夜の簡易宿泊で。
夜になっちゃった。
「見てみてアンティ! あっちになんかあるよ!」
「こ、こーりゃマイスナ? 待ちなさいってばぁー!」
北の街と西の街を繋ぐ街道。
その、ちょうど真ん中にある"簡易宿泊所"で、
一泊する事にした。
理由は色々あるけど、
ま、単純に日が沈み過ぎたのだ。
ゴウガさんが"例のブツ"を置いて、
スタコラサッサと走り去った後。
私たちは──"氷の舘"を格納した。
これが予想してたより、
かぁ〜〜なぁ〜〜りぃ〜〜!!
……大変だった。
さいしょは地面にバッグ歯車を召喚して、
丸ごと屋敷を飲み込もうとしたんだけど……。
「うわっ!? コレ……お屋敷の基礎を土魔法で作ってるんじゃない!?」
「えええ〜〜!! こんなに埋まってる部分があるんだ……」
よくよくお屋敷の全体ホログラムを見るとですねぇ……。
屋敷の地下に埋まってる特殊な基盤がデッカ過ぎて、
そのまま格納すると、
雪山の表面に超ドでかい大穴が空いちゃう事が判明した。
かなりの大きさの岩の塊から石柱が生え、
お屋敷の幾つかの重要な柱を支えている。
……うん、ゼッタイ雪崩る。
まんま格納したら、ぜっっったい雪崩るわコレ。
「……なんでこんなデッカイ岩が埋まってんのよぅ……」
「……雪山……だから??」
「……違いないわね。高級そうなお屋敷だしなぁ。しっかり作ってあんだわ……」
私らの勝手極まりないマイホームドロボウで、
街の人たちが巻き込まれそうな雪崩を、
誘発するわけにはいかんわなぁぁ──!?
んで、どうしたかって話になンだけども。
はぁ〜〜。
簡単に言うとですね……。
お屋敷と、雪の下に埋まってる基礎岩盤を、
"切り離した"ってワケですよぉ……。
──ギュゥウウウウウイイインンン!!!
・・・ガコンゥッッ……!!
「こ、これで12本目ぇ! ちょっとお! うさ丸も手伝ってよぉ〜〜!!」
「にょ、にょきっとぉ……」
「あ!? 腰が痛い!? アンタ鏡見なさいなっ!」
「にょおっ!? にょっきぃ〜〜〜〜……!!」
「く、くゆくゆ……!」
「……こしょこしょで岩は壊せない……私とアンティで頑張る……えいっ! えいっ!」
「ひぃいー! ここも分離させないとォー!? シゼツで斬ったら……あ、ダメだ。ここも斬れたら床の支えが無くなる」
「アンティ! この柱が打ち込んである岩、砕いて欲しい! 私が崩壊させたら床ごと無くなっちゃう! 殴ったけど表面しか砕けない!」
「え、どうやって……?」
「もぉー! さっきライオンさんに習ったワザ!」
「ぁ、ああッ! アレねぇ……」
ゴウガさんは、あの剣の他にも、
どえりゃー置き土産をしてくれましたわ。
私も面白がって、ついつい習得しちゃったけども。
ネコ師匠の巻物に、ぱねぇ流派名が書いてたわ?
食堂娘に、なに奥義継承してくれとんねん……。
「しゃ、いくわよー。すぅ〜〜〜〜……、ふぅうう〜〜〜〜……!」
ぎゅぅううううううい・い・い・ん──……!!!
きゅいん……! きゅいん……! きゅいん……!
「 ── "消" "印" "拳" !!! 」
ばきどごぉおおおおおおおおんんんん!!!!!
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「すごいねー!」
「……」
私のお手手は、回転スタンプですよ。
螺旋状に無惨に抉れた岩。
その真ん中にクッキリと刻まれる『〒』のマーク。
食堂娘もピエロも放っていい威力じゃねーわ。
ピシッ。
バキィィ……!! ガラガラガラァ……──パァン!
あ……岩が粉に。
蹴った地面の岩盤も、ラワムギ粉レベルで粉々だわ。
うん、これはあかんな。
封印しよ。
「アンティこっちも」
「えぇー!」
「足と手でできるなら、両手でもできると思う」
「や、正反対の方向に放たないと、私がふっとぶから……」
「だから、こう……手を反対の方向に広げて……ほら、ここの岩の間に入って……」
「こ、こーぅ……?」
──きゅおんゥ……!
──きゅおんゥ……!
──きぃぃぃぃいいいんんんん──ッッゥ!!!
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わぁ。
できたぁ。
「……この回転エネルギー、私のおへそから伝わってんのよ? もぅ自分の身体ん中が信じらんないわ……」
「──えぇい!」
──キュオオ! パキィ……!
サラサラぁ────……!
「──うおっとぅ!? ちょっと今崩壊したトコ!! めっさ近かったわよォォッ!?」
「んぇ? 大丈夫だよぅ。私の電気のチカラ、無機質しかバラバラにしないもん。アンティのお肉は不滅なり」
「お肉とか言わないの。あれ、んん……? そ、それって誰でも一瞬で裸にできるってコトなんじゃ……」
「えぇい──!」
「うぉわっ……!? み、見てる分には物質が球体状に抉り取られてるように見えるのよね……おっかないわぁー!」
「むーっ! 私がおっかないなら、アンティもおっかないですぅー! ぷんぷんッ!」
その後。
たいっっっへん、苦労した。
夕方頃。
雪の地面に召喚した、大きな金の輪から、
無数の銀の鎖が空に伸び、捻れ、
屋敷の周りに絡みついていく──。
金と銀に蹂躙されながら、
屋敷は、まるで地盤沈下するように、
ズブズブと、格納されていった──。
「すごい……できた、ね……」
「ほ、ホントに……入っちゃったね……」
お屋敷の断面跡地は二人で徹底的に破壊し、
私が水と雪をぶっかけて、
マイスナがギンギンに地面ごと凍らせた。
その上から、さらに二人で雪をかけて埋める。
こ、これで証拠隠滅……おっけーだよね??
「ふぅ……またヒマな時にマイスナの"錬成"で、お屋敷の修理とか……お掃除もしよっか!」
「うんっ! これでいつでも、どこでもお泊まり……!」
「こ、こぉーら、抱きつかないの!」
「えへへ、どこでも愛の巣……ポッ///」
ま、まったくもぉ……!
シンエラー教授っぽい人が遺した"謎パソコン"を隠すために、しょうがなくなんだかん……あれっ?
それってもう別に格納してあるから、この屋敷、隠さなくてもよくね……?
「ま、マイホームぅぅ……!」
「わ、わかったわかった。わかったわよぅ!」
マイスナの涙目には勝てないので、
お家は有難くドロボウする事にする。
……修理して大事に使うので、許してください。
これで、どこでもお屋敷召喚できちゃうのね……。
何だか色々やって疲れちゃったので(主に大工仕事)(つーか破壊)、即日ドニオスの街に帰る元気は私たちには無く、街道の途中の簡易中継所の宿泊施設を利用することにした。
「ふ、む、むにゃ……?」
「んぁ、アンティ、そこはダメ……?」
王都の四方をぐるりと囲む四大王凱都市は、
円を書くような街道と、
王都を交差する十字の街道で繋がっている。
「んぇ、んぁ、おはよぅ……」
「んぬぅ……? おはよぅアンティ……」
私たちはよく森を突っ切って直線移動するけど、
他の冒険者さんや商人さんは、
簡易宿泊所や焚き火台なんかを利用して、
夜の危険を凌いだり、馬を休めたりするんだって。
「んぁ、ありゃ、まだ夜ね……変な時に起きちゃったな……」
「……? アンティ、何か外から聞こえない?」
宿泊所の周りは複数の火の魔石で照らされていて、
焚き火台よりも柵がしっかりしていてるわ。
私達が立ち寄った北と西の中間の宿泊所にも、
2グループくらいの冒険者パーティと、
気まぐれな露店商たちが灯す光の魔石が灯り、
利用している人がチラホラと見受けられる。
ほのかな賑わいがある場所だった。
「ほんとだ。へぇ、こういう場所って、けっこう夜更けにも賑わってるのね……」
「ちょっと、外に出てみようよっ!」
仮眠をとって少し回復した私たちは、
なかなか体験できない夜の出店を目指す事にする。
うさ丸は……無理なライオン流の修行が祟ったらしく、
腰が痛いとか抜かしよる。
ま、ラビットだかんなぁ……。
……明日、ヒールスライムにでも沈めよ。
カンクルにうさ丸を任せ、部屋でのお留守番をお願いする。
「にょき、っとぉ……」
「くゆぅー♪」
私は"白金の劇場幕をローブ状にして羽織り、首から下を隠す。
マイスナはローザの体流を操作した"ヒーリングヴェール"を纏って、同じように首から下を隠した。
こゆとき便利よね。
闇とオレンジだけの世界。
照らし出される、人の表情。
夜も幸いし、身体を隠していても、そんなに暑くはない。
比較的、目立たずに露店まで行く事ができた。
「ありゃー。食べ物屋さんは、流石にもうやってないか……」
「アンティ! これ見て……!」
あるお婆さんがやってる露店商で、
マイスナが足を止める。
「見て! いっぱい紐が束ねてある!」
「えっこれ……"ヒモ引き"じゃないの?」
「"ヒモ引き"……?」
これアレだわ……。引っ張った紐の先に、
何のアイテムが付いてるか、わかんないってヤツだわ……。
こんな所でやってて商売になんのかな……?
「ひぇっひぇっひぇっ……仮面のお嬢ちゃんたち、1回やってくかぃえ……?」
み、店番のお婆さん、めっちゃ怪しいんだけど……。
暗い中、小さな魔石の光に当てられてるのもあるけど、
それを除いても格好がガチで魔女っぽいわ……。
「アンティ……その、」
「ん、やってみる? ふふ……知んないわよー?」
まさかこんな宿泊所で、
お祭りの屋台みたいな出し物があるとはねぇ。
チラリと紐に繋がれてる商品を見ると、
ポーション瓶や魔法のスクロールっぽいものがあった。
なるほど……ちゃんと冒険者仕様の品物にはなってるわ。
でも、明らかにガラクタも混じってそうねぇ……。
「ひゃい! 1回700イェルだよ!」
「高いな! お婆ちゃん、500くらいになんないの!」
「ほひゃ! いやならけぇんな!」
おおぅ、いい根性したお婆ちゃんだわ!
やれやれ、しゃあない。
根負けして、700イェル払う。
「……どれにしようかな……」
「……ふふ、ズルしちゃだめよ?」
「し、しないもんっ! もーっ!」
マイスナが真剣に引く紐を選んでいる。
ま、やろうと思ったら私たちはアナライズスキャンで、どの紐がどれに繋がってるとか、すぐに分かっちゃうかんなぁ。
……そっか。
マイスナは、こういう屋台、
初めてかもしんないな……。
「──えいっ!」
「おっ」
マイスナが当てたのは、小さな長方形の箱だった。
表面に布が貼ってあって小洒落ている。
フタを開けて中身を見ると、
楕円形の丸石のようなものが収められていた。
「これ……?」
「……! それ、"練り墨"じゃないの?」
「"ねりぼく"?」
「ええと……特別な儀式の時に、身体の表面に模様や魔法陣を書く道具よ」
「おや! 仮面の嬢ちゃん! よく知ってんねぇ!」
怪しいお婆さん店主が、嬉しそうにニヤけやがる。
「よくこんなモンを混ぜてくれるわねぇー」
「? あんまり良くないものなの?」
「いや、良くないっていうか……ほとんど使わないモンなのよ。今って魔法陣は巻物を使うし、儀式の時に練り墨を使うのなんて、むかぁーしの儀式とか、神官さんとかじゃないの?」
私も試験範囲の勉強でたまたま知ってただけだし……。
つまり、昔に使っていた時代遅れの魔法アイテムを、
700イェルも払って掴まされた事になる。
「身体に、ラクガキする道具……??」
「ま、まぁ、そゆ事。ちなみに、私たちは"魔無し"だから……」
「あっ……!」
マイスナも気づいたみたいだ。
そ。コレ、私らには全くいらんモンです。
魔法陣に魔力、通せないもん。
「そ、そっかぁ……」
「ふふ、ま、こんなこともあるわよ」
マイスナがしょぼんとしている。
「いゃ〜〜っ。まさかソイツを当てるとはねぇ! アンタたちゃ残念がってるけどね! ソイツはけっこう、昔は貴重なモンだったんだよォー? 今でこそ用無しになっちまったけどねぇ!」
「ちょっと、これ中古じゃないでしょーね?」
「やだよォ! 一度も使った事ないよォ! そりゃ若い頃、骨董屋から仕入れのオマケでもらったモンだ!」
「は、はは……押し付けられてるじゃん。ねぇ、こんなトコで商売してて儲かんの?」
「ひゃっひゃっひゃ! こういう所は娯楽が少ないからねぇ! なんとかやっていけるもんさ!」
どうやら怪しいヒモに引っかかるカモは、
私たちだけではないらしい。
ふふ、どっかの仮面さんみたいに、
ジャグリングしたら流行りそうだわ……。
真夜中にマイスナが私のお腹にラクガキしようとしたので、
ほっぺつねっといた。
「ぶべーっ」
「なにしとんじゃー」
なに描こうとしたん。
え、うさ丸?
そったらカンクル描き返すかんね。
(*´∀`)σ)д`*)ぶべーっ










