嗚呼、キティラ食堂よ! しゃーしーえー
(●´ω`●)さしえ追加(笑)
あ、写真も追加しますた.*・゜
最近のキティラ食堂はヤバい。
さらに流行っている。
あれっ? こんなにお客の年齢層、低かったか?
娘さんが早々とひとり立ちしてから、
学院の同級生たちがよく来るようになったようだ。
なぜ……。
いや、わかる。
安くてウマいんだ、これが。
ちっこい時に親に連れられて、あの子らも来てるだろう。
んで今……じゅうし、ご歳くらいかな?
何かのきっかけがあって、久しぶりにここで飯を食う。
そりゃあハマっちまうってもんよ。
定食の平均価格が、540イェルだからな。
この量は、この値段では他で食えないぜ。
サラダにキャロットドレッシングと、
オニオンドレッシングがあるのもいいよな。
ヘルシーで美味いし、砕いたラスクがニクい演出しやがる。
そりゃあ若い女の子にもウケるわけよ。
これにはナトリの街の調味料が使われているんだってよ。
まったく、なんでこんな味の発想が生まれるのやら……。
俺はこの街の炭坑で弁当屋をしてた頃からのファンだが、
こんなに子供らにも流行ってっと、感慨深いもんがあらぁ。
魔法の練習で毎日魔力使い果たしまくって、
ガッツリ食いたくなる時期だよなぁ。
この食堂は、俺たちと……、
カーディフの街の歴史と共に歩んできた。
老若男女、誰からも愛される食堂さ。
……さて。
もちろん今日も、この昼時は、お客で満杯さ。
しかしどうやら。
今、キティラ食堂は、創設始まって以来のピンチのようだぜ──。
「──ふ、ふふふふふ、うふふふふふ、ふふふ──!」
「く、す、すまねぇ、ソーラ! なんとか、なんとか堪えてくれぇ──!!」
……デレクの旦那が、腰をギックリしちまったらしい。
今、厨房の奥で這いずりながら、ソーラちゃんを応援している。
いや、寝とけよ……悪化するぞ。
うーむ……。
いつもは少し情けない顔つきのバイトくんがいるんだが……。
プライス、とかいう名前の青年だったか?
どうやらソイツが季節の変わり目の風邪を貰っちまって、
手伝いに来られなくなったらしい。
今、相席で俺の目の前で肉野菜炒め定食を食ってるのが、そのプライス君の祖父みてぇだな。
本人がこれない事を、さっきソーラちゃんに伝えてた。
……つまり。
今、溢れんばかりのお客のさばきを、
実質、ソーラちゃん一人でやっているのだ。
30フヌ前から、ソーラちゃんの笑い声が止まらない。
デレクの旦那は、泣いている。
最近この街で有名に成りつつある3人の小さな勇者たちが、
がんばって配膳のお手伝いをしていた。
「え、えと、お水です!」
「お、おばちゃん! 日替わり定食、ななつ追加はいったー!」
「れ、レバニラ炒め定食、おっ、お待たせしましたっ!」
「ふふふふふ……、ぅふふ、ふふふふふふ──!」
「す、すまねぇ……! ソーラ、すまねぇ……グッッ!!!」
ほぅ……なかなか達者に、手伝っているな。
よい経験になるだろう。
壁の邪魔にならない所に、綺麗に並べられている、
木でできた、剣、盾、杖が微笑ましい。
だが、何故か学院生徒のファンが急増した客層の、
飯を食う速度はハンパないもんがある。
厨房にいるのは、ソーラちゃん一人だ。
「うふふ、ふふふふふふ……!」
今、ソーラちゃんの腕が六本に見える。
あれは……人をやめかけている……。
……気が触れるのは、時間の問題だな……。
今がだいたい、午前11ジ半くらいか……。
やべぇぞ……。俺も何か手伝ったほうがいいか……?
────だが、しかし。
明らかに限界を迎えつつある聖地に、
その天使たちは、舞い降りた────。
「──えっ!? 何これ!? なんでこんな配膳待ちが……!?」
「──ひと、いっぱい。いい匂い……!」
「「「「「 ……──! 」」」」」
すらりと店の中に入ってきた娘さんふたりに、
お客のほとんどが目を奪われる。
デレクの旦那とソーラちゃんのハモった声が、
厨房の方から聞こえた。
「「 あ、アンティ……! 」」
「え……ちょ、ちょっと!? 父さん!? そんなとこ寝転がって、何してんのよっ!? てかプライス君はっ!?」
「こ、こんにちは……」
異常事態に気づいた我らが看板娘が、
料理受け渡しカウンターに寄り添って慌てはじめる。
こ、こら、アンちゃん。
その体勢は、まじぃ。
そのなんだ、客席側に可愛いお尻が突き出しちまってる。
驚いた事に、今、
アンちゃんは、ミニスカートをはいているのだ……っ!
「うっわ……」
「まじで……?」
「え……!? あれ、"金さじちゃん"……!?」
「か、可愛いすぎねぇか……?」
「あかんあかんあかん惚れる惚れる惚れる……!」
わかる。
わかるぞ。
"キティラ食堂の看板娘"と言えば、
男勝りで、首の後ろでいつも髪を縛り、
常に誰かと追いかけっこをしているイメージが強い。
そして家に帰れば、厨房でテキパキ料理をこなす。
まるで、少年のような印象が強いのだ。
だが。
今の彼女は、その黄金の髪をストンと流し、
ふんわりとした白のトップスと、
優しい緋色をしたミニスカートを、
おへそくらいの高い位置から身につけ、着こなしている。
そのスカートからスラリと大きく流れる、
白い肌の脚に、足首にお洒落に絡むサンダルの革紐……!
……非常に、ガーリーだ。
「──ええっ!? 腰、やっちゃったの!? プライス君、風邪!? あんのアホぉおおお……!」
「……えと、このお客さんの数は、たいへん……?」
隣にいた、もう1人の娘さんが、客席側に振り向いた。
……! この娘さんも、そうとう美人だ……!
「えっ……なに、あの金さじちゃんの隣にいる子……」
「もろタイプなんすけど……?」
「金と……銀ッ……だ、と……! 」
「やばいやばいやばいツリ目もいいけどタレ目もいい……っ!」
「ダメだ……私……目覚めた……」
アンちゃんの隣にいる子は、彼女の友達だろうか。
この街では……あんな美しい銀髪を持つ子はいなかったはずだ。
この子もセンスの良い服装をしている。
さっぱりとしたシャツの襟元に、
シックな深い紺色のリボンスカーフ。
ミニスカートも、それに合わせた色で、
しかし、ニーソックスは透き通るような水色である。
艶のあるヒールシューズが、全体を上品に魅せている。
断言しよう。男女問わず、
今、店内にいる学生全員が、
彼女たちのどちらかに、恋をした。
俺の歳に近い客は、大いに賑わいたった──!
「うっっひょおおお──!!! アンちゃんじゃねぇか!! しばらく見ないウチに、どえれぇベッピンさんになったなァ──!!!」
「うお、マジかよ!!! すげぇ!! ぜってぇウチの女房よりイイ女だぜ!?」
「おうおうおう! そいつはドニオスでのトモダチかぃ!? これまたすげぇ美人だなぁ! カーディフにはいないタイプだぜ!!!」
「うわぁぁ……金さじちゃん、凄く女の子らしくなったわねぇ……! 時が経つのって、はやいわぁ……!」
「ママー! あの人だれー?」
一気に色めき立つ店内で、3人の小さな勇者が駆けつける。
「あ、アン姉ちゃん……!」
「アンティ姉……! 来てくれたのか……!」
「わー! お姉ちゃんたち、キレイだねぇぇ──!!!」
「……にょきっと?」
「……くゆぅ?」
「──これは……まずい!! マイスナ、やるよ!! うさ丸とカンクルも入ってきな! 今は兎と狐の手も借りたいわ!!」
「──ドンとこい。アンティ、どこで手を洗えばいい?」
どこからか、この店のエプロンをふたつ取り出し、
ふたりの娘さんは、厨房へと入る──……!!
な……? あの銀髪の子も、中へ入れるのか──……?
「おお、おお……! 最愛の娘よ……!!」
「アン、ちゃん……! そ、その子は……?」
「と、父さんはゆっくりしてて! 母さん、大丈夫……! マイスナは、私のワザを叩き込んだから──!!」
「お任せください」
一対のエプロンが、舞う────……!!
この食堂に、金と銀の天使が、舞い降りた────!!!
「──ユータ! ログ! そのままオーダーどんどん持ってきて! アナはお皿ぜんぶそこにおいて!」
「「りょ、了解ですっ!」」
「やったらぁぁ〜〜♪♪♪」
「……マイスナ。そっちの野菜の下ごしらえ。ドニオスでやってるのと一緒」
「……これ、全部やっちゃっていいよね?」
「もちろん! はい、これ……お願い!」
「ん! ドンとこい」
「「 ……え? 」」
……──!
デレクの旦那と、ソーラちゃんが驚いている。
俺も、驚いた。
アンちゃんが、例の包丁を、銀髪の子にわたしたのだ。
"キティラ食堂通"なら、誰でも知っている。
あの黒と金の包丁を、
アンちゃんは、とても大切にしている。
それを、貸し与えている……!?
……あの子は、親友なのかもしれねぇな。
「──しっ!」
【 ……ほぅ! やりよるな、小娘……! 】
トタタタタタタタタ──……!
知らぬ間に置かれていた、
何やら美しい白のまな板の上で、
心地よい包丁のリズムが奏でられ始める──!
(な……!? このリズムは……!)
約七年もの間、聞き続けてきた俺にはわかる……!
これは、"アンちゃんのリズム"だ……!
この銀の娘……できるぞ!!
まるで、アンちゃんがもう一人いるかのような……!?
「あ、アン姉ちゃん! "ばっちゃん焼き飯"、三人前追加!」
「──あぃよお!」
白く美しいフライパンから、
少し多めのナナナ油の中で、
クレープ状に焼かれたエッグが、
皿に取り上げられる!
──は、はやい!!
あれは、後で焼き飯に和えるためのエッグだ!!
アンちゃん、先読みしてやがる!!
「母さん、もう大丈夫だからね」
「あ、アンちゃん……」
ソーラちゃんが下ごしらえしたベーコンの細切れが、
流れるようにフライパンに吸い込まれる!
オタマの軌道が見えねぇ!
見事な手のスナップで、
あっという間に熱に浮かされたベーコンの油が、
ジュワーッ! と、しみ出しやがる。
いーい香りだぁ!
「アンティ」
「おぅよ」
……──!
銀髪の……マイスナと呼ばれてた子が、
等間隔に切られたキャロット、ピーマン、オニオンを、
フライパンに突っ込む!
ジュゥワ〜〜! っという、野菜の水分と、
ベーコンの油が熱に踊る音が響く!
あのマイスナって子……! すんばらしいアシストだ!
包丁捌きも、はえぇ! ……何より、
この焼き飯の作り方を完全に理解してやがる……!!
コンッ、コンコンコン!
カカァン!
ジュワァァアア〜〜!!
「にょきっとにょきっとな? にょきにょきぃ〜〜♪」
「くゆくゆくゆ〜〜♪♪」
「なっ!? なに!? あの可愛い生き物たちは!?」
「お、お水汲んできてくれたぞ!?」
「あれはっ!! 金さじの召喚獣ではっ!?」
「なにこの子……しっぽ、フサフサなんだけど!?」
「ママー! あれ可愛い〜〜!!」
「マイスナ、白飯」
「あい」
ジュっ、じゅぅうぅ〜〜!!
くぐもった音と共に、炒められた肉と野菜の上に、
大量のライスが突っ込まれる。
かなり多めのバター、これまた多めのブラックペッパー、
塩と粉末の出汁をパラパラと撒き、
ライスを切るように炒めはじめる。
「──っと」
あ、あの具沢山のフライパンを、
あんな簡単に手首のスナップで、かえすとは──……。
しばらく炒めると、あっという間に飯の色が、
白から黄金、香ばしい艶のある色に変わってくる!
最初にクレープ状に焼いたエッグを被せ、
さらに切るように炒める!
香りづけに、茶色い液体の調味料を、本当に僅かにたらす!
──あの調味料だけが、俺にはわからねぇ!
恐らく香りづけだと思うんだが、酒じゃねぇ!
やっぱ、ナトリの街の調味料か──……?
──ん? アンちゃん……?
なんだ? その構えは──……?
「……──・・・らぁ」
……ジュワッ……ジュっ、オオッ──……!!
──俺は、奇跡を見た。
思わず、立つ。
俺は、あの技を知っている。
「──"ドラゴン落とし"……!!!」
アンちゃんのそばにいる、
ソーラちゃんと、ぶっ倒れてるデレクの旦那も、
目を真ん丸にして驚いている。
そりゃそうだ。
あの技は……ソーラちゃんのおっ母さん、
つまり、アンちゃんのお婆ちゃんである、
"おかみさん"しか出来なかったハズだ!!
今はここにいない、おかみさん。
まだ、弁当屋をしてた頃。
よく、目の前の屋台で、あのワザを見た。
フライパンの中の飯を、
手のスナップで天高く、すくい上げ、
空中に昇る龍の如しその全てを、
ジャグリングのように操るフライパンで、
"円"の動きで具を混ぜ合わせながら、
米の一粒も落とさずにキャッチするワザだ──!!!!!
──その焼き飯の軌道、
まるで黄金龍の舞の如し!!!!!
あ、あ、アンちゃんは……!!
おかみさんのワザを、体得したか……!
マトモに、喋った事もないだろうに……!
これは……奇跡だ!
普通の人間がやったら、飯も具も、即座に地面の友達だ!
たぶん、あのワザは、"料理人の感性"だけではできねぇんだ!
恐らく……もっと違う……"何か別の感覚"が……!
「──ぉぅら! 三人前、お待ち! マイスナ! 次!」
「おけ。こっちの下ごしらえ終わった! お皿洗う!」
「す、すげぇ……」
「金さじちゃん、カッコイイ!!!」
「あの見た目で、あんな調理法は反則だろ……」
「かっ…………こいいのに、可愛いな……」
「銀髪の子の、尽くす感がいい……」
「ダメだ、夢に出る」
「きひひっ、やるわねマイスナ」
「だてに、アンティとつるんでない」
「きひひひ、言い方!」
「えへへ……。ニンジン、ここに置いとく!」
「はやっ! こりゃ私も負けてらんねぇ!」
──ふと、気づく。あの二人……まるで。
いや、アンちゃんは、もう。
おかみさんに、生き写しだ。
マジで、そっくりだな……。
もう少しデカくなったら、
髪の色以外は、ほんとうに似ている。
そうだ……。
もし、アンちゃんが、
あの銀髪の子と、同じ色の髪を持っていたら。
(…………はっは)
本当に、おかみさんソックリだろうなぁ……。
「マイスナ、肉はそこまででオケ。次そっちの煮込んで」
「野菜も同時にできるよ。次もさいの目切りでいい?」
「こいつぁ……たまんねぁな……」
「ふふ……娘が、ふたりになったわね……」
ソーラちゃんとデレクの旦那が、涙ぐんでいる。
俺だってそうだ。
おかみさんの技と味は、確かに、ここで守られている。
俺はチキンフラフラ定食を食い終えたばかりだったが、
我慢できずに、"ばっちゃん焼き飯"を追加で注文した。
美味すぎる……………………!!!!!!!
なぜ目の前の皿がカラなのか、理解できねぇ。
一皿、680イェル。
定食より高めだが、なんの後悔もねぇぜ……!
ふ……。
また、俺はここに来るだろう。
そう遠くない、未来の話さ──……!
「こりゃあ、がんばって生きねぇとな……!」
──嗚呼、キティラ食堂よ!
俺たちは、いつも共に、歩もうぞ──!!!
あ、飯テロ回です(*´艸`).*・゜
↑おっせ