血の者たち
前話との落差が激しいですが、
かばは別に情緒不安定者では
ないのだよエッヘン!(*¯꒳¯*)=3
↑あやしみ
ん? 連投??(˙-˙ )
青い髪の女の屋敷に、
羊の娘たちと、育ての母が招かれていた。
「新薬?」
「ええ……これであなた達は、心臓を傷つけずに血を使える」
羊の姉と、青い女が語る。
「信じられない」
「試しているわよ」
月の光のように白く濁った液体は、
透明のビンに収まっている。
青の女が銀のナイフをそれにつけ、
手の甲を切っ先で僅かに刺すと、
髪は深紅となった。
「……姉さま、ばかげてる」
「……アオカ。私達をからかっているの?」
羊たちは、この青と赤の少女と、
長い付き合いである。
「……どうぞ」
二本のナイフと、透明のビンの秘薬。
「「……」」
表情を殺し、ナイフを手に取る。
姉はスラリと2つの濡れ刃を成し、
1つを妹へと渡す。
「傷の深さは」
「キスのように」
ため息と共に、羊たちは仄かに自傷する。
反応は、劇的であった。
羊たちの身体が、規則的に裂ける。
「アオカ。おばあちゃんにはなりたいわよね?」
「ま、マザー……。誓います。安全です……」
マザー・レイズは窘め、
赤の吸血鬼は、静かに諭す。
血を纏った羊たちがいた。
「……ッ、驚いたわね……」
「こんな……簡単に……!」
血のドレスを纏う、妹の君。
血の甲冑を纏う、姉の君。
妹は、赤のヴェール。
姉は、赤の仮面。
「どうなの」
「凄い……です。こんなに負担が軽いのは初めてです」
「これならポーションの等級をかなり下げられるわ……たまげたわね」
「貴女たち、下着……変えた?」
「「……」」
赤の吸血鬼の言葉に、
赤の魔人となった姉妹が、胸を隠す。
母が聞いた。
「どうやったの」
「これを……手に入れましたの」
「それは何」
「完全な精霊花──"トレニアイズ"──」
「「……」」
「──そこのエルフくんは、説明してくれるのよね?」
壁にもたれかかっているのは、
回復職の長である。
「──ハハハ!!! やーだなー!!! ソレを手に入れたのは、間違いなくアオカちゃんですよ???」
「あなたは喉から手が出るほど欲しいはず。何を冷静ぶっているの?」
「そんな怖い顔しないでくださいよー!!!」
「子供のフリがヘタね……」
マザーは、アオカに、四つの目線を戻す。
仮面が月夜に照らされる。
「どこで手に入れた。娘のためになるなら買おう」
「もちろんです……。私だって、貴女達に情がわいている」
「どこで手に入れたの」
「……。レターライダー達から」
「──ッッッ!!」
紅の羊の妹が、驚愕する。
姉は、違う発言を拾う。
「レターライダー……"達"? 私の知る配達屋さんは一人よ?」
「? 貴女こそからかっているのですか? 狂銀の方ですよ」
「なんだと?」
「花の狂銀のドレスに、無数に生えていました。頂いたのは、義賊様からですが──……」
「……ヒキハ?」
「い、いいえ……ッ知りません」
「貴女たち姉妹は……知らないの? 素晴らしい動きだったわ」
"さすが、配達職ね……"と、
青の髪に戻った少女は、息を吐く。
四つ目の仮面が問う。
「要望はなんだ」
「この花は……何処かにたくさん生えているはずです」
「見つけてどうする」
「どうって……」
「やだなー!!! わかるでしょおー!!?」
小煩いエルフが遮ぐ。
「今、確信した。ユユユ・ミラーエイド。お前はエルフと吸血鬼のハーフなのだな」
「「「──……!!」」」
これには、少女たちが驚いた。
マザーは続ける。
「国を作りたいのは、三連称を持ちながら、その血が穢れているからか?」
「……!!」
「ちょ……」
「母さん……」
激昂してもおかしくない言葉に、
エルフは静かに、答えない。
「ほぅ。騒がしくなると思ったのだが、やはり子供ではないな。27でそこまでなのは、やはり吸血鬼の血の才か」
「……わかるでしょう。ボク達は散り散りになってしまった。放浪し、他の文化に溶け込んでいる。それが悪い事とは言わない。でも……どこかに。故郷と呼べる場所が……かつてのボクたちが、どうやって、何を守って生きてきたのか……わかる場所があってもいいはずだ……」
「「……」」
赤の鎧纏う姉妹は、
良く知る彼とは違う言葉の旋律に、
声を失っていた。
「ふぅ…………。やれやれ……」
マザー・レイズは、この夜、
初めてカップに口を付ける。
そばで気配を殺していた、
青の少女の執事が、
冷や汗をかいた。
「あなた達が花の在処にたどり着けないのは、"招かれざる客"だからね?」
幾分柔らかくなる母の声。
エルフと吸血鬼は、返礼する。
「は、い……」
「ええ……。"吸血鬼の性"」
「でしょうね。これが本物の精霊花なのだとしたら──"世界一の魔除け"だわ。花畑の真ん中に家なんてあったら、最悪ね。貴女たちや普通の魔物は──絶対に入れない」
家を建てる者は、様々な魔を祓う呪いをする。
それは、住む者、そこにある力によって成長し、
強固な結界となる。
吸血鬼が「招かれぬと家屋に入れぬ」というのは、
その呪い話の中のひとつであろう。
──精霊花の囲う家となれば、格別である。
「恐らく……オシハとヒキハがその場所を探しても、ユユユくんやアオカちゃんのように、方向がわからなくなるわ」
「「「「……」」」」
「ブルーガールは、絵本の主人公に招いてもらう必要がある」
「なーるほど……。で」
「私たちを呼んだわけですね……」
赤い鎧を着込んだ羊の女達は、ため息をついた。
「お願い、できませんか。オシハさんとヒキハさんは、義賊様と近しいと聞いております」
「執事くんを使って、お話を集めたわね?」
青年の従者は、ビクリとする。
癒しのエルフが構わず立礼する。
「ボクからも、頼みます」
「エルフの国を作るだけならいいの。でも、それだけじゃないでしょう?」
「「……ッッッ!!」」
青の吸血鬼と、混ざり物のエルフが、目を丸くする。
「どの吸血鬼を救い、どの吸血鬼を殺すか、どう決めるの」
「「……」」
「選別をするのは……何?」
「こっ……殺していない者を、引き入れ……殺した者を……殺す」
「これだからガキは」
マザーは吐き捨てる。
「お前がいつも食っているトマトは何。それだって殺してる。生死を手前勝手に決めるなら、別。アオカ、それを判断しようとするなら、この話は終わりよ」
この話の中で、羊たちは察し出す。
国を作ろうとしているのは、
馴染みのエルフだけではないのだ。
「だって……! 私たちしか……いないっ! ここにいる……」
そう。
"理性と血"。
どちらもを持つ者達は、
ここにしか、いない。
「私たちは、魔物では無くなれる……! この花が大量にあれば──……」
「そして、無実の吸血鬼共を、お前が選ぶのか」
「だ、て──……」
マザーは深く、ソファに腰掛けた。
「大きく、ムカつく事がある」
「……!?」
マザーは、ため息混じりに血の少女に言う。
「……戦力として、あの二人を考えているな?」
「──ッッッ!!!!」
「……? 母さん……?」
「ねぇ……母さんは……。"二人目の配達職"を知っているの……?」
羊たちの赤の装甲は、剥がれ始めている。
薬が無くとも、治癒が始まる。
青の少女は、震えながら言った。
「あれは……素晴らしい。流石、だわ……。配達職たちは……裏切らないっ……!! もし、血の誘惑に負けし同族がいれば……! 彼女たち、こそが……ッ!!!」
「…………」
マザーが黙っているのを、
羊の姉妹は静かに見ていた。
「……………ふぅー。ねぇ、アオカ。長い付き合いだわ。感謝してる。あなたの身体で試した薬で、私の娘たちは街で生きてる。それに免じて──心からの言葉で話してあげる」
「ま、マザー……?」
あくまでも、冷静に。
マザー・レイズは言い放つ。
「あの二人は、私にとって──……。
ここにいる娘たちと同等に、大切なのです。
危険に晒す者には、容赦はしない──」
「「 ぁ── 」」
これには、そばの姉妹が驚いた。
この人に大切にされてきた自信がある。
それと同等の愛が。
あの黄金の義賊と、まだ見ぬ狂銀の子に、
注がれているというのだから──。
「その二人、は──」
「──……"何"?」
素直な驚きが、
最強の剣士の姉妹を、
揺り動かす。
マザーは言った。
「あの二人を利用するなら、殺します。
お願い、アオカ。手を出さないで」
「────……、……!!!」
「──………… 」
「「……! ……」」
マザーが頭を下げ、"お願い"などと、言うことが、
どれだけ稀有な事か、この吸血鬼は知っていた。
彼女は力を持っている。
技だけではない。
人脈、知恵、機転……全てだ。
邪魔な者は、お願いなどせず、消す。
それが、できる者なのだ。
そして、国ができた。
そんな、覇者の如き母が、
"お願い"と言う────。
「あ"あ"、あ"」
とても難しい夢なのだと、
アオカは痛烈に理解した。
貴族のドレスを床に投げ出し、
どたり、と音をさせ、アオカは平伏した。
吸血鬼の誇りなどいい。
這いつくばって、頼み通す。
それしかなかった────。
「どうっ、か……!! ど、うか……ぁぁ!!!
彼女たちに……ッッ、花の、あ、りかを……!!!!!」
「…………ボクからも……お願いします……」
エルフと、吸血鬼が、額を床へと擦りつける。
「「……」」
「こまったわねぇー」
カップはカラになっただろうか?