ジャンピング・ロストワールド
「次はアソコへ」
「うんっ」
アンティ・クルルとマイスナ・オクセンは舞う。
虚無の空間には、ランダムに浮かぶ岩のステップ。
白銀は、精霊王の宿る聖なる翼を、
黄金は、今代の魔王を秘める翼を広げる。
未知の領域に、白と黒の軌跡が走った。
〘------まーた花クラゲのんっ☆
------動くのは;アレだけのんなぁ──☆☆〙
{{ 正直、拍子抜けねぇ。襲ってくるワケでもありませんし……ほら、また咲いた順に逃げていくわ }}
『 がるがるぅー 』
瓦礫に隠れ、大きな花の蕾のようなものが多数、浮いていた。
それらは、対なる二人が近づくと咲き、
海月のように泳いで逃げてしまう。
『────やはり:魔物としての情報がヒットしません。
────ここは:ダンジョンなのでしょうか……。』
『>>>どうだろぅ……あ、まただ。綺麗な生き物だな……あんな花を見たことがあるよ』
〘#……" スプレーウィット "という、丸い薔薇の事だろう。あのように逃げる種は初めて見たが……〙
警戒を続ける彼らだが、
一向に敵対勢力には出会わなかった。
むしろ危険なのは出口がわからない事である。
格納した食料を使用できないという事は、
この"空間迷子"が長引けば、
義賊も狂銀も飢え死ぬ事を意味していた。
〘------いざとなったら;ウチの身体をチュパチュパするのん?☆☆☆〙
「ごめんこうむる!」
「アンティにされたいです」
彼女たちがここに迷い込み、1ジカが経とうとしていた。
「くそ……空気中から水分は氷にできるけど、本当にお腹が減ってきたらヤバいわね……」
「今ならキャベツも食べるよ」
「まーたーこーのーこーはー」
また、ひとつの岩場に着地し、
果てなく続く空間を見上げる。
「……出口がわからないわね」
「こまったね……」
『>>>参ったな……もう一度、放射系の観測デバイスを使ってみようか。先生?』
〘#……うむ。待て、今作る──〙
──ヴィオん……!
アンティ・クルルの手元に、
小さなクリスタル状のデバイスが形成される。
黄金のガントレットがソレを握り潰すと、
細かな粒子となったアナライズカードが、
津波のように周囲に拡散していく。
飛散距離はケルメルトルテの壁を優に超え、
空間構造が視覚情報に3Dマッピングされるまで、
約5ビョウ程であった。
『────ダメです。
────やはり天井と壁:地面に該当する建造物を:
────観測できません……。』
〘#……複数の場所で、粒子飛散の方向がおかしな箇所がある。もしや、空間が捻れているのだろうか……?〙
太陽の精霊と、かつての銀が不安を募らせる中、
黄金義賊は発見する。
彼は、その感覚に優れている。
『>>>……? これは何だろう……!』
「……! なになに? 先輩なんか見つけた?」
「何かありましたか?」
{{ んー? }}
〘------のんのーん☆☆〙
白翼と黒翼から、
白と黒の王女の半身が現れ、
絵本の対と共に、幻影の地図を覗く。
『>>>ホラ、見て。ココ。この漂流物だけは、形が長方形なんだ』
『────!。
────マップ:拡大します。』
「あ、ほんとだっ!」
「これだけ綺麗な形ですね」
{{ 他は、ザラザラした小石みたいな形状なのに…… }}
〘------スティック状のんなぁ──☆〙
〘#……これは……! かなり大きいぞ? 200ほどあるのではないか?〙
『>>>だとすると、箱庭フォートレスの全長よりも長いですね……。何にせよ、これだけ綺麗な直角がでてるんだ。人工物の可能性があると思います』
〘#……うむ、その通りだな。ここへ向かってみよう。よく見つけたな、カネトキ……!〙
『>>>え、あ、あはは……。この歳になって先生に褒められるのって、なんだか不思議な気分だな……』
『────お見事です。カネト。
────進行方向をマーカーしました。』
「おーらい、行ってみよっか!」
「アンティ、手ぇつなご」
明らかに不自然な規則正しい形状に、
淡い期待を膨らませ、駆ける。
アンティ・クルルの黒からは、燃えるような闇が。
マイスナ・オクセンの白からは、流星のような光が。
大きなジャンプの度に、仲良く弧を描いた。
「──! 見えた! あれだわ!」
「やっぱり大きい」
{{ 減速するわ。天使ちゃん! 羽根、拡げるわよ }}
〘 のんなぁ──☆☆☆ 〙
ブァア……! と、対称の羽根を拡げ、
甲高い金属音を鳴らしながら、二人は着地する。
『────!。
────報告します。
────"時限結晶"の回復を確認。』
『>>>なんだって!?』
「「 えっ!? 」」
{{ 随分、急ねぇ……ここに着いたから? }}
〘------あっ;ウチの身体;出し入れできるようになったのん☆〙
『 がるがるるー? 』
『>>>そっ、そんな事よりも、はやく食べものを出すんだ! 一時的な復活かもしれない!』
『────賛同します。
────こちらで調理食材の自動選出を開始。』
巨大な長方形の構造体に降り立った主人公の足元。
アナライズカードで、いくつもの容器が形成される。
「え、ちょと……」
「なんか箱、いっぱい出たよ」
『────これまでの:
────お弁当おかず比率の系統を分析中・・・。』
『>>>やったれやったれ』
「うわっ! 何よコレ……"アナライズ弁当"……?」
「透明なお弁当箱だ」
「ちょ、ちょっと待て! クラウン! 何個作んのよ! 重箱みたいになってんじゃないのよぉ!」
「お弁当タワーだ」
『────いつ:"時限結晶"が再び使用不可になるのか:わかりません。補充できる時にしておくべきです。』
『>>>そうだそうだー! こんな所で飢え死になんて、洒落になんないだろ』
「だ、だからってコレは出しすぎでしょ! こんないっぺんに食べらんない……って、マイスナもう食い始めてるし……」
「もぐもぐ。アンティ、あーん──」
「え、ちょ、ぁーん……」
『>>>分析結果、どう……?』
『────奇妙です。
────この長方形の巨大な構造物は:
────アナライズカードを透過しません。』
『>>>っ! そんなの初めてだな……あああ、なんなんだろぅな、全く……』
「もんぐもんぐ──ごくんっ。あぁーもぅ。初ダンジョンで、なんでこんな迷子遠足みたいになんのよぉー……」
「アンティ。お水、口移しで飲ませてあげよっか?」
「……おいコラ狂銀。アンタ、さっきからぁー! こ……こらっ、ちょ、ヤメロヤメロヤメぇぇえろぉぉ……!」
「んーっ♪」
{{ はぁ……あんな激しいバトルをした仲には見えないわねぇ…… }}
〘------節操のないやつらのんなぁ──☆☆〙
『 が、がるがるぅ……? 』
〘#……! 見ろ、カネトキ。あちらに何か建っていないか?〙
『>>>え? あ……ホントだ。あんなのさっきまであったかな……?』
「どりゃー!」
「ふんぬぁー!」
『>>>あれは……"屋根"? "ベンチ"……!? まるでバス停みたいな…………。……、────っ!!?』
『────!。
────どうされました:カネト。』
背後に座る初代義賊の驚きを、
太陽の精霊は感じ取り、声をかける。
彼は視界を再確認し、注意を促す。
『>>>──アンティ! マイスナ! 警戒しろっ!! あそこの屋根の下のベンチに、誰かが座ってやがるッッ──!!!』
「「────!!」」
名前で呼ばれた二人は、即座に切り替える。
金のナックルは装着され、
銀の爪が輝いた。
虚無の空間で、ベンチに座る人影。
それは立ち上がり、こちらに向かってくる。
「……! 歩いてくる……!」
「人じゃないよ」
『────分析:成功しました。』
「「 ──!! 」」
『────表示します。』
───────────────────────
対象名【 エキィン=ゴーレム type.α 】
謎のゴーレム。
身長:2メル 30セルチ
弱点:不明
───────────────────────
「か、肝心な事が、何もわかんないじゃないのよ……!」
「背ぇ高いね……」
「まさかとは思うけど……エメラルドの魔石とか持ってないよね?」
『────申し訳ありません。
────"スターエメラルド"内包型ではありません。
────単眼部の赤い球体が:動力本体のようです。』
緊張する二人に、ゆっくりと近づいてくるゴーレム。
黒いボディに赤い大きな、ひとつ目をしている。
腕は長く、光沢のある真っ黒な金属質である。
接近するにつれ、ある特徴が目立つ。
『>>>……! 紺色の帽子を被ってるね。まるで、警備員みたいな……』
〘#……妙な御仁だな。先制攻撃するべきだろうか……〙
「ど、どうしよ。襲ってくるかな……?」
「アンティに攻撃したら許さない」
距離が詰まり、足音が耳に届く。
……──ガチョン。
……──ガチョン。
……──ガチョン。
腕をプラプラしながら、
大柄のシュッとしたゴーレムは進んでくる。
確かに、つば付きの帽子を被っている。
「…………」
「…………」
{{ ………… }}
〘 のんなぁ──☆ 〙
『 がる…… 』
……────────ガチョン……。
すぐ目の前で、止まった。
二人は、構えを崩さない。
「「 …………… 」」
赤い大きなガラス玉のような目で、
こちらを見ている。
(攻撃……してこない?)
(へんな、ヤツ……?)
────ヴぉん!
「「──!!」」
目の前に、アナライズカードが表示される。
『────私達が表示した物では:ありません!。』
『>>>──! じゃあ、コイツが……!?』
それは、目の前のゴーレムが、
コレを表示した事を意味していた。
──ヴぉぉおんん……!
「……」
「……」
アンティ・クルルが構えを解かずに、
ひとつの可能性を示唆する。
「……コミュニケーション、とれると思う?」
「……!」
『────!。』
『>>>ま、まさか……』
〘#……いや、そのまさかのようだ……見よ。アナライズカードに、文字が表示されていくぞ──〙
「「 ……! 」」
カチ、カチカチ……。
──ヴィヴィヴィ。
────それは、紛れもなく、
ゴーレム本人の言葉であった──。
「「………………」」
『────『>>>…………』。』
〘#…………〙
{{ ………… }}
〘------のんなぁ──☆〙
『 がる…… 』
──────────────────────
ホーム デ イチャツク ンジャ ネエ
──────────────────────
「……お家でイチャついて、なにが悪い」
狂銀は、反論した。
(´・ω・`)マイちゃん、
そゆことじゃないのよ?










