表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/1216

やばいブツ


 その後、何故か変態店主と、話し込んだ。

 何を話していたかは覚えていない。

 ただ。ネタは尽きなかった気がする。

 主に罵倒。


 変態店主は、名を、アブノ・マールさんと言うらしい。

 アブノさんに、何故その格好なのか? と切り込んでみると、「研ぎ澄まされるから」と、答えられた。


 悪人じゃない変人って、厄介だわ。


 アブノさんは、これまで多くの冒険者に、素材の融通を頼む代わりに、装備のメンテナンスを格安で受けたりして、例のマネキンの装備をコツコツ作っていたそうだ……。

 なんてアホみたいな努力よ……

 クラウンに分析してもらうと、幾つか、スキル持ちのキワモノ装備が見つかった。

 動機はアレとして、積み上げた技術はえらいことになっているようだ……。


 ただ、あまりにもキワモノが売れないので、自暴自棄になっていた所に、ちょうど私がご来店したらしい。

 お陰で、やばい格好の男が、絶叫しながら仰け反る所を目撃してしまった……。


 どうやら今夜中に荷物をまとめ、明日の朝には故郷に帰るらしい。

 ドニオスが、平和に一歩、近づいた。

 どうか、普通の格好で里帰りしてほしいものだ。


 肌着はホントに安かったので買い足しておいた。



 宿を探し出し、首に巻いたデカいマフラーを返し忘れた事に気づいた頃には、もう、あたりは暗くなっていた。






「はぁ──……」


 なんだろう。

 妙に、疲れていない。

 馬車で寝たのが、意外と効いているらしい。

 安宿の椅子に、反対向きに座り、アゴを背もたれにのせる。


 ベッドがかなり硬そうだが、私のバッグ歯車には、自分のベッドが入っている。

 こっちを出して寝ることにしよう……。


「ドニオス初日が、これですよ……」


 汗まみれになって。

 馬車で吐きかけて。

 変態から服を買う。


「あああ〜…!!」


 手をぐぐっ、とあげ、伸びをする。


 アブノさんの店で、欲しかった革鎧があればよかったんだけど、見せてもらったものは、全てアレだった。


 胸に巻くタイプは、……全滅した。

 ぐすん。


「何やってんだかな……私」


 自分だけの生き方を見つけるために、ここに来たのに……。


 なんか、拍子抜けというか、

 ある意味、日常的というか。

 このまま、心の空気が抜けるのは、まずいよね。


「……明日、冒険者登録しよう」


 ドニオスには、冒険者登録にかかるお金を、無料にする方法がいくつかある。

 その一つが、「15歳以降、街に初めて入ってから、15日以内に冒険者登録する」というやつだ。

 若い有能な冒険者を、囲い込むための制度だろう。

 私は、能力おろしの日にもらった手形があるので、あと数日間、この権利を有している。

 冒険者登録料は、けっこう高い。

 この機会を逃す手はないのだ。


 魔無しだった時は、こんなに早く冒険者になるとは思っていなかったが、ここまでくると逆に、運命的なものも感じる。


 ……冒険者登録が、何か、夢へのきっかけになってくれたらいいな……なんちゃって。



「クラウン。学科の教科書だして」

『────レディ(準備完了)。』


 冒険者にはなるけど、学校は卒業したい。

 学科テストの予習を、少し進める事にする。


「地形学……苦手だ。地図とか読めん……」


 私は同級生の中では、かなり勤勉なほうだと思う。

 でも、苦手なジャンルはある。


「あ、鉱石の項目が、ある……クラウン」

『────予測実行。』


 目の前の歯車から、猿でもわかるらしい、宝石辞典がでてくる。

 最近、クラウンが私の意図を読み取って行動してくれる。

 頼りになる相棒だ。


 空中の宝石辞典に手を伸ばす。

 バッグ歯車が消える。


「あっ、と!」


 椅子に逆さまに座っていたので、あとちょっと手が届かなかった。


 バサァ。


 おちたで。


「……もちょい手前に出しなさいよ」

『────告。座り方に、問題報告。』

「ひゃ──い……」


 確かに、お行儀がわるかったですよーだ。



 椅子から立ち、床に広がる事典を見ると、たまたま最後らへんのページが、開いていた。

 ……? 

 他のページと違い、縁取り模様が赤いな……。

 なんだ、このページ?

 どれどれ……





⚫戦争の火種となった魔石【 "時限結晶" 】


1.似て非なるもの

 "時限結晶"は、時限石とは、一線を画す存在である。時限石は、純度の高い宝石に時空魔法が宿った鉱石だが、"時限結晶"は、宝石を媒体とせず、"時空魔法"そのものが結晶化したもので、厳密には宝石ではない。時限石は簡易なものなら、宝石を媒体として人工的に作成する事ができるが、時空魔法を結晶化させる方法は、確立されていないため、"時限結晶"の作成は不可能であり、その可能性は、ダンジョン等のレアドロップアイテムのみに存在する。過去に発見された時限結晶はひとつのみで、濁った紫色をしていたと言われている。


2.初めての時限結晶の発見

 初めて史上に"時限結晶"の文字が表れたのは、マシニス歴当初であり、その文献は多くは残っていない。発見したのは、騎士の家系の冒険者だとされている。当時、存在したダンジョンの最終階層にて、黄金の龍を倒した後、ドロップしたという手記が残っている。その一文に、"その紫の時限石は、容積は城ひとつ分くらい入り、その時間は停止するようだ!"と、驚きの感情が読み取れる文字で書かれた一節がある。その後、ある鑑定魔法師により、このアイテムが宝石系ではなく、時空魔法そのものに近い事がわかり、当時の王朝に報告される事となる。


3.戦乱と国の消滅

 当時のレエンコオト第一王朝は、軍事的な資材運搬のために、この"時限結晶"を献上するように求めたが、その要請を騎士の家元は無視し続けた。王朝は騎士の家元を、反逆者として扱うと民衆に公表した。騎士の家系の長が、これに憤慨し、時限結晶の権利を主張した。これを期に、王朝に不満を持つ騎士のクーデターが起き、王朝と騎士達の大規模な対立となった。

 血で血を洗う戦いは、民衆をも巻き込み、混乱を極めた。結果、騎士の家系の冒険者の一族は、家族諸共、皆殺しにされたが、冒険者の娘が最期に、命を使った時空魔法で時限結晶を暴走させ、その空間は城を周囲ごとのみ込んだと、伝聞されている。正円で有名なレエン湖は、この時期から地図に記載され始め、この丸い湖の中央に、当時の王朝の城があったと推測される。これを期に、レエンコオト王朝は、史上から消滅する事となる。


4.魔術師達の復元への挑戦と失敗

 "時限結晶"の文献が発見された当初、魔術師連合はこれを再現しようとした。その実験は非人道的なものであり、皮肉にも、現在の魔法職制度が、整備されるきっかけとなった。当時、実験に参加した時空魔道師の半数が犠牲、もしくは障害を残す形となったが、時限結晶は完成する事はなく、その暴発性から、複製行為は完全に規制された。この時の魔術師連合の長は、処刑前、見張りの兵に「高密度な時空魔法は赤い色を持つ。もし、完全なる"時限結晶"があるとしたら、それは青ではなく、赤い色を持つだろう」と語ったという。しかし、この頃にはすでに、牢屋で気が狂ったように高笑いする様子が記録されているため、真相は定かではない。この記録より先、"時限結晶"の文字が確認された文献が見つかったという報告は、あがっていない。









 泣きそうになりながら、






 ぜんぶ、読んだ。






 

 なぜか、もう、明け方だ。







「…………くらうん……じぶん、ぶんせきして……」



『────分析完了(アナライジング)


 名称【 クラウンギア 】

(スキル媒体/アイテム)

 同期アイテム

 ・時限結晶(アイテムストレージ)

 ・状態分析(アナライザー)

 状態:物質統合』









「ああ……」











 ────わたし、正体かくさないと(・・・・・・・・)だめだ(・・・)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ