ぎろんぎろーん
ぎろん回です。
私は机にべたーってなって、
スプーンを口でぷらぷらさせながら、
ここで行われている話し合いを聞いている。
プリンの無くなった陶器のお皿は、
まるでお漬物が入ってそうなデザインで、
なんとも妙な風情がある……。
ぐてーっとしていると、
横にすすす、くたぁ……とマイスナが寄ってきて、
夢の中のはずなのに、いい匂いと温かさがある。
不思議だ。
変顔した。
「ぷゆー」
「にへへ」
好きになった子が、
たまたま女の子だったのはどうかなー、
と思ったけれど、
こうやって一緒にいる事に、
とても満たされている。
父さんらには、なんて言おうかな……。
前は結局、言えなかったしなぁ……。
そこはちょっと心配だけど、
あの時の、私たちの殺し合いにくらべたら、
なんとも可愛いモンにも思える。
みんなが色々話し合うのは聞こえている。
ボーッとしながらでも、とても理解できている。
私たちの機能は、向上し続けている。
マイスナは机に寝そべって、
ニコニコこちらを見つめている。
チューすんぞ、ごらぁ。
机に突っ伏している私を、
先生をはじめ、みんなは注意しなかった。
ま、ちゃんと聞いてるのが伝わってたのかもしれない。
歯車がひとつ噛み合って、
回転は伝達し、新しい何かが動き出す。
少しだけ、このままでもいいんじゃない?
そう思っていても……だ。
私は言う。
……ちゃりーん。
「……今まで出た意見を、まとめさせて……」
スプーンが、飴色の机でりんりんと震えている。
さっきまで活発に飛び交っていた声が、
恐ろしいほど、私への視線へと変換される。
臆する必要はない。
机に寝そべりながら、私は言う──。
────。
「
……ひとつ。
残された文書を書いたのは、
"じかん壊し"の、"メルージュ・シンエラー教授"、
その人かもしれないって事。
……ふたつ。
文書の中の"七番目"とは、
"郵送配達職"の事を指すと思われる事。
……みっつ。
氷の舘は、ある郵送配達職の家で、
シンエラー教授のアジトのひとつだったかもって事。
……よっつ。
"郵送配達職"は、本来は、
"言語修復"と呼ばれる活動をしていた冒険者なのでは
ないか、って事。
……いつつ。
イニィさんの話では、
千年前は"配達職"という大クラス職は、
存在しなかったという事。
……むっつ。
先輩が昔に調べていた内容からの推測で、
"言語修復"の前に、
"言語崩壊"という現象があったのではないか、って事。
……ななつ。
それに、"言霊法"を持つ、
戸橋香桜子さんが、
何か関係しているのではないかという事。
」
マイスナの笑顔は、銀色の瞳だけが、
とても深い色彩が滲み出すように感じた。
先生が手を止め、ゆっくりと語りだす。
〘#……カネトは私の死後、
かなり時代背景を調べてくれていたようだ。
今までの話から、それが良く感じられるよ。
それに関しては個人的に、
とても礼を尽くしたい気持ちが強いのだが……。
ふ、切りがなくなるので今は我慢しよう。
#……これは私たちが、こちらに来た時から、
気にはなっていたのだが……、
こちらの世界では、尺度や個数を数える単位が、
私たちの世界に妙に似て、しかし少し違う事が多い。
私はてっきり、戸橋の"言霊法"の翻訳能力に、
限界があるものだと思っていた。
しかし……あの記録文書を見て……、
私はもしかすると、きみたちの世界の言語は、
昔はもっと乱れていたのではないか……と推測する。
その可能性を、指摘したいのだよ。 〙
──イニィさんが、素直な気持ちを話す。
『 がるっ! 』
{{ はいっ。私は今は悪魔ですけれど、
単純に、1000年以上前の人間とも言えます。
確かに"郵送配達職"というクラスは、
当時は無かったですし、
もちろん"言語修復"という役割にも聞き覚えがないわ。
私たちの時代は、
ひどい戦乱の時代ではありましたが、
"言葉が乱れていた"……なんて事は無いと信じたいわね。
正直、ちょっとムッとします。
あと、"世界を書き換える"って何なんですか……?
その……"言語崩壊"?? というのも、
どういう事なのか、まったく良くわかりませんし……。
それに、その事がその……"戸橋さん"という方と、
どのような関連性があるのですか……? }}
先輩が引き継ぐ。
『>>>もし、発見した例のブツが、
本当にシンエラー教授のものだと仮定して……。
この文書ファイルは、後輩ちゃんの教科書通りなら、
300年ほど前の物ってことになる。
ぼくや先生……そして戸橋が転移した時から、
さらに100年も前のモノだ。
>>>ぼくは、ロザリアたち……いや、あの愚王の目的は、
"光の手紙"を取り戻す、という事だったんじゃないかと思う。
王族だけが手に入れられる情報が、
何か、あったんじゃないだろうか。
>>>文書に出てきた"言語修復"って単語は、
ぼくにとっては、かなりの衝撃があったんだよ……。
やっと予想がついたんだ。
>>>あのボンクラ王は……、
"言霊法"の力で、
"言葉を修復する"ことで、
"光の手紙"が使えるようになると仮定した……。
そうとしか、考えられないじゃないか……。 』
横目で見たイニィさんの顔は、
{{ そんな突拍子もない事、信じられない…… }}
という気持ちが、ありありと浮かんでいる。
私もちょっと、頭がおぼつかない。
──"言語"を、"修復"する?
300年前の郵送配達職は、
そんな事をやっていたの?
バスリーさんが丁度、300歳くらいで……、
子供の頃に郵送配達職が廃れていった、って言ってたような……。
ゴリルさんの娘さんのお祝いの席で、
"昔の郵送配達職"は強かったらしい、って話も聞いたな……。
あの文書と合致する点は多いと思う。
でも尚更、腑に落ちない点もある。
当時の王様が、郵送配達職を無くした?
なんで。
おかしくない?
手紙とか、届けらんないじゃん。
言語の修復……、
それも、止まるじゃん。
悪いことだらけじゃん。
どうして、そんな事を…………。
「……クラウン。"言語修復"のために"じかん箱"を使う。そう、書いてあったわね」
『────肯定します。
────あの文書には:
────"じかん箱"を展開させた描写が存在しました。』
「……うん。まず、それが出来るか調べましょう。
そんな事が、可能かどうか……。
あの"パソコンモドキ"は回収したのよね?」
『────はい:これです。』
和風の食卓に似つかわしくない、
ホログラムの大きなパソコンが出現する。
『>>>いま、破損箇所を修復してるんだけど……どうやら、"じかん箱"としての機能は変質しているみたいだ。これはもう、"パソコン"になっちゃってるんだよ。引き続きクラウンちゃんと調べてはみるけどね……』
「てことは、他の"じかん箱"で試すしかないって事か……。あーぁ、それって犯罪行為なんだけどなぁ……」
『────:……。』
『>>>その、後輩ちゃん……』
先輩は、何か言いたそうだ。
わかってる。
間違いなく、厄介事だ。
それでも。
「……やりましょう。どこか、ひとっ気が無い"じかん箱"で……何か出来ないか調べてみましょ。じゃないと、後味悪いんでしょ?」
『────レディ。
────最重要行動指針として:登録します。』
『>>>すまない……。これは、ぼくの未練だ……』
身体を起こす。
金の髪がなびく。
何かが、カタカタと、動き出す。
「……フツーに手紙くばってたいだけなんだけどなぁ……」
みんなの前で、頬杖をつく。
ふぅ、っと息をはいた。
〘#……では当面の我々の課題は、"隠された時間箱の機能を探る"という事になるわけだな……。よし……。今日は遅い。もう解散としようか〙
「待って」
とめる。
「……クラウン、先輩? アンタ達、私になんか言うことない?」
『────。』
『>>>…………、』
「ずっと、なんか隠してるよね」
──ぎろーん。
✧(`・ω・´)ぎろーん。










