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へんたいの夢

「……いらっしゃい。"マール服飾店"に、ようこそ……」


 へんたいが、しゃべった。

 元気がない。

 ただのへんたいのようだ。


「あうぇ、うぇっ、と……」

「……なんだい?」

「こ、こぇ、たれまく……」

「……あぁ、それ、垂れ幕か……いらんよ」

「うぇ!?」


 い、いらんって、どういうこと!?

 この垂れ幕、けっこう上等な生地でしょ!

 なんか高そうな金の刺繍も端っこにしてあるし!

 ていうか大きくて邪魔なのよ!


「……劇場に貸していたやつだろう。そんなでかい布、返されても迷惑さ……」

「いや、あんた、それはどうかと思うわよ……」


 あんた、一応、経営者でしょ……。

 あ、ちょっと回復した。

 足の震えが収まっている。


 冷静にへんたいを見てみる。

 う〜ん、へんたいだ。

 細マッチョのボディに、

 レザーパンツと、レザーマスク。

 あ、手袋と、靴もはいてるわね。

 くろいね。

 以上。

 うん、ダメだ。

 ドニオスの憲兵は能無しだ。

 これは放置してはいかん。


「……何か欲しい服があるのかい、可愛らしいお嬢さん……」


 へんたいは、どうやら言葉は喋れるようだ。

 黒いレザーマスクの上からでも、元気の無さが染みだしている。

 夢がついえた、とか叫んでいたな……。

 何にせよ、へんたいの覇気の無さが、恐怖を削るのに、一役買っている。


「……もう閉めようと思うんだ、店を。最安値でいいよ」

「え、ほんと! じゃあ肌着を……あ」


 うぉっと、思考が看板娘だった……。

 安いときいて、つい。

 食堂でも、野菜とかは安い時に思いっきり仕入れる。

 それにメニューをあわせる。


 でも、へんたいに乙女の下着なんざ見繕わせて、大丈夫なものか……。


「……これとかどうだい。サイズはピッタリのはずだ」


 え……何でサイズわかるの……こわっ!

 見ただけで? 見ただけで筒抜け?

 このようじょたいけい……ぐすん。

 この慎ましやかなボディのサイズを探すのは、毎回一苦労なのよ!


 サララ……


「! この肌着!」


 ちょっと……これ!

 さわっただけ、でわかる。

 ……めっちゃ品質いいじゃないの!

 絶っ対、私が持ってるのより高級だわ!


 へんたいが、紙にサラサラと書きつける。


 ペラッ


「……こんくらいでいいよ」

「安っ!! いや、これギリギリでしょ? 」

「……いいんだ。俺の夢はついえたから……」


 いや、あんた。

 こんな、いい商品が置いてるのに、何故に夢がついえるんだ。

 ……いや、原因は幾多のマネキンとあんたの格好だろうが。


「なんでこんなモノがいいのに、赤字なのよ……」

「? 別に赤字じゃないよ?」

「……はぁ?」


 こいつ、商売なめてるの?


「ちゃんと食える分には、黒が出ているよ? お得意さんも、ちょこちょこいるし」

「はぁ……? どういうこと……?」


 この、へんたい。

 てっきり、稼ぎがないから店を閉めるとかホザいてたのかと思えば、稼ぎはあるですって〜〜!?


「ていうか、アナタ、このマネキン隠したら、もっと売上あがるでしょ!!」

「バカを言わないでくれ、お嬢さん!! このマネキン達は、俺の夢、そのものだ!」


 なにぃ、へんたいめ。

 稼げる時に稼がないで、何が商売人だ!!


「お金より大事な夢って、なんなの!?」

「────よくぞ、聞いてくれた!!」


 あ、やべ、地雷ふんだっぽい。

 へんたいの目がキラキラしている。


「考えたら、女性に俺の夢を語るのは、初めてかもしれない。貴族のお嬢さんとかは、いつも執事さんをよこして買い物するからなぁ」


 おいマジか。

 貴族の方もご用達なのか、へんたいの店。

 ……ウチの食堂より稼ぎあるんじゃないの。

 イラぁ……。


「奥の部屋に、全ては隠されている。……お嬢さん、どうぞ」

「う…………」


 へんたいに、奥の部屋に誘われる、15歳の乙女。


 絶対に、ついて行ってはいけない場面だ。

 ……だが、このへんたいは、意外と紳士的だ。

 しかも、この時の私は、稼ぎよりも優先させる夢、ってのに、少し興味がわいていた。


 ────私も、そういう生き方を探しているから。



 私は、ふらふらと、へんたいのいる部屋に入っていった。



「──クラウン、いざと言う時は、滅する」

『────受理。戦闘待機中。』





「どうだ! 見よ!!」

「こ、これは……!」


 マール服飾店の、奥にある部屋……。

 そこには、おぞましい光景が広がっていた。


 マネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキンマネキン…………。


 みんな、乳が、デカい。

 私にケンカ売ってんのか。

 山火事で燃やすわよ。


 ────そして、全てのマネキンが、例外なく、ヤバイ装備をつけている。


「────娼婦の衣装?」

「な!? お嬢さん! 君のようなレディが、なんてハレンチな事を言うんだい!」


 てめぇ、鏡みてしゃべれよ?

 ハレンチってなんだ。

 山火事くらわすわよ?


「よく見てくれたまえ! このヨロイ達を!」

「なぁにがヨロイよ! これとか! ほとんど学生服じゃないの!」


 確かに少し装甲が付いてるけど、キワモノもいい所じゃないの!


「このスカートとか、ミニ過ぎるわよ! ふざけてんの!」

「チッチッチ……これが違うんだなぁ」

「あぁん?」


 この、へんたいめぇ……。


「お嬢さん。そのスカート、指で弾いてごらんなさい!」

「はぁ? ……ったく一体、何なのよ……」


 何よ弾くって……。

 スカートにデコピンでいいの……?


 ペシッ


 カィン、カィン、カィン……!


「な! 痛った! 硬っ、何これ!?」

「はっはっは! どぅだ、お嬢さん。この装備たちは、平均Aランクの魔物の材料を使っているんだ」

「え、えええええええ!?」

「とても軽いし、金属鎧(フルメイル)よりも硬く、動きやすいのだよ!」

「な、なんて、勿体ないことを……」

「可愛いは、正義だあああああああ!!!」


 こいつ、イカれてやがる。

 こんなキワモノ装備に、Aランク素材ですって……!?

 頭おかしい。

 まだ冒険者じゃない私でもわかるわよ!




「あんたの夢って……」

「"最強のセクシーギルド"を作ることさ!!!」







 ────もう、帰っていい?






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― 新着の感想 ―
[良い点] 生き生きとしたキャラに テンポの良い会話、 情景が鮮やかに浮かびます。 [一言] 現在61話、ますます好きになってます。
[一言] この時はまだアブノさんの喋り方が普通…だと!?
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