夢は、ついえたのか?
我が名は、アブノ・マール。
服飾屋、店主である。
この街にきて、もうかなりになる。
夢に生きてきた、我。
しかし、もう、潮時なのかもしれぬ。
我が野望は、"セクシーギルド"を樹立する事である。
我は、女性の活躍を、切に願っている。
女性の冒険者は少ない。
当然だ。
男勝りの職業なのは、言うまでもない。
だがしかし!
必ずいるはずだ!
腕っ節の強い、たくまし系女子たちが!
今や、時代は男女平等なのだ!
女性の能力を発掘すれば、冒険者の平均実力は、もっと上がるかもしれない!
有能な冒険者たちが、増える街は、発展する。
この街を発展させるために、女性たちの力が必要だ!
なら何故、冒険者には、男が多いイメージなのだろうか!
女性たちが、冒険者にならない理由を、若き日の我は、考えた。
そして、2つの結論に達する。
"危ない"! そして、"可愛くない"!
こ、これだッッ!!!
方針が決まった我の行動は、はやかった。
女性の活躍のために、女性のための装備を作る店が、あっても良いではないか!
他の防具店は、男目線でしか、商品を置いていない!
そうだ! ヨロイの下に着る服飾も取り扱おう!
女性はデリケートだ! 品質にはこだわろう!
そして、ちょー可愛い、強いヨロイを作るんだ!
そして、才能ある女性たちに、光を!
─────そう、思っていたのに。
もう、明け方である。
現実は厳しい。
店を閉めると息巻いていたが、片付けは、一向に進んでいない。
店の段差に座り込み、悲しさに震えていた。
────我のしてきた事は、全て、無駄だったのか?
────女性の幸せは、やっぱり、プリティな花嫁になることなのか?
……ふっ、もう、そんな事を考える必要もない。
我は負け犬だ。
もう少ししたら、あの部屋のキラキラシリーズは、封印しよう。
我の野望はついえたのだ。
大人しく、引き下がるとしよう……。
──そう思った時だった。
……────きゅいいいいいいん……
「……何であるか、この音は」
───きゅん……
「……?」
───────ぎゅおおおおおお!
「……!?」
────ドゴオオオオオオオオオン!!
「なッ!!!?」
店の、入り口の扉が、蹴破られた。
な、何事であるか。
吹っ飛んだ扉が、我の横を通りすぎていく。
朝日が逆光となり、その人物のシルエットを映し出す。
目が、慣れてきた。
「君は……昨日の、お嬢さん?」
朝日に光る、2つ括りの、黄金の髪。
逆光の中でも煌めく、オレンジの瞳。
頭の上には、王冠を模した、装飾品。
昨日、我の夢を聞いてくれた、あの少女ではないか。
どうしたのだ。
思いつめた顔をして。
「……どうしたんだい、お嬢さん。また、肌着かい?」
「…………」
何故だろう。
とても、何か、悩んでいる。
彼女に、何が、あったのか。
沈黙が、彼女によって、破られる。
「……ねぇ、アブノさん、あなた、私の秘密を守れる?」
「……何だって?」
どういうことだ?
「……私、姿を隠さないといけない。隠し通さなきゃ、守れないものがあるの。」
「……お嬢さん?」
「危険に晒したくない、人達がいるのよ」
「……ああ、それで?」
「でも、私、自分の夢を、あきらめたくない」
「…………」
彼女は、眩しかった。
朝日のせい、だけではない。
瞳には、魂の輝きが、宿っている。
夢を追う、かつての我と同じ、光が。
我は、全く状況を理解していなかったが、勢いで、こう答えた。
「何の事かはわからない……だが俺は!! 顧客の個人情報は、命にかえても! 守る!! それが、俺の、我の信念である!」
女性のスリーサイズとか、絶対言わぬ!!
「……その言葉、信じるわ」
「……!」
コツ……コツ……
少女が、こちらに歩いてくる。
目の前で、止まった。
少女は、顔に、手をかざす。
────きゅいいいいん……
────ぶぉおおおおん……
「! そ、それは!」
少女の顔に、いつの間にか、黄金の仮面が、現れていた!
「……アブノさん、この仮面に合うヨロイを、見繕ってほしいの」
「そ……その仮面……どこかで」
どこかで見た事が…………まさか!!
「まさか……まさかその仮面は……!!」
「…………」
多くの素材を見てきたから、わかる。
この仮面は、ただもんじゃない。
そして、その、あまりにも有名な、造形!
ホンモノだ。理屈じゃない。
じ、実在していたんだ…………彼は!!!
「見繕うヨロイってのは、もしや……」
「……そうよ。奥の部屋からお願いするわ。この仮面に合い、軽くて、強度があって、そして、徹底的に正体を隠せるヨロイ。ソレを私は、求めている」
「────……」
言葉が、でなかった。
はじめて、求められたのだ。
我の理想。我の夢。
それが、確かに、動き出す音がした。
「──君が」
「?」
「君が、我の夢か……!」
「…………不本意だけど」
涙が、頬を伝う。
思わず、素で"我"って言っちゃった。
涙を拭う。
「……で? あるの? ないの?」
ふ……愚問だ、我が夢の姫君よ……。
「……姫よ、要らぬ心配である。我が、あの御仁の装備を再現していない訳がないであろう!!」
「あるんだ……」
「そう、"キラキラシリーズ"No.1……我が最初に着手し、つい最近まで、手直しを重ねた、最強の! "女性用"ヨロイ!! うおおおおおお!! たぎるぜぇぇぇえええええ!!!」
我は、ここに、きてよかった!
自分の信念を貫いて、よかった!
夢を叶えてくれた少女よ、姫と、呼ばせてくれ。
「──くっそ〜あるのか。まさかとは思ったけど……てか、いいから早く出しなさいよ!」