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山となりて

ちょっと修正しました(^ω^;)。






 ザァァァァァァ──────……。





「"ドニオスの巨人"よ。

 何故、プレミオムズの推薦を受けない」


「……誰だ、お前は」


「ふんっ……私はブレイク・ルーラーという者だ。隣街のギルドマスターをやっている」


「……。ここにいつも居る、小太りのオヤジはどうした」


「君が魔物を血祭りにしている間に、奴は胃に穴が空いて血の池になった。ふんっ……ストレスだよ。まぁ無理もない。元々、あれ(・・)には冒険者を取り仕切る度胸も、気概(きがい)も無かった。采配は拙く、落第点──……唯一の希望は、この街からプレミオムズが輩出されるかも……という一点だけだったが、君が一蹴し、崩壊寸前の胃にトドメをさした次第だ」


「……なぜお前が、ギルドの執務室にいる」


「ふんっ……私は臨時だよ。後任が決まるまでのね。あれ(・・)の様子を見に行ったが、復帰は不可能だろう。心と胃が綺麗に砕けていた。普段の立ち回りの悪さに周りの冒険者からも反感を買っていたのだろう。つまり……、一ヶ月前の君の行いが、私をここに呼ぶに至(いた)った。わかるかね──?」


「……ジィさんの小言を聞きにきたわけじゃない。愚痴を聞かすために、この小部屋に引きずりこんだのか?」


「ふんっ……報酬は帰りに受け取りたまえ。なぜ、格闘職(グラップド)の頂点に立たないのだ。君が今回のように強大な魔物ばかりを単騎討伐するのは、名誉や金のためではないのかね?」


「……。俺のような無粋(ぶすい)な男に、人をまとめあげるような大層な役が務(つと)まるものか……!」


「それだよ。ふんっ……さっきから君と話しているが、どうして中々、知性を感じられるではないか。噂に聞く、"荒くれ者の巨人"とは随分と印象が違うようだ。倒した高ランクの魔物からロクに素材を剥がず、その場に遺棄し……次の獲物を探し始める怪物──そう耳にしていたが」


「……」


「私としては……君をプレミオムズに推すのは良いかもしれぬと思う。ふんっ、前任者と意見が合うのは、少々癪(しゃく)だがね」


「……じゃあなジィさん。これからも元気でやってくれ」


「待ぁーちたまえ。ふんっ……どうしてもプレミオムズを蹴るというのなら……代わりにひとつ、頼まれてくれたまえ。Aランクの格闘職(グラップド)となれば、何も問題は無いだろう」


「厄介事はごめんだ……」


「ふんっ……知っているかね? この近辺の街のギルドマスターの権限は、君が思う以上に高いのだ。緊急時には……街を束ねる領主と、ほぼ同等の権限を持つ身なのだよ。私は爺さんで、それなりにベテランなので、ワガママが言いやすい(・・・・・・・・・・)。ここで君が帰るのであれば、ポロッと推薦状に印を押すやもしれんのだが──」


「……。クッッソ、ジジィが……!」


「くっく……! その程度で済むとは、やはり理性が強い。どれ──この手配書だ。ふんっ、できればすぐに行ってほしいのだが……」



 ぺらっ──


 ──パシィ!



「……討伐か? 経緯がわからん」


「ふん……。十日ほど前、街の離れにある研究者の屋敷が、魔物に襲われて半壊しているのが発見された。偏屈な研究者本人は、数年前に老衰で死んでいる。調査のために住み着いていた親子三人が瓦礫の下敷きになったとして、死亡扱いとなっている」


「……」


「こんな場所は、定期的に見回りをするのが常識なのだがな……前任者はやっていなかったようだ、ふんっ。重要なのは──崩壊しかかっている屋敷に今も取り残された、膨大な数の"魔物の資料"だ」


「……"資料"、だと?」


「外を見たまえ。今日も、空が泣いている。

 壁に穴の空いた書庫が、

 いつまで雨風を凌(しの)げるのやら──」


「……俺に、紙切(かみき)れを回収しろと……?」


「五日前に派遣した調査隊が、大きな影を見て逃げ帰った」


「……。じゃあな」


「頼むよ。報酬の値(あたい)は、聞かないのかね?」


「……んなもんはいい」


「……」



 キィ───────、ガチャ……ン。








 受付でビビられながら革の袋をもらい、

 手配書で方角を確かめ、雨の中、森へと入る。

 道着は久しぶりに洗濯できそうだ。








 ザァァァァァ──────……。


 ぽた……、 ポタ…… 。




「ここか……。書庫は……こっちだな」



 思ったより大きく、暗い。

 俺の頭が、天井を擦(こす)らない。

 書庫の壁には大穴が空き、

 ゴロゴロと石と木……それに本が散らばっている。

 


「……濡れている物も、回収するのか……?」



 本は、ベトベトだ。

 まぁまぁの大きさの革袋に、

 ほぅりこんでいく。

 非常に、面倒だ。



「チッ……あのジィさん、やってくれたな!」




 ────ヵタン。




「 ──、 」




 俺の気配察知は、そんなに優れていない。

 かなり、近くにこないとわからない。

 別に構わん。

 遭遇すれば、殴れば良いのだ。



「……──」



 書庫の、奥だ。

 ちいさいな。



「──シッ」



 ──────ドっ!!!




 俺の踏み込みで、

 床に落ちていた本の幾つかが解け、

 ページが舞う。


 最も奥の本棚に向けて、

 小さな動くものを掴み、

 そのまま叩きつけた。



 ──ガアァアン!!!!!



「──、やはっ……!?」

「……!? お前は──……」



 ……! 人、か……?


 ボロボロの布をかぶった子供だ。

 腕の力を緩める。



「……、」

「──ぬぁ、けほっ、ケッホ……!」



 咳き込んでいる。

 本棚が近かったお陰で

 ほぼ、ダメージを与えずに済んだ。



「……この家の、子供か?」

「……!! おおきい……」



 子供から見れば、俺は怪物だろう。



「……生きて、いたのか……」

「……? 助けが、きた……?」




 あのジジィ……。

 本当に、厄介事を押し付けてくれる。




「お前の家族は、みんな死んだと思われている。俺はこの屋敷の本を持ち帰るように依頼された……」

「いまはダメ。アイツは森の中に隠れてる」

「……?」

「ブラッドオーガがいる」

「……!! お前、見たのか!!」




 ここに、泊まる事にした。



 夜。

 穴だらけの家の中、小さな火を起こす。

 俺は身体強化のスキル以外は、

 わずかな炎しか出せない。

 本を燃やそうとしたら子供に怒られたので、

 無事だった薪(まき)に燃え移らせ、

 焚き火のそばに、二人で座っている。



「……」

「……」



 ぐぎゅるるるるる……。



「……食え」

「ありがと」



 干し肉をやる事にした。



「……」

「ガジ、ガジ」



 ……変なやつだ。



「……お前、いくつだ」

「……9。これ、かたいですね……うぬぬ」

「……何故、連れて帰ってくれと頼まない?」

「……ごくん。そっちこそ、なんでここに泊まるの?」



 ……。

 パチパチと、焚き火が鳴く。



「……俺が、怖くないのか?」

「ブラッドオーガよりは、怖くない」

「ふん……」



 ガキンチョめ……。

 ボロ布から、裸足が生えているようだ……。



「……なんで、一人で来たの?」

「……俺は、デカい魔物専門なんだ」

「……あなた、強いの?」

「……Aランクだ」

「……すごい!」



 パチ……、パチ……!

 これは拍手の音だ。



「倒すとこ、見たい」

「……仇だからか?」

「それもある……けど」

「……?」

「……」



 ボロ布の子共は、膝を抱え込む。

 雨の夜に、廃墟でする焚き火は、

 不思議な静寂を生み出している。


 こんな所で子供と夜を過すのは、

 多分、これが最初で最後だろう。




「あなたは何歳?」

「26だ」

「……!! 大きいね……!!」

「ふん……」

「……なんで、あなたは魔物を倒すの?」

「……!」



 ……。

 夜の、炎。



「……俺は、」

「え?」

「俺は……魔人になりたいんだ」

「まじん?」

「ああ……調べたんだ。魔物を倒しまくっていたら、自分の体の中にも……魔物みたいに、魔石が生まれた例があるって……それでな」

「うん」

「もっと、山のように、大きな男になるんだ……ッ!!」

「……? 今より……もっと、大きくなるの?」

「──、……ッ!」



 焚き火の炎を見つめながら、

 俺は余計な事をしゃべっていた。

 話は終わりだ。



「っ……、くそ、やっぱり、お前は明日……ドニオスに送る。ブラッドオーガはその後だ」

「それは困る!」

「何故だ」

「ここの本を……まだ、半分くらいしか、読んでない……」



 ……本、だと?

 この、書庫の本?

 これの半分だと、大した量だが……。



「もう、雨で読めない物も出てきてるし……それに……。はやく、はやく読まないと……」

「……」




 結果から言うと、その子供は二日間、ねばった。

 とっ捕まえて街に連れていこうとすると、

「お願い……お願い……」と泣くのだ。

 非常に厄介だ。


 干し肉が切れたので、屋敷の近くの森で、

 俺が木の実を集める羽目になった。

 中には俺が知らないキノコや、

 水分の豊富な木の幹の種類も教えられた。

 どうやら、これもこの書庫で得た知識のようだ。

 なるほど……調査隊が来た時は、

 森に入っていて見つからなかったのか……。



 何かに取り憑かれたかのように。

 ずっと、崩れかけの書庫の中で、

 食い入るように本を読んでいる────。

 


「……そんなに一気に読んでも、覚えられんぞ」

「覚えてる」

「……どうやって。特別なスキル持ちなのか?」

「根性。身体強化と、いくつか属性を持ってるけど、とっても弱い」

「……俺と同じ系統なのか」




 三メルの大男の前で、

 全く動じず、本を読み続ける子供がいるとはな……。

 この場所で、コイツは両親を失っているはずなのだが……。


 今まで全く馴染みのない状況に、

 困惑しながらも、眠りにつく。

 

 



 ──起こされたのは、明け方だった。




「起きて」

「……なんだ?」

「ブラッドオーガがくる」

「何故わかる」

「サインが聞こえた」

「サイン?」

「2回、3回、1回のリズムで、振動がくる」

「……?」

「縄張りを知らせる、音の合図」

「……そんなもの、聞いた事がない」

「襲われた日も、地面が揺れてた。必ず、くる」



 眠気など無い。



「歩き方なの。決まった距離まで、

 一定のリズムで、近づいてくる」

「……どっちからだ」

「絶対に、あっち」

「……わかった。隠れてろ」



 ボロ布の子供の言葉は、真実だった。



 があああああああああああぁぁぁ



「隠れてろ」

「見て……る」

「チッ、勝手にしろ」

「……勝てる?」

「……任せろ」




 棍棒を受け止め、殴った。





「……すごい」

「スッキリしたか」

「……」



 親の仇の亡骸の前で、

 子供は朝日に照らされていた。



「……解体するのを、手伝って」

「……なんだと?」

「利用できる所が、いっぱいある」

「バッ……!? こ、コイツは、俺よりもデカい!! 全部、とてもじゃないが、街には持っては行けない!!」

「何回かに分けて、持って帰ればいい。今、処置をしないと腐る所がある」

「おっ……!! お前の親の、仇だろうっ……!!! そんな奴、腐らせておけばいい……!!」

「これ、で、鎧と剣を作れば……、戦える人、増え、る……」

「……!! お前……」



 ボロ布は、震えていた。



「そし、たら……こんな、事……、減る、から……」

「……!! ……、……」

「いっぱい、書いて、あったの。魔石の、利用の仕方。食べられる、場所。鎧に適した、湾曲した装甲……。それに、習性、とか、襲う前にする行動、とか、書いて、あった……」



 ボロ布の子供は、

 力尽きたブラッドオーガに近づき、

 崩れるように座る。


 ────ドサッ!



「書いて……あった、の。ブラッドオーガは、お嫁さんを、、、迎える安全な土地が欲しく、て、周りの、、生き物を、追い出すみたい、だって……」


「……」


「魔物も……生きてるんだ、って、思った。余計な……戦いをしない……ように、足踏みして……追い出す、って……」




 亡骸に、雫がポタポタと落ちた。




「し……知っていれば……お、お父さんも……お母さ、んも、死ななかった……! あのっ、本を読んでいれば……!! 誰も、死ななかった……!! 誰かがっ、あの、説を、わかって、たら……!!」


「……」


「ぜ、ぜんぶ、読む!! か、必ず、読む!! 魔物の研究者になって……!! こんな事を、無くすんだ!! 」


「……」





 結局、

 もう一泊することになる。


 夜になり、やっと俺は──作業(・・)を終えた。

 初めての魔物の解体もそうだが……、

 ────もうひとつの方もだ。


 焚き火の光で本を読む子供が、こちらを向く。



「…………なに、してたんですか?」

「ふぅ……オーガの棍棒を使って、部屋の柱を補強していた。これで書庫はしばらく倒壊しないだろう……」

「あ……」

「悪いが……お前は明日、街まで連れていく。雨は、上がったからな。すぐに声をかければ、次の回収班が来るまではもつだろう……」

「……」

「街に戻ってから、続きを読めばいい……」

「………………。はい……」



 この屋敷に来てから、

 初めてコイツは、途中で本を閉じた。




 パチ……、パチ……。



「聞いて……いいですか」

「……なんだ」

「なんで、魔物になりたいの?」

「……」

「その……もっと、大きくなりたいって」

「……」



 パチ………、パチ………。



「……俺が生まれた時、母親は死んだ。親父は隠し通していたが、俺の体が大きい事が関連しているのは、間違いなかった。俺は体が大きくなり過ぎて、周囲からは魔人の子供なんじゃないかと不気味がられていた。親父は病弱でよく伏せっていたが、お前は丈夫な体で良かったと、よく笑っていた。俺が体の大き過ぎる所を言われて帰ってくると、「……いいんだ。気にすんな。逆に、山のような男になってやれ」と言ってくれた。親父の埋葬の時、同年代の奴らが集まって、こう言ったんだ」


「……」


「「コイツの父親な、コイツに、山のような男になれって言ってたんたぜ! ははは! それってほんとに魔物だよな!」」


「……」


「……それを聞いた時。俺は、何かが胸の中に拡がっていく気がした。そうだ、魔物だ!! 魔物になればいい……!! そうしたら、本当に親父の言うように、山のように巨大になれるかもしれないじゃないか……ッ!!」


「……」


「探したんだ。そしたら、あったよ。はは、あの時は、俺も本を読んだ、たくさん読んだよ。魔物を倒し続けたら、魔人になったという記録が、確かにあったんだ……!! 俺は……いてもたってもいられなかった。まだガキだったけどな……身体はデカかったから、いけた。すぐに街まで飛び出して、ギルドカードを作ったんだ……」


「……」


「魔物を倒す度に……心が埋まって行く気がした……」




 俺は、まばたきを忘れ、一気に喋り切った。

 これを聞かすのは、この9歳の子供が初めてだった。



「……、……く、く。ひどく……ガキっぽい理由だろう……」

「……」

「俺は…………どうせなら、人じゃないものに、なりたかった……」

「……」

「…………………すまない」




 朝まで、お互いに一言もしゃべらなかった。










 帰る朝、しゃべりかけられた。




「……この書庫の本を書いた人はね、魔物が好きだったと思う」


「……そうなのか?」


「とても詳しく書いていて、どの本でも魔物を、ひとつの生き物として向き合ってた」


「……」


「……あなたが魔物を倒しても、魔人にはなれないと思う」


「……何故か、教えてくれ」


「魔物の魔石はね、胃袋なんだって説を、この人は提唱してた。魔素を食べて力にするために、溜めておく場所なんだって」


「……」


「多分ね、人に近い種族はね、魔素を食べなくても、生きていけるの。その器官が……必要ないんだよ」


「……、……」


「あなたの体が丈夫ならば、たぶん、余計に魔石は生まれないと思う……」


「……」


「生きた、証なんだよ。魔物が、ちゃんと魔物として、しっかり生きてきた、証」


「……」


「……だから人の種族は、魔の存在が、いいな、って思っちゃう。本質的に、自分たちが持っていない物だから」


「……」




 俺は、自分の胸板を触った。

 魔物の、生きた証、か……。




「私……あのオーガ、ちゃんと街まで届けたい」


「……なぜだ」


「あの命でわかる事が、たくさんあるから」


「お前は……強いな……」





 昨日の夜に取り出した魔石は、

 太陽の色で、赤く光っていた。


 水を吸った本と、

 できる限りのオーガの素材を担(かつ)ぎ、

 ドニオスを目指す。




「あの本、大丈夫かなぁ……」

「こいつはのした(・・・)んだ。危険は少ないだろう」

「うーん……」

「……ドニオスにいる偉いヤツに、ちゃんと話してやるから」

「そっか! Aランクだもんね! 偉い人に会い放題だね!」

「……おい」

「はい?」

「お前は……街に行ったら、どうする」

「……。いっぱい勉強して、魔物の事をみんなに教える」

「研究者に、なるのか」

「うん。どうやってなるのかは、わからないけど……」



 ……。



「……街についたら、どこか、気に入った孤児院に入れ」

「え?」

「俺が掛け合ってやる。そして、勉強しろ。んで、体が大きくなったら──……」

「……おおきく、なったら?」

「──ギルドへ行け。俺が、ギルドマスターに話をつけておいてやるよ」

「──!!」

「あの場所は、たくさんの人間が行き交う場所だ。様々な知識や、職業の者が集まっている」

「お、おー!!」

「お前の勉強にもなるし──、お前がたくさんの人に、伝えられるはずだ」

「ほ、ほんと!?」

「……ああ」

「おっ、お願いします!!」

「任せておけ。そら、行くぞ。まったく腹が減ってしょうがねぇ」




 森の中を歩く道中。

 少しだけ木が途切れた場所で休息した。



「あの……さぁ」

「なんだ」

「いや、その……」

「あん……?」

「お…………怒るかも、しれないけど、ね?」

「……言ってみろ」

「えっと……、"山のような男になる"、って言ってた、よね?」

「……そうだな」

「いま、そうだよ?」

「……む?」

「ほら、あそこの、山」



 ボロ布の子供が指さした方角には、

 確かに山が存在している。



「いま、あの山より、あなたの方が大きいよ?」

「……からかっているのか??」

「いや……だからさぁ」

「……??」

「魔物にならなくたって、いいじゃない……!」

「……? う、む……?」



 岩の上で、足をパタパタさせて、

 あっけらかんと、言うのだ。



「 山から遠くて、人の近くにいる所なら、

  あなたの方が大きく見えるじゃない! 」


「────…… 」


「だって元々、そんなに大きいんだもの!」




 ………。


 ……………。


 …………………くっく、


 ────くっくっくっく、くくく……!





「、くっく、くっくっくっくっく……!」


「あー! 笑ったー! ひどいー!」


「く、くっくく、く……! いや……!

 お前は……天才だなッ…………くく、く!」


「あー、バーカーにーしーてーるぅー!」


「ち、ちがうって……! くっくく、くっくっく……!!」





 ──はぁ……。


 "山から遠くて、人に近い場所"、か────。








 ドニオスギルドに戻った俺たちを待っていたのは、

 初めて魔物の素材を持ち帰った俺への好奇の目と、

 ニヤリと笑う、真っ黒のスーツのジィさんだった。


 ボロ布の子は、教会関連の者に連れて行かれる。

 いきなりの別れに子供は戸惑っていたが、

 俺は、有難かった。


 あいつはまず、

 ちゃんと休息を取った方がいい──。




 ドニオスギルドの執務室をくぐり、

 事の成り行きを、隣街のギルドマスターに話す。



「──あいわかった。すぐに回収班を組織する。ふんっ、しかし……どういう風の吹き回しかな? 生存者に、お目当ての資料、そしてブラッドオーガのおまけ付きとはな……中々の豪胆さじゃないか」


「……妙なガキンチョだった。まったく、勘弁してほしいぜ」


「……ふんっ。おい、ヒゲイド・ザッパー」


「なんだよ」


「やはり……プレミオムズになる気はないか。お前は単騎でもいけるだろうし────何より、顔つきが良い」


「……なぁーに言ってんだ、このジィさんはよぉ……」


「今回の件で、より心構えが成ったと見える。今の格闘職(グラップド)の空席、実に惜しい」


「……。バカ言え……」


「ふんっ。険しい土地や山中も、お前なら問題は無いだろう。実に勿体ない、というのが私の本音なのだが──」


「……」




 なぜだろう……。

 この時、俺は。

 無性に、山へは行きたくなかった。

 何かが、違う気がした。




「すまんが……やはり、プレミオムズは無理だ……そうじゃ、ないんだ……」


「……」




 ジィさんの目を、しばらく無言で見ている。

 表情が、変わった。




「ふんっ……そう、か……。やれやれ……残念だ……。ガックリと来る……私も歳をとったものだ」




 ジィさんは、本当に残念そうに、

 ギシリ、とソファの上に座った。



「すまんな……」


「ふんっ……まぁ、良い。しかし、頭が痛い。私もはやくパートリッジに戻りたいのだが、この街のギルドマスターも、プレミオムズも見つからんとはな……」


「 ……! ……── 」







 "山から遠くて、人に近い場所"────。



 ──── " 街 "だ。


 ……街、なのだ。




 そして、アイツが来る。


 あの子供は、必ず、ここに来るのだ。






「そいつは……いいな」


「……む? 何か言ったかね?」




 くそ。


 俺の胸の中には、たぶん、魔石はできないんだ。


 あれは、魔物の"生きた証"なんだ……。


 俺は、デカいだけの、人間だ。


 だから────人間らしく、


 俺だけの、"生きた証"を、


 見つけなきゃならん。




「あんた……ブレイクさん、と言ったな……」


「ああ、その通りだ」


「……頼みがある」


「ほぅ? なんだろうか」


「……ギルドマスターに、なりたいんだが」


「   は……? 」


「ギルドマスターに、なりたいんだ」


「……ヒゲイド・ザッパー。今、なんと言ったかね?」



「将来、ここに有能な若手がくる。

 そいつをな……ちょっとばかし、

 脅かしてやりたくなったんだ────」



「……、……」



「ジィさん。俺に────……、

 ギルドマスターへ成り上がる方法を教えてくれ」







 この時、俺は爆笑するお年寄りを、

 人生で初めて拝見する事となる。






「 わ、わ、私のッ、教育は、はっは……! 厳しいぞッ 」


「すげぇ笑ってから、言われてもな……」


「 き、き、きさまは、まだ二十代、だろぅッ……!」


「"君"……"お前"、ときて、最後に"貴様"になったな」


「ふ、ふぅ……ッ! こんなに笑ったのは、久しぶりだ……」


「へぇへぇ。さぞ面白かろう」


「はぁ、気に入った。ユーモアがあって、素晴らしい」


「ぶっ飛ばされたいのか?」


「私がこの街に居られる期間は短い。一年……は無理だ。半年か……それよりも短いやもしれん」


「……おい」


「その間に、貴様に全てを叩き込む」


「げッ……」


「ヒゲイド。服のサイズを測っておけ」


「な、何故だ」


「ふんっ……!

 道着のギルドマスターなど、ナンセンスだ──!」














 ふたりの少女が、真剣にこっちを見ている。



「……」

「……」



「…………」



 やべぇ。

 すげぇ、脱線した。


 トロッコはどこへいった?

 ドンドン炭鉱までいったに違いない。



「「……」」



 やべっ。

 空気が重い。

 なんかしゃべられたら、俺の胃が死ぬな。


 俺からしゃべろう。



「……アンティ。マイスナ。魔石を使うのが、可哀想、と言ったな」


「……っ! は、はいっ……」

「……うん……」



 え────っと、

 え────っと。


 もういいや。

 大事な事だけ、言おう。

 俺、どうせ脳、筋肉だし。



「アンティ……。お前がいつも食ってる肉と、魔石と……何が違うのだ」


「──!!! ……、……」


「マイスナ……。そこの皿に乗ってた料理の、使われていた素材を覚えているか……?」


「──!!! それ、は……」




 おっ、いい感じだな……?

 困ってるぞ!

 今だ、俺……っ!

 ヒゲイド、押せっ……!!



「……いや、いいのだ。お前たちの感覚は実は正しい」


「「え……?」」


「とても……可哀想な事なのだ。俺たちは生きている。何かを食わなければ、消費しなければいけない。そういう仕組み(・・・)になっている。そうだな……そこにいる、うさ丸なんかは、もしかしたら俺たちより、その事をよく知っているかもしれん……」


「「……!」」



 この時のうさ丸は、めちゃくちゃ真剣な顔をしていた。

 おっ……!! いいじゃないか……!

 空気を読んで、にょきっとしない所もいい……!

 カンクルは……大丈夫だ! 首ひねってる!

 よし、ここはひとつ、

 自分の過去にかこつけて──……。



「俺はな……ギルマスになるまでは、出来もしない事を目標にして、"生きた証"にしようとしていたんだ……。でもな、ここにきて、たくさんの生き方を知った。様々な形を──見てきたんだ」



 これは、本当だ。

 俺は、全ての生き様を、見てきた。

 


「食い物を出された時、何が失礼か──そう、問うたな」

「、はい……」

「──"腐らせる事"だ。俺は、そう思う」

「……!」



 もう止まらん。

 勢いで言っちゃえ。



「アンティ……お前の"時限結晶(じげんけっしょう)"は、格納した物の時間を、永遠に止められるのだったな。いまは、マイスナのソレもそうなのか……」


「は、はいっ……」

「と、止められ、ます……」


「────それに、甘えるな」


「「──ッッ……!」」




 目を見て、言う。




「その中の肉は、腐らない。その中の全ては、劣化しない。だからお前は、忘れてしまっているんだ。その肉と魔石と、なんの違いがあるのか」


「ッ、……」

「……」


「どちらも、"生きた証"なんだ。肉も、魔石もな。覚えておけ……冒険者というのは、これらを──"次の世代へ繋げる"ことが、仕事なのだッ!!」


「「 ──っ……! 」」


「お前たちのように、永遠に腐らないアイテムを持っていたら良い……しかし、そうではない。皆は、時が経つ。腐る。待ってはくれない。だから食べる。利用する。明日への、糧(かて)とする」


「「……、……」」


「──じゃあ、腐らない魔石はなんだ? ……、一緒だ。アンティ、マイスナ、一緒なんだ……。生きた証を、武器として、防具として、次に繋げるんだ。俺たち冒険者は、そうやって命を明日に、繋いできたのだ……!」



 グッと乗り出し、声を出す。

 今、退いてはいけない────。



「肉を食い、魔石を使わないなんぞ──"甘え"だッッ……!!

 生命を冒涜している──ッッ!!

 死んだ者たちの"生きた証"を、どんなに残酷でも、

 俺たちは、繋げなくてはいけないッッ……!!

 冒険者とは、それ無くしては、

 冒険者たり得ない────ッッ!!」


「「     」」


「よく、覚えておけ──……!!

 その業を背負い、未来へ届けるのだ……!!

 それがッ……"冒険者"だッッ!!」




 お──っし!!

 どぉ──だぁああ──!!

 それっぽく、決まったではないかぁ──!!!


 よぉ──しよしよしよしよしよし。

 このふたり、ちょっと感動してるっぽいし、


 いけるいけるいけるいけるいける。



 よし、今だ、ベッドから立て、俺。




 ────ギッシぃい、ミシッ……!




「……お前たちが優しい心を持っているのは、嬉しい。だが、その生命とは、ちゃんと向き合っておけ」


「「……」」




 ……………よし。

 帰るか!!


 大事なことは、ちゃんと伝えたし!!

 頑張った、俺!!!


 今日はお酒のもう!!!




「えっと……でも」




 なんじゃい。




「どしたら、その……"次に繋げる"、って……」


「なにを言っとるのだ、お前は」




 素で、言葉が出た。




「……ふん、アンティ。お前は──"黄金の義賊"の"二代目"だろう? 力無き者を助け、貧しい人へと金の雨を降らす──俺でも知っている絵本の内容だぞ?」


「あ……」


「やれやれ……自分で使うことに罪悪感があるなら、ほかの者に与えれば良い。今のお前たちには、ピッタリの相手がいるだろう」


「「 ! 」」


「──この国の王女様に、しっかりと繋げてやれば良い」




 全く、世話がやける。




「マイスナ。一緒に落ち込むのではなく、隣で励ましてやれ。そのために、お前たちは二人組なのだ!」


「──! はっ、はいッッ!!!」


「ふぅ。わかれば良い。

 ……死んだ者たちの生命にも、もちろん意味はある。

 それを……無駄にはするな!」


「「──は、はいっ!!」」


「にょきっとなぁぁあああ──────!!!!!」

「くゆぅうう────ッッ!!!!!」



「う? うむ……」




 おし、帰ろっ。

 これ以上は、ボロが出る。

 ふぅ……すげぇ喋ったな。

 昔の自分に見せてやりたいぜ。



 小さなドアに手をかけようと────、




「あのっ、ヒゲイドさんっ!」


「……なんだ。俺はもうはやく寝たい」


「あはは……いや、その……」


「むぅ……?」


「その……──孤児になった子って、どうなったんですか?」

「あ……私も気になります」




 ……。




「……くっくっく、何言ってんだ。

 お前ら2人とも、仲良しだろう(・・・・・・)?」



「「 え ? 」」



 どっ、こい、しょ。


 小さなドアを、くぐり抜ける。

 気持ちの良い夜だ。

 景色が、良いなぁ。

 さすが、40メルトルテだ。




「……いたのか」

「ずすーっ」




 外の家の壁に、キッティがもたれかかっていた。

 お茶、飲んどる。

 床のティーセットを見るに、

 茶の差し入れを届けようとしてくれたのだろう。



「……ホレ、降りるぞ」

「まぁー、よく喋ってましたねぇー……?」



 ほとんど聞かれていたようだ。



「人の過去をまぁ、あんなに、えっちらおっちらぁー」

「……勝手にしゃべって、済まなかった」

「いいですよっ。昔、ギルマスの過去を教えてもらいましたから。ソレでチャラにしてあげます!」

「……たすかる」



 ティーセットを、持ってやる。



「あ、ども……。あの二人……元気、出そうですかね?」

「……わからん。だか最後は良い顔つきだったぞ?」

「ひゃー! さすがAランクのギルマス! やるときゃやりますねぇー!」

「アホ。はよ戻るぞ」

「あぁ……おんぶしてください」

「甘えるな、もう18だろう」



 ガンガン降り始める。

 階段に入ると、ひんやりとするな。



「まだ、夜は涼しいですね。これから暑くなりそうです」

「うむ……。で? あそこで聞いていたという事は、仕事は終わったのだろうな?」

「ひゅー♪ ひゅーひゅひゅー♪」

「はぁ……あの聡(さと)い子供が、こんなチャランポランになっちまって……。俺は、育て方を間違えたのか……」

「あっ!? あーっ!? ひ、ひどいっ!! あのですねぇ! 私、他の街のギルドの人には、すっごく評判いいんですからねぇーっ!? この前もアンティさんがパートリッジからなんか、ファンレターみたいなの届けてくれて……ちょ、聞いてますぅ!?」

「きーてるきーてる」




 時間が経つのは、はやいなぁ。








(*´ω`*).*・゜

↑過去設定と辻褄があってるか不安。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギルマスという1人の大人としての重みというか人生の先輩からの言葉ってやっぱり違いますよねぇ〜心に染みます。アンティ達が道に迷った時にその先で照らし、正し導いてくれる、そんな存在がありがたい…
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