伝説のはじまり さーしーえー
あいつに初めて会った時の衝撃を、
忘れる事ができない。
ギ────……
「あの〜〜……ギルドマスター……」
「こら、キッティ。お前、ノックをせんか!」
「あ、すみません……」
俺が仕事をしていると、受付嬢のキッティが、またノックをせずに入ってきた。
全く……人当たりは良いのだが、親しき仲にも礼儀あり、と言うだろう。
俺みたいな、デカい男のいる部屋に、ノックをしないでヅカヅカ入ってくるのは、彼女くらいのものである。
一応、ドニオスのギルマスなんだぞ?
「やれやれ……で? どうした?」
「いや、新規の冒険者希望の方がきまして……」
「? それがどうした」
よくあることじゃあないか。
「そ、それがですね、あの、ちょっと風貌に問題があると言うか……」
「なんだ、厄介事か……怪しいやつなのか?」
やれやれ……ギルマスと言っても、雑用は付き物だ。
変な奴がきたら、俺のような大男が追い払ったほうがよいだろう。
「怪しいと言えば、もうそれは筆舌に尽くし難いほど、怪しいです……」
「そんなにか……」
「ただ、ある意味、怪しくないと言えば、怪しくないと言うか……」
「はぁ? どういうこった?」
キッティめ、何をそんなに困惑してやがる。
「どんな見た目なんだ?」
「いや……まず仮面を被っています」
「! となると、正体を隠したい犯罪者かもしれんな……」
厄介な……。
たまに居るんだよな、人生やり直したいやつ。
まず牢屋で反省しろよ……。
「いえ! それは無いと思います……」
「ほぅ? 何故だ?」
「犯罪歴のある人が、あんな格好はしませんし……」
「? よく分からんな。どんな男なんだ?」
「いえ、女の子です」
「あぁ!?」
な、何を言ってるんだ、キッティよ……。
仮面を被った女の子が、冒険者になろうとしているのか……。
「……新参の魔術師か何かか?」
「あ……そう言えば、能力のヒアリングはまだでした……」
「バカ者! まず仕事をしてからこい!」
「! ち、違うんです、ギルマス! 最初のインパクトがあまりにも強すぎて……」
「何だってんだ……」
そんな涙目になるなよ……。
ええい……涙は卑怯だぞ!
「とにかく、お願いします、ギルマス。一緒に来てください。もう、ロビーでは、かなりの騒ぎになっています……私では、対応できかねますぅ〜……!!」
「わ、わかった、わかった!! 行ってやるから……!」
騒ぎになっている、だと!
くそぅ、面倒な……。
一体なにが来たってんだ……。
大きな身体を椅子から起こす。
まぁ椅子と言っても、キッティから見れば、机みたいなもんだ。
このドニオスギルドのドアは、俺に合わせて、かなり大きめに作ってある。
ギ────……。
キッティに続き、ドアを潜り、ロビーに向かう。
「「「ギャハハハハハハハハ!!!」」」
「「「うわっはっはっはっは!!!」」」
「! な、なんだ!?」
「だ、だから、騒ぎになっているって言ったじゃないですかぁ〜〜!!」
「いや、だがこの笑い声は……」
てっきり乱闘にでもなっているかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
なんだ……?
何人もの笑い声が聞こえるぞ?
随分、明るい雰囲気だな……。
ロビーに近づくにつれて、冒険者たちの会話の内容が聞こえてくる。
「ぎゃはは、す、すげえ、すげえ再現度だ!!」「おい嬢ちゃん! ここは仮装パーティの会場じゃないぜ!」「完璧ね……あそこまでこだわってるのは、初めて見たわ!」「おいおいお前ら注意しろ! 義賊サマの気分を損ねたら、やられちまうぞ!!」「あっはっはっはっはっはっは!!!!」「やべぇ、おれ友達呼んでくるよ」「おい! 酒場の奴らも全員呼んでこい!!」「半端ねぇ……どこであんなの売ってるんだ」「結構可愛いじゃない! ふふっ、あんた話かけてみたら?」「バカいえ、仮面で顔見えねえじゃねえか! オレにはお前がいるよ!」「誰か劇場まで案内してやれよ! 役者かなんかだろう!?」「いやいや、冒険者になりたいって話だよ!」「マジか! 自分が盗賊だって、忘れてやがる! ぎゃははははは!!!」「お! ヒゲイドの旦那がきたぜ!!」「おぅギルマス!! お前さんも大変だなっ!!」
おいおい、こりや何の騒ぎだよ……
盗賊って言葉が聞こえたが……
来たのは女の子だろう……
なんでこんな事になってんだ……。
焦りを顔には出さず、カウンター席の横を通り、ロビーへ躍り出る。
────そして、あいつに、出会ったのだ。
そいつは、すぐに目に飛び込んできた。
目立ちすぎていたのだ。
「……────冒険者に、なりたいんだけど」
「………………」
俺、ヒゲイド・ザッパーは、
ドニオスギルドのギルドマスターだ。
俺は、いつも、ダンディーで、
ニヒルなギルマスを目指している。
だが、だが、しかし!
この時ばかりは、叫んでしまった。
立場を忘れ、
本能に従い、
心のままに。
だって、仕方がないじゃあないか。
目の前の、女の子の格好が……
「────クルルカン、きたぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
────絵本の、主人公の格好だったのだから。
( º дº)きたぁぁぁぁぁあ!!!!!