かくしジョブ
今日は、人生最悪の日だわ。
こんなに人類に笑われたのは、生まれて初めてよ。
仮面をつけてなかったら、心的外傷モノだわ……。
ぐぐぐぐぐぐ……。
「「「ギャハハハハハハハハ!!!」」」
「「「うわっはっはっはっは!!!」」」
ぐむむむむむ……。
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ、
笑いすぎよ……。
「ぐむむむむむむ……」
「しょ、少々お待ちくださいませぇ……」
とたたたたた……
顔を引き攣らせた受付嬢が、誰かを呼びにいった。
このギルド……受付カウンター前の天井には、丸い天窓が空いている。
これ、雨の時どうすんの。
お陰で、天然のスポットライト魔法みたいじゃないの。
超、照らされてるじゃないの。
お天道様め。
私に何の恨みがある。
いい晒しもんだわ……。
「おい嬢ちゃん! ここは仮装パーティの会場じゃないぜ!」
──うるせぇ。こっちもいっぱいいっぱいなのよ。
「おいおいお前ら注意しろ! 義賊サマの気分を損ねたら、やられちまうぞ!!」
──しばいたろか。
「やべぇ、おれ友達呼んでくるよ」
──おい、じっとしてろ。
「おい! 酒場の奴らも全員呼んでこい!!」
──おい、何で酒場なんだ。
「結構可愛いじゃない! ふふっ、あんた話かけてみたら?」
──なんで、人を吹っかけんだよ。
「バカいえ、仮面で顔見えねえじゃねえか! オレにはお前がいるよ!」
──惚気けてんじゃねえ。
「誰か劇場まで案内してやれよ! 役者かなんかだろう!?」
──今は優しさがつらい。
「いやいや、冒険者になりたいって話だよ!」
──んだよ悪いかよ。
「マジか! 自分が盗賊だって、忘れてやがる! ぎゃははははは!!!」
──今まで真っ当に、生きてきたわ。
「お! ヒゲイドの旦那がきたぜ!!」
──ん? 誰?
「おぅギルマス!! お前さんも大変だなっ!!」
──ギルマス? ────ギルドマスターか!
ズゥン……
うお……でっか!
何だ、この巨人は。
いやいや、縮尺、おかしくない?
黒いスーツを着た、頭がボサボサの、ヒゲ男。
3メルトルテはあるって……。
え、ドニオスのギルマスってヒュージの人なの?
「……────冒険者に、なりたいんだけど」
若干の緊張を押し殺して、告げる。
うおお、こえぇ。
何でプルプルしてるの。
「────クルルカン、きたぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
き────────────ん……。
あ、はい。
いや声でかいから。
周り、耳抑えてるじゃないの。
受付嬢が間に合わなくて、ダメージ受けてるじゃないの……。
「…………」
「…………」
いや、睨みつけないで下さい。
あわわわわわ……
泣きますよ?
心が折れますよ?
「おい、お前……」
「ひゃい」
変な声出た……
「……冒険者になりたいってのは、本当か」
「え、ええ……」
「…………」
だから、睨むなって。
中身は食堂の看板娘なんだって。
「……貴様は、何ができる」
「……はい?」
「何を、目指しているんだ」
「目指す? ……だから、冒険者を……」
「……はぁ」
な、なんだよぅ。
何でそんな、ガックリするんだよぅ。
巨大なギルマスが、カウンター横の看板を、拳でコツコツ叩く。
「どのクラスを目指しているんだ?」
「あ……」
そういうことか。
なら、ちゃんと最初から、そう言いなさいよぅ……
う、いきなりそんな事きかれても、わかんないわよぅ。
キン、キン、キン。
どうでもいいけど、この装備、何で足音が、こんな音なのよ。
すっごい金属質じゃないのよ。
後で、足とか痛くならないでしょうね、あの変態……。
看板の前に立つ。
そこには、大分類のクラスが書かれていた。
⚫…剣技職
⚫…重盾職
⚫…格闘職
⚫…軽技職
⚫…魔法職
⚫…回復職
学校の教科書に載っているものと、同じリストだ。
もちろん、一つの大分類クラスから、中分類、小分類と、様々な職種に別れていく。
現在では、その職種は多種多様で、全ての地域を合わすと、100はあると言われている。
その、基礎たる大職が、この6つにまとめられるのである。
う……ていうか、私の場合、どれになるんだろ……。
剣と魔法、は使えないし。
手持ち武器がないから、そもそも軽技職は無理だ……。
格闘職は……いや、だめだ。
私、主戦力は歯車と山火事なんやよ……。
「うう……」
「どうした、何も考えていないのか」
だ、だって、この6つに、世界の全てが当てはまる訳ないじゃない!
私はここに、自分の生き方を探しにきた。
自分だけが出来るコトを。
それが、この6つの中に、本当にあるのだろうか……?
なにか、釈然としない。
こんな所で、私の選択肢が、狭まってしまうのだろうか?
そんなの、そんなの、イヤだ。
「……おい?」
「…………」
悲しい気分に、なった。
ここでも私は、爪弾きになるのだろうか。
学校で魔無しだった頃と、何ら変わりない。
常識的に、外れている、存在。
普通ではない、烙印。
それを、ここでも、そんな目で……。
気分が滅入り、視線が落ちる。
「────……?」
────ふ、と、気づく事がある。
6つの大職が刻まれている、木の看板。
その一番、下。
少し空いたスペースに、何やら、紙が貼ってある?
木の、模様の、紙だ。
少し端が、剥がれかけていた。
「? なんだこれ?」
上から紙を貼って、文字が消されている……?
気づくと私は剥がれた紙の端を、派手なグローブで掴んでいた。
「───あ! おい、こら!」
ぺりぺりぺりぺり────……
⚫…剣技職
⚫…重盾職
⚫…格闘職
⚫…軽技職
⚫…魔法職
⚫…回復職
⚫…"配達職"
「──らい、だー、ず……!」
"ありがとう、ありがとうよ、アンティ。
あんたは私にとって、さいこうの、
郵送配達職だった……!"
優しい、バスリーおばあちゃんの声が、聞こえた気がした。
私が、届けることができた、想いの、証。
ああ、ああ、そうだ。
これなんだ。
これだ。
「────きめた!」
「な……に?」
巨大なギルマスが、私を覗き込む。
だが、もう恐怖など、感じない。
私は何かが、ストンと心に落ち着くのを感じていた。
「────私、"郵送配達職"になる!!」
迷いなく、高らかに、私は、宣言した。
────しかし、周りの反応は……
「「「「「「はぁぁぁああああああああああああああああ!!!???」」」」」」
"こいつ、気が狂ってんのか?" 的な、反応だった。