表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/1216

かくしジョブ

 

 今日は、人生最悪の日だわ。

 こんなに人類に笑われたのは、生まれて初めてよ。


 仮面をつけてなかったら、心的外傷(トラウマ)モノだわ……。

 ぐぐぐぐぐぐ……。



「「「ギャハハハハハハハハ!!!」」」

「「「うわっはっはっはっは!!!」」」



 ぐむむむむむ……。



 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ、

 笑いすぎよ……。



「ぐむむむむむむ……」

「しょ、少々お待ちくださいませぇ……」


 とたたたたた……


 顔を引き攣らせた受付嬢が、誰かを呼びにいった。




 このギルド……受付カウンター前の天井には、丸い天窓が空いている。

 これ、雨の時どうすんの。

 お陰で、天然のスポットライト魔法みたいじゃないの。

 超、照らされてるじゃないの。

 お天道様め。

 私に何の(うら)みがある。

 いい(さら)しもんだわ……。



「おい嬢ちゃん! ここは仮装パーティの会場じゃないぜ!」

 ──うるせぇ。こっちもいっぱいいっぱいなのよ。


「おいおいお前ら注意しろ! 義賊サマの気分を損ねたら、やられちまうぞ!!」

 ──しばいたろか。


「やべぇ、おれ友達呼んでくるよ」

 ──おい、じっとしてろ。


「おい! 酒場の奴らも全員呼んでこい!!」

 ──おい、何で酒場なんだ。


「結構可愛いじゃない! ふふっ、あんた話かけてみたら?」

 ──なんで、人を吹っかけんだよ。


「バカいえ、仮面で顔見えねえじゃねえか! オレにはお前がいるよ!」

 ──惚気けてんじゃねえ。


「誰か劇場まで案内してやれよ! 役者かなんかだろう!?」

 ──今は優しさがつらい。


「いやいや、冒険者になりたいって話だよ!」

 ──んだよ悪いかよ。


「マジか! 自分が盗賊だって、忘れてやがる! ぎゃははははは!!!」

 ──今まで真っ当に、生きてきたわ。


「お! ヒゲイドの旦那がきたぜ!!」

 ──ん? 誰?


「おぅギルマス!! お前さんも大変だなっ!!」

 ──ギルマス(・・・・)? ────ギルドマスターか!



 ズゥン……


 うお……でっか!

 何だ、この巨人は。

 いやいや、縮尺、おかしくない?


 黒いスーツを着た、頭がボサボサの、ヒゲ男。

 3メルトルテはあるって……。

 え、ドニオスのギルマスってヒュージ(巨人系)の人なの?


「……────冒険者に、なりたいんだけど」


 若干の緊張を押し殺して、告げる。

 うおお、こえぇ。

 何でプルプルしてるの。


「────クルルカン、きたぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 き────────────ん……。




 あ、はい。


 いや声でかいから。

 周り、耳抑えてるじゃないの。

 受付嬢が間に合わなくて、ダメージ受けてるじゃないの……。



「…………」

「…………」


 いや、睨みつけないで下さい。

 あわわわわわ……

 泣きますよ?

 心が折れますよ?


「おい、お前……」

「ひゃい」


 変な声出た……


「……冒険者になりたいってのは、本当か」

「え、ええ……」

「…………」


 だから、睨むなって。

 中身は食堂の看板娘なんだって。


「……貴様は、何ができる」

「……はい?」

「何を、目指しているんだ」

「目指す? ……だから、冒険者を……」

「……はぁ」


 な、なんだよぅ。

 何でそんな、ガックリするんだよぅ。


 巨大なギルマスが、カウンター横の看板を、拳でコツコツ叩く。


どのクラスを目指(・・・・・・・・)しているんだ(・・・・・・)?」

「あ……」


 そういうことか。

 なら、ちゃんと最初から、そう言いなさいよぅ……

 う、いきなりそんな事きかれても、わかんないわよぅ。


 キン、キン、キン。


 どうでもいいけど、この装備、何で足音が、こんな音なのよ。

 すっごい金属質じゃないのよ。

 後で、足とか痛くならないでしょうね、あの変態……。


 看板の前に立つ。

 そこには、大分類のクラスが書かれていた。


 ⚫…剣技職(ソードマン)

 ⚫…重盾職(シールダー)

 ⚫…格闘職(グラップド)

 ⚫…軽技職(ライトラン)

 ⚫…魔法職(マジナリー)

 ⚫…回復職(ヒーラーズ)


 学校の教科書に載っているものと、同じリストだ。

 もちろん、一つの大分類クラスから、中分類、小分類と、様々な職種に別れていく。

 現在では、その職種は多種多様で、全ての地域を合わすと、100はあると言われている。


 その、基礎たる大職が、この6つにまとめられるのである。


 う……ていうか、私の場合、どれになるんだろ……。

 剣と魔法、は使えないし。

 手持ち武器がないから、そもそも軽技職(ライトラン)は無理だ……。

 格闘職(グラップド)は……いや、だめだ。

 私、主戦力は歯車と山火事なんやよ……。


「うう……」

「どうした、何も考えていないのか」


 だ、だって、この6つに、世界の全てが当てはまる訳ないじゃない!


 私はここに、自分の生き方を探しにきた。

 自分だけが出来るコトを。

 それが、この6つの中に、本当にあるのだろうか……?

 なにか、釈然としない。

 こんな所で、私の選択肢が、狭まってしまうのだろうか?

 そんなの、そんなの、イヤだ。


「……おい?」

「…………」


 悲しい気分に、なった。

 ここでも私は、爪弾きになるのだろうか。

 学校で魔無しだった頃と、何ら変わりない。

 常識的に、外れている、存在。

 普通ではない、烙印。

 それを、ここでも、そんな目で……。


 気分が滅入り、視線が落ちる。




「────……?」


 ────ふ、と、気づく事がある。

 6つの大職が刻まれている、木の看板。

 その一番、下。

 少し空いたスペースに、何やら、紙が貼ってある?

 木の、模様の、紙だ。

 少し端が、剥がれかけていた。


「? なんだこれ?」


 上から紙を貼って(・・・・・・・・)文字が消されている(・・・・・・・・・)……?


 気づくと私は剥がれた紙の端を、派手なグローブで掴んでいた。


「───あ! おい、こら!」


 ぺりぺりぺりぺり────……



 ⚫…剣技職(ソードマン)

 ⚫…重盾職(シールダー)

 ⚫…格闘職(グラップド)

 ⚫…軽技職(ライトラン)

 ⚫…魔法職(マジナリー)

 ⚫…回復職(ヒーラーズ)


 ⚫…"配達職(ライダーズ)"






「──らい、だー、ず……!」



 "ありがとう、ありがとうよ、アンティ。

 あんたは私にとって、さいこうの、

 郵送配達職(レター・ライダー)だった……!"



 優しい、バスリーおばあちゃんの声が、聞こえた気がした。

 私が、届けることができた、想いの、証。

 ああ、ああ、そうだ。

 これなんだ。

 これだ。




「────きめた!」

「な……に?」


 巨大なギルマスが、私を覗き込む。

 だが、もう恐怖など、感じない。


 私は何かが、ストンと心に落ち着くのを感じていた。




「────私、"郵送配達職(レター・ライダー)"になる!!」




 迷いなく、高らかに、私は、宣言した。


 ────しかし、周りの反応は……





「「「「「「はぁぁぁああああああああああああああああ!!!???」」」」」」





 "こいつ、気が狂ってんのか?" 的な、反応だった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ