初代たちの挽歌 後編
お風呂回を書いた。
同僚が三人、体調不良になる。
なんすか……天罰すか?(((´^ω^`;)))笑
私が居合部の顧問をしていた頃、
数少ない部員を剣道部にかっさらわれ、
何とも言えない虚無感に襲われた事がある。
その頃には私は雫を亡くしていたし、
自分の嗜んできた滑稽な剣術モドキも含め、
私には何も残るものがないな、と、
柄にもなく苦笑したものだ。
シンとした道場で上を向き、
ペちりと、手で額を覆ったのを覚えている。
受け持つ部活動が無くなった私が、
成り行きで生徒会の担当を引き受けた夜。
初めて立ち寄ったBARが、"シルバーグレイ"である。
この日、私は傘をささず歩いていたため、
まさに"銀の濡れ鼠"であった。
看板を見つけた私は、くっく、と笑いながら、
その日、初めての"ちょい飲み"と洒落こんだのである。
"シルバーグレイ"の内装は黒檀の濃い茶色が美しく、慣れていない私であっても落ち着ける、雰囲気の良い店だった。
このような店での酒の飲み方など知らなかったが、
幸いにも見知った辛口の一升瓶が目に入り、
あまり気取らない静かなバーテンに声を掛け、
冷たいまま出してもらう。
男にしては長い髪から雫を滴らせながら、
茶色い酒には疎くてね、と言うと、
バーテンは逆立てないように、上手に微笑んだ。
それが決め手となり、
たまに、この店に浸りにいく事となる。
さて──。
もちろん、それは生前の話なのだが──。
──カラン。
〘#…………………………ありえんな…………〙
箱庭の散策中に、この"BAR"を見つけた時、
私は、あの日の道場での動きを忠実に再現した。
──ぺちんっ。
〘#……くっく……、くっくっくっくっく……、……、〙
これはある意味呪いのような物であったが、
死者にとっては、程よい御褒美であるとも言えた。
即座にカネトキに連絡を取り、
私の記憶から酒場が再現されてしまった事を謝罪する。
カネトキは『>>>マジっすか……!』と私の苦笑を誘発する一言を吐いた後、"BAR シルバーグレイ"の隔離障壁デバイスの構築に賛同する。
無いとは思うが……、
アンティ君やマイスナ等の児童チームが忍び込み、
幼いうちから酒の味を知ってはいかんからな……。
後、ローザの侵入は絶対に阻止しなければならなかった。
アレは、駄菓子のチューチューゼリーのように飲む。
酒場の封印措置を行っている最中に、
風呂掃除のために風呂を捜索していた花殿と、
バッタリと出くわす。
【 ほぉ〜〜〜〜? 】
〘#…………………。一杯、やっていくかね?〙
その時より、たまに花殿とサシ飲みをする仲となっている。
──カラン。
【 かかか! 今日はケッサクじゃったわ! 】
〘#……そ、そのまましばらく居座ったのかね?〙
話を聞くに、どうやら今日の風呂は、
随分と賑わっていたようだ。
若干、肌が紅潮しているように思えるのは、
酒だけのせいではないのだろう。
漆黒の衣を軽く着崩し、
髪は、金の角と共に艶めいている。
うーむ……しかし、風呂の話が本当ならば……。
カネトキは、五人分の柔肌を見たことになるな……。
【 む、ホレ! 】
〘#……あぁ、すまない〙
──トッポトッポトッポ、パキン……!
私のグラスに酒をつぎ、
己のグラスに酒をつぐ。
ふ、殿方として、立ててはくれているようだ。
私が出したグラスの氷が、良い音で裂き鳴る。
【 なぁ、せんせぇ? 】
〘#……何だね花さん〙
【 ……こ、懲りんお方やなぁ……。せんせぇを見込んで教えて欲しい事がおありんす 】
〘#……ほぅ? どのような事だろうか〙
【 その、安嬢の事やねんけどな……? 】
〘#……アンティ・キ……──アンティ君の事については、君の方が詳しいと思うのだが……〙
【 まぁ聞きぃ。あの子、あの獅子頭に……なんやけったいな技、教えられとったやろ? 】
〘#……! 〙
……なるほど。
アレが本当に安全な技か、気になるのだろうな。
ふ、まるで母か姉のような優しさを持つ。
私はつい先ほどの事を思い出しつつ、言う。
〘#……あれは"発勁"の理論を体現した技だ……〙
【 っ! "はっけい"……? 】
〘#……うむ……〙
ゴウガ殿は一度だけ手本を見せ、
あの黄金の三人は、その統合された力を使い、
その"奥義"を見切った。
クラウン君の分析力。
カネトキの"眼魔"と"反射速度"。
それに、アンティ・キティラ本人の情報蓄積による感性。
これらは凄まじき観察力を生み出す。
【 あれはどんな技やったんぇ……? 】
〘#……"発勁"は、簡潔に言えば"回転力を伝える技"の事だ〙
【 回転力を、伝える…… 】
踏み込む。
足軸の回転を、ふくらはぎへ。
ふくらはぎの回転を、腿の肉へ。
腿の回転を、腰より胴へ。
回転伝達は、さらに腕の筋肉を伝わり、
その凝縮は、手の先より"発"せられる。
〘#……これが中国武術による"発勁"の、ざっくりとした工程だ……〙
【 ………… 】
〘#……真っ直ぐな骨を軸とする"打"ではなく、肉を伝う回転の積み重ね、すなわち"発"を促す……そんな"技術"の事を言うのだよ 〙
【 ゆ……夢物語のような技やの……。そんな事、ホンマにできんのかぇ……? 】
〘#……くっく。正直、前の世界では私もあまり信じてはいなかった。余りにロマンに満ちた概念だ。しかし……〙
【 ……しかし? 】
〘#……この世界には、"魔素"があるのだよ──……〙
【 ──! 】
〘#……ゴウガリオン殿の技は、発勁の中のひとつ……"螺旋勁"を"魔素"で再現したものだ〙
【 らせん、けい…… 】
〘#……この"技法"では、へその下……"丹田"という空間から発生した横回転を、四肢に伝達するという方法をとる〙
【 そっ、それでへそかぁ! 】
────そう。
アンティ・キティラは、完全に観察した。
彼女と彼の能力を遺憾なく発揮し、概念を得たのだ。
あの子は、ニヤリと笑っていた。
〘#……アンティ・キティラは魔力がないため、魔素を使った回転運動は採用できない。しかし……彼女には理想的な代用品がある〙
【 "はぐるま"、やな……? 】
〘#……そうだ。彼女は歯車による回転を、見事に"四肢伝達"することに成功した〙
【 それで……あんな……光の竜巻みたいにのぅ……! 】
"螺旋勁"の技法は、
小さな身体を持つアンティ・キティラに、
大きな利点を与える。
〘#……" 攻撃と同威力の瞬時の踏み込み "……〙
【 ふみこみ……? 】
彼女は、歯車を固定させる、ブーストする等の、
" パンチの反動を抑える "方法を幾つか持っている。
しかし、瞬時の攻撃や室内、
打撃する箇所に集中し過ぎた時、
その体の軽さは致命的となる。
ドラゴンの力を出せば出すほど、
自分が吹っ飛ぶ可能性は増え、
安定しない土台から放たれる直線打撃は、
敵の"芯"を、真には捉えない。
〘#……しかし、だ。もし、へそから伝達された"回転エネルギー"が、パンチと踏み込み……このふたつに同時に伝わると、どうなるか?〙
【 ……力の無駄な逃げ場が無くなる 】
〘#……と、いう事になる。くっく、地面はぶっ壊れるがね……〙
くっく……。
くっくっくっくっく……。
喩えるならば。
あれは────龍の一撃であった。
構え直した時、アンティ・キティラは、こう言った。
「………できそう、じゃん?」
────バシュ! バシュ!! ガキぃんん……!
まず、全身の黄金の装甲が開き、龍の肉が露出する。
────きゅういいんん……!! きゅぅぅううおおん……!!!
展開した外装甲とインナーマッスルの間に、
金色の歯車が連なっていく。
────こぉぉ、こぉぉおおおおおォォォ──!!!
ベルト辺りで回転し出す、ふたつの歯車。
『────上部伝導系:
────下部伝導系:共に設計完了。』
『>>>流石に体内骨格内での回転伝達は無理だ! 摩擦熱で丸焦げになるよ! 筋肉に伝導させるってんなら、ドラゴンのお肉がお誂え向きさ!』
『────左腕部:バランサーに設定完了。
────右腕部にて:インパクト予定。
────左脚部:補助姿勢制御。
────右脚部にて:インパクト予定。
────全伝導歯車機構:標準回転開始。』
『>>>オーライ。準備いい?』
彼女は、拳を握らなかった。
獅子の者を真似、特殊な打撃部を再現する。
手の平を開き、指の第二関節までをコの字に折り曲げる。
それは、"掌底"である────。
ぺろり、と。
彼女は唇を舐めた。
『────アンティ。
────コントロールを移譲します。』
『>>>おへそから上下に伝達するよ。バランスに気をつけて』
────彼女は、カウントしなかった。
「────ッッッら」
彼女のベルトから、光の輪が分かれる。
ひとつは上に。
ひとつは下に。
登る。
降る。
線香花火のような。
右腕と、右足。
────それは、龍に見えた。
「ぁ、あててててて……」
「アンティ、すごーい!」
「 が 、 ぉ …… ッ! 」
表面が破砕した反錬石には、
あるマークが浮かび上がっていた。
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限界まで伝達した回転により抉られた銀の石。
そこに刻まれるは、『〒』のマークである。
「ててて……な、なんじゃこりゃあ……?」
「アンティの手の平のマークだね!」
「あ、これかっ……! あっ、ゴウガさんっ! やったったわよぉ!」
「 が 、 ぉ、ぉ…… ? 」
あの威力で破壊しきれない、反錬石も相当に凄いのだが、ゴウガ殿の吠え面を見るに、なかなかの威力だったのだろう。
「アンティは、やれば出来る子!!!」
「イェ〜〜イ、やったぁ〜〜!! ねっ、ゴウガさんっ! コレ、なんて名前の技なの?」
「 ……ぁ、 新し、ク……!! つけ、ルゥゥがいいぃいイイ──ッッ!!! 」
「へ? あたしが……?」
「アンティ!! この鏡石、元に戻っていくよ!?」
「えっ、えぇ──!!? マジかぁああ──!!」
【 ……おおきに。なんとなくは分かりんした。あの子、またドえらい事を覚えよってからに…… 】
〘#……くっくっく……。あの回転伝達は、瞬時に強めの破砕をしたい時や、できるだけその場で大きな威力をのせたい時に有用だろう。少し微調整すれば、擦り傷など負わないはずだ〙
【 あんなおっきな判子押しまくりよったら、そこらじゅう、あの印ついでまうど!? 】
〘#……くっくっく……雑魚はナックルで殴ればよい〙
【 せ、せんせぇっ! 今、あんたはんの本性見えましたぇ……! 】
〘#……くっくっくっくっく……さぁて。私は、そろそろアレの解析に戻るとしよう。試し振りもしたいしな……〙
【 あ、せんせぇ。最後に教えておくんなまし! 】
〘#……む、なんだね?〙
【 なして、あの技の名前……" 消印拳 "にしはったの? 】
〘#……! くっくっく……。"郵送配達職"により"再使用不可"となる……。よい名だと思うのだが……〙
【 ??? 】
〘#……くっくっく……〙
花殿はあまり納得していなかったが、
私は酒にやられていたのかもしれぬ。
油断していた所、
急に、後ろで息を飲む声がした。
【 ……おぁッッ!? 】
〘#……! どうした花殿……!? ──ハッ!! 〙
私も気づいた。
〘------のんなぁ────……☆〙
ローザが店の窓に、ちょっと変形して貼り付いている。
【 ………… 】
〘#…………〙
〘------ の ん な ぁ ────……☆☆☆〙
怖い。
最後ホラー((´∀`*))










