小さいとは言えど、あの風貌は店主の印象に残ってしまうだろうし……)
……むっ!
あの二人が、野外にいた小さな娘に話しかけている!
娘はパンの乗った盆を抱えている……どうやら宿屋の娘のようだ。
……? 娘は驚いていたが、親しげだ……。
何やら申し訳なさそうにしている。
おっ、パンを貰っている。
今、渡したのは金か?
買ったのだろうか……?
金の仮面の方が、忙しそうな娘に手を振って別れた。
(……──! こちら側の路地裏にくる! まさか……?)
────きぎぃぃぃいんん・・・!!
「よっと……!」
「美味しそうー!!」
この高さを、一回の跳躍で上がってくるか……。
手には先ほどのパンが、ひとつずつ持たれている。
む……いい香りだ。
バジルパンが美味いと言っていたが。
「はあぁ……やっぱり、部屋いっぱいだったわねぇー」
「かふんしゃ……! お、おいひぃいー!!!」
銀の仮面の方が、焼きたてらしいパンにかぶりつく。
ご、ごくり……。凄く美味そうだ……。
い! いかんいかん……任務中だぞ!
あっ……遠吠え忘れてた……。
「もんぐもんぐ……ふぉかの宿屋さんじゃだめなの?」
「ん? うーん……あそこは前に泊まったコトあるから、この格好でもダメージが少ないのよ……つーか私、王都ではプチお尋ね者で有名っつーか……」
「そうなの?」
(……! なんだと!?)
まさか……指名手配犯ではあるまいな!?
なにか、前科が……!?
「ほら……前に、火事で逃げ遅れた子供を二人、助けた事があってね? その時にめちゃめちゃな人数に見られちゃったのよ……」
「あっ、そっか! すごいねー……っ!!」
( ………!! )
火事……? 助けた……?
──その時、熱を孕んだ季節の風が、
彼女たちのマントをひるがえさせた──。
────バサァァああ────・・・!!
( ……!! お、黄金の──義賊・・・!!)
"黄金の義賊クルルカンの格好をした娘が
カフェで起こった火災現場から子供を助けた"。
この話題が王都中に拡がったのは記憶に新しい。
「ちゃんと、クルルカンしてるんだねーっ♪」
「あはは! ちゃんとって何よぉー」
片方は……二本ヅノの銀仮面に、白銀の鎧……!
そうか──狂銀オクセンフェルト、か……!!
(この二人の娘は──、
──"義賊"と"狂銀"の格好をしているのだわ!)
あの事件では、"義賊クルルカン"のお陰で、
死者が一人も出なかったと聞く。
もしこの少女が、そうであるなら。
王都を守る立場として感謝を伝えたいとも思える。
しかし……この二人は、いったい何者だ?
今までの会話を聞くに、悪質な感情は感じられない。
しかし、あの身体能力の高さは驚嘆に値する……。
賊ではないのなら、名のある冒険者だろうか……?
いや、まぁ……。格好だけなら、二人ともが、
誰もが絵本で知る"賊"そのものだが……。
「ふんぐ……モグモグ……。ふあー、他の宿屋には泊まりたくねぇなあぁー!」
「もぐもぐ……みんな王女様のお誕生日が大事で、あんま気にしないんじゃないかなぁ?」
「ははは……あんたも変態印のヨロイの第一印象の強さ、ナメない方がいーわよ……」
「ぇ、ええー……」
へ、へん……? なんだって??
「はぁぁ……夜までに宿屋、探さないと……」
「明日のパーティの時間、書いてないの?」
「え……? えーっと……」
パラリ……。
クルルカンの少女が、何処からか紙を取り出す。
なんだろう? パーティと言ったか……?
(──ッッ!!!!!)
──この紙面を見て、私は驚愕する。
(おっ……"王女殿下の御生誕祝賀パーティの招待状"──!?)
ばっ……、な……!?
ほっ、ホンモノ、か……?
あれは、王とかなり親しい間柄の方にしか、
招待状が出ぬはずだが……!?
思わず近づき、後ろから覗き込む──!!
ほっ……ホンモノ、だ・・・!!
こっ、この二人──!!
バルドアックス王に、直接パーティに招待されている・・・!!!
「全く、情報が書いてねぇ……」
「シンプルなお手紙だね……」
ど、どれだけ稀有な事か、
この方達は、わかっているのだろうか。
まさか、ふたりとも貴族様か……?
「アンティ、どうしてもなら私……野宿でもいいよ?」
「……! やぁよ」
クルルカンの方は、アンティという名らしい。
「マイスナ……あんた王都の中に入んの、初めてでしょ? なんつーか、さ。あんたの生い立ち考えると、ちゃんと観光とかして……いい思い出つくって……幸せになって欲しいのよ」
「……! アンティ……」
「初めての王都が、野宿とか、ダメっしょ!」
狂銀の方の名は……マイスナ、か。
どうやらこの二人、なにやら訳ありのようだ。
「……ふふ、じゃあ、新婚旅行?」
「ばっ……! いや、そにょ……」
「……ふふふ///」
「……もぅぅ///」
狂銀のジョークに、義賊は顔を赤らめている。
絵本とは違い、仲は良いようだ。
ううむ、しかし……ホンモノの招待状とは……。
油断して接近して見ていると、
「──くゆっ!」
(──おわぁあ!?)
ビ、ビックリしたぁぁ……!!
なっ、なんだこの狂銀の方の襟巻き!?
い、生きているのかっ!?
「にょ──? ……にょっき?」
……!
クルルカンのフードのような膨らみから、
なにか白い丸いのが出できた!
な、なんだ……耳? まるぅッッ……!
あ…………これ………ら……"ラビット"、か!?
「にょ……! にょっきにょき!! にょっきっきゃー!!」
(……!? ば、バカな……!!
私の方を指さしている、だと……!?)
有り得ない……!?
まだ隠蔽のジェムの効果時間のはずだ……!!
というか、なんだその発達した前足はぁ……!?
「にょっき!! にょっきにょき!!」
「? どしたのうさ丸」
「?? あっちに何かあるの?」
「くゆーっ?」
やっ、やはり他の者には気づかれていないッッ!
な、なんだこの丸々と太ったラビットは……!?
ま、まさか私の僅かに乱れた呼吸音を聞き取って……!?
「クラウン、にょきっとマスター起動」
「なんて言ってます?」
にょ、にょきっとマスターとは、なんだろうか……?
「……"ちかくに、だれかいる"」
「えっ」
「にょっきゃ──!!」
ななななななななななななななな!?!?!?!?
「……クラウン、震音索敵」
「……ローザ、体流の聖套を拡張して」
────瞬間!!
マイスナと呼ばれた狂銀の白いマントが、
ぶわり、と拡がり、辺の屋根を覆い隠す!
(おおおおおおおお!?)
な、んて大きさなのだ!!
真っ白なシーツが、被さってくるようだ!
まずずずずずずいいいいい!!
あんなの被さってきたら、
大きなイヌ耳がついた女のシルエットが、
ガッツリ浮かび上がってしまう!
(わうぅぅうう──んんん!!?)
ひっしで回避した。
この時の私、全力出した。
足音を殺しながら、屋根を蹂躙する無我夢中で逃げまくる!
なななななんであんなに大きく拡がるの!
「クラウン? 私も白金の劇場幕いっとけ」
──ぶぁあさぁぁああああ──!!!!!
(きゃうぅぅううう──ッッんんん!?? わんっ!?)
すんでの所で、屋根のはしっこにぶら下がり!
何故か巨大化したクルルカンのマントをかわしきる……!
なんなんだコイツら!?
でっかいマントが流行っているのか!?
ひぃぃ、ぃぃ……。
(わ、わんわんおー……)
「くゆくゆ」
「震音感知……なし。うさ丸ぅ? 誰もいないわよぉー?」
「幽霊さんでもいましたか?」
「にょ!? にょきっとなぁ……!?」
(わ、私は幽霊ではない。誇り高きワン家の娘だ……!)
そろりそろりと……かなり警戒しながら、
再度、屋根の上に登る……。
ふ、ふぅ、ふぅ……。
今日ほど自分の無音肉球術に感謝した事はない……。
「にょ! にょきっとなぁー!! にょきっとなぁぁあ!!」
──!? ば、バカな……!?
また、指をさされている……!!
あの真ん丸ラビットには、
私の足音が聞こえているのか……ッ!?
「……はーいはぃ、静かにしてねー」
「どーしちゃったんだろねー?」
「にょ……!? にょきっとぉー!! にょやにょやー!!」
「くゆゆーっ?」
私の冷や汗よ。頼むから止まってくれ。
「にょんやにょんや……! にょんやにょんや……!」
「はーいはい、大丈夫だから……そんな顔しないの」
「なでりこなでりこ♪」
丸いラビットは、
狂銀と義賊の少女にパン生地をこねるように、
撫でられまくっている。
「くゆゆー!」
「さて、どうしよっか」
「先にお城に行って、明日のパーティの時間を確認するのは?」
「っ! いいわね。でも……観光が先じゃなくていい?」
「うん……この人じゃ、あまりゆっくりできないし……。先に、アンティと私の心配事を、1つでも減らそう?」
「マイスナ……」
「にょ、にょにょやぁー……!」
……どうやら唯一私の存在を察知しているラビット。
完全に謎のいい雰囲気にのまれている。
……ちょっと不憫である。
「じゃ……いこっか♪」
「うんっ……♪」
あっ……交代を知らせる遠吠えだ……。
目の前では、義賊と狂銀が、次の屋根へと向かう。
「──とぅっ!」
「──たぁっ!」
──ギキィィィイインンン──・・・!!!
……………すぐに、姿が小さくなった。
「……火事で大活躍だし……正式な招待客だし……。
追わなくても、いいよね……?」
──くぅぅ──ん。
お腹が鳴った……。
私は試しに、
コムギ亭のバジルパンを買っていく事にした。
鎌倉パスタのバジルパンうめぇ
(*´﹃`*)










