精霊聴取 ④
──……♩♩
──……♪
──……♬︎
その時の艦内には、
随分と遅いテンポのクラシックがかかっていた。
最新鋭の機材の中で響く、古典的な音楽。
音楽の力は偉大で、和やかな雰囲気が、
私たちを包み込む。
でも、あれも計画的にしていたんだとしたら、
アイツはとんでもない、喰わせ者の王だ。
流れるように、落ち着きが支配する、
ピアノの旋律の中────。
「……何故、彼女のボディも作り直す必要がある」
「心を持ってもらうためには、必要だからさ」
「現状のスペックでは、不可能だと?」
「……サンドマン。ボクは補助プログラマーだけど、脳みそは結構文系なのさ」
「ふん……それには同意しよう。心を宿すためのボディとは……何だ?」
「ぼくは生命のベースにあるのは、"欲求"だと思う。それを感じ取りやすくするような信号伝達回路を、彼女の流路系に導入する」
「……! 機械に……"欲望"を理解させる、と?」
「大切なことさ。ボクたちの行動の根源は、全てソコから生まれる。欲望は階段を登るように大きくなっていき、やがて自分以外の存在も──ソレを持っていると理解する」
「……」
「そこに、"思いやり"と"敵対"が生まれる。"心"の発生を促すには、もってこいだよ」
「……ねぇ、ジュンヤ。あなたの言いたいことは、何となくは分かるの。でも仮に、あの子に心が生まれたとして……"思いやり"ではなく、"敵対"の方だったら……あなたはどうするの?」
「──そこだよ。ボクらは、何故この計画の要が"彼女"なのか、よく考えるべきだ」
「あのマシン・ガールに、何の意図が……あるというのだ?」
「まぁ……最初に考えられるのは──"人の感情による干渉が無い"って事だよね。ボク達は欲まみれだからねぇ。"余計な干渉"の影響を受けにくい、いつも冷静である"システム"に計画を実行させようとした、ってのは有り得ると思う──」
「うむ……」
「──でも。ボクは、あの子を送り込んできた人たちの意図は……全くの"真逆"なんじゃないかって、思うんだ」
「……? ……、どういう事?」
「彼女は、真に──" 審判者 "だってことさ」
「……! お前、まさか……」
「──サンドマン。オリジナルは、いくつある?」
「……っ! ……。サブが2つ。完全なオリジナルが1つだ。本計画には、サブの1つを使用する」
「サブのもう1つを──彼女のボディに使いたい」
「──ッッ!! 貴重な拡張子原盤よ!? 何故そんな……! シゼツのように純機械製じゃダメなの!?」
「彼女は生まれた時から"人間"だ。素晴らしい心を持ってる! 最初に、ボク達に……示してくれたじゃないか」
『……! ……お兄ちゃん』
「そ、それは……でも、だからって……!」
「──いーんでね? 3つもあんだし。私はやってみりゃいーと思うよー?」
「な──、アップル!」
「どーせ私たちゃ、とっくに正義のテロリストなんだ! 善悪兎も角、最善を尽くすために、やれるだけの事をやったったらいいんでね? それに──メカっ娘クリエイトなんて、でゅふふふ……私からしたらワクテカもんですわぁぁー!!」
「あ、あなたねぇ……! ……ハァ」
「……ジュンヤ。ひとつ聞かせて」
「なんだいQ.Q.?」
「あのロボットのボディを改修したとして……どうやって、"欲"を教えるの?」
「えっ、そんなの決まってるじゃないか」
「……」
「……」
「お、やっちゃう~~っ?」
「……おい」
『じとーっ』
「なんだぃ? そ、その汚物を見るような目は……? ──!! ちょ……ちょっ!? 違うよっ!? たぶんキミたちの想像は間違っているからねッッ!?」
『……お兄ちゃんの、ヘンターイ……』
「ぐぉっ……よ、よしてくれよ……」
「メカ妹ディス、キタァァ━(゜∀゜)━!」
「はぁ……サンドマン、どうするの?」
「……確かに、貴重な原盤だが……」
「彼女がここにいるのは、絶対に意味がある。それに──」
「……む?」
「──"七"って数字は、縁起がいいだろ──?」
「「「「……」」」」
『あはは……』
「はぁ……ニッポン人というのは、皆、あなたのように楽観的ですの?」
「……理解に苦しむわ」
「ひゃっひゃっひゃっ! いいねぇいいねぇ! で、どすんのー? 世界最高の頭脳さん?」
「……くく、いいだろう。"彼女"もプレミオムズの一員……──そうだな?」
「おっ!」
「せ、世界一の科学者が……」
「こんな、悪ガキのいう事を……」
『えっ!? ほ、ホントにやるの……?』
「──決まりだ。ねぇ、シゼツ! すまないけど、ボク達の中で一番力があるのはキミだ」
『え、ぅ、うん……?』
「クラウンちゃんを取り押さえるから、手伝ってね!」
『え"ッ……!?』
「ぅ、うぉおー!! メカニカルキャットファイト、キマシタわぁ──!!」
「……ちょっと私、お水飲んできます……」
「とか言って、一杯やる気でしょう。私も行くわ……」
⚙
『『この時ね、ヒューガとQ.Q.はジュンヤが持ちこんでたお酒、殆ど飲んじゃったんだよー』』
〘------こ;コホン……☪︎〙
神様は……昔っからお酒好きみたいね。
咳払いしたスライム女神は、
何事もなかったように喋り出す。
〘------元々が戦闘用サイボーグだったシゼツは、難なくクラウン・レディを取り押さえる事に成功します。それはもう……呆気ないほど簡単に-☪︎〙
『『後ろ向いて、って頼んだらホントに向いたから、そのまま羽交い締めにしたの! 昔のクラウンはホントにアホだったのよ!』』
『────:……。』
……クラウン、正座で真顔です。
〘------まず私達が疑問に感じたのは;何故、本計画の実行者である"彼女"が、こんなにもガバガバなセキュリティポリシーによって運用されていたのか、という点です-☪︎〙
『『やーぃ♪ クラウン、がばがばーっ♪』』
『────:…… ꐦ 。』
あ、あの顔は怒ってる。
〘------いえ……正確には;彼女の"頭脳"には、とても強固なセキュリティが施されていました。そもそも接続可能なインターフェースが存在しませんでしたし……計画を実行するためのプログラムは、完全に独立した物になっていたんです-☪︎〙
『『クラウンの脳みそにはね、誰にも触れられなかったの!』』
『────:……。』
〘------しかし逆に……;ボディの方は"仮組み"と言っても差し支えない程の状態でした。シゼツのように戦闘に特化しているわけでもなく──まるで、" どうぞ改造してください? "とでも言っているかのような……☪︎〙
『『はりぼてクラウン──「にょわ~~!!」──ぷぁっ!?』』
ピョ────イ、べしゃ。
クラウンが、シゼツにうさ丸投げたわ。
アンタいたの。
「にょっきにょき、にょっきにょきにょき、にょきっとな☆」
『『……』』
〘------彼女のボディの構造を見たサンドマンは、ジュンヤの予測が正しいのではないかと考え始めます。様々な意味で、地球という星の未来は──"彼女の意思"に託されていたんです-☪︎〙
〘#……6人の地球代表が……"試されていた"──と?〙
『────試:す……。』
『>>>……クラウンちゃん。昔のきみは、"白紙の答案用紙"だったのかもしれないってことさ』
『────ッ!。』
──!
先輩の例えはわかりやすく、
ヒューガさんもシゼツも、深く頷く。
うさ丸はシゼツのお膝元に捕獲されてる。
〘#……口を挟んで済まないが……"初期の彼女"を製作したのは、いったい何者なのだ?〙
〘------! それは……ハッキリとした事はわかりません……。彼女を開発したと思われる財団は、不明瞭な点が多い組織でして……。その財団は軍事力の優れた国に属していましたが、その活動はオカルトチックな物ばかりで……☪︎〙
『『そのテの中では有名な財団だったよねー! "言葉の概念が消失した可能性がある"……とかいって変な調査をしたり、"異空間に繋がっている"とか言い出してボロ小屋を隔離したり……脳に空気感染する幽霊の論文、なんてのもあったかな?』』
〘------三人の有名な博士が在籍していたのですが、その内の一人が実験中に行方不明になったりと──。その、正直ロクな噂が絶えない財団だったんです……☪︎〙
『────:……………………。』
『>>>いや、うん……』
クラウン、神妙な顔です。
〘------多元拡張現光体を開発したサンドマンは、この財団から技術提供と補助を受けていました。クラウンのボディの改造と、神経流路伝達系の改修・増設は、予想より遥かに円滑に進みました-☪︎〙
『『"今のクラウン"の身体には負けるけどね~~!』』
『>>>……!』
『────と:当然です。』
今のクラウン、
ほぼ、人の女の子に見えるもんなぁ。
シゼツが目の前の机にある、
麺が伸びきった おうどんに興味を示している。
〘------改造が終わったクラウンはキョトンとしていました-☪︎ 今思えば……あの機体には、"ロボット工学的三原則"なんてものは、全く適用されていませんでした。間抜けでもあり、とても恐ろしい事です-☪︎〙
『>>>……"人間への安全性"、"命令への服従"、"自己防衛"……』
「ロボットの……さん?」
「よくわかんない」
〘------ふふ……良くも悪くも;"彼女"は自由だった、ということですよ-☪︎ しかし、それ以上に自由だったのが、あの男でした──☪︎〙
⚙
「──次、この映画ね。これはド定番だけど、マジでいいから」
『────"インデペンデンス・デュワ"。』
「これ終わったら、Zibu:Reシリーズいくからさ!」
『────ジュンヤ・オウノ。
────コレヲ観覧スル必要性ノ:入力ヲ求メマス。』
「──HAHAHA! マイナーなトコも押さえてあるから安心してね!」
『────必要性ノ:説明ヲ……。』
「これらには人間の欲望と、未来に伝えたい事が詰まってる」
『────:"未来"……。』
「あとラノベ含む電子小説もやっちまうか! 今アップルが、とことんダウンロードしてるから! いやー! あの子がいて良かった! 裏サイト殆ど知ってんじゃん!」
『────ビーッ:犯罪ノ可能性ヲ示唆。』
「──HAHAHAHAHA! 世界の未来に比べたら可愛いモンだよ! あ、こことかはマジで無料で読めるから。ドンウォーリー!!」
『────Don't worry……?。』
────
「ねぇ……世界、終わったんじゃない……?」
「……頭が痛いわ……」
「ま、まぁ……そう言うな。自身に、この発想は有り得なかったからな……」
『お兄ちゃん、"オタク系"……?』
「……お酒、まだ残ってましたっけ」
「後はジンジャエールだけ」
「あああああぁぁ……」
『そ、ソフトドリンクはあるよ……』
「う、うぅむ……。"彼女"の感覚野に、何か刺激が残れば良いのだが……」
──バターンッッ!!
「ひゃっほーい♪♪ キングマーン!! がっつり焼き回してやったぜーぃ♪♪♪ 最新鋭の機材で海賊版を狩りまくるッッ!! コリャーハッカー冥利に尽きるってもんよぉ──!!」
「アップル……。やっぱりクラッカーだったのね……」
「宇宙ステーションの隔壁を、何故あんな音を出して開けられるの……?」
「気になっていたのだが……"キングマン"とは、ジュンヤの事か?」
『そこ!? 気になるのそこなのッ!?』
「"オウ"ノ・ジュンヤ……只のコールドジョークじゃない」
「ジンジャエールって酔えるのかしら……」
『しょうが無いなぁー……』
────
「ホラ! みんなもこっち来て一緒に観ようよ! やっぱSFの入り口はコレでしょー。設定も大事だけど結局人情だよね。クラウンもそう思わないかぃ?」
『────アナタノ思考回路ノ:メンテナンスヲ推奨シマス。』
⚙
「き────"キングマン"……!!」
「あ、アンティ……!?」
思わず、立つ。
『────やはり:そうなのですね……。』
『>>>あのやろ……』
レエン湖でヨロイの真の力を少しだけ使った時……!
クラウンと先輩の身体を乗っ取った、
人形っツラした、チャラ男野郎ォオ……!!
────あれが、"オウノ・ジュンヤ"──!!
「くそ……私、会ってる。会ってるんだわ……」
「アンティ……? 大丈夫……?」
『『──そうよ、アンティ。あなたは"こちらの世界"で、唯一私たち全てのメンバーを知覚した存在なの』』
「にょきにょき?」
シゼツが、うさ丸の耳を操縦桿みたいに掴みながら、真剣な表情でこちらを見て言う。
それ、は……つまり!? えっ……と!?
『>>>教えろよ……ロザリア。あの"チャラ男"の"試み"は、成功したのかぃ……?』
〘------! ふふ……そうですね──☪︎〙
……!
先輩が…………話の流れを戻してくれた。
っ、気になる事は多々、ありまくりだけど……、
まずは最後まで、話を聞く。
マイスナの隣に座り直す。
机の下からカンクルが出てきた。
「くゆくゆ?」
「……! よしよし」
「……話、折ってごめん。続けて。クラウンは……その後どうなったの?」
「くゆーっ♪」
精霊王は、微笑みを浮かべながら、
昔話の続きを語る。
〘------キングマン──オウノ・ジュンヤは、クラウン・レディを;あらゆる"極端なサブカルチャー"に触れさせ続けました-☪︎ 実写映画は勿論ですが──アニメや、あらゆる国のドラマ、ゲーム、小説などを──独断と偏見でチョイスし、機械である彼女に閲覧させたんです-☪︎〙
〘#……開いた口が塞がらんな……〙
〘------ふふふふ……私たちも;率直に申し上げると、"こりゃあヤバいわね……"と思っていました。アニマルネイチャー関連の映画を流している時など;私たちはここで何やってんだろう、と思ったものです……☪︎〙
『『イルカとかが、海でピョンピョンするヤツね! クラウンはいっつも、会議用のスクリーンに映ったのを、じ~~っと見てたのよ?』』
〘------今思えば……;あのスクリーンは、映画とかにしか使っていなかったわね-☪︎〙
「にょきっと!」
『────私は……。』
視線。
『────私は:どうなったのですか。』
本人が、問う。
まだ知らぬ、過去の自分を。
〘------不安は;常にありました-☪︎ しかし;結果だけを見ると、ジュンヤ・オウノは素晴らしいチョイスをした……そういう事になるのでしょう。数々の作品は……あの組み合わせでなければならなかった-☪︎〙
『────:……?。』
〘------私も自暴自棄になりかけていた時──。私と、シゼツと、あなたで。トランプをしていたんです-☪︎〙
『『確か、"大富豪"、だったかなぁ……?』』
「にょき?」
"大富豪"って……、
カードゲームの事だよね?
〘------クラウン。あなたはあの時、ポツリと言ったの。今でもよく覚えてるわ──☪︎〙
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『────ナゼ:コンナ事ヲスル必要ガアルノデショウカ。』
「……!」
『……!』
「……もう、映画もカードゲームも、飽きちゃった?」
『っ、あはは……。……』
『────イエ:違イマス。』
「『え?』」
『────ナゼ:国境ヲ隔テル必要ガ:アルノデショウカ。』
「『 ──ッッ!? 』」
『────私は:ワカラナイ……ナゼ……ナゼナノ。』
「……、……!! ……!?」
『……! ヒューガ! "この子"……!』
「し……シゼツ! みんなを呼んできて! すぐにッ!」
『わ、わかった!』
『────何故:ソンナこと、を……?。』
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『────。』
〘------自問し始めたあなたを見ながら;私は体が震えたのを覚えています。柄にもなくアドレナリンが出て、興奮していたのでしょう。やがて皆が集まり、ジュンヤを中心にヒヤリングを行いました。私たちは、あなたの反応を見て;確信しました──。
------私たちは;地球の歴史で初めて、
------"自我を持つAI"を発生させる事に成功したんです-☪︎〙










