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へんたいはいるよどこまでも

 なんか、お使いを頼まれてしまった。


 この垂れ幕、超、重いんですけど……。

 ふらふらと歩きながら、劇場をあとにする。


「うぐぐ……このままじゃ、とても服屋さんまでたどり着けないわ」


 15の娘に持てる重量を超えてるって!

 あんなバカでかい劇場の垂れ幕っつったら、拡げたら、めちゃくちゃすごい面積なんじゃないの!?


「バッグ歯車に格納は、まずいか……」

『────人目の危険性。』


 そう、劇場前だけあって、かなりの人通りだ。

 しかも、さっきからチラチラ見られているみたいだ。

 ……こんなデカい布持ってたら目立つよなぁ。


 ここで歯車なんか使ったら、騒ぎになるかもしれない。

 できるだけ歯車は隠したいんだよね……。

 変なスキル持ちってだけで、有名になりたくない。

 自分の夢が、変な方向に行っちゃう気がするし……。


「そうだ! クラウン、垂れ幕の一部分だけ、隠して格納して!」

『────受諾。予測実行中。』


 きゅいいいん……

 きゅいいいん……


 持っている垂れ幕の下に隠して、2つのバッグ歯車を展開する。


 しゅるるるるるる……


 誰にも見えないように、垂れ幕を吸い込んでいく……おお、だいぶ、軽くなってきた。


「クラウン、これ以上、吸い込んだら手品みたいに消えちゃう! これくらいでいいわ!」

『────停止中。』

「よしよし、これで、こうやって……」


 バサッ。


「ん。これでいいや……」


 細長く、軽くなった垂れ幕を、首にくるりと巻いてみた。

 少し大きめの、白金のスカーフマントみたいだ。

 バッグ歯車は2つ、食いついたままだけど、それが、かえってオシャレかもしれない。

 ……かもしれない。


「……そそくさと行こう。えっーと……」

『────誘導します。右奥の通りを直進。』

「あんがと。こういう時、頼りになるわね」





 クラウンに地図の解読を任せながら、ドニオスの街を、えっちらおっちら歩いていく。

 肌着、も欲しいけど……私は装備も必要かな、と思い始めていた。


 ヨロイ(・・・)だ。


 ばばばばーちゃんの所で、首を狙われたり、後は急に爆発に巻き込まれたり……ろくな体験してないな、私……。


 今までは、運良く(・・・)回避が間に合ったり、防御が間に合ったりしてきた。

 速度の面ではスキル"反射速度"(未だにこのスキル名はなんか引っかかるが)があるから、攻撃を避ける事は得意かもしれない。

 ただ、咄嗟の時(・・・・)が、こわい。


 私の歯車回転ヨロイは、当たりゃ強いが、けっこうムラがある(・・・・・・・・・)

 気分によって(・・・・・・)スキマがある(・・・・・・)のだ。

 全身の全てを、あの歯車で覆えば安全かもしれないが、そんな事したら動きにくいし、視覚も限られる。

 つまり、不意打ちに備え、常に身体の急所を守ってくれるヨロイが必要かな、と思ったワケだ。


 ただ、私は確実に"避ける"タイプなので、軽いヨロイがいいだろな。

 金属鎧(フルメイル)系は、だめだ。

 防御力は欲しいけど、重さは、私の利点をコロす。

 ……門番のおっちゃんみたいな、革鎧がいいだろうか……。

 予算的にも、部分鎧になるかもしれないな……。


 冒険者ギルドで登録するまでには、何か見繕わないと……。







 ついた。

 地図の場所らしい。


 ……服屋?

 確かにドレスとかもあるけど……

 え、鎧も置いてんの?

 え、このドレス、装甲ついてんじゃん。

 え、何ここ。

 これが、ドニオスでは普通なの?





 ……ちょっと、何よこれ。

 店に入ってすぐの、服? それとも装備? に、視線が釘付けになる。

 大きめの値札に、こう、書いてある。


 "ビキニアーマー"

 この露出度で、驚きの防御力!!

 ただ今、会員様限定、40%OFF!!

 現品限り!! 時代を先取るのはキミだ!!


 …………ぅおい。


 この露出度で、何を守るっつうんだ……。

 マネキンのポーズがやらい……。

 何考えてんだ店主……。



「(あそこの店主、変態だし、自分でいくのは嫌だったの〜)」



 劇場にいた、ドレスの職員さん? の言葉が思い起こされる。

 ……えらい所に来てしまったかもしれないわ。


 まぁいい。

 この首に巻いている、垂れ幕を渡して、少し物色して、とっとと宿を取ろう。

 女は、度胸だ。



「……すみませ〜〜ん……」


 店内に入ると、まあまあ広い。

 あ、普通のインナーも売ってる……。

 ただ、……所々、変な装備を着たマネキンが目立つ。


 うわっ。

 これ何、メイド服じゃないの!

 なんで、メイド服に装甲が付いてるのよ……。

 こんなの着る奴は、どんな理由があれ、

 頭のネジが数本飛んでるわ……。


 なんだ、このヒラヒラしたドレス(仮)は……。

 布が重なりまくって、ミノムシみたいだ。

 ……材質が綺麗ね。白い布? 金属?

 うん? なんか洗練されたデザインにも見えてきたな……。

 "銀の花嫁"って名前だって……

 花嫁て……。


 どちらにせよ、やばいこだわりのある店主のようね……

 15の乙女としては、逃げたほうがいいかもかしら……。




 普通の服と、

 普通ではないマネキンをかき分けて、

 ────そして、その男は、いた。





 ……中央に、うずくまっている、男がいる……


 話しかけますか?

  はい

 ▼いいえ




 ……。

 …………。

 …………ええい。






「……あの〜」

「………………」

「えっと、すみません」

「………………」

「劇場の使いのものですけども」

「………………」

「垂れ幕? あ、これです返しにきました〜」

「………………」

「………………」


 おい、コラ、あんた。


「あの〜……」

「お……」


 お?


「お?」

「お……」

「お!」

「お終いだ……」

「え?」


 ガバッ!!!


「お終いだぁぁぁぁあああああああ!!!」


「ひっ!」


 男がいきなり、頭を抱えて、後ろに仰け反った。




「お終いだぁぁぁぁああああああああ!!!

 俺の夢はついえたんだぁぁああああ!!!

 閉店だぁぁあああああああああああ!!!」







 店主は、絶叫した。




 私、震えている。

 知らないウチに、壁際に、背をつけている。

 足が、内股でガクガク震えている。

 何故か、両手で後ろの壁を押している。

 よかった、私、女の子だったみたい。

 あれは、本能的に、ダメっぽい。





 仰け反った男は、

 黒いレザーパンツを身につけ、

 真っ黒なマスクをしていた。





 ────それ以外は、つけてなかった。





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