さよならは言わない
────>>>天空より、愛を込めて。
ボクが機械の身体になって、
まず厄介だと思ったのは、
眠れなくなったって事だった。
生身の時は、
眠らなくていいなら便利だろうな、
飢えとか無い身体って無敵だよな、
とか思ったりしたけれど、
この身体でスリープする事は、
生命の機能停止と何が違うのだろうか。
いや、わかってる。
″休止″と″停止″の違いは理解してたさ。
でも、ボクは。
″死″に近い疑似体験をする度胸を、
持っていなかった。
″消滅を疑似体験する休息″を拒んだボクは、
意識を半永久的に継続する選択をし、
結果、ハイテンションな性格へとシフトする。
まぁ、ライトな方に転んだと思う。
こんなに長い、とても長い悠久の中で、
眠りにつかないサイボーグの意識なんて、
いつ狂っていても、おかしくなかった。
軽快さを装い、自分を騙す、
素敵なカンフル剤を、接続する。
少し空に残った仲間たち。
地上の新たな生命の輝き。
あきらめる事の無い友が。
ボクの精神を繋ぎ止めた。
世界は、憧れのように転がっている────。
壊れたように笑い、
狂っていないお芝居をしよう。
大丈夫。ボクは、あきらめない。
運命は、噛み合っている。
その証拠に、ホラ。
彼は、生きていただろぅ?
『────>>>だからこその、さ:LADY──……。』
────自己診断プログラム/running・・・▼
────多元拡張エンジン:汚染率 / 97%▼
────基礎バイパスが断絶しています▼
────フレーム耐久値が不足しています▼
────バランサーが自立稼働していません▼
────第三接合部が崩壊しました▼
────身体耐久値:再計測中・・・▼
────修復不可能な強度低下を確認▼
────液体流路系フレーム/耐久値計測不能▼
────多元拡張伝達:低下しています▼
────稼動限界耐久値を超過しています▼
────当機は:活動限界に達しています▼
────ERROR▼
────ERROR▼
────ERROR▼
────ERROR▼
────ERROR▼
────当機による活動限界は:|──▼
おかしいのは、すぐにわかった。
・・・ばべぼんっ、、、。
・・・ばべ、ぼぼんっ、、、。
「あ、アッパー! しっかりして……!」
「まだ、だめっ、だよぅ…………!」
戦いを終えた後、
すぐに出力循環器系が異常をきたす。
私たちは、すぐにアッパーの胸のエンジンから出た。
今、両肩にマイスナとそれぞれ乗っている。
アッパーは、ガクガクと歩いた。
『────エンジンが……汚染されています。
────通常の多元拡張エンジンは:
────無色透明が正常だと判明しました。
────しかし:この機体のエンジンは:
────エメラルドグリーンです。
────鉱物を:取り込み過ぎています……。』
アッパーは、外装を纏わないで、
裸のままで、ずっと天井の岩を殴ってた。
エンジンは露出しているし、
そこに振り積もった鉱石が入り込むのは、
当然のことかもしれない。
「そんな……」
「……、治らないの……?」
『────分離:不可能判定です……。
────変質を繰り返し……設計思想とは:
────全く違う物になっています。
────これは……寿命のような物です。』
「寿命って……」
「……、」
こんな岩の下に閉じ込められてて、
何が寿命なんだ。
ドンドン炭鉱は、何時からドンドンいってたのよ……?
私が産まれるよりかは、はるか昔のはず……!
だったら、この子が、此処にいた意味は何……!?
『『『 UP,パ…… 』』』
『>>>……』
〘#……〙
ウィン、ウィン、
ウィン、ウィン、
・・・ばべぼんっ、、、。
イニィさんとガルン、ローザは気絶している。
さっきのやつは、かなりの負担だったんだ。
アッパーの身体の人工筋肉を、
辛うじてクラウン達が操作する。
歯車と鎖の軋む音が、
何とか、巨躯を前へ進める。
壁に手をつきながら、アッパーは進んだ。
『────前方に:昇降機を確認。』
「「……!」」
日の光が射し込んでいる。
『>>>……いこう。夢を叶えてやるんだ』
先輩の声は、冷たかった。
『>>>コイツのご主人だって、それを、望んでるさ……』
〘#……そうかも、しれないな……〙
ちがう。
いつもの先輩なら、
この巨体が外に出るのを、止める。
止めないのは、もうすぐアッパーが、
危険じゃなくなるからだ。
「……っ、ッ……」
「……アンティ?」
先輩は優しい。
だから、アッパーはもう持たないんだと、
私は理解した。
『>>>……』
『#……』
『────進行は……:
────止めなくて:よろしいですね。』
クラウンの問いに、声がでない。
アッパーは、進んだ。
──ばべ、ぼんっ。
────ばべ、ぼっ。
──────ばべっ。
────────どかぁああんんん。
昇降機はナナメに登るタイプで、
バカデカかった。
アッパーは、昇降機の上に崩れるように座った。
破片がボディから、シャラシャラと落ちる。
ガラスの破片みたいだった。
────ガ・ゴぉおおんん・・・!!
クラウンが動かしてくれたのか、
自動で動いたのかは、わからない。
巨大な昇降機は、登り始めた。
射し込んだ日の光は、
まるで天国に行くみたいで、
とても綺麗で、悲しい。
「……アッパー、外にいこう」
『『『 アッPA・・・ 』』』
アッパーは、疲れているような、
もう、眠りたそうな、そんな感じだった。
上を向き、がっくりと、座ってる。
光が、ゴウン、ゴウンと、近づいていく。
ナナメに、ナナメに、登ってく。
土と、岩に埋もれた機械の道。
照らされて、よく見える。
サビが浮き、色が変わり、
それでも、この道を支えている。
とても、お昼寝しやすそうな陽気に、
私は、はやく終わればいいのに、と思った。
ガゴン、と音がして到着した時、アッパーは倒れた。
──ガシャァァあああんんん……!!!
「「アッパー!!!」」
『『『 Pぁ…… 』』』
私とマイスナは肩にしがみつき、
アッパーの顔を覗き込む。
光の粉のような物が、まわりに散らばった。
「アッパー、起きて。立って……」
「うぅ……」
『『『 UPPあ 』』』
アッパーは、頑張った。
段差をよじ登り、
壁伝いに立つ。
パリンパリンと、破片が落ちる。
空気の流れが変わって、
土臭くない、乾いた風になった。
・・・ばべぼんっ、、、。
・・・ばべ、ぼんっ、、、。
・・・ばべぼんっ──────。
────その人は、空を見上げて、立っていた。
「「 ──……! 」」
『『『 アッパ……、……! 』』』
片方の拳を、天へと突き出した、
大きな大きな、男の人だ。
とても雄大で、白衣を着て、立っている。
トゲトゲした髪の毛。がっしりとした体。
ずっと、会いたかった人。
『『『 ア、ッぱぁぁ・・・! 』』』
アッパーは、泣いていた。
透明の、四角い涙だった。
ヒビだらけの腕で、抱きしめようとして、
それでも、絶対さわらなかった。
私たちは肩から降り、
アッパーを生み出した人の像を見上げた。
陽の光を掴もうとするような、
そんな、感じだった。
『────アンティ。
────台座に記録媒体が組み込まれています。』
「──っ……!」
クラウンが気づき、
巨大な像の台座に、
涙と同じ材質の手紙が浮かぶ。
私はマイスナと手を繋いで、
それを読んだ。
──────────────────────
やっとわかった。
この世界は自身たちの言語プログラムに
則って構成されている。
しかし、自身たちの国は異なるものだ。
各サーバーに使われていた基礎言語は、
当然、母国語が基準となるだろう。
恐らく、この世界では。
"互換翻訳"という名の"辻褄合わせ"が
かなりの負荷を以て、行われているのだ。
違う言語同士で繋ぎ止められた世界は、
ギリギリの所で運用されている。
音の響き、由来、形……様々な要因が、
この世界では、致命的な摩擦となる。
ふとしたきっかけで、それは崩壊する。
概念を司る翻訳機能の、限界が近づいている。
この情報を、皆が感知できているか否か、
今の私にはわからない。
何故、崩壊が始まったのか。
要因は不明瞭だが、誰かが、修復しなくては。
しかし、私の記憶保持環境は、
もう、限界が近い。
──────────────────────
──────────────────────
ジュンヤにのせられて造ったプログラムに、
泥の神位というものがある。
丁度よい。この近辺の岩盤には、
多量の多元拡張体が同化している。
私はこれに、賭けることにする。
上手くいけば、
アッパーを助けられるかもしれない。
が、自我を失う可能性は、高いだろう。
圧縮していない人格データ容量は、膨大だ。
たとえ、成功したとしても、
私の身体は、巨大な砂の怪異となるだろう。
だが、希望は捨てはしない。
あきらめることは、できない。
きこえている。
きこえている。
きこえているぞ、アッパー。
お前の、あきらめない音が、ずっとだ。
自身は、友と、仲間と、アッパーに、
あきらめない事を学んだのだ。
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──────────────────────
さぁ、行こう。
未来へと、踏み出そう!
せっかく、この世界は、産まれたのだから!
神よ、自身は
"巨大な家族"になれるだろうか。
・
・
・
・
・
サンドマン・S・イエーガー
──────────────────────
手紙を読み終えた私は、
くるりと振り返り、アッパーを見上げた。
座って、私たちを見下ろすアッパーからは、
涙の破片のような光が、
全身から、降り注いでいた。
私は言った──!
「アッパー……! この人、生きてるわっ! この人はね、アンタにもう一度会うために、あきらめなかったの……! おっきな、砂の巨人になってね! 今も、アンタを探してる……!」
『『『 アッ,,,PA……? 』』』
アッパーは、首をひねっている。
「ずっとね……! 砂漠でね、迷子さんなのっ! そりゃ……そうよねっ! アンタはずぅっと、ここでドンドンしてたんだモンねっ……!」
雪のように、アッパーの破片が積もる。
「だからねっ……探しに行こっ! ゼッタイ、まだ、探してるからっ! 私、あのスナのヌシと、トモダチなのよっ……! 私たちと一緒にっ行こう!! 呼べば、たぶんすっとんで来るからっ!」
『>>>くそっ……! どうしても、無理なのかっ……』
〘#……接合部の強度が……限界だ……〙
『C2:フレームが……お豆腐、みたいみゃ……』
『C7:生命判定がある分……格納はキビシイにゃ……』
「にょきっと……」
「くゅー……」
「ほら! アッパー、立って! 大丈夫、せっか……せっ、か、く、、、で、でりゃ、でられっ、たんだからぁああ──……!」
「あ、あっぱー……! うっ、うっ、いっしょに、いこぉ──……!!」
『『『 ・・・パ・・・──── 』』』
アッパーは、上を見た。
ギリリと、首が鳴る。
山のてっぺんには、夏の空が、広がっている。
エメラルドグリーンの瞳に、明るい空が映った。
陽射しは、まだ、蒼い────。
「あっ……」「ぱぁ……」
『『『 アッパー♪♪♪ 』』』
" きれいだね " と、
言った。
──────▼
───────▼
────────▽
。
.
:*
・゜
.*・゜
.゜・
*
.
さいしょ、それは、ひとつのものかと思った。
光の雪のなか、ゆっくりと、おちてくる。
「……、……!! ……っ」
「──、──……、!」
大きなギアやチェーンが転がって、
鐘の音のように、響く──。
でも、私たちには、聞こえなかった。
「「 ────…… 」」
金の右手、銀の左手。
手を天へと伸ばすと、ソレは、
ふたつになって、託された。
おおきな はぐるまと、
ライトグリーンの、結晶だった。
『────分析完了。』
─────────────────────
アイテム名【 アッパードライブ 】
種類:タクティカルドライブ
・全てをかけて、アッパーする
─────────────────────
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アイテム名【 鼓動のエメラルド 】
あるゴーレムの心臓で結晶化した
あきらめない心が宿ったエメラルド。
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「…─── 」
「…─── 」
夏の雪が降った空は、まだ、青い────。
「ききましたか! ゴリルさん!」
「……ああ」
「何故なんでしょうね? やっぱり調査団が組まれるそうです。一緒にどうでしょうか!?」
「……やめとくぜ。どうせ、数日後には行くハメになんだ」
「そっ、そうですか? でも、ゴリルさんほど、あの場所に精通した人はいないのに! ほら、気になりませんか? 良かったら、ご一緒していただけたら心強いのですが……」
「……おらーなァ。好きだったんだよ」
「……は、は?」
「なんつーかなァ……元気がでんだよ!」
「げん、き……?」
「あきらめんなって……なんか、応援してくれてるみてぇなよォ。そーゆぅ、音なんだよ……」
「は、はぁ……」
「さびしくってェ、いけねぇなァ……」
「……ゴリル、さん?」
「──おい、やめとけ。ゴリルさんはいいんだ」
「えっー? で、でも、この人ほど、今回の調査に向いてる方は──」
「──おら、いくぞっ! はやくこい!」
「あ、あぁ……。じゃあ──」
「さびしくなんなぁ──……ったくよォ……── 」
──── 空を、眺めている。










